加純さん、ファジィをねらう。
ファジィ(fuzzy)……カタカナ語では「境界が不明確であること」や「ぼんやりしていること」という意味合いで使用。また、不明確であることは裏を返せばフレキシブルであるということにもつながるため、「柔軟性がある」という意味でも。
今回はゆっくり「tess ジューンブライド」の制作工程をお話します。
久々のアナログ制作、加純さん気合入ってます!
やっぱりコピックは楽しいわ~~!!
6月といえば……。
夏に向かうこの季節、まず連想するのは雨、梅雨。紫陽花にカタツムリ。
衣更えや田植え、父の日……、そしてジューンブライドでしょうか。
「ジューンブライド(June bride)」とは、古くからヨーロッパで「6月に結婚する花嫁は幸せになれる」とされる言い伝えのこと。
意味や由来については諸説あるみたいですが、よく知られているのはギリシャ神話に登場する神主ゼウスの妃で結婚や出産を司る女神「Juno」が守護する月が6月(June)であることから、この月に結婚をすると生涯幸せに暮らせると言われているのですって。でもね~、神話の中のジュノは夫の浮気に悋気と嫉妬心を爆発させているので、甚だ疑問もあるのですけど。(※ジュノ、ギリシャ神話ではヘラと呼ばれています)
また、かつてヨーロッパでは、農作業の妨げとなることから3月~5月の結婚が禁じられていたとか(マジか!)。そのため結婚が解禁となる6月に結婚式を挙げるカップルが多く、祝福ムードが溢れていたからという説も。
ジューンブライド(June bride)となる6月は、日本では梅雨の季節にあたりますが、海外ではヨーロッパを始め乾季に入っている国が多く、心地よい気候で気持ちよく結婚式が行える季節。最高のウェディングシーズンなのだそうです。
小学生の加純さんは「どーして雨ばっかりのじとじとの季節に結婚式やるの?」と疑問に思っていましたが、基準が違っていたのですよね。西洋の風習を、無理やり日本に持ってくるから、こういうことになるのだわ。
調べたところ、現在日本で結婚式が多いのは秋の10月・11月、春の5月・6月だそうです。気候が良く連休の多い月が人気があるみたいですよ。
なんて前置きがあれば、それとなく今回の特集の内容がわかってくるかもしれません。
企画で描かせていただいたテスのジューンブライド絵の制作工程の解説をしていこうと思います。
ああ、そういえば6月上旬は春ばらも見頃でしたね。
こちらはX(旧ツイッター)のアイコン用に描いた「ジュリアとアイスバーグ」。
ジュリアもアイスバーグも品種の名前です。個人的には、アイスバーグ(英語で氷山)よりドイツ語の「シュネーヴィッチェン(ドイツ語で白雪姫)」の方が好きだったりする。
****
「#渚と空のミュージアム 6月展」のイラストを描こうと思うのですが――。
描きたいテーマは即決で決まっていたのです。6月展ですからね、「ジューンブライド」でいきましょうと!
昨年、やはりこちらの企画の6月展でクリスタのジューンブライドを描いたので、今年はメインヒロインのテスのマリエ姿をどうしても描いてあげたかったのです。
クリスタは男前女子なので凛々しくキリっとした感じで仕上げたので、テスは甘めにフワッと柔らかい雰囲気で描いてみたいと思っていました。ドレスの資料も集めてあるし、構図もバストアップで、と大方決めてありました。
「ざっくりラフ画」(結局ボツ案)
――と、ここまで段取りを整えておいたのに、ですよ。
描き始めたら、なぜか段取りが崩壊しました。描いても描いても、イメージどおりにならないのっ!
なんでーーーー!!
なにが違うのか、なにが気に入らないのかわからいのですが、とにかくイメージがズレてくるのです。テスを描いているはずなのになんだかテスじゃない、とでも言いましょうか。ラフを描くほどに、イメージから遠ざかっていくみたいで。
「テスのジューンブライド姿を描きたい!」と云う気合だけが空回りし始めました。
根本的な原因はわからないまま、時間だけは過ぎていきます。締め切りもありますから、いつまでも悩んで手を止めたままではいられません。
苦肉の策で、構図とドレスのデザインを変えることにしました。幸い、ドレスの資料は山のように集めてありましたから。
気を取り直して、新しい構図で描き始めました。
まずは下書き。
途中経過。
ひととおり彩色が終わったところ。
この後デジタルで加工処理をするので、色は意識して濃い目に入れているのですが。
やっぱり気に入らない――というか、背景をこんなに描きこんではいけない! ということに、ここでハタと気が付いた。遅い――遅すぎる……。なぜもっと早く気が付かないのだ!?
背景が重すぎて、テスが窮屈そうに見えるの。
クリスタの絵と対になるようにしたかったので、テスヴァージョンも背景を細かく描きこんでいたのですが、これは失敗してしまいました。背景に押し潰されてしまっている。テスのフワッとした雰囲気が、背景の重さに潰されてしまっています。
はい。いつものように、最初から描きなおしということになりましたよ。毎度のこと過ぎて、全然へこたれない。そんなヒマがあったら、とっとと手を動かして描いた方が早いのですもの。
修正版は窮屈な背景のをカットして、フレームだけを残すことにしました。なにもないと、画面が締まらなくなっちゃうのですよ。
さらに華やかさをプラスするために、花を描きこむことにしました。花嫁さんには必需品ですもん!
(「そこ! 困ったらすぐに花で誤魔化す」とか突っ込まないっ!)
そのお花ですが、テスを描くときはガーベラを描きこむことが多いですね。ガーベラは、華やかでかわいらしさもある存在感のある花です。なんといっても花の色数が多いので、使いまわしが効きます。
彼女のイメージ的にはブルーデイジーって気もしますが、映えを考えるとガーベラになってしまう。
イラスト、映えが命だから。
割烹でチラ見せしたものです。
作品全体を映すと細かいところはわからなくなってしまいますが、白い花に立体感をつけるために、Y、YR系、YG系、G系、BG系とガーベラだけで10色以上は使っていると思います。ごめんなさい、どの色を使ったのかまでは記憶にない……。
塗っている間は、めちゃ楽しかったのだけは覚えているけれど。
はい。ここから描き直しヴァージョンに入ります。
ペン入れ終了後。
彩色に入ります。
キャラの顔が決まらないと、どうしてもテンションが上がらないので、まずキャラの表情を仕上げてしまいましょう。やはりキャラの顔に色が入ると、表情が息づいてきて華やかになります。塗る側としても「よし、きれいに仕上げてあげるからね」と気合が入りますもん。
そしていつものように薄い色から入れていくのですが、ウェディングドレスは基本白色なので、どの色を取っても同じような薄い色……。塗り分けが大変。
クリスタの時はカラーがメインフラワーでランやハイビスカスの蕾も描いたのですが、テスのコスチュームは帽子がひらひら華やかなので、あえて添える花はガーベラだけでいこうと思います。ドレスのデザインもデコラティブなので、描き込みを多くし過ぎるとうるさくなりますものね。
――っていうか。それで失敗して描きなおしをしているのよ、わたし。
失敗した作品と同じ下絵を使ってトレースしているのですが、コピーしているようで、細かいところは少しずつ変えてしまう。全く同じにコピーができないのは、なぜでしょうね。描いている途中で、どんどん違うものを取り入れたくなって、仕上がったら違う絵になってしまったこともあります。(←自慢にならない)
一度仕上げてあるので、色で迷う手間が無い分、作業速度は早い早い。
ただ前回よりリボンのクルクル度を上げたため、そこが難しくなりました。テクニック的にというより、どのリボンがどこへ流れているのか、わからなくなっちゃったのよ。
一本だけサムシングブルーで水色にしたのですが、その他のがどう繋がっているのかわからない。脳裏をよぎる「本末転倒」という文字。
負けるもんか!
ごめんなさ~い、例によって夢中になっていたので、途中経過の写メが全部中途半端なところで。手を止めた時「いか~ん、また写メ撮り忘れた!」と焦って撮っているので、こんな具合になっています。アナログ制作は過去に戻れないの、レイヤー非表示とか便利なことできないもん……。
それと。加純さんは原稿をスマホで写メ撮りしたものをアップしているので、同じ絵でも光の加減で色味が微妙に違ったりします。スキャンすれば? とお思いになるでしょ。家庭用コピー機でスキャンすると、もっと違ってきちゃうのよ。薄い色は、ほぼ飛んでしまう。
まだ写メ撮りの方が色味の再現が許せる範囲なので、結局こちらにしています。パソコンに取り込んでから、修正掛けています。
ひととおり色を入れて、ホワイトまで入れたところ。
ここからデジタルで加工していきます。
製作ウラ話をひとつ。
描き直し制作時のBGMが、Creepy 〇utsの「Bling-〇ang-Bang-Born」でした。
動画再生回数が2週間で1000万回再生を突破、「BBBBダンス」のダンス動画の投稿も沢山ありました。世界的にヒットした曲なのでご存じの方も多いはず。某アニメのOP曲に使用された、あの中毒性のあるカッコイイ曲よ。
しかし。
絵と曲のイメージが真逆だろう――と思うでしょ。いいの、とにかく気力を奮い立たせる事が出来るのならば、BGMがヘビーメタルでだって描いてやるわよ。
体力の方がアテにならないので、気力になんとかなってもらわなければとても仕上がらないだもん。
接触不良のやる気回線を、なにがなんでも機能させなければっ!
かなりヤバ目の末期症状に突入していましたからね。体力が尽きる前に、とにかく完成、提出を!(←締め切りをお願いして伸ばしていただいたこともあり1日でも早い完成を、と超焦っていた)
折よくYouTubeで1時間耐久バージョン見つけたものだから、それを3周繰り返して下書きとペン入れ、翌日も彩色で2周。さらにその翌日も彩色仕上げと2周エンドレスで聞きながら、ぶりんばんばんぼんでこの絵を描き直しました。途中から頭の中で「テスクリ」オールスターズがBBBBダンスを踊りだしていたけれど、それも応援してくれているのだとポジティブ変換しつつ――。
加純さん、「のびしろ」だけは無限大!(かも!?)
背景はクリップスタジオの画像素材をお借りして張り付けてあります。そのままではなくオーバーレイとかソフトライト加工して、不透明度を下げたり、色味削ったりとあれこれ小細工トライ。ふんわりファジィで、(梅雨じゃない)6月らしい透明感とか、みずみずしさを狙ったつもり。
「色味調整前」
すごいぜ、音楽のちから!
一方、キートン山田氏の声で「馬鹿である」というナレーションが聞こえてきそうだったけど。
でも、完成したから! 終わり良ければ総て良しって云うでしょ!
「tess ジューンブライド」
「言い逃れである」(←キートン山田氏の声で)
「豚もおだてりゃ木に登る」(←富山敬氏の声で)
次回は、こちらのイラスト制作迷走中に「気を取り直す」過程でテロしたFA集を。
食欲の秋を充たすようなラインナップに、なぜかなっています。
ご来訪、ありがとうございます。
ガーベラの花を塗るのに10色以上使ったというお話をしましたが、当然他の箇所もそんな具合で塗っています。一度グラデを完成させた後でも、また少しずつ色を足して調整したりしていますから、そこまで入れると……あれ、何色使っているのだろう?
アナログ制作は、気力と体力を使うのよ。でもね、きれいな色で塗れた時の達成感は、もう最高です。
さて、次回はFA集。どうぞ、お楽しみに。