60. 加純さん、パースと戦う。
年が明けて2023年。
でも、エッセイの内容は昨年の9月。
更新が遅くて、申し訳ございません。
9月に入り、毎年恒例の「イラスト交換企画」の幕が開きました。
今年は散々悩んだ末に、初級者ウェルカム部門と中級者バッチコイ部門にエントリー。本当は上級者チャレンジ部門もエントリーしたかったのですが、別企画の締め切りとぶつかっていましたので涙を呑むことにしました。
もうひとつの企画というのは、このエッセイでも何度か名前の出ている「#渚と空のミュージアム」。
そちらの企画からもイラストを2枚依頼されており、欲張って手を出した結果、締め切りを落とすことになったら本末転倒ですよね。
昨年はそんな理由で、一部門だけの参加で見合わせたのですが、今年は欲が出てきて「もうちょっとだけ」無理をしてみたくなりました。
ご存じかと思いますが「イラスト交換企画」の制作期間は9~11月末。
「#渚と空のミュージアム」11月展のイラスト締め切りが9月末。
「#12ヶ月の小品集2022」が毎月25日。
都合3ヶ月で大作が4枚。途中他の企画やFAなどに手を出しても(←おいおい)、これならばなんとかイケそうな気がします。かなり甘い目測ですけどね。
だから「もうちょっとだけ」無理をしてみたいんだってばー!
どちらも大きなチャレンジなんですもの、手を出してみたいではありませんか。
そこで9月中(遅くとも10月の初旬)までに「#ミュージアム」企画の2作品を提出し、その後「イラ交」の作品に取りかかると云うアバウトな計画でこの秋は乗り切ることにしたのでした。
「彼岸花」 デジタル作画
****
先ず手を染めたのが、一番早く提出しなければならないコラボ用の作品です。
イラストに詩を付けていただけると云う素晴らしいお話で、加純さんワクワクなのですが、わたしが仕上げなければ先に進めない企画ですからね。
速攻、こちらのイラストに取りかかりました。
前回は、春に「ピンクの発泡酒」というイラストに詩をいただきました。今回も詩を担当していただける方のインスピレーションを刺激するような絵にしたい(成功していたかどうかは別として……)と考えるのでしたが、すぐには構図が浮かんでは来ない。
なにがいいのでしょうねぇとのんびり悩んでいる時間もありませんから、街並みを描いてみることにしました。
前々回が馬、前回が花、で今回が街並み。人物からどんどん遠ざかって行く様な気もしますが、訳あって風景画を描く練習をしてみたくなったのです。
加純さん、パースというものがわかりません。
何度も言うようですが、よくわからないのです。
そも、パースというのはパースペクティヴ(Perspective)の略で、「透視図法」というのだそうな。これを用いれば正確な遠近感が表現できるので、絵にリアル感と説得力が出るらしい。
要するに遠近法ね。
遠近法、近くのものは大きく遠くのものは小さく描けば奥行きが感じられる……と云うところまではわかるの。画面の中で距離感を出すには、視線の一番遠い部分(パース用語で消失点)に向かって、物体を少しずつ小さく描いていけばいいのでしょ。
例えば地平線までつづく一本道の脇に、等間隔で街路樹が立っていたとしましょう。並んでいる先を見ていくと、背の高かった街路樹が次第に小さくなり、やがて点となり確認できなくなって消えてしまう。これが消失点。
その時、自分がその物体をどの高さから見ているのか(アイレベル)を決めなくてはならないのですが、上から見下ろせば俯瞰、正面から見る、下から見上げるとアオリ、となる。これはカメラアングル、角度ですね。
どの角度と位置からそのシーンを切り取れば一番カッコ良く見えるか決めよ、ってヤツね。57話の「その剣、火と水を操る」のイラストで、散々悩んだアレです。(←もう一回説明するのはさすがに面倒なので、出来れば読み返して頂きたいという希望)
と、ここまではなんとかクリア。
まあ、頭の中に完成図(構図)は出来ているので、どうやってそれを紙面に再現するのかが問題になってくるわけです。理屈は理解できなくても、どう視えるかはわかるのよ。
さて、風景画を描くとして。いきなり紙の上にざかざかざかっと描けるほど天才ではないので、パースの教本で教えていただいた補助線(パースライン)というものを引いてみようかと思うのです。
正確に物体を配置するためのガイドラインですね。
するとここで、制作中の絵には消失点がいくつあるのか捜さなければならなくなるの。さあ、このあたりからこんがらがってきますよ!
物体を描くには、「高さ」と「横幅」と「奥行き」を描かねばなりません。
画面上の物体がすべて水平垂直に置かれていれば奥行きの線はひとつの消失点(これが1点透視図)に集まるのですが、そのなかに角度を付けて置いた物体があると消失点がふたつに(2点透視図)になるのです。さらに俯瞰やアオリになれば上か下にも消失点が追加されて(3点透視図)。
簡単に言えば、角度が違えば見え方も変わってくる――と云うことなのでしょう。
加純さんは脳内にあるイメージ映像のとおり再現することは出来るのだけど、そのために消失点がいくつあるのだとか、目線の高さを定めるアイレベルをきちんと設定しろと言われると、途端にわからなくなるらしいの。
パースというものは、位置と距離そして消失点の位置と高さ(アイレベル)が重要なんですって。個々の意味や理屈はわかるのですが、いざ実践すると全てがモヤるのって、どゆこと?
――と、ここで長年足踏み状態を強いられたのですが、わたしも角度を変えて考えてみました。っていうか、逃げ道を見つけることを考えた。
パースというのは建物の内観、外観を立体で表現する図です。正確に引ければ遠近感を表現出来るものですよね。
でもね。正確である必要性、ある?(←個人の意見です)
わたしは建築設計士じゃないのよ。ましてや設計図とか、見取り図を描いているわけでもないんだから、そこまで正確性を求めなくてもいいんじゃね?
ぶっちゃけ、見映えさえ良ければイラストとして成り立つのでは?(←個人の意見ですよ)
人間、ラクな方へラクな方へと流れるといいますが、まさにそれですね。
加純さん、腹を決めました。
パースはわからなくてもいいや! それとなく見えれば、それでいいじゃん!
わたし、そこまでリアル求めてないから。(←あくまで個人の意見です!)
――えーっと……。
ここまでパースについて理解を深めようとお読みいただいていた方には誠に恐縮なのですが、わたし、匙を投げました。ちゃらんぽらんなわたしに、正確さを求める方が無理なのです。
出来ないのなら、出来ないなりに工夫した方が先に進めると思いません?(←真面目な方は真似をしてはいけません)
多少歪んでいようが、遠近感がおかしかろうが、そこは「味」にしちゃえばいいんじゃない!?(←違うから)
わからないからと、苦手だからだと、逃げ続ける方がつまらなく思えてきたのです。老い先短そうですものね、描いてみたいのに描けないまま終わっちゃうのは、やっぱりイヤだなぁ……と。
三十六計逃げるに如かずといいます。いつまでも悩んで思案し続けているより、時に逃げるのも得策なのではないでしょうか。
ねえ、孫子先生。(←責任転嫁するなッ!)
****
風景画を描きたいのには訳があると云いましたが、実はこの地点で、この後描く「イラスト交換企画」の作品の構図がぼんやり浮かんでおりました。その一部に、どうしても物語の舞台となる街の風景を描き込みたかったのです。
しかーし!
加純さんパースのわからないひとですからね。描くにしても、練習はしておいたほうが良いでしょ。拙作のイラストなら適当でも構わないのですが、作者様の大切な作品を描かせていただくのですもの。目も当てられないものを、「はい、どうぞ」と差し出すわけにはいきませんわよ。
――とこの先のお話は、後日。
それに「みてみん」では、キャラクターを描く絵師様は多数おいでになりますが、背景ではなく風景を描く絵師様はそれほどお見かけ致しません。たぶんなろう絵師様方の興味や物語の作者様の関心は、圧倒的にキャラクターの造形に傾いていているのでしょう。
それは、そうよね。ストーリーを作成する時に、キャラの設定は重要ですもの。ついついそちらに感心は傾きがち。風景の描写は二の次になっちゃう。
だから「風景」ではなく、キャラクターの後ろに映る「背景」になっちゃうのね。
でもキャラクターだって、その風景の中で生きているのですから「背景大事!」のはず! だから背景の風景を描いてみたくて、それで風景が……――――。
ええい、なんでもいいから描いてみたくなったのです。
風景を描いていて思うのですが。
背景画の主役は、その前に立つキャラクターです。キャラの個性が前面に押し出されていますし、大抵そのキャラの個性が強いですから、背景はその邪魔をしない程度になって誤魔化し……もとい、状況説明とか雰囲気の演出とかになったりします。
しかしその強烈な主役がいない風景画の場合、どこに主役(視点)を持っていけばいいのかなぁ――と。
明確に、この個体を描きたい! という目的(例えば植物とか建物とか)があればいいのですが、その風景の雰囲気を描きたいとか思うと、どこか一角だけ突出させるとバランスが崩れるような気もするのね。
かといって、先ず視線を引きつけるもの(焦点)がないと絵を観てもらえないし、全体がぼやけちゃう。画面上で視線の誘導も出来ないし、まとまりのないものになってしまいそう。
う~ん、風景画。奥が深い。
とんだ沼に足を突っ込んじゃったかもしれませんわ!?
そんなこんなで、とにかく描いてみました。なんだろうと、描かなきゃ始まりませんからね。気に入らなければ、描き直せばいいのです。それだけのことですもの。
難しく考えてはいけません。
今回描いたのは、夜の街の風景。
途中経過の写メがないので、だいたいの補助線をどう引いたのか再現してみました。あくまでも、これは加純さんのやり方なので、真似をしない方がいいと思います。パースが理解できないひとの苦肉の策なので。
まあ、こういう描き方もあるのだと、軽~く受け流してね。
そうそう。再現は編集の関係もありデジタルでやっていますが、原画はアナログで描いています。
最初に奥に向かってカーブしながら延びる道路を描いて、次に高さの基準となる街灯を描き込み、その周辺を固めていきます。それから建物のおおまかな高さを決めるライン。ここのお店は間口が広い、こっちのお店は狭いのよ~と適当に縦線を引いていく。
一階と二階のおおまかな境のラインも引いておく。その辺りに看板が入るから。
パース定規は使っていません。(←使えよ!)
手前左手の柵と街灯右手のレストランの柱などは直線は定規を当てて真っ直ぐなラインを下描きしましたが、ペン入れは全てフリーハンド。参考資料をガン見しながら、適当にアレンジしつつ、ブレは無視して描いていく。
奥行きが全て画面の奥に向かっているから1点透視図の絵ですね。けど、建物は歪ませています。これはパース下手くそ云々だけではなく、摩訶不思議な雰囲気を演出したくて意図してやっています。
フリーハンドで描いているから、頼まなくても線は歪んでいくのだけど。
こんな調子で、百均で購入した色画用紙に、ミリペンでひたすら線を引きました。ベタを使うと画面が重くなっちゃいそうなので、斜線やカケアミ、アミ縄などで影や立体感を制作。
細かくて大変だろうと思われるでしょうが、集中できるので、意外と楽しかったりするのです。
タイトルは「六番街の月」。
なぜ「六番街」なのかといえば、描き上げたのはいいけれどもタイトルが思いつかなくて、娘に相談したのですよ。
その時スマホから流れていたのが「6」の付く曲で、そのままタイトルを拝借しちゃえばと言われたのですが、大人の事情が絡んできますからそういう訳にはいかないでしょう。ならば六番街とか、月も描いたからそれを合わせて――と云う流れで、安易に決まったのでした。
加純さんはタイトルを決めるのも苦手なので、悩み始めるとまったく決まらなくなってしまう。妥協できる地点があるのなら、そこで手を打つのが良策なのです。
安易に付けた割には、雰囲気があって言いタイトルだと思いません?
1点透視図の絵をもう一枚。
おなじ11月展に出品した作品で、こちらは拙作「(貧乏)男爵令嬢エムリーヌ・ホルベインの結婚~ワケアリ伯爵様と結婚することになったのですが私もワケアリなので溺愛はいりません~」から、「tentation」(仏語で誘惑の意)。
真っ正面からの構図で、消失点とか、まったく考えていませんねぇ。遠くに朧に霞んだ月と、柱の向こう側にある樹木の茂みで、それとな~く遠近感を演出。
そして逆光の構図になっています。
下絵以外はオールデジタル仕上げで、クリップスタジオの定規ツールとか素材だとかを活用させていただきました。アナログ描きだとスクリーントーン以外は手描きになるのですが、デジタル作画だと便利なお道具が使えるので楽しいですね。
ここにこれを使えるかも? あそこにこれ使えるのでは? と、ほぼパズル感覚です。
ラフ画
ただね、線画は大変。
かなり慣れたとはいえ、板タブで作画をしているので、普段のアナログ作画とは感覚が違う。簡単にやり直しが効くとはいえ、思うような線に近づけるまで、拡大縮小回転反転……と必死です。
サブツールも使いこなせなくて、最近(2023/1月現在)ようやく「線修正」で線幅を変更修正できると云うことを覚えました。
蛇足ですが、クリップスタジオには「定規」のサブツールにパース定規というものもあります。が、当然のように使い方がわかりません(泣)パースがわからん人間に、パース定規の使い方を理解できるわけがないッ!
なので脳内映像に浮かんだ「おそらくこう見えるであろう図」を元に、床や柱に梁・天井など直線定規と楕円定規で引いた線を、目分量で配置・調整しただけです。(←超アバウト!)
「エムリーヌとモリス 下絵」 アナログ シャーペン画
エムリーヌとモリス。珍しく、あま~いシーンです。イメージは「古いモノクロ映画の一場面」風。
秋だから恋人たちの絵でも描いてみようか――などと思いつき描いたのはいいのですが、この絵を描いたのは9月。その頃まだストーリーの方では、エムは疑心暗鬼のドタバタの真っ最中。11月展で公開される前にモリスとの仲を進展させておかないと「内容詐欺」の絵になりかねませんよ!
――と云うことで、10月に必死になってお話を更新をしたといういわく……いえ、思い出付きの1枚です。
(縮小したらほとんどわからなくなってしまったけど、実はふたりの衣裳はめちゃくちゃ懲りまくっていたの。供養)
余談ですが、どうして仏語なのか? 実は過去に、英語で「temptation 1」というタイトルのイラストを描いていたの。
だから「2」にしてもよかったのですが、「エムこん」のキャラたちは仏語の名前で揃えてあるので、イラストのタイトルもそれにならって仏語にしてみました。
ちなみに、こちらが「temptation 1」 。
2019年4月に描かれたもの。3年以上前の作品で、アナログで描いたものをアプリで加工してあります。
当時は、まだデジタル環境が整っていなかったのよね。
わずか3年で、加純さんの作画環境は大きな変化を遂げていたのだと実感いたしましたわ!
ご訪問、ありがとうございます。
今回のお話、本来なら1月中に更新する予定だったのですが、加純さん絶不調になりまして、ぴたりとペンが止まりそのままになっておりました。2月になり、ようやく続きを書き始め、なんとか更新にまで至ることが出来ました。「tentation」のお蔵入り絵や秘蔵カットなども入れてみたのですが、いかがだったでしょうか?
次回は、多分、お待ちかねの「イラスト交換企画」の作品になると思います。
本文中で話題となっていた、
(貧乏)男爵令嬢エムリーヌ・ホルベインの結婚~ワケアリ伯爵様と結婚することになったのですが私もワケアリなので溺愛はいりません~
https://ncode.syosetu.com/n5199hq/
も、どうぞよろしく。