62. 加純さん、時代考証を考える。(第四回イラスト交換企画 中級者バッチコイ部門)
「第四回イラスト交換企画」中級者バッチコイ部門、「夜の慟哭」の登場です。
初級者部門とはうって変わっての、シリアスで重々しいモノクロのイラスト。そちらの制作ウラ話といただいた「リューゼ」をお楽しみください。
本文中、ジャガイモ探偵様のご希望で「探偵さん」とさん付けで呼ばせていただいております。
今回も「イラスト交換企画」のお話。
その前に、ひとつ。
天界音楽様主催「#12ヶ月の小品集2022」。11月のお題は「脇役」。ご馳走の名脇役、パセリです。
さて、本題に移りましょう。
第四回イラスト交換企画は初心者部門と中級者部門をエントリーさせていただいたので、2作品を描かねばいけません。その中級者部門、お相手はジャガイモ探偵様。
この方も初顔合わせであったのですが、実はエッセイは拝読したことがありました。
面白いエッセイでしたので作品の方は覚えていたのですが、作者様のお名前はうろ覚えで、後から気付いた次第。
ごめんなさい、探偵さん。記憶力が低下する一方なお年頃なの。
それはさておき。
今回は、探偵さんの新作のキャラを描かせていただくことになりました。
それでは、テンプレートから。
★キャラクター依頼内容★
【部門】中級者バッチコイ部門
【絵師】加純
【作者】ジャガイモ探偵様
【出演作品】肉一体、八ポンド。
【作品URL】https://ncode.syosetu.com/n2062hv/
【ジャンル】歴史
【名前】ジョン・バルフォア
【性別】男性
【種族、人種】スコットランド人
【年齢】19歳位
【身長】175cm位
【体重】健康体重
【髪型・髪色】うねった濃い茶髪。
【目つき・目の色】青、眉は濃いめ、目はちょっと垂れ気味
【肌の色】白人
【体型】細身だけど健康的。
【服装】19世紀初期(1820年代)の中~上流階級。学生。白黒。
【表情】ちょっと気取っている方。でもすぐしかめっ面してしまう悪癖はありそうです。
【性格】若さゆえに感情的。幼さが少し抜けない。頭は悪くないけど単純。
【その他】顔は地味だけど良い方かな~と思っています。ただ、年齢が年齢なので、些か頼りないかと。19世紀初期の医学生です。恋人の仇を討とうとしますが、肝心の仇は誰か不明。今の所、本作では唯一のフィクションキャラなので、バルフォアをお願いします!
歴史物だよ、しかも謎解きモノときたら大好物です!
複雑に絡んだ謎、いわくありげな人物たち、暗く闇深い石造りの古い街並み。このラインナップで、気分が乗らない訳ないではありませんか。すぐにキャラクターのデザインは出来上りました。
ほぼ同時に構図も浮かんできたので、後は資料集め。
時代設定がしっかりしているので、まずは19世紀初期の男性の服装を調べ、探偵さんに確認を取りました。この絵は資料をほぼ丸写しして描いたので公開しませんが、参考にして描いたバルフォア君の立ち姿を完成画で描いていますので、最後までお付き合いしてくださいね。
「初期ラフ画」
こういった小道具や衣裳は物語の空気感を現わすのに非常に重要な要素だと考えたので、疎かにしてはいけないと加純さんは思うのです。ところが同じ時代に活躍したナポレオンは日本でも人気があるので資料もたくさんあるのですが、同じ欧州だというのにドーバー海峡を渡った先のスコットランドの(日本語の)資料となると見当たらないのね。
さらに王侯貴族ではなく庶民の資料となると、さらに少なくなる。この当時庶民の数が少なかったから――なんてことはありませんよ。いつの時代も身分カーストピラミッド上位に君臨する一握りの王侯貴族を支えているのは、大多数の庶民なんです。
でもその庶民の生活は華やかさとは遠いかなりヘビィなものだったし、現在のように教育が行き届いていなかったのも手伝ってか、それほど資料が残っていない? 伝わっていない?
いえいえ、単にわたしの探し方が下手くそなのかしら? (←こっちですね)
仕方ない、フランスの資料で誤魔化すか……と考えていたところ、絶対に詳しいであろう方が目の前にいることに気が付きました。(←遅い)
誰って、作者の探偵さん!
本編中にもたくさん資料を提示しているくらいですからね。(←こちらも見応えがあります。なかなかお目にかかれないようなものもありますから、一見の価値あり! だと思います)
そこで作者の探偵さんにSOS。わからないことがあるとツイッターのDMで「申し訳ございませんが……」とお願いして、資料をいただいておりました。
当時の街並みだとか、下層階級の女性の服装だとか、庶民の生活の中にガラスのコップは存在したのか、だとか。妙にコアなことばかり質問して、大切なお時間を割いてしまい、誠に申し訳なくって。でもでも、本当に参考になりました。
「メアリー・ミッチェル」
今回依頼を受けたのはバルフォア君なのですが、作品を拝読させていただきまして、最初に興味を引かれたのは彼の恋人のメアリーでした。(ごめん、バルフォア君)
同じ女性として、不幸な境遇もさることながら、その中で健気にたくましく生きようとしていた彼女の姿に思うものがあったのです。決して賢く立ち回れるタイプではありませんが、世界最古といわれるの女性の職業に就きながらも純粋な心を持ち続け、一途に恋人を思う気持ちはとても愛らしく思えたのですね。
バルフォア君とは相思相愛の仲だったのですが、彼女の身分を考えると、どんなに彼に愛されていても先行き不透明で、拭えない不安を抱えていたことでしょう。
だから、この不幸な恋人たちを描いてあげたくて。
「ボツになったパーツ その1」
最初に考えた構図では、つかの間の幸せな時間を過ごす彼らの姿を描き込む予定だったのです。
ふたりが事件に巻き込まれていく過程を印象的なシーンを抜粋して並べ、物語序盤の流れを一枚絵にできないかなぁ……とか、安直に考えていました。
昔の映画ポスターみたいなのもいいなぁ、なんて。
で。どこでつまずいたのかって?
描くのと並べるのは、簡単にできたのですけどね。
描きたいものを全部並べたら、画面に入りきらなくなっちゃったのですよ。
キャラの等身を小さくすれば、なんとか押し込めることはできるのです。
――が、そうすると別の問題が。
ご存じのとおり、なろうに画像を投稿するときは「みてみん」に登録しなければなりません。でもね、描いたまま(A4用紙)そのままを登録するわけにはいかないのですね。なぜって容量に上限がありまして、アップするには絵のサイズを縮小しなければならないのですよ。
すると、元々小さく描かれた絵がさらにサイズ小さくなるのは必定。縮小も度を超すと線が潰れて汚く見える。もっと問題なのは、スマホの画面ではなにを描いてあるのか、一目で認識できなくなってしまうのね。
最悪コマ割りする(マンガ化?)とか。
それでも、しばらくはどうにか出来ないものかとアナログ描きした原稿をPCに取り込み、位置を変えたり大きさを調整したり手を尽くしていたのですが、時間的な問題から諦めることにしました。
だって、この地点でもう11月中旬。締め切りは月末、目前に迫っていたのです。作者様の了承を得たり、その後コメントを描く時間的余裕を考慮したら、吞気にいつまでも迷ってなどいられませんでしょ。
泣く泣く決断しました。
ごちゃごちゃにするより描き込むシーンを絞ろう、と。
「ジョン・バルフォア」
依頼を受けたキャラはバルフォア君なので、彼を中心に、どのシーンを抜粋するのか考えました。
わたしとしては序盤のヤマであり、彼が事件に関わるきっかけとなる「メアリーを失った悲しみ」を描きたいという心積もりがありました。それも、できればドラマティックに。
だから、驚きと悲しみに染まる彼の顔アップを中心に据えたかった。ここは不動ね!
その悲しみの涙をメアリーのこぼしたウィスキーにしたい、ここも変えられない。(←状況説明と理由はネタバレになるので自主規制)
それから謎を追う彼のその後の行動も、さわりくらいは入れてみたい。
ここに彼の全身図をはめ込めば衣裳を描けるので、そこから時代設定も見えてくるだろうという思惑もあり。
でも、わたしが本当にこだわったのは、画面左上に入れたエディンバラの風景だったりするの。
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ここで一息入れて、いただきもののご紹介です。
「イラ交」中級者部門でわたしのイラストを描いてくださったのは、きしかわせひろ様。
わたしとはまったく違った絵柄の方なので、組み合わせ発表された時から作品が楽しみで、楽しみで! 誰を描いていただこうか悩んだのですが、男性キャラの方がお得意ということでしたので、こやつ……いえ、流浪の公子様をお願いしてみました。
★絵師情報★
絵師:きしかわ せひろ様
描きやすい性別 :男性が得意ですが、女性もオッケーです!
描きやすい年齢 :幼児から中年くらいまで
描きにくい人物:お年寄り(あまりレパートリーがありません)
描けない人物:極端に美醜がかたよったキャラクター
何かあれば:普通の等身から、デフォルメやSDも、ご希望がありましたら遠慮なくどうぞ!
★キャラクター依頼内容★
【部門】 中級者バッチコイ部門
【絵師】 きしかわ せひろ様
【作者】 加純
【出演作品】 混沌の淵に潜む竜は永久を嗤う
【作品URL】 https://ncode.syosetu.com/n9785fb/
【ジャンル】 異世界ダークファンタジー
【名前】 リューゼ・リ・アビナ
【性別】 男性
【種族、人種】 人間 白人系
【年齢】 24歳
【身長】 たぶん180~185センチくらい
【体重】 たぶん65~70キロあたりだと思う
【髪型・髪色】 うなじで束ねた漆黒の長い髪(願掛けして伸ばしている)前髪は顔にかかるくらい伸びている
【目つき・目の色】 強い光りを放つ瑠璃色の瞳(不思議な能力が発動する際には、金色の光が浮かび上がる)
【肌の色】 放浪しているので陽に焼けていると思う
【体型】 均整の取れた長身(食糧事情がよくないので痩せ気味)
【服装】 (現在)粗末な胴着とズボン、使い込まれ痛みが目立つ外套とブーツ、腰には長剣。左手人差し指に「三つ首竜」の紋章が付いた指輪。出自は王家に連なる公爵家の公子様なので、出るところに出ればそれなりの格好も。服装はきしかわ様のお好みで。
【表情】 (現状に満足していないので)不機嫌が張り付いたような。素地は高貴な血筋を感じさせる整った顔立ち。高い鼻と大きめの口、青い目はロサ王家の特徴。立ち振る舞いも、どことなく尊大さを隠し切れていない。
【性格】 態度デカい、扱いづらいイケメン。ではあるけれど、一流の教育と作法を身につけ、必要とあらば空気を読んで愛想笑いを振りまく腹芸も難なく熟す。拗ねたようなところもあるので、年上の女性にはモテる。
【その他】 14年前の政変で、ロサ王国を追われた公子様。王族は彼と、もうひとりの公女を除いて根絶やしにされた。家臣の機転で災難を逃れたが、今も政変の首謀者たちから執拗に追われている。政変を共に生き抜いた乳兄弟や臣下たちと、支援者の間を歩きながら復讐の機会を狙い、闇の妖術士たちと攻防を繰り返している。
常に命を狙われている状態なので護身には怠らない。また太古の「創始の竜」の血をひく一族の出身なので、不思議な異能力を持っている。
Mission complete!
きゃーー!!
カッコいいリューゼを描いていただいちゃいましたよ~~!!
本編ではずぶ濡れ泥まみれになっておりますが、本来はこういうカッコいいヒト(……のはず!?)ですからね。
ニヤニヤが止まりません。
新しいリューゼの魅力を魅せていただきました。眉間にシワ寄せてばかり(どういう設定だ)でなく、前向きな姿も書いてみたいなと思わせてくれた素敵な作品です。
きしかわ様、誠にありがとうございました。
なんですが――。
実は、どんなキャラをお願いしようかときしかわ様のイラストを拝見しに行ったら、可愛いお姫様をお見かけして、つい描いてしまいました。絵を描いていただく絵師様に、先にイラストを送るという反則技を仕掛けたおばかさんがここにいます。
『Thousand Sense〈サウザンドセンス〉』のミルズナ王女様。可愛いメガネ女子です!
丸ペンでペン入れして、久しぶりにスクリーントーンを貼りました。
そして、ゴリゴリにトーン削りしています。
眼が疲れてしまうので最近はデジタルで仕上げることが多くなりましたが、やっぱりトーン削りはナイフでシャカシャカやるのが楽しいっ!
眼が疲れても肩が凝っても、下手くそでも、うっかり削りすぎてやり直しでも、トーン削りは楽しいです!!
きしかわ様、お受け取りありがとうございました。
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お話は「肉一体、八ポンド。」に戻ります。
「イラ交」はキャラを描く企画です。
だから風景はキャラクターの背景ですよね。恋人のメアリーを削るくらいなら、こっち削ればいいじゃないかとお思いでしょ?
ところが加純さんの構図では、ここはどうしても削れなかったのよ。
「肉一体、八ポンド。」を語る上で、1828年のエディンバラの夜の闇は、どうしても必要だと感じたのです。
この物語は実在の事件をヒントにしているので、そちらの資料もネット検索でざっと調べてみました。あまり詳しく調べちゃうとバルフォア君と事件を追っていく楽しみがなくなっちゃうので、あくまでもざっと。事件のあらましくらいですけど。
これはわたしの当て推量ですが、19世紀初頭のエディンバラを包む夜の闇は、貧困と過密の中で心の闇を産み、そんな闇の中だからこの事件は起きたような気がしたのでした。(←個人の感想です)
余談ですが、同じ年に日本ではシーボルト事件が起こっています。九州地方や中国地方にかけて台風が大被害もたらしたり、越後ではマグニチュード6の地震が起こったり。翌年には文政の大火と、東洋の端っこも大変なことがてんこ盛りだったようですよ。
「大雑把な下描き」
まあ、それはさておき。
だとしたら、この物語においてエディンバラという街は重要な役割を担っているはずでは?(←個人の推測です)
服装や小道具が時代の空気感を醸し出す要素であるように、街並みも舞台構成や物語全体の雰囲気を支える重要な構成物に違いないと勝手に解釈させていただきました。
だからエディンバラの風景は人物の背景ではなく大切な舞台、もしかしたら影の主役(?)くらいの意気込みで、丁寧に、ちょっと不気味な様相で描いてみました。
もちろん風景は、探偵さんにいただいた当時の街並みの資料から。筆ペンで模写したもの。
下の石造りの壁も、そのままではありませんが、参考にさせていただいております。
「ジョン・バルフォア ②」 練習のアナログ描き
こうして編成を再編集。
それぞれのパーツを漂う夜の闇とも、流れ落ちた血とも取れるようなベタでつないだモノクロ画面。ショックを受けるバルフォア君の青い瞳と、メアリーのこぼしたウィスキー(流れ落ちてバルフォア君の涙)にだけ色を入れて印象的に、ドラマティックに演出してみました。
とにかくモノクロ映画ぽくしたい、と考えていたの。重々しく、少し古めかしく。時代ものだからではなく、この物語はモノクロが似合うと思っていたから。
(煌びやかな作品の並ぶ『なろう美術館』に、あえて白黒作品出品するのって、結構勇気がいるのだぞ!)
そして、そのなかに僅かに色を入れてインパクトを与えられるように、と。
ただね、ひとつ計算違いがあって。
ウィスキーですからね。琥珀色にしたかったのよ。涙の色。でもね、琥珀色にしたら目立たなかったの。回りのベタの強さに負けちゃうの。ここが目立たないと演出の意味が無いでしょ。仕方なく黄色にしたのですが、そこだけは本当に心残りで。
パーツの寸法を操作するためにアナログからデジタル作画に切り替えてしまったのも、ちょっと心残りがありました。板タブでの作画にも慣れてきましたが、やはり細かいニュアンスはアナログの方が勝ります。(←当社比)
ですがそのおかげで、ミリ単位で修正を検討できたのは良かったかな。これはデジタルの強み、ですものね。
紆余曲折と四苦八苦の末、どうにか完成。
Mission complete!
タイトルは「夜の慟哭」。
イラスト制作には悪戦苦闘しましたが、原作はとても面白い作品です。
「事実は小説よりも奇なり」の事件、バルフォア君はこの謎にどう立ち向かっていくのでしょうか?
この作品の魅力を、イラストが少しでも伝えることが出来ていたらいいのに!
難しかったけどとても描き甲斐のある作品で、資料を探して迷子になるのも、パーツの配置に悩むのも楽しかった作品でした。
探偵さん。素敵な作品を提供してくださり、誠にありがとうございました。
「ジョンとメアリー つかの間の夢」
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さて、次回。
企画終了後、線画をお借りして塗り絵にハマっていました。そのお話を。
改めて、初級者部門のキハ様、天界音楽様。中級者部門のジャガイモ探偵様、きしかわせひろ様。お世話になりました。そして、ありがとうございました。
とても楽しい企画となりました。がんばって2部門参加して良かった~!
――と。
ようやく昨年の「イラ交」中級者部門までお話を進めることができました。遅ッ!!
遅いにも程がある!!
少しスピードアップしないと、今年の「イラ交」が始まってしまう……。
一応、焦ってはいるのですが、イラスト描きを始めると文章が止まってしまうのよ。こうなるとウンともスンとも出てこないので、もうどうしようもありません。
どうにかするには、文章簡素化しなければならないのだろうか?
わたしの長話を聞いても仕方ないでしょうから、イラストだけ並べるようにした方がいいのかしらね……と、真面目に検討しています。
その割に、絵が描けないと困ってエッセイの連載を始めたりもするのだな。
(詳しくは【完結】平凡な主婦絵師は憂鬱をなんとかしたい~スランプの沼脱却のためにあれこれつぶやいてみようと思う
https://ncode.syosetu.com/n7513ia/ こちらで)
今年に入ってリアルも慌ただしくなってしまったし、体調もスッキリしないし……。まあ、体調は今に始まったことではないので、なんとかしますけど。
次回は、も少し間を開けないようにしたいと思います。(←希望)