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014 美月はかわいいなぁ

 今日は30回も美しい横顔を見れただけでなく、面と向かって美月に会えるなんて盆と正月とあとついでにGWが来たようなものだろうか。

 にやけそうになる顔を必死で抑えて、美月と吉田の顔を交互に見る。


「まさか朝宮が来るとは……」

「美月から聞いたぞ。夜凪の食事管理をするんだろ」

「あ、ああ」

「ったく朝、昼、晩全部とかおまえ女房かよ」


吉田は呆れたように肩をすくめる。

しかし、俺が美月と接点を持つために行っていることはさすがに分からないようだ。

星斗のためということで押し通すか。


「今から栄養管理をしていれば来年の夏にしっかりとした体が作られる。エースが強ければそれだけで上の方へ行ける可能性が上がるからな」


 俺は美月の方を向く。


「それに料理の苦手な朝宮に教えてあげれば俺がずっと行く必要がなくなる」

「そ、そうだね!」

「ふーん」


 そんなこと言いつつも俺はずっと美月の家へ行き続けるつもりだ。


 可能なら高校卒業まで毎日通い続けたいが、恐らく途中で頓挫することになるだろう。家庭事情も含めて良い時間ってのは長くは続かない。

 でも、せめて次の3月いっぱいぐらいまでは通い続けたいな。

 その頃には美月と正式に結婚を前提としたお付き合いまで持っていきたい。


「別に夜凪のために美月が動くことねーんじゃねぇか」

「そういうわけにはいかないよ。弟のために小日向くんが時間を使ってくれているんだから、私もお手伝いしたい」

「それでマネージャーか」


 俺の質問に美月は頷く。


「うん、鈴菜ちゃんから人は足りないって聞いてたし。吹奏楽部とかけ持ちだから大会の前とか出られないけど……、小日向くんの力になりたい」

「そうか……。助かる」


 うおお!

 好きな子が優しかった。 まさにピースしたくなるような言葉だ。

 逸る気持ちが抑えられないぞ。


「美月みたいなかわいい女子がマネージャーになるんだぞ。もっと喜べよ」

「もう、鈴菜ちゃんったら」

「喜んでるつもりだぞ」


 心の中で小躍りしとるわ。

 今にでも地面を転げ回って喜びを美月に伝えたい。


「野球部は男ばかりが集まる所だ。吉田もそうだが、女は目立つ。嫌なことがあったらすぐに俺に言ってくれ」

「うん、ありがとう」


 美月はかわいいなぁ。


「あ、でも私マネージャーとか経験ないんだけど大丈夫かな」


 美月はかわいいなぁ。


「細かいことは吉田に聞けばいい。それに男は皆単純だ。適当に応援してくれれば十分だ」

「じゃあ、小日向くんを応援するね!」


 美月はかわいいなぁ。


「それだと誤解されちゃうかな。うーん、でも小日向くんへのお礼もあるしなぁ」

「美月はかわいいなぁ」


「えっ」「は?」


「今日は三日月だなって言ったんだ」


 やべ、心の声が思わず口に出ていた。

 2人とも空を見上げるが、空はまだ青いままだ。

 美月も吉田も聞き間違いだと思ってくれたのかそれ以上の追求はなかった。

 いつも冷静な言葉遣いをしていて助かった。


「あ、ねーちゃんだ」

「みんなこんな所でどうしたの?」


 片付けをしていた星斗と悠宇がこちらにやってくる。

 ざっと経緯を話して、美月がマネージャーとして入部することを2人へ伝えた。


「ふーん、そうなんだ」

「僕としては星斗と朝宮さんが姉弟ってことにびっくりしたんだけど」


 悠宇はまだそのことを知らなかったな。

 美月は悠宇の方を向く。


「1組の朝宮です。宜しくお願いします」

「あ、……はい」


 悠宇は顔を赤くして俺の後ろに隠れた。


「おいおい、美月がかわいいからって照れんなよ」

「そ、そういうわけじゃないよ!」

「悠宇は女の子が苦手なだけなんだ。気にしないでやってくれ」

「そうなんだ。大丈夫だよ」


 吉田にからかわれて悠宇は縮こまる。一応フォローはしてやったが……。

 その言葉に返すように美月は微笑んだ。こんな笑顔を見せられたら俺も真っ赤になってしまいそうだ。


「なさけねーな。おまえは1年の時もあたしに全然話かけてこなかったもんな」

「昔から女の子は苦手なんだよ……。 別に太一や星斗みたいにモテるわけじゃないし」

「でも今は普通に話かけてくるじゃねぇか」

「だって吉田さん、中身男だもん。こんなにガサツで男みたいな女の子初めて見た! そう気づいたら苦手意識なんて吹き、ごふっっ!」


 吉田の見事な蹴りが悠宇の腹に突き刺さった。

 キックボクシングとかやれるんじゃないか。見事なもんだ。

 そういう所だぞって両者に言おうと思ったが巻き込まれそうだったので止めた。


「悠宇も二塁手のレギュラー候補だから手足を傷つけるのは止めろよ。腹ならいくらでもいい」

「……フォローになってないよ」


 腹を押さえて悠宇は立ち上がる。

 さっきまで欠伸をしていた星斗が声をあげた。


「あ、ってことはねーちゃんとゆーせんぱいも同じ中学出身か」

「そうなんだ! 改めてよろしくね。えーと、えーと……、……」


 美月は顔を反らした。


「まさか同じ中学出身なのに名字を覚えられてない!?」

「ゆーせんぱい、影が薄いから」

「今日、みんな僕に対してなんか冷たくない!?」


 悲しげに叫ぶ悠宇は放っておくとして……、

 悠宇を知らなくて、俺の存在はしっかり覚えていたのが少し気になる。


 やっぱり美月は俺のことを覚えていたんじゃ……。

 しかしここで聞いてもはぐらかされそうだし、重いんですけどって言われそうだ。

 どこかでチャンスを作らないと……。


 まわりがざわつく中、美月が俺の側に寄る。


「小日向くん、今日良かったら……一緒に帰らない? も、もちろんせーくんも一緒だよ」


 恥ずかしがりつつも小声で話す美月が大層かわいくて、正直過去のことなんてどうでもよくなってきた。

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