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030 嫁が来た!

 あー、もう動けん!

 朝の全校集会での騒動の結果、他のクラスの連中からも興味本位で声をかけられる。

 そんなに美人の妹がいて羨ましいってか。

 昼休みに逃げ出したいが俺の机のまわりには多数の生徒が詰め寄り一歩も動けない。

 同じような質問を何度も何度も言われる。


「妹さんすっごい美人だけど小日向とあんまり似てないね~」

「俺は親父似でアリアは母親似だ。それは仕方ない」


 母は若い頃、ミス日本のコンテストでグランプリを取ったこともある。俺も正直、母は美人だと思う。怒ると死ぬほど怖いが。

 父は逆に鋼の肉体を持っており、統帥直属の護衛ということでわりと何でもできる人間である。母に一目惚れして根性で口説き落としたって言ってたな。

 顔は普通だが、その父の血を俺は大きく受け継いでいる。妹は母の血を受け継いでおり……ある意味ちょうどよかったのかもしれない。


「妹の趣味は!? 好きな食べ物は!?」

「しらん」


 10年ぶりに会った妹の好みなど知るものか。

 有栖院女学院は全寮制で携帯の持ち込みも禁止だ。両親には年一で会っていたようだが、俺はわざわざ会いたいと思わなかったので会っていない。

 何を話せばいいか分からないじゃないか。


「妹と付き合ってもいいですか?」

「死ね」


 だけど、血の繋がった大事な妹だ。

 手が届く範囲にいるなら兄として守ってやる必要がある。どこぞの馬の骨と付き合わせるものか。


 麗華曰く、男性を知らなすぎると言っていた。お嬢様学校に軟禁されていたんじゃ当たり前だ。

 ちゃんと教育していかんと……ある日突然できました! なんて言われたら母や父だけでなく麗華やほのかにも文句を言われかねん。


 スマホにメッセージが入る。

 悠宇からだ。朝からずっと具合悪そうだったが……やはり早退か。

 夏の大会までに治してもらわないとな。

 スマホをポケットに戻して大きく息をついていると……教室の扉がガラっと音を上げて開いた。


 腰まで伸びた長い髪が揺れて、現れた美少女にクラス中が歓喜する。

 その後、その美少女から放たれた言葉に俺は絶句する。


「兄様、嫁を連れてきましたよーっ!」


 妹、小日向アリアが手を引く嫁とは……。


「ちょっ、アリアちゃん!」


 うん、嫁だったわ。


 アリアは美月の手を引っ張ってこっちにやってきた。


「顔ちっちゃ」

「マジでかわいい」

「お人形みたい」


 妹を見てクラスの連中が口々とつぶやく。

 アリアと美月を連れ出すか? いや昼休みもあと10分で終わる。手短に会話を終わらせる方が早いか。


「アリア、何やってる……」

「兄様こそ、麗華お姉様が言っていたではありませんか。アリアの案内役をしてくださると……」

「放課後でいいだろそんなの」

「兄様のことですからすぐに部活に行かれるのでは?」


 ちっ、その通りだよ。しかし案内か……正直面倒くさいんだが。

 それより……後ろで顔を紅くして動揺している嫁(予定)に話を聞かないと。


「それで朝宮は何でここにいるんだ?」

「朝宮先輩がアリアをここへ連れてきてくれたのですよ」

「おまえが引っ張ってたじゃねーか」

「あ、あの小日向くん!」


 美月が話題を切るように大きな声を出す。


「アリアちゃんからそ、その小日向くんのことを教えてほしいと言われたからねっ。その正直に答えただけでへ、変なことは言ってないんだよ!」


 真っ赤になって否定する美月が可愛すぎてもう何でもよくなってきた。

 どちらにしろ妹には説教だな。


「朝宮先輩はすっごく綺麗な方で、お優しい方なのです。兄様のお嫁さんにぴったりですよ」

「何を言ってるんだおまえは」


 そんなこと言われなくても分かってると言いたいが、衆目に晒されている以上それを言うわけにはいかない。


「兄様、そのお顔で恋人を見つけるのは難しいでしょう? アリアが兄様のために一肌脱がせて頂きます」

「なぐんぞコラ」


 だがそれで美月に目をつけるとはアリアの目は確かなようだ。


「おいおい、小日向のヤツめちゃくちゃかわいい妹だけじゃなくて、朝宮美月まで囲んでるのかよ」

「そういえば有栖院先輩にも好かれてたよな。1年の時……よく生徒会室呼ばれてたよ」

「俺、金曜日に3年のマドンナの天童さんと小日向がイチャついてるとこ見たぞ!」

「何で太一ばっかり。ハーレムかよ!」


 ああ、もう……。

 美月以外は身内みたいなもんだ。勝手にハーレム扱いするんじゃない。

 この騒ぎ、早々に何とかしないとどんどん俺が悪者になってしまうような気がする。

 まずは……。


「朝宮」

「ひゃい!」


 美月はびくっと反応する。


「妹が変なことを言って悪かった。嫁ってことは忘れてくれ」

「そそそ、そうだよね! 野球部のおかんだから小日向くんがお嫁になる方だよね!」

「違う、そうじゃない」


 美月は大きく動揺している。いつもならともかくこの状況では余計なことを言いかねない。

 俺はアリアと美月の手を引っ張って教室の外へ連れ出した。


「ほらっ2人とも。もうすぐ昼休みも終わる。帰れ」

「せっかく兄様のご学友の方々とお会いしたのに……アリアは寂しいです」

「おまえは余計なことをするんじゃない。それに自分の学友を見つけるのが先だろうが」

「……それは……そうですが」


 アリアはそっぽを向く。

 やっぱりこいつ友人出来てないんだな。有栖院の威光に常人離れした美しい容姿じゃなかなか話しかけられない。

 ほのかも俺も学年が違うからそう構ってやれないし。


「ひっ!」


 印象的なのは男子生徒が通りかかるとアリアは分かりやすいように怖がる。

 口達者な妹だが、男性全般に慣れていないのだろうな。


「それでよく共学に来れたな……」

「改善したいとは思っているのですが」

「俺は大丈夫なのか? 普通に喋っているが」

「兄様は父様とよく似ていらっしゃるので男として見てないです」


 それどうなんだ。

 怖がられるよりはマシか。身内からよく父親そっくりと言われる血の力は恐ろしい。


「放課後、野球部に来い。仕事を与えてやるから働け」


 兄である以上、妹を放ってはおけない。

 そこは仕方ないだろう。


「ふふっ。兄様のそーいうところは昔から変わりませんね」


 嬉しそうに目を輝かせアリアは応えた。

 さてと……美月は……。


「今日は吹奏楽部の部活は休みだったか?」

「う、うん。野球部に顔を出す予定だよ」


 美月も落ち着いてきたようだ。教室から連れ出して正解だった。


「アリアに構ってくれてありがとうな」

「私も楽しかったよ。妹想いのおかんって何だか不思議だね」


「おいおい、朝宮までおかん扱いはやめてくれ」

「ふふ、じゃあ教室に戻るね。小日向くん、また! アリアちゃんも後でね」

「ああ、またな」


 美月は手を振り、1組の教室へ向かって歩き始めた。

 悪くない。美月との関係がより良くなった……そんな気がする。


「え、まさかまんざらじゃない関係? それはそれで……長男としてどうだろう」


 アリアが呟くような声を出していたがうまく聞き取れなかった。

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