アルサの街にやってきた
8日目の午後。太陽は傾き間もなく夕方だろうか?
「あれがアルサの街!」
丘を下った先にその街はあった。侵入者避けだろうか? 高い塀がぐるりと街を囲っている。
思っていたよりも早くアルサの街に着きそうだ。
「ウリ! 早く行くぞ!」
1週間歩き詰めの足は少し痛むが、そんなの無視だ無視。
「あっ!」
第1異世界人発見!
オレ達の前方50メートル程の距離を歩いている二人連れの男達。何か長い得物を持っている。格好はあっちの世界とそうは変わらない。違いは何か簡単な防具を付けているくらいかな。
「何かドキドキするな、ウリ」
「そう?」
「これからがいよいよ本格的な異世界スタートだろ。アルサの街がどんなかも気になるし。それにさ、いい加減何処か宿屋に泊まりたいよ」
1週間のサバイバルであちらの世界の様々な常識は死んだ。
風呂なんて入らなくて当たり前。ここ暫くは顔さえも洗ったかどうか。意識しだしたら身体のあちらこちらが痒くなってきた。
バリバリ、ボリボリ。
「少し落ち着いたら?」
「あっ、悪い。…なぁ、オレ臭い?」
「んー。そんなもんじゃない?」
そんな事を話しているうちに門の様子が見えてきた。何人かの人々が門番にチェックらしきものを受けている。
オレとウリも列の最後に並んだ。
「よし、次」
「えっと、初めてなんですが」
「身分証は?」
「ありません」
門番はそんなオレ達を後回しにすると、後ろで並んでいた人の処理をさっさとこなした。
「さて。何処から来た? この街に来た目的は?」
「山奥から来ました。旅人です。素材を売ったり、宿に泊まったりしたいなと思って」
「なるほど。村長から身分証を発行してもらわなかったのか?」
「えっと…」
無いのを承知でパタパタと身体を探っていたら尻ポケットに硬い感触がある。
!
財布だ!
急に現れた財布の中から保険証を引っ張り出した。
「これです!」
「何だ? 初めて見る形だな。書いてある文字もよくわからん。よっぽど田舎から来たんだな。まぁ、いい」
セーフか?
「これに触ってみろ」
出されたのは丸いガラス玉のような…水晶玉か?
そっと触れてみると、ぼんやりと青く光る。
門番に促され、ウリも同様に触れると同じように青く光った。
その後、手荷物の確認。
不思議な鞄は、どういう仕組みか他の人には普通の薬草入りの鞄に見えたらしい。
「よし。では入街税銀貨3枚、払えるか?」
「はい!」
「そのイノシシは銅貨3枚」
ウリもか。金、ギリギリだな。
「では、これが3日間の滞在許可証となる。滞在中、揉め事を起こさないように」
「ちょっ、3日?」
詳しい話を聞こうにも、門番は次の人に向かってしまい取り付く島もない。
「…仕方ない。取り敢えず薬草を売りに行くか」
門からまっすぐ続くメイン通りと思われる道を進む。
ちらほらと看板の付いている店が道の両脇に現れた。
「麦の絵…パン屋か!」
が、金が無い。
ん? 待てよ。さっきの財布、オレのあっちでの金はどうなった?
財布の中身を確認すると、金色の硬貨1枚と銀貨2枚と銅貨5枚。そして黒っぽい小さい硬貨6枚が入っていた。
「両替されてる!」
『先生、これって?』
独り言野郎になるのを防ぐべく、先生への質問は頭の中で考えるのみとした。何回か試してみたが何の問題もなく上手くいき、後はオレがうっかりしなければいいだけだ。
『あなたのあちらの世界での財布です。先祖の力で転送されました』
『ご先祖の? なぁ、それってこれからも何かあったら助けてくれるって事か?』
『これが最後です。7つの玉と最後1つの手助け。これで全部です』
『そうか、ありがとう。助かったよ』
思いがけず貰った最後の力。最後までオレを心配してくれてたばあちゃんに感謝だな。