6. 加純さん、いざ描かんと決心し準備を重ねる。
いよいよ試作に取り掛かります。
どんなイラストが描けるでしょうか?
加純さんは、念願のコピックを手に入れたーーー!
脳内では、ファンファーレが鳴っています。ようやく手に入れた、憧れのコピックを手に、わたしは満面の笑みを浮かべていました。
思案して、厳選した、コピック18本と、ホワイトインクのゲルボールペン。それからライン用の極細水性顔料インクのペンが3色。
本日の戦利品です。
やっぱりクーポン券だけでは収まらず、へそくりも動員しましたが、それはそれ。「今日は良いお買い物をしました!」な気分なのです。
さあ、何から始めましょう。
まずは試し描きです。キャップを取って、ペン先を確認してみます。硬いブロード型のペン先と、柔らかな筆型のペン先。広告の裏に、ちょっとペン先を走らせて、描きごこちを確認。
わああぁ……、楽しいッ!
次々とペンを取り換え、描き心地と色を見ることに熱中していましたが、ふと時計を見れば、もう5時過ぎです。
もっともっと新アイテムで遊んでいたいけど、そうも言っていられない時間になってしまいました。
続きは明日。家族が出かけている、邪魔の入らない時間に。
これはわたしの、秘密の楽しみなのです。
*****
さて翌日。
用事をさっさと済ませると、加純さんはコピックを取り出しました。
しかしコピック18本を並べているだけでは、何も始まりません。
そこで、まずは色を確認してみることにしました。
購入した18本のコピックは、店舗に備え付けてあった色見本表を頼りに選んだもの。ですが、実際に紙の上に色を置いた時、それぞれのマーカーがどんな発色をするのか知っておかねばなりません。
そこで一本一本、ケント紙の上に色を出していきます。
――といっても、きっちり塗る作業ではなく、サササッと試し塗り程度ですが。
おや、ここでまた新しい画材の名前が。
「ケント紙」とは、なんぞや?
絵師の皆様には知名度の高い画材ですが、そうでない方には「なんのこと?」かもしれません。
「紙」って文字がついているのですから、「paper」のこと?
そう思われた方、正解です。
絵を描く紙にもいろいろ種類があって、絵の具によって相性などもあり、筆を使い分けるように紙を使い分けたりもするのです。
ケント紙とは、「化学パルプを原料とする純白で硬い上質紙」(三省堂 大辞林より)。
製図やデザイン画によく使用される、硬くてペラペラしていない、表面が平らで滑らかな紙です。(あ、ざっくり過ぎる説明)
表面が強いので、筆がよく滑るという長所があります。インクを吸い込みにくいという難点もありますが、その分色ムラが出来にくいはず。にじみも抑えられるでしょう。
わざと凹凸の大きな紙を使用して下地を生かした色塗りも楽しい(わたしは水彩画でよくこのテを使います)のですが、試し塗りですし、オードソックスに、一番コピックの鮮やかな色の発色を楽しめそうな上質紙でやってみました。(個人の意見です)
ちなみになぜ「ケント紙」というのかと云えば、初めイギリスのケント州で生産されたからだそう。
そんなうんちくはこっちに置いといて。
ケント紙の上に拡がるコピックの色たち。
やっぱり、清水の舞台から飛び降りてよかった!
きれい! 楽しい! 美しい!
しかしマーカーを片手に感動・納得するわたしの姿を見たら、家族はなんと思うでしょう。やっぱりこういうことは、ひとりでこっそりおこなうのが正解かな。
でも、色に感動するのが目的ではありません。
そう、イラスト――! コピックを使ってイラストを描くのが最初の関門なのです。
いざいざ。
そのための準備を始めることにいたしましょう!
* * * * *
加純さんはケント紙の上に試し塗りした色の横に、色番号を振っていきました。
コピックには色番号というものがあります。
これを見れば色と系統や明度が一目でわかるようになっているのですが、とつぜん色番号RV00だのYR31とか言われても、これがどんな色なのか、パッと頭の中に閃くようになるにはかなりの訓練がいることでしょう。
ちなみにRV00はウォーター・リリー色という素敵な名前がついていますが、これでもピンとくる方はまれだと思います。
わかった方は、コピックをかなり使い慣れていらっしゃる上級者の方なのでは。
その名のとおり、「睡蓮」の花の赤紫をイメージした色……と色の由来に説明されていますが、淡色の、どちらかと言えば薄いピンクに近い色といった方が、わかりやすいかも!?
YR31はライト・レディッシュ・イエロー。明るい赤味を帯びた黄色、やさしいオレンジ色です。
ここまで説明すると、頭のアルファベットは色の名前の略(頭文字)だな~って推測できますよね。
RVはRed Violet 、YRはYellow Red 、もっとわかりやすくGならGreen 、BならBlue といった具合で、色相、色の相違を示しています。
次に来る数字たちが色系統を現します。
彩度は色の鮮やかさの度合いなどを示します。彩度が高いとビビットで目を引く色味に、低いと落ち着いた色味になります。
(コピックには特殊な色合いもありますので、一概にそうだとは言えないのですが、ややこしくなるだけなのでそれは割愛します)
最後の数字は明度。読んで字のごとく、色の明るさの度合いを示しています。明度が高いほど、あかるく柔らかい印象に。
なぁ~んて知識はあっても、初心者のわたしには色番号だけでは、欲しい色を引き当てられません。数多のコピックの中から、イメージどおりの色を探し出すのは、かなり難しい問題ですからね。
ですから、色と番号を並べて「色見本表」を作っておくのです。
こうしておけば欲しい色を探すのも、その色番号のコピックを選び出すのも、少しは楽になるというもの。
実はコピックにはとても便利な無料アプリがあって、そこには全色を網羅した色見本表という感涙物の機能もあります。(管理に便利な機能や色を探す機能もあり、コピック使用者の皆様にはオススメです)
新色購入の際など参考にさせていただいておりますが、やはり画像の色と実際のマーカーインクの色は少し違うので、わたしの場合、塗る色の選択には「色見本表」が必要不可欠になってくるのです。
こんなふうに書くと、さぞかし立派な「色見本表」を作成したかに見えますが、実際はこんなもの。
あるイラストを描くために作成した「色見本表」です。
自分が分かればいいという軽い気持ちで作成していますので、皆様には適当に色を並べただけの紙片に見えることでしょうが、わたしにとっては大切な『イラストの設計図』でもあります。
下絵を見ながらここはどの色にしよう、どんなふうに色を重ねよう……とか悩んでいる跡が、おわかりいただけますでしょうか。
(これはあくまでも『わたしの場合』であって、やり方はひとそれぞれです。もっときっちり作成されている方もいらっしゃるので、これが正解だなんて思わないでくださいね)
さて、理屈はこれくらいにいたしましょう。
どんなに理屈をこねたって、実際にイラストを描いてみなければ問題点は分かりませんものね。
という訳で、実技に移ります。
オリジナルのキャラを描いてみようと色を選んできたのですから、まずこのヒロインを描いてみなくてはいけませんよね。
『テスとクリスタ』のテスです。
かなりおっかなびっくり色を塗っています。
ラインはマルチライナー(水性顔料インクペン)、ホワイトは白ポールペン、コピック使用。
新アイテムをどう扱えばいいのか、手探りの状態でした。
色ムラ等は、目を瞑ってください。試作(公表するのはかなりハズカシイ作品!)ですから。
そして、こちらはツイッターにも上げた最近の作品。どうでしょう、上達したかしら?
<ブルーデイジーと赤いハート>
今回のおまけです。
「なろう」で執筆中なおかつ絵師、わたしが勝手に「師匠」とお呼びしているちはやれいめい様にデコパージュのアプリを紹介していただきました。ちはや様には、コピックのアプリの面白い使い方まで教えていただき、お世話になりっぱなしです。この場を借りて、お礼申し上げます。
デコパージュとは、絵を切り抜いてモチーフを作り家具などに張り付けたものが始まりだそうですが、今では写真加工にもこの技術は活かされています。
しかもスマホのアプリで、簡単に出来ます。
そこで描いたイラストを写メで撮ったものを、アプリで加工してみました。
上が加工前、下が加工後。シャーペンで簡単に書いたイラストが、あっという間に雰囲気のあるものに加工されました。
さらに、こんなことも!
いやはや、便利な世の中になったものです。
お名前を上げた、ちはや様のエッセイ「100円ショップの色鉛筆からはじめたアナログイラスト日誌」には、絵師としての成長記録と共に素敵なイラストが満載されております。
水彩絵の具やコピックとはまた違った、色鉛筆の色の世界を楽しめますよ。
意欲的に小説もお書きになられていて、「愛と恋の境界線」「セツカと時の鎖」「ムゲンノチアリス」と素敵な作品がたくさんあります。
ぜひ、こちらも!
次回、加純さんは、さらなる野望に取り掛かろうとします。
ずっと心に秘めていた、やりたかったあること……。
それは――! つづく