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03 旧生徒会その2

「私は真琴よ。そして世界救済組織の人間よ。」

「選んだ人間だけを救う。それで災厄から逃れる事が出来るのよ。」

「だったら、人を殺す必要はなかったはずだよね…。」

だから少し分かった気がする。

間違ってるんだ。

「魔法使いというだけで殺す理由は充分わよ。」

魔法使いも人間だ。

「それだけの実力があるのに、人を殺すの?」

一緒に行った後で殺されるかもしれない。

だったら、今は助かる時間を稼ごうと私は思う。

「"これだけ"しか実力がないから、こんな方法しかないのよ。」

「だからごめんね。」

なんで、この人は謝ってるんだろうか。

それは私には分からなかった。

「命を奪う以外にも方法はあったんじゃないの?」

だからこそ私は自分自身の思う事を言葉で積んでいく。

「誰かが苦しんでる時に励ましたり、本当に守りたい人のためなら…。」

「苦楽を一緒に分かち合う事だって出来たはずだよ。」

私は拳を強く握り締める。

「守りたいという気持ちがどうしたら、他人の命を奪う事に繋がるんだよっ!?」

命や物の奪い合いなんかしなければ、

「憎しみの連鎖を生むだけだよ。」

戦争なんて起きなかったはずだ。

「分かってるわよ…。」

少女の声が段々と重くなるのが分かる。

「分かってる…。分かってるわよっ!!」

「殺される側も……殺す側も辛いのよっ!!」

少女は感情を声に出す。

それだけ思い詰めていたのだ。

「だから私は貴女まで殺したくないのよっ!!だから…。」

人殺しに手を染めてしまったから、

目の前の少女はもう後戻りは出来ないのだ。

ゆっくりと血で汚れた手を私に伸ばしていく。

「バイバイ」

赤い液体が飛び散った。

痛みが広がっていくのが分かる。

「まだ……何も…。」

友達と呼んでくれた雪に何も出来ていない。

きっと雪達は生きてるはずだ。

だから私は簡単に死ぬ訳にはいかなかった。

「ま…だ……。」

液体は空中を描き、地面へと広がった。

このまま死ぬんだと理解するには十分だった。

ゆっくりと心臓が止まって行くのが分かる。

掠れた視界には敵らしき少女が見える。

「本当に……ごめんね。」

意識が遠退いてるせいか言葉を聞き取れなかった。

その瞬間、温もりが伝わって来た。

それは治癒魔法のようだった。

だけど、明らかにしてる事が矛盾している。

「落ち着きましたか?」

雪の膝の上に寝かされているのに気付いた。

「どう、して…?」

疑問に思う。

雪は死んだはずじゃ。

幻覚魔法(うそ)よ。毒煙も貴女の身体を騙してただけ。」

真琴は私の背中を指でなぞる。

指でなぞられた傷が自然に消えていく。

「でも刹那は…。」

私は恨むように目の前の真琴を睨んだ。

「無事よ。」

真琴は私の頭をぽんぽんしながら言う。

その言葉を聞いたら、

「ふぇへ?」

間抜けな声が出てしまった。

「だから誰も殺してないわよ。」

だったら、雪達はどこに行ったのだろう。

「へ?それって…。」

私は疑問を抱いていると、真琴が溜息を吐いた。

「だから。」

「私達のリーダーが貴女を殺すつもりなのよ。だから私が殺した事にしなきゃ助けられないわ。」

怒ったような表情を浮かべている。

血で隠蔽したのだ。

きっと地面に付いた血は私が死んだと判断するのには良い材料だろう。

「でも、逃げられたって一言だけ伝えれば良いじゃないの?」

逃がす事も出来たはずだ。

「絶対に逃げれないわよ。私の幻覚は効かないし、」

そう彼女は言う。

その言葉に重さを感じた気がした。

「ちゃんとした自己紹介が遅れたわね。」

(ひいらぎ) 真琴(まこと)よ。私は…」

その後の言葉は聞き取れなかった。

巨大な爆発音の直後、旧校舎が揺れた。

「えっ!?」

「魔女なんて存在するはずないのにっ!!」

真琴が壁を思いっ切り叩いた。

手が赤くなり、液体がゆっくりと垂れる。

「めんどいわね。アンタはさっさと校舎から逃げなさい。」

真琴は私を押して、校舎の非常口から出そうとする。

「えっ…!?でも…。」

私と同様に雪達を助けてくれたなら、彼女はどうなる?

私も何か手伝うべきだと思う。

「私も何か手伝える事とか…ない?」

秘策がある。

「死ぬかもしれないわよ。」

彼女の言葉は重かった。

「仮に秘策があったとしても、リーダーは強いわよ。せっかく助けたのに水の泡にする気?」

最もだった。

「それは…。」

言葉を濁す。

実力差があるのに戦いを挑むという事は自殺行為に近いものだ。

戦うまで実感のない賭け引きのような感じだ。

「でも秘策って言うぐらいだから勝機はあるんでしょ?」

真琴は唇を噛み締める。

「失敗すれば、確実に死ぬわよ。」

失敗は死を意味している。

「それでも……やるしかないよ。」

校舎が何度も揺れる。

「さっきまで死にかけてたのにまた死にたい訳ないよ。」

「雛ちゃんの魔法は魔力消費が大き過ぎます!」

自分の魔法については一言喋った記憶がない。

恐らく生徒会で度々見る機会があったのだろう。

「死んでも後悔だけはしないようにね。」

少女はニヤリと口を歪ませて言った。

まるで絶対に勝てないと言っているみたいだ。

本当に信じてしまっても良いのだろうか?

「誰も信用出来なくても…やらなきゃいけないんだ。」

校舎を出ると、私は異変にすぐに気付く事が出来た。

校舎の周りの木が無かったのだ。

唯一見えるのは十字架らしきものだけ。

「…えぇ!?」

「封印指定物である十字架があれば、」

考える隙もなく、少女が答える。

「魔女を起こす事が出来る。」

「煉獄の炎よ!!弾けろっ!!」

私は即座に作った黒い炎を爆発させた。

煉獄の炎は、宗教的な意味では清めの炎とされる。

少女には気配が無かった。

殺気ぐらいは私でも分かる。

コイツは危険だと私の本能が言っていた。

「炎ぐらい防げるよ。」

煙から出て来た少女は無傷だった。

少女の前には黒焦げになった塊が転がっているだけだ。

少なくとも人ではないと思う。

「…精霊?」

「まさか、精霊使い…?なんで精霊を盾に使ったのっ!?」

精霊は魔法使いを補助する存在。

それは精霊の能力での話だ。

「うるさい。」

少女は無表情だった。

精霊を物としか見てない。

黒焦げになった精霊を踏み付けると少女は私から距離を置いた。

「それにしても汚い戦い方だね。」

恐らく近距離での魔法戦に不向きなタイプだろう。

「あいにく、僕のやり方はこれぐらいしか無いから。」

話を聞いていないのか、そっぽ向いていた。

「死体とこれ以上話す気にはなれないね。」

少女は冷たい氷のような眼で私を見ていた。

「もう死になよ。」

その言葉と同時に少女から殺気を感じた。

「だ、誰の事を言ってるのかなっ!?」

ペースを乱そうと誘っているのだ。

相手のペースに流されたら決着が直ぐに着くだろう。

「目の前の君。」

そう答える少女。

「むかつくぅぅ!!」

私は魔力を手に集めていく。

「絶対に許さないからっ!!」

私は手の平から炎を出した。

「火傷したくなければ、手を引いて!!」

何とか理性をギリギリの所で保つ。

「去るのは僕じゃないよ。」

「雨崎虹葉を舐め過ぎ。」

雨崎という名字には聞き覚えがあった。

虹葉の周りの魔力が具現化していく。

「…魔力から精霊を呼び出すの?」

少し疑問に思っていた。

「正確には別空間にいる精霊を転移させるだけですよ。」

少し離れた場所に雪がいた。

「ゆ、雪っ!?」

雪の声を聞いて肩から力が抜けた気がした。

刹那も居るようだった。

ただ少し疲れた表情を浮かべている。

「柊の奴め…。殺せてないじゃないか。」

目の前の少女は小さく呟く。

「じゃあ、後で柊も殺さなきゃ。」

それは学校の生徒会長としては聞き流せない言葉だったのかもしれない。

「もう一度、生徒会長の私の目の前で同じ事を言えますか?」

雪は珍しく怒っていた。

「君が噂の新しい生徒会長さんか。」

虹葉は唇を噛み締める。

「どうやら、貴女は旧生徒会の噂の件に絡んでいるようですね。」

雪の眼が鋭くなった気がする。

「一つだけ教えてあげる。君達が嗅ぎ回っている組織はある研究をしてたんだ。」

雪は拳を強く握る。

「その研究の提案者が…」

「今私が聞きたいのは、それではありません。」

拳を強く握り締める雪の姿は何だか寂しく見えた。

「誰を殺すと、言ったんですか?」

「もしかして柊の奴を庇ってるつもりか?」

虹葉の周りの魔力で形が作られていく。

「人が死んでも良い理由などないですっ!!」

雪の身体の周りに竜巻が出来ていた。

一点に魔力が凝縮しているのだ。

「優等生を気取ってるね?」

その言葉は私の怒りに油を注いだ。

「雪はそんなんじゃないっ!!」

恩人である雪を侮辱するのだけは許せなかった。

「もし自分に無関係な人間が傷付いたら助けるの?」

「そんな馬鹿な奴は居ない。誰もが幸せを騙し奪おうとするんだよ。」

私は何も言えなかった。

雪ならなんて答えるんだろうか。


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