57. 加純さん、お蔵入りしたままの廃案を掘り起こす。
「その剣、火と水を操る」
ダイナミックな画面構成に四苦八苦するお話です。
すみません、また前回から期間が空いちゃった。
イラストを描くのをお休みしていたわけではないのです。いや、むしろせっせと描いていたのですが、エッセイを書くのが止まってしまったのですね。
困ったものだ。
さて。
今回は、前回予告した「その剣、火と水を操る」というイラストのお話。構図が二転三転した絵です。どんな風に変化していったのか、順を追ってお楽しみください。
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その前に、頂き物のご紹介です。
さば・ノーブ様から
「女神ティスと天使クリス」
テスクリコンビ、「魔砲少女<ミハル>シリーズ 絆の行方 Kizuna Destination <魔砲少女ミハル最終譚>」にゲスト出演中です。
役柄は女神と天使なのだそうで、ふたりともその扮装ですね。
さば様、いつもありがとうございます。
同じく「テスとクリスタ」から。
腹田 貝様からいただきました。「笑顔のテス」です。
絵師として成長著しい貝様ですが、こちらはシャーペンでのラフなスケッチ風。
かわいい笑顔のテスです。生活の中の、なにげない会話の合間の笑顔みたいで、観る側もホッとする表情ですね。
貝様、ありがとうございました。
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それでは本題に戻りましょう。
最近はデジタル作画の面白さに惹かれて、あれこれとデジタルで描いていましたが、やっぱりアナログ作画が好きなのよ。
「#渚と空のミュージアム」8月展はアナログで制作することに決めました。
ここから? どうやって制作するところから考え始めるの、とお思いの方。そう、ここから始まるのです。
では、どのキャラを描こうか? と云うことになるのですが、4月展が「テスとクリスタ」の3人だったので、8月展は「こんりゅー」のキャラにしようかなぁと漠然と考えていました。
「こんりゅー」こと、「混沌の淵に潜む竜は永久を嗤う」。
もうタイトルからいって、重そう。ええ、ハイファンの重たい話です。(←ああ、言い切っちゃったよ!)
この物語を考え始めた頃は、少女漫画の王道をいく冒険と恋の物語の展開だったのですが、どこで道を間違ったのか、今やドロドロの復讐譚になり果ててしまいました。ヘンですね、どうしてでしょう。あっはっはー(←「おまえのせいだろう!」と主人公から突っ込みが入りそうですが)。
――と、それはあっちに投げ捨てて。
ちなみに、昨年描いた「こんりゅー」のイラスト。
向かって右側の男性キャラが現在の主人公。リューゼ・リ・アビナ。
左側の女の子キャラがヒロイン(!?)のマーミリージュ・ジュリ・ディシス・アルザ・エリオン。
リューゼはまだしも、マーミリージュの本名は資料を見ないと書けない。覚えられない。困った作者です。
背景の「HappyBirthday」は今回は重要ではないので、スルーで。どうしても好奇心を抑えきれない方は「44. 加純さん、積年の想いに一応の決着をつける。」をお読みください。制作過程も掲載されています。
「乾杯!」
しかし今回描きたいのは、メインの男性主人公じゃありません。
以前描きかけてボツになり、そのまま眠っている構図があるの。
上の絵と同じ、「お蔵入りしたままになっていた構図」ですね。そこそこあるのですよ、そうやってお蔵入りしたままの廃案が。
それ、お墓に入る前にもう一度トライしてみようかな? と思い立ったのです。あの時は描けなかったけれど、今なら描けるかもしれないでしょ。
……と云うか。
ホントは4月展にこの絵をもっていきたかったのですが、ど~みても春らしい絵ではないので差し替えたという経緯もあり。だからリベンジのリベンジでもあったのです。
そんなわけで――凍結乾燥保存解凍。
オリジナルの原画は行方知れずになっているのですが、カラーコピーが残っていました。原画が行方不明でコピーは残っている――ってことは、当時から描き直しをする気持ちが満々だったのね~。
あれ。当時って、いつだっけ?(遠い目)
(コピーをスキャンしたので色が飛んでいますが、ご了承ください)
で。以前描いたものは、透明水彩絵の具で途中まで彩色したのですが、中断されたままになっています。う~ん。ここで、気持ちが折れたのでしょう。長~いブランク期間には、こんなことがたくさんありましたから。
さあ、気を取り直して。このコピー画を元に、新たに線画を起こしていきます。
まずは、第一稿。
ヒロインのマーミリージュ(以下、愛称のマーミで!)が物語のカギでもある「災厄の剣」を持っています。その剣の柄に、ロサ王家の守り竜でもある白い竜が二匹まとわりついている――という図です。
以前は赤いマントを羽織らせていましたが、見た目が重たくなるので止めて、ドレス姿に変更しました。装飾品とか、ドレスの模様とか、資料を参考にちまちまと描き進めます。
①
ラフ画がラフ過ぎる、とお思いの方。
てへ。実はラフ過ぎるのではなくて、途中で気が変わって中断しちゃったの。描いている内に、この構図ではパッとしないわと気分が乗らなくなってしまったのですね。
真横からのカメラアングルでは、なんだか物足りない。思い起こせば、以前も同じ理由で制作を中断してしまったような気がします。だから根本的に、加純さんはこの構図が気に入らないのでしょう。
なにかが、絶対、違う……らしい。
前回はここで止まってしまいましたが、今回は先に進みます。(←成長!)
こんな時、どうするのか?
はい、アングルを変えてみます。数年前のわたし、どうしてこんな簡単なことが思いつかなかったのでしょう。
マーミをクローズアップして、上からの鳥瞰図にしてみました。
②
ところがね、これを描いていたらデジャヴに襲われました。
「あれ? どこかで観たことあるよ……」
どこだっけ?
しばらく考えて、答えが出ました。今年の1月にエッセイ用に描き下ろしたイラスト「calling」、これを天地逆にするとほぼ一緒なのよ。
「calling」
ダメだわ~。でも加純さん、このくらいではメゲません。
鳥瞰図がダメなら、アオリがあるさ。と、今度は下から見上げたような構図に描き換えてみます。ついでに、剣にまとわりついていた2匹の竜も飛ばしてみる。
もひとつおまけに、マーミの表情も変えて彼女の個性を出してみる。
③
あ、良くね。
なにげにマーミのポージングも変えています。少し身体を捻って、動きを出してみました。それに伴って、髪の毛も炎と共に天空に巻き上がり、ドレスの裾や帯飾りも水流の流れに沿ってなびいています。
躍動感と迫力が出てきたでしょうか。
ただ画面が窮屈になりました。情報が入りきらないのね。二匹の竜、見切れているよー!?
こんな時はどうするか? 次の手を打ちます。カメラアングルをななめ横から、にしてみるのです。
横、ではなく斜め横。
ここがミソですね。画面はワイド化しつつ、上下もある程度見せることが出来ます。斜めという不安定さが緊張感を感じさせてくれるし、動きも見せることが出来るでしょ。
④
どや!?
もひとつ。この構図の秘密は、渦を巻いていること。
観る方の視線は、強烈な笑顔を浮かべているマーミの表情に注目が集まると共に、そこから外に向かってぐるりと視線が動いていく……はず(←半分期待)。
しかし、渦が時計の反対回りなのね。今にして思えば、反転させて時計回りにした方が安定感が出たかなと思うのですが、絵の雰囲気に合わせると逆回転で良かったよね?
④-2
画面上の構成が渦を巻くことと同時に、もうひとつ小細工を施しました。画面中央の「災厄の剣」ですが、剣身と柄に僅かですがカーブを付けています。
幅広の両刃の大剣なので、本来、刀身はまっすぐの設定。円月刀ではありません。曲がっていたら作画ミスに捉えられそうですが、この方が剣が堂々と見えるような?
次に、この剣は「火と水を操る」ので、炎と水流を描かねばなりません。実は苦手なのよ、四元素は。カタチのないものを描くのは難しい! しかも剣から勢いよく吹き出しているようにしなければならない、と云うオマケが……。
描けませ~ん! そんな難しいもの、描けないって!
再び折れそうな心を叱咤して、参考資料を探すのよ。もうね、それっぽく見えればいいの。完璧は目指さない。ダメだったら、リトライのリトライのリトライをすればいいのだから……。
で、こうなる。
いろいろなモノが「災厄の剣」を中心に、ぐちゃぐちゃに混じり合っていくような感じにしてみました。ほら、この物語のタイトル「混沌の淵に潜む竜は永久を嗤う」ですからね。
混沌……なのよ。
ただ、さ。ペン入れが完了した時点で考えました。
「この絵、誰が彩色するの? こんな面倒な構図の……」
わたし、なのね。
溜め息ついていても誰も代わりに作業してくれようなんて人はいないから、コピックを取り出して、とにかく塗り始める。
手を動かさないと、終わらない。そして、次こそは「もっとあっさりした絵を描くことにしよう!」と心に誓う。
そう、次回こそはラクに終わらせるのよ!!
「その剣、火と水を操る」
とにかく、最終締め切りには間に合わせました。
いつも提出が遅くて申し訳ございません。
次回は善処したいと、(いつも)思っています。がんばる所存でございます!
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最後に、贈呈したFAの紹介を。
長岡更紗様へ。
今年もお誕生日企画に参加したのですが、昨年があれ(↑「乾杯!」)ですからね。
今年もお題に添って、ちょっと凝った構成を考えてみました。
まずは一枚目。
「若い頃に婚約破棄されたけど、不惑の年になってようやく幸せになれそうです。」のユリアーナ嬢。こちらは若かりし頃の肖像。
企画が始まって、早い段階で、先ずこちらのイラストを贈りました。訳あって、横顔の肖像です。
どうせへそ曲がりな加純さんのことだから、「皆様、横顔はあまりお描きにならないから。あえてこのアングルで」なーんて考えたとか、思われました?
残念!
その後、もう一枚。
不惑の年齢になったユリアーナ。
この物語は「不惑の年になってようやく幸せになれた」ユリアーナのお話なのですから、絶対にこちらのお顔を描きたかったのです。
でもただ不惑の年齢の肖像を贈っても面白くないので、若かりし頃と不惑の年齢、2枚合わせて対になるような仕掛けをしてみたかったのです。(つまり、1枚目はおまけ)
さすが、長岡様。ちゃんと気付いてくださいましたよ!
少女時代の横顔は簡単に描けるのですが、不惑の年齢(40歳)は難しいですね。もう少しお姉さんになると、シワを描いたり顔の筋肉をもっと弛ませたりして年齢を出せるのですが、40歳だとそこまで加齢の印を露骨に描き込んでしまう訳にもいかない。
ヘアスタイルやファッションはもちろんのこと。
ゼロコンマ以下の単位で、微妙に鼻から下のを骨格を長くしたり、頬の肉を弛ませたり。身体に貫禄を付けたりして年齢を加算してみました。
……らしく、見えてます??
九藤 朋様の「コトノハ薬局」より。
ことさんと聖さん。シャーペンで描いた落書きです。
わざとざらっとした紙に描いたのですが、撮影時の照明も暗かったらしく、見辛くて申し訳ございません。でもね、これを精製された白い紙でやると、まったく面白味がなくなちゃうのだな。
宮里蒔灯様「脚本家志望の伯爵令嬢は、悪役令嬢好きの第二王子に絶対負けたくない!」より、レイラ様。
こちらはコピックで。
ご令嬢なので、レースや装飾品などで華やかな雰囲気と、脚本家志望という彼女の個性を生かしてペンを持たせてみました。当然、薔薇の花をバック似背負わせることも忘れませんことよ!
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さて、次回は「エムこん」のイラストや、FAなどのご紹介の予定です。
どうか、またお付き合いくださいな!
ご来訪ありがとうございます。
「混沌の淵に潜む竜は永久を嗤う」のんびり連載中です。