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029 朝宮美月は妹を懐柔したい

 太一くんに誘われた!

 太一くんに誘われた!

 太一くんに誘われた!


 日曜日の部活の時に太一くんから遊びにいこうと言われてから私の気持ちは高揚している。


 2人きりで遊びにいこうって誘われるなんてもう勝利確定でしょ!

 12年前のことを覚えているかどうかはこの際どうでもいい。

 恋人同士になればその記憶もたいした問題ではなくなる。

 2人きりのデートに誘われるなんて好意をありと言ってるようなもの!


 懸念事項は天童先輩との関係。でも太一くんは二股なんてする人じゃないし、本当にただの知り合いなだけなのかもしれない。


 るんるん気分で歩いていると昇降階段がある付近に赤のリボンをした女の子がキョロキョロしていた。

 この神月夜学園では男子は学年章の色、女子はリボンの色で何年生かが分かる。

 3年生は緑で2年生は青で1年生は赤なのだ。なのでこの女の子は1年生なのである。


 1年生が2年生の階に来ることはよくあることだけど……私はその女の子から目が離せないでいる。


 小日向アリア。


 今日の朝の全校集会であの有名な有栖院先輩が直々に紹介をした女の子なのだ。

 さらに私が想いを寄せる太一くんの妹でもある。

 太一くん妹いたんだっけ……。4歳の頃そんな話をしたような気もするけど全然覚えてない。

 彼しか見てなかったからね!


「どうしたの?」

「あ……」


 不安そうな顔をした妹さんは私の声かけに丁寧にお辞儀をした。


「青のリボン……先輩、申し訳ありません。無礼なマネをしてしまいました」


 律儀な言葉使いだ。有栖院女学院から来たって言ってたっけ。あそこって大金持ちが行くお嬢様学校だったはず、偏差値もすごく高いって聞いたことがある。

 やっぱり太一くんの家って……。

 いいや、今はこの妹さんと話をしないと。


「気にしないで。キョロキョロしてたからどうしたのかなと思って」

「兄を探してるのです。2年8組だと思うのですがよく分からなくて……。あ、申し遅れました、小日向アリアと申します」

「ご、ご丁寧に。えっと私は朝宮美月です……。って小日向くんを探してるんだね」

「兄をご存じなのですか!?」


 妹さんはぱぁっと明るくなる。

 ……しかしまぁ。

 前髪はしっかり切り揃えられ、カチューシャのように髪をまとめる白いリボンと翡翠のブローチはまさしくお嬢様っぽい。

 腰まで伸びた輝く黒髪に、ぱっちりとした瞳。まつげも長い……ってか顔小さすぎない!?

 私より10センチぐらい身長が低いけど、私と足の長さは同じくらい……な気がする。私が短足なだけじゃないよね?

 胸のふくらみは外から見ても分かるくらいのボリューム。私とどっちが大きいのだろう……。


 なのに手足はびっくりするほど細い。反則だ! 反則すぎる! 


 妹さんは本当に絶世の美少女とも言えるような姿だった。今まで学園一美しいと言われた3年のマドンナの天童先輩ともレベルが違う。

 学園……県内? 下手すれば日本一美しい女の子と言っても過言ではない気がする。


「あの……朝宮先輩?」

「あ、ごめん!」


 妹さんに見惚れてしまっていた。

 お人形さんみたいに綺麗な女の子なんだから仕方ない。


「小日向くんとは……」


 将来を誓い合った旦那様だよ。

 って言いたいけど当然ながらそれを言うわけにはいかない。


「同じ部活に所属しているんだ。小日向くんとは結構親しいんだよ」

「そうでしたか。兄がご迷惑をかけていませんか?」


 思い返せば料理の時の醜態と昨日の部活でのミスの連発。迷惑かけてるのは私の方だよ!

 冷や汗が出て震えてくる。

 最近の太一くんへ迷惑のかけっぱなしを考えれば堂々と旦那様なんて言えないよ!


「そんなことないよ。みんなから慕われていて、とっても素晴らしいお兄さんだよ」

「そうですか! ありがとうございます」


 妹さんは嬉しそうに微笑んだ。これはかわいい。私が男だったら絶対惚れてしまう気がする。


「いも……小日向さんは」

「同性ですし、アリアでいいですよ。そちらの方が呼びやすいですよね」

「じゃあ、アリアちゃんって呼ばせてもらうね」

「はい 朝宮先輩!」


 気が利く子だ。こういう所はまさしく太一くんと同じ血を感じる。

 これはチャンスだ。この子におねーさんと呼ばれる存在になれば家族ぐるみの付き合いになれる。

 アリアちゃんの好感度を稼がなければ! ……ただ1つの懸念点は彼女がブラコンかどうか……かな。

 お兄様を奪う泥棒ネコ! なんて言われてしまえば本末転倒。


 私とアリアちゃんは太一くんのいる2年8組へ向かって歩き始める。


「アリアちゃんはお兄さんと仲がいいの?」

「実は……よく分からないんです」


「分からない?」

「兄とは10年ぶりくらいに会ったので距離をつかみかけていると言いますか、正直、兄のことをよく知らないんです」


「そうなんだ!」

「何か嬉しそうですね……?」


 よし! これならブラコンはありえない!

 分かるよその気持ち! 私も星斗と一緒に住むって決まった時は抵抗があったもん!

 これはうまく気にいられることができれば小日向兄妹からの評価がアップ!

 考えるの美月! どうすればいいか! 学年220位の頭脳をフル活動させるのよ!


「朝宮先輩、よろしければ兄のことを教えて頂けませんか? 兄がどのような学園生活を送っているか聞きたいです」


 興味津々のアリアちゃんに私は1度目を瞑って思い出す。

 太一くんの学園生活か。私は太一くんと再び出会ってまだ1ヶ月半ほどしか経ってないんだよね。

 12年も一緒の学校に通っていたというのにね……。


 4歳から16歳になる今まで太一くんと出会うことも喋ることもなかった。


 でもずっと見てたよ。

 だから思い出なんていくらでもあるんだよ。


 小学1年生の時にケガをした同級生を背負って先生のところへ走って行ったよね。

 3年生の時には迷子になった1年生の手を引っ張って親を探してあげていたよね。

 5年生の時は運動会のリレーで最下位からごぼう抜きで1位になってクラスのヒーローになってたね。


 中学1年の時は学年1位の成績で表彰されていたよね。

 中学2年の時は文化祭で最優秀賞を取って代表者として胴上げされていたよね。

 中学3年の……野球部の夏の大会の地区予選3回戦。


 ……あそこで惚れ直したんだったな。あの日に私も太一くんが行くって噂のあった神月夜学園に行きたいって決めたんだっけ。私の学力だと相当厳しかったんだよ。

 それに高校2年の春に母の単身赴任に一緒に行くことを拒否してこの街に居続けたんだよ。


 太一くんと会話しなくても……太一くんを私はずっと見ていた。

 4歳の頃に結婚の約束をしたから太一くんを好きになったんじゃない。

 4歳の頃から12年間ずっと彼を見ていて、彼の容姿、人柄が心に響いてずっと想い続けていたんだ。

 再び出会ったこの1ヶ月半。好きの気持ちは溢れていく。太一くんにもっともっともっと褒めて欲しい!

 

 私は太一くんが好きなんだ……。


「ふわぁ……」

「あ! ご、ごめんね喋りすぎたかな」


 太一くんの思い出話をずっと喋り続けてしまっていた。うっかり立ち止まって想いをぶちまけてしまうかのように話をしてしまう。

 あくまで私が見てきたことをアリアちゃんに話したただけなので余計なことは話していない。

 ちょっと濃い内容だったかもしれないけど……太一くんがいかにイケメンで優しくて全知全能であるかは伝わったと思う。


「すごいです朝宮先輩! 兄への愛がとても伝わりました!」

「あはは、どういたしまして……。へ? 愛?」

神月夜(かみつくよ)に来た目的の1つとして……兄のためのつがい探しをしようと思っていたんです! こんなに早く見つかるなんて思ってもみませんでした」


「ちょちょちょ! つがいってアリアちゃん何言ってるの!? 私はべ、別に、小日向くんのこと!」

「兄に対して懸想の気持ちはあるのですよね?」


 アリアちゃんは小首をかしげる。


「そ、それは……そうだけど」

「じゃあOKです! アリアに任せてください」


 ちょうど8組に到着する。

 嫌な予感がしたのでアリアちゃんを止めた。


「ちょっと待って、大きなことはしないでね! 小日向くんに勘違いされたらお互いにとってよくないし!」 

「大丈夫です。いきなり大きなことはしませんよ」


 アリアちゃんはガラっと8組の教室の扉を開いた。

 彼女の可憐な容姿を見て8組の生徒一同ざわつく。


 アリアちゃんは中に入って開口し、声に出した。


「兄様、アリアが嫁を連れてきましたよーっ!」


 ちょ! おまっ!? 何言ってるの!?

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