018 幼馴染の(余計な)気遣い
「いっぱい買っちゃったね~」
「この量なら星斗を無理やり引っ張っていきたかったな」
一週間分に近い食料を購入して、俺と美月はスーパーを出る。
ちなみに食費については朝宮家が出してくれるそうだ。自分で食った分は自分で払うつもりだったが美月に固く辞退された。
美月の話だと仕送りの額が十分あるので問題ないそうだ。
俺も家は裕福な方だから問題ないのだけど……朝昼晩メシ作ってる今の状況で俺が食費まで出すとなると相当気を使ってしまうようだ。気にするなと言っているが、優しくてかわいい美月が頷くはずもない。
正直、気を使わせすぎて遠慮されては本末転倒。ここはお互いのためにお言葉に甘えさせてもらおう。
さて……生ものが悪くなる前にさっさと帰って……。
「!?」
こんな時に限って会いたくない人物と出会う。
「募金お願いしまーーす」
ちょうどスーパーの入り口に俺と同じ学年の親友 浅田悠宇が募金箱を持って声をあげていた。
よりによって……こんな所で。
だが、悠宇はまだ俺と美月に気づいていない。
今のうちにここを離れれば……!
「あ、浅田くんだ」
美月ィ!?
なぜそこで声をかける。
「ん? 朝宮さん……、あ、太一」
案の定気づかれてこっちに近づいてくる。
悠宇とは幼稚園からの付き合いだ。美月とはまた違った長年一緒の幼なじみだ。
その幼なじみが何をするか……手に取るように分かる。
「朝宮、右手の買い物袋、ちょっと持っててくれるか」
「うん」
「太一!」
「悠宇、いつものボランティア活動か」
「そう! ってそれより朝宮さんと一緒だなんてやったね!」
俺は美月に預けて空になった右手に力を込める。
「おめでとう! 12年の想いがついに報わ、ゴフッ!」
全てを言い切る前に俺は悠宇の土手っ腹に一撃食らわせた。
こーいうこと言ってくることが目に見えていたので右手をフリーにしていて正解だった。
「小日向くん……? えと、浅田くんもだい……じょうぶ?」
「悠宇、来週俺を殴ってくれて構わん。だから今は死んでてくれ」
◇◇◇
「この前の吉田さんといい、そんなに僕って殴られなきゃいけない存在なの」
「余計なことするのが悪い」
腹を押さえて涙目の悠宇に俺と美月の関係を説明する。
同じ野球部のおかげで理解が早くて助かった。
「太一も大変なことしてるんだね」
「うん、小日向くんにはすっごく助かってる。星斗のために忙しい時間を割いてくれているんだ」
「あははは、星斗のためかぁ。太一も人が悪いなぁ。正直に言えばいいのに」
「おい、また殴るぞ」
悠宇はお腹を押さえて俺から距離を取った。
「浅田くんは募金活動をよくしてるの?」
悠宇は頷く。美月も俺も視線はさきほど悠宇が声を出していた、募金を求める団体の所へと向く。
「ボランティア活動とかが趣味で結構手伝ったりしてるんだ」
誰が呼び始めたか、野球部の飴とムチ。ムチは当然、鬼のおかんと呼ばれている俺であり、悠宇は優しく褒める飴の役割を持っている。
ボランティア活動で災害地区に行ったり、中学時代もボーイスカウトの活動でいろんな所に行ったりしており、意外に顔が広く、心優しい。
「浅田くんは優しい人なんだね」
美月に褒められ、悠宇は顔を紅くする。
「いやぁ、やりたいことをやってるだけだよ、アハハ」
「この調子で彼女でも作って幸せになってくれ」
「悪いけど、所属してる団体みんな男しかいないんだよ。太一くんと違って僕はモテたことないし」
「俺もモテた記憶はないぞ」
「現在進行形で女の子と買い物してるヤツが言うセリフじゃないよね」
「ふふ、2人とも仲良しだね。いいなあ」
美月はくすりと笑って声に出す。
「これから2人は朝宮さんの家に行くんだよね」
「うん、小日向くんに料理を教えてもらうんだ~」
「じゃあ、これを太一に渡しておくよ」
悠宇は腰につけたポーチから袋を取り出した。
「実はこの後、別団体の活動があるんだ」
悠宇は袋から何かを取り出す。
「最近、性感染症予防の啓蒙活動がわりと盛んにあってね」
悠宇は俺にハート型のゴムを渡してきた。
「これでいつでもOKだよ!」
俺はもう1度悠宇の腹に一発食らわせることにした。
「おまえバカだろ」
こいつ何でたまにわけのわからん優しさを振りまくんだろうな……。
「あ……あの……私、えっと……初めてで」
「朝宮!? そーいうつもりで家に行くんじゃない! 露骨に動揺しないでくれ!」
真っ赤な顔をした美月に露骨に警戒されてしまい、美月の家に行くまで大変だった。