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026 朝宮、ポンコツだってよ

 これは想像できることであった。


 なのに今の今までこんなことになるなんて思いもしなかった。


 俺は浮かれすぎていたのかもしれない。


 好きな女の子と一緒にいられることが何よりも喜びだと思っていたから。


「ぎゃああーーー小日向くん、洗濯機から何かすごく泡出てる!」

「おまっ! どれだけ洗剤入れたんだ!」

「えっ、いっぱい?」

「入れる量書いてるだろ!」


 さらに。


「甘っ! このお茶 甘っ!」

「えっ、そんなに甘いかなぁ」


 美月は自分が作ったお茶を飲む。


「うん、こんなもんじゃないかな」

「お茶に砂糖……、どれだけ入れたんだ?」


「角砂糖とスティック砂糖と……えっと……いつもこれぐらい入れてるんだけど……。あ、あの」


 俺の視線に気づいて美月はおろおろし始めた。

 だから俺は自然とこの言葉が口からポロっと出てしまった。


「太るぞ」

「いやああああ!? それだけは言われたくなかったぁぁぁぁ!」


 これはちょっと言い過ぎたかもしれない。

 そして。


「暑くなってきたから脱ごう……」


 美月は長袖の上着を脱ぐ。

 綺麗な白いTシャツと共に傷一つ無い柔い白い腕が露わになる。

 だが……なんとなく次の光景を予測できてしまった。


 美月は洗浄ホースを持って、バケツの中に水を溜める。ここまではいい。

 その後、汚れたボールを洗おうと近づいて、足下に落ちていた別のボールを踏みつけてすってん転んでしまう。

 すでに水の出ていたホースは暴れ回って容赦なく、美月に水を拭きかけた。


「きゃあぁぁぁぁ、きゃああああああ!」


 何というか予測できてしまうほどお約束な動き。俺は何も口を出すことができなかった。

 水の出ている蛇口を止めて、さきほど乾かしたタオルを1枚取って、美月の側へ行く。

 びちょびちょに濡れた美月にタオルを渡した。


「大丈夫か」

「うん、ごめんね」


 肩まで伸びた艶のある髪が水に濡れたことにより、一層色っぽく感じる。

 美月は髪と顔と体を拭き取って……。


「うっ!」


 俺は思わず視線を反らす。


「どうしたの小日向くん」


 美月はまったく気付いていなかった。

 白のTシャツが思いっきり透けており、ピンクのブラジャーが露わになっている。

 こうやって肌着1枚で見ると本当に美月は発育がいいな。本人に言ったら怒られそうだが肉付きがいいというか……。


「マネージャ。ちょっとタオルを持ってきてくれー」


 部員の1人がこちらに声をかけてくる。


「はぁい!」


 美月がそのままそちらに行こうとする。

 まずい! そんなことさせるわけにはいかない。

 すぐさま、美月の肩を掴んで物陰に押し込んだ。


「タオルはそこに置いてある。勝手に取っていってくれ!」

「えっ、あっ。小日向くん……?」


 ……これはやばい。

 人払いできたのはいいが。日が途切れる物陰の壁に美月を押しつけて、肩と腕を掴んで逃げられないようにしている。


「ま、まずいよ……こんなところで」


 乾かぬままのTシャツから自己主張の強い胸部が視界に入ってしまう。

 慌てて視線を上げると、照れて顔を紅潮させた美月と目が合った。

 とても良くない状況であることは理解している。

 このまま美月を抱きしめたい衝動に駆られる。


 まだそれには早い。


「朝宮……」

「は、はい」


 俺は美月の瞳から視線を大きく外した。


「濡れて下着が透けている」

「えっ……ひゃっ!」


 美月が大きく動いたため俺は押さえている手を外して、美月を解放した。

 美月は俺の横を通り過ぎ、恐らく、向こうに置いた長袖のジャージの所へ行こうとしているのだろう。


「こ、小日向くん」

「な、なんだ?」


 美月は恥ずかしそうに胸を手で押さえていた。


「き、気をつかってくれたんだね。ありがと……ご、ごめんね!」

「気にするなってちょ、朝宮!」


 俺の方を向いていた美月はゆっくり後ろに下がる。だが、その直線上にはさっき洗っていたボールがあった。

 呼びかけると同時に……。


「へっ……きゃっ!」


 美月はボールを踏みつけてすってんころりん。

 そのまま水の入ったバケツにぶつかり、その水が美月の体に降り注いだのであった。


「……」

「……」


 美月は倒れ込んだまま起き上がらない。

 両手で顔と胸を隠して、声を挙げる。


「もう……やだぁ……」


 前回言いかけたが、今回やっぱり言うしかなかった。

 朝宮美月は……正真正銘のポンコツであると。

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