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015 校門前で待ち合わせ

 日がすっかりと落ちてしまった。


 神月夜学園野球部は学校に隣接するグラウンドを持っていて、そこで練習をしている。

 決して大きくはないが、照明もついており、小さい屋内練習場もあるのでありがたい。

 十数年前はそれなりに強豪校だったようで、その時代に作られたものらしい。今や見る影もないが。


 遠く離れたグラウンドへ練習しに行かなくていいのは正直ありがたい。

 こうやって他の部活の子と一緒に下校することができるのだから。


 弟である星斗と一緒とはいえ美月と一緒に帰ることをようやく実現することができた。12年前はあんなに一緒にいたというのに……。

 今日は俺も家に帰らないといけない曜日だから最後まで一緒にはいられないが……できる限りは一緒にいたい。


 校門前で待っていると言っていた美月の元へ急ぎ足で行く。

 校門前に1人と思っていた先に……何だか複数人いた。


 それを見た時、胸の中で怒りの感情が芽生え、脳内へと伝わっていることを感じる。

 視線の先で男達に囲まれた美月が困った顔をしていたからだ。

 美月が男達から避けるように振り返り、俺と視線が合う。


「ねぇ一緒に帰ろうよ~」

「待ってる人がいるので」

「いいじゃん、オレ達、朝宮がすげぇ気になっててよかったら遊びにいかない?」

「行きません」

「だからさ!」


 美月に手をかけようとする無粋な男の手を俺は掴んだ。

 3人がかりで美月を取り囲みやがって……。


「いてててて!」

「朝宮は俺と帰るんだ。余計なことしてんじゃねぇよ」


 美月に不遜な声をかける男達にいらだちが隠せずつい、腕を強く握ってしまった。

 それにこいつらの学ランに付けている学年章は青。つまり俺と同じ2年生というわけか。容赦はいらないな。


「なんだてめぇ、お呼びじゃねぇんだよ!」

「こいつ……野球部の」

「ててっ、本気で腕握りやがって」


 美月を後ろに守るようにして立つ。

 もちろんケンカをするつもりはない。


「俺に文句あるのか」


 体を大きく見せ、男達をにらみつける。

 3人の男達は怯んだように後ろに下がった。

 野球部の猛練習で鍛え抜かれた180センチを越えた男の睨みだ。

 美月を守るためなら誰にも負ける気がしない。


「ちっ、行こうぜ」


 彼らもこの時間まで残っているということは恐らくどこかの部活に所属しているんだろう。

 問題行動を起こせないのはお互い様だ。

 男3人は俺と美月の前から去っていた。


「彼氏いないんじゃねぇのかよ。くそっ」


 そんな捨て台詞を残して。


 ちょっと雰囲気が凍るようなこと言って去るんじゃない。

 美月がこれに対して心底嫌そうな顔をしていた……とかだったら、さすがに俺の鋼のメンタルも傷がついてしまいそうだ。

 おそるおそる美月の方を見る。


「えへへ、彼氏かぁ……えへへへ」


 たいそう笑顔だった。

 笑顔ってどうなんだ!? 照れてるなら脈ありと取れるが笑顔は単純に嬉しいのか、ギャグと思われて笑われているのか判断に困るぞ。


 ここで追求するのも止めておこう。


「遅くなって悪かった」

「そんなに待ってないよ。あ、小日向くんありがとう」


 男に囲まれて怖い思いをさせてしまったかと思ったが美月に震えた様子はない。


「思ったより怖がってないな。やはりこういうことは慣れているのか?」

「そんなことないよ。やっぱり男の人に囲まれるのは怖いもん」

「そ、そうだよな。すまない」

「でも、小日向くんが家族に害するもの! みたいな顔してこっちに近づいてくれたから安心してた」


 そんなに怖い顔をしてたのか。

 家族というのは間違いない。将来の妻候補が害を受けそうになったらそりゃ助けにいくだろう。


「中学に入ったくらいから急に増えたんだよね。だからできる限り1人にならないようにしてる」


 誰もが認める可愛らしい顔立ちに制服の上からでも分かるほど肉付きの良い身体、澄んだ綺麗な川のような耳心地の良い声、朝宮美月を手に入れたい男子は多いのだろう。

 その気持ちはよく分かる。


「これから……平日は一緒にメシを食うんだ。朝宮を一人にはしないさ」

「うん、ありがと」

「彼氏がどうとか言われたら星斗か……ウソでいいし、俺の名を使っても構わないぞ。身の安全の方が大事だ」


「えー」


 美月は首をかしげて声をあげた。


「い、いやか……?」


 美月はそのまま首を横に振る。

 日が落ちてしまっているが校門前の街灯は美月の顔を美しく見せる。


「ウソじゃなくて……ホントって言って欲しいな」

「え……」

「あ、せーくんだ!」


 ウソ……ホント、あれ、俺さっき何て言ったっけ。

 あれ……ホントにしたら話が繋がるのか、わからん!


「そういえばせーくんと一緒じゃなかったんだ」

「あ、ああ。トイレ寄るって言ってたから、先に出たんだ」


 美月は校舎から出てくる星斗の所へ行こうとしたが立ち止まった。

 その様子に俺も校舎の方へ視線を向ける。


「星斗くーん、一緒に帰ろうよ」

「星斗くん、何が好き?」

「星斗くん、彼女とかいないよね」


「うーん、好きなもの? せんぱいのメシかな」


 女性生徒に囲まれる星斗の姿があった。

 あっちは何か羨ましそうなのがハラ立つな。


「ったく、姉弟揃って人を惹きつけやがって」


「ふふ、小日向くんはせーくんの彼女役もやってくれるのかな」

「悪いがおかん役で精一杯だ」


 とりあえず遅くなるので星斗のまわりの女の子達を追っ払うことにした。

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