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033 マネージャーだらけの野球部

「みなさーん、お茶の準備が出来ましたよ~」


 3年のマドンナ、天童ほのかが1人1人にお茶の入ったコップを渡していく。

 3年の野球部員が中心にほのかの方へ集まっている。


「慌てないでね。みんなの分もあるから。……慌てているのは私だけど」


 2年生に人気が高いのは朝宮美月。おそるおそる部員達にお茶を渡していく。

 ちょっと美月の動きを見てるとハラハラしてしまう……。

 よし、俺も後で並ぼう。


「ど、どうぞ……」


 1年生はやはりアリアの方へ集まっている。

 男性が苦手なことは察して少し離れて受け渡そうとしている。部員達もちゃんと距離を保ってるようだ。

 俺がにらみつけてるから、不用意にいかないのだろう。俺の妹に手を出したらどうなるか1年生はよく分かってる。


「ふふふ、私の野球部もいい感じになったじゃないか。あ、鈴菜くん、私にもくれ。あと抱きしめさせてくれ」

「暑いので勘弁っす」

「野球部が活気づくのはいいがやりすぎだろ」


「おい、小日向。野球部に入りたいってやつがさっきからうるさいんだけど」

「どうせ女目当てだろ。大会が終わるまでは禁止だ」


 俺と吉田は何ともいえず、この握手会のような光景を見ている。

 どうせ麗華もすぐに飽きるだろ。そしたら元の状態に戻るはず。


「太一、話を聞いたが1年に逸材が入ってきたようだな。どの子になるんだ?」

「ああ、星斗のことか。それなら……いないな」


 麗華お嬢様に問われて、俺は星斗の姿を探す。


 てっきり握手会に一緒に並んでいると思ったら星斗の姿はどこにもなかった。

 ふとブルペンの方に視線を寄せるとフォームチェックをしていた。


「星斗! 休憩の時間だ!」


 星斗が俺の声に気付いて、さーっとこっちに近づいてきた。


「休憩の時間だったんだね」


 休憩も忘れて集中していたようだ。

 頼もしい話だが、休憩なしで練習して倒れてもらっては困る。


「君が噂の期待の新入生か。君の顔……」

「ん? 誰このおばさん」


「っ!?」


 俺と側にいた吉田にも衝撃が走る。

 この神月夜(かみつくよ)学園にいて、麗華にそのような言葉を投げかける人間はありえなかった。

 美月が今の言葉を聞いたら心臓が飛び出るようなリアクションをすることだろう。


「……。そ、そうか3つ下だと……そう見えるか」


 麗華お嬢様がダメージを受けている?

 この女に幼少期から煮え湯を飲まされ続けた人生だったからいい気分だ。ざまぁみろ。

 星斗が麗華の顔を覗きこむように見た。


「あ、よく見たらすごく綺麗な人だった。ごめんなさい」

「お、ほぅ……」


 気が沈んでいた麗華の表情が明るくなる。


「綺麗と言われるのは慣れているが、大きく下げて、すぐに大きく上げられると嬉しく感じるものなのだな」

「そうか?」


 俺の問いも麗華は続ける。


「気にいったぞ少年! 君を私のお気にいりとしよう。男でお気にいりは太一しかいなかったんだ。喜ぶといい」

「何か知らないけどもらえるもんはもらっとく」

「そのカテゴリーに俺を含めないでくれ」


 麗華はさらに話を続けた。


「ところで、星斗くんだったか、君の顔に見覚えがあるんだが」

「ああ、美月と似ているからっすよ。夜凪……星斗は美月と血の繋がった姉弟なんです」

「そうだったのか! 美月くんが姉とは羨ましいなぁ」


 吉田の回答に麗華は満足する。

 当の美月は部員の体にお茶をこぼしてしまい、慌ててタオルで拭き取っている。

 申し訳なさそうな美月には悪いが……あれは男にとってご褒美だ。


「美月先輩の弟さんだったのですね」


 お茶を配り終えたアリアがコップを手にこちらへやってきた。

 恐る恐るではあるが星斗にコップを渡そうとしている。

 美月の弟ということで警戒心が薄くなったんだろうか、アリアは星斗の前に立つ。


 星斗はアリアからコップを受け取った。


「アリアは美月先輩にいろいろと教えて頂いたので同じ1年生同士仲良くして頂けると幸いです」


 アリアはニコリと星斗に微笑んだ。

 星斗的にアリアはどうなんだろうか。いまいち星斗の女の趣味がよく分からない。


 星斗の口が開く。


「ふーん、アンタ、何か気持ち悪いな」

「え――」


 星斗はお茶を受け取らずアリアの横を通り抜け、ブルペンの方へと歩いていった。

 アリアは唖然と目を見開いたままだった


「せんぱい、投げ込みを受けてよ」

「お、おい! ちょ……!」


「わたしが気持ち悪い……? は? 意味わかんない……」

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