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028 お兄ちゃんは苦労を背負う

「太一、何か嬉しそうだね」

「ふふ、そう見えるか」

「朝練でも相当テンション高かったもんね……」

「ま、そうかもしれんな」


 月曜日の朝は全校朝礼で生徒全員が体育館に集まる。


 体育館へ向かって一緒に歩いていた悠宇がちょっと引いた表情を浮かべるがこの気持ちの高揚は抑えられない。

 昨日は本当に素晴らしかった。

 夢だったんじゃないかと思って今日の朝、美月の家へ行って、弁当を作りながら確認してみたら。


「日曜日、楽しみだね!」


 良い笑顔で言われたのでもう勝利確定だろ!

 12年前のことを覚えているかどうかはこの際良い。

 恋人同士になれば懸念事項など対した問題ではなくなる。

 2人きりのデートOKとかもう好意をありと言ってるようなもの!


「はぁ、僕は疲れたよ」

「そっちはあんまりいい感じじゃなさそうだな」

「昨日の夜、スカウト活動してたんだけど、同級生がさー。2人きりのデートに誘ってOKもらった女の子にデートの最後で告ったら、無理ってふられたんだって」

「ぶほっ!」


 何だそのタイムリーな話題は……。

 あまりに俺と同じ状況ゆえに吹き出してしまった。


「女の子からしたら日頃のお礼のつもりだったらしいよ。男として見てないって。それですっごい落ち込んでて慰めるのに大変だったよ」

「そ……そうか」


 美月のあの表情からすればそれはさすがにないと思うが……。

 でも、美月のポンコツをあんなにフォローしたから、実際は断りにくかったという線もありえる。

 勝利確定だと思っていたが……微妙か?


「あ、ごめん太一。ハラ痛いからトイレ行ってくるよ」


 悠宇は体育館に向かう列から離れていった。

 まぁいい。日曜日まではまだ時間がある。金曜日を除く平日は朝晩は一緒なんだ。そこで見極めればいい。

 日曜日に勝負をかけるのは決定しているのだから。


 体育館の壇上に1人の生徒が現れた。

 現れた生徒会長天童ほのかの姿に一部の生徒が熱狂的な声を上げる。

 元々背も高いし綺麗な容姿から女性人気も高いんだよな。ほのかは男女とも人気が高い。


「それでは全校朝礼を始めます」


 この学園の全校朝礼は生徒会が仕切って行う。

 生徒会長の天童ほのかが進行を行うことは滅多にない。

 それは何か大きなイベントがあるときだけだ。つまり事前情報通りか。


「それでは本日から理事長代理としてお越し頂くことになる有栖院麗華様より皆様へご挨拶をして頂けます。麗華様宜しくお願いします」


 ほのかは一歩下がり、壇上に現れたのはビシっとしたスーツを着た圧倒的な存在感を誇る美女。

 生徒達が驚きでざわつき始める。


「おはよう生徒諸君。私が有栖院麗華だ。2年、3年の諸君は久しぶりだな。3ヶ月ぶりくらいかな。1年の諸君は初めましてだな」


 麗華は去年の生徒会長だ。この神月夜(かみつくよ)は生徒会の権限がかなり強い。

 麗華とほのかのコンビでどれだけこの学園が湧いたことか。

 実際に能力はあるし、カリスマもある。家柄も文句ないし、少なくとも麗華がこの学園に来て悪いことはないだろう。

 どうせ……暇つぶしだろうし。


 麗華のありがたい言葉を適当に聞いていると麗華は壇上で手招きをする。

 そしてコツリコツリと歩く音ともに1人の女の子が現れた。

 そのあまりに天使のような可憐な姿にこの場にいる全員が言葉を失う。まるで天使が現れた……、そのような衝撃だろうか。

 どいつもこいつも口を開けてぽかんとしていやがる。


 麗華は皆の反応に満足したかのようなじっとりとした笑みを浮かべる。……してやったりみたいな場面であの顔をするんだよな。


「神月夜学園は有栖院グループが経営をしているのは皆も知っているだろう。彼女はそこで同族経営をしている有栖院女学院から特別に呼び寄せた生徒だ。では……挨拶してもらおうか」


「はい!」


 彼女は演台のマイクに触れる。


「はじめまして……麗華様より紹介預かりました小日向アリアと申します」


 アリアが一礼をする。腰まで伸びた俺と同じ色をした黒髪。その美しさのレベルはある種の規格外と言ってもいいだろう。

 男子、女子一同、そのアリアの挨拶に聞き惚れてしまっている。


 美しく育ったのは兄として嬉しいのだが騒動のタネになりそうなのは勘弁だ。


「初等部の頃からずっと有栖院女学院におりましたので知らないことばかりです。2年、3年の先輩の皆様、同級生の皆様……」


 アリアはゆっくりと笑みを浮かべる。


「仲良くしてください」


『おおおぉぉぉおおお』


 会場内が響めく。

 先生も驚いているんじゃねぇかよ。こりゃ大きな騒ぎになりそうだな。

 アリアは後ろに下がり、もう一度麗華が演台に近づいた。


「さて、アリアが可愛いからといって不埒なマネはしないように。彼女に手を出せば有栖院の者が黙っていないこと忘れてはいけないぞ」


 ちゃんと釘は刺しているようだ。それでもアリアに付きまとう人間は現れるだろうな。


「ただ、だからといって特別扱いしないでやってくれ。普通の生徒として……アリアには接してもらいたい。宜しく頼もう。さて!」


 そんなトーンを変えるような声を上げ、麗華がこっちを見る。俺を見ているのか、嫌な予感がする。


「アリアの校内案内は兄である小日向太一に任せることにしよう」


「はぁ!?」


 俺の声は当然壇上に届くことなどない。

 しかしその声は俺の視界に入る全員が俺の方を向かせるのに十分であった。


「では私からは以上だ」


 麗華もほのかも俺に触れることなく去って行き、アリアはのんきに俺に手を振る。

 その行動も俺とアリアが繋がっていると証明しているといってるようなものだった。

 やられた……。

 あのクソお嬢様にやられた。


 この後、俺はとんでもない騒ぎに巻き込まれたのは言うまでも無い。

本話を読んで頂きありがとうございます。


次回、美月とアリアがついに出会う。初対面2人はどんな話をするのか……

ってな感じでお楽しみ頂ければと思います。


この作品を少しでも面白いと感じて下さったお方、作者のモチベーションが上がってもっと頑張れるような気がしますので是非ブクマ、評価、感想等、応援を頂けると嬉しいです。


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