56. 加純さん、スイーツを「エモ」く描こうと思う。
今回デジタル作画作品集。
相変わらず迷走しています。
エモい――って、わかります?
なんとな~くは、わかるのですよ。でもね、正確な意味となるときちんと説明できますか?
元々直感的な、漠然とした感情とか気分でしょ。雰囲気とでも。
フィーリング的なことですからね。言葉にするのが難しい。
だから「エモ」いのかもしれませんが。
問題は、その「エモ」をイラストにしろってことですよ。
絵として表現するのですから、センスとスパイスを利かせて「エモ」いを描かなきゃ、絵描きとして面白くないですよね。それ以上に観る方がつまらない。
50音使っても説明できないものを、どうやって納得させればいいのだろう??
困った!!
参加中の企画、天界音楽様主催「#12ヶ月の小品集2022」4月のお題が「エモ」なんです。
こんな時、お世話になるのは〇ーグル先生。
「エモ」とはどんなことなのか、まずは調べてみます。ほら、自分の思い込みと事実が違っていたら、作品の毛色が変わってきちゃうでしょう。
――で。ますます混乱してきたよ。
エモいは、英語の「emotional」を由来とした、「感情が動かされた状態」、「感情が高まって強く訴えかける心の動き」などを意味する日本のスラング(俗語)、および若者言葉である。
感情が揺さぶられた時や、気持ちをストレートに表現できない時、「哀愁を帯びた様」、「趣がある」「グッとくる」などに用いられる。(ウィキペディアより抜粋)
意味は理解できても、これを一枚の絵にするのって、ど~すればいいのでしょう。だって上手く言葉に出来ないから「エモ」いのでしょう。そういう感情って、人によって微妙に違ってきたりするのですもの。
しかしヒントはもらえました。「哀愁を帯びた」「趣きがある」「グッとくる」このあたりで模索してみましょう。
ただ、あまりに正攻法で攻めても芸がないので、ちょっと捻ってみるのは忘れない。(←へそ曲がり)
あちらこちらに思考が彷徨ったあげく、恐らく大多数の方が「グッとくる」であろうスイーツの「趣きがある」、そしてもしかしたら「哀愁」を感じちゃうかも知れない、こんなお品で「エモ」を表現してみました。
「シュークリームじゃなくてエクレアじゃなくてスワンシュー」
ね、「エモ」いでしょう?
いいとこ、突いたでしょう!?
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さて、今回はデジタル作画のイラストをご紹介。
加純さんはアナログ描きを公言していますが、デジタル作画のイラストも描きます。
それこそまだ暗中模索の身ですので、毎回悪戦苦闘なのですが。
出来はそこそこのレベルなので、デジタル作画で制作するときは技術よりアイディア勝負みたいな雰囲気になるのですわ。
だって本気でデジタル作画に取り組んでいらっしゃる絵師様方に対抗して、技術面で「エモ」さに迫るのは、逆立ちしたって太刀打ち出来ないんだもーん。(←アナログでも同様のこと言えるけど、そこはスルーして!)
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そして5月のお題は「空」でした。
今回も構図が降ってこなくてこのままでは不参加かも……というときに、ポコッと浮かびました。
3日前。
どうして3日前。
デジタル作画、なれていないから時間がかかるんだよ。
せめて1週間前ならもう少し余裕があるのに~(涙)と焦りつつ、なんとかカタチにいたしました。
タイトルは「今日の天気は?」
画面下の白猫が天気予報している――な設定です。日付は作品の発表日。
どうしてアイディアがまとまらなかったかと言えば、お題「空」に対してそのまま空を描いても……とう云ういつものへそ曲がり根性が横槍を突きまくってくれたから。他の方たちとカブらないようにとか余計なことまで考えていたら、煮詰まりました。
アイディア的には目新しいものではありませんが、まあ、そのまま空を描くよりはマシかと。へそ曲がり根性、健在。
とにかくギリギリだったので、空の絵が3枚になってしまったのですが、この季節ですから当然「雨」も予測に入れなければおかしいですよね。そこで、
空いていたスペースに「紫陽花と雨」の来る梅雨らしい風景もプラスしてみました。
アナログ作画の時はオール手描きになるのですが、デジタル作画の時はありがたく「素材」というものを利用させていただいております。アナログだってスクリーントーンとか使用するのですから、デジタルでもそれに相当するお道具を使用するのは当然のことですし、時短にもなりますし。
それにプロのマンガ家さんやアシスタントさんが作画した素材とか使用すると、自分の絵が格段にレベルアップしたように見えるから不思議。お道具は使いようが大事よね。
上の「紫陽花と雨」はほぼ素材を利用させていただきました。手早く作画して、追加したかったので。こんな風に上手に素材を利用するのも、デジタル作画の醍醐味だと思うのです。楽しいのよ、好みの素材をみつけるのも。
かといって、毎回加純さん的に「エモ」い素材に行き当たる幸運に巡り会えるとは限らないので、そこは作画もします。観葉植物の素材はたくさんあったのですが、どうしたワケかアンテナにピピッとくるものがなくて。
それなりに上手く描けたと思いません?
ちなみに、お題の「空」は4枚とも自分で描きましたよ。
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知様主催「ビタミンカラー祭」企画に参加したイラストも、デジタル作画でした。
話の流れからいって大方想像がつくと思いますが、ここでも「エモ」を狙ってみました。
今度は、プリン・ア・ラ・モード。
固めの蒸しプリンが中央にどんと構え、フルーツとアイスが盛られて生クリームがそれらを飾る、あの喫茶店の王道メニュー!
どこがビタミンだって?
スイーツは心のビタミンよ! アレを観ただけでグッとくるでしょ。テンション上がるでしょう。
カラメルがたっぷりかかった濃厚なプリン、取り囲むキラキラと輝く美味しそ~なフルーツたち。
描きましょう! 魅惑のプリン・ア・ラ・モード。
――と意気込みは立派なのですが、食べ物を美味しそうに描くのって難しいです。
それはアナログでもデジタルでも一緒。
どう見せたら美味しそうに見えるのか、スワンシューの時もそうでしたが、ずっとそんなことを考えながら色を塗っていました。
ちなみに、以前アナログ(コピック)で描いたシュークリームがこちら。
これまでデジタル作画だと透明水彩や水彩を使って着色していたのですが、スワンシューを描くときにガッシュを使用してシューの焼けて乾いた感じや生クリームの濃厚さを描いてみて上手く雰囲気が出たので、今回もガッシュを使ってみようと。
あ。ガッシュとは絵の具の種類です。不透明水彩絵の具で、その名のとおり画紙に塗った際は下層を覆い隠すように塗ることが出来ます。油絵の具のように、重ね塗りが自由に出来るのですね。
デジタルソフトでも、そんな仕様になっています。
加純さんはアナログだと上手くガッシュ絵の具を使い熟せない(透明水彩絵の具の塗り方のクセが出る)のですが、デジタルならなんとかイケちゃう。アナログで不得手なものも、デジタルならなんとかなったりするのですね。これ、新しい発見。
透明水彩絵の具とはまた別の楽しさがあるので、ガッシュ絵の具も使って描いてみたかったのです。
まずは下描き。
かなりザッと、です。この辺はアナログ作画と変わらない。
作品の要となるプリンから作画スタート。アナログ作画ですと先ず線画を仕上げるのですが、デジタルでそれをやるとレイヤー分けを忘れてしまうので、今回は実験的にパーツ分けしてひとつずつ仕上げていくことにしました。この作品、レイヤー分けを失敗すると、あとで絶対困ることになるのがわかっていたので、ゴチャゴチャにならないようにパーツのレイヤーをきちんとファイル分けしたかったのです。
――と書くとなんとなく察しが付くと思いますが、わたしのデジタル作画の最大の難関は、この「レイヤーをきちんと別ける」のを忘れてしまうことなんですね。
アナログですと、一枚の画面に線や色を重ねて仕上げていくので、順番よりバランスをみて描いていくことを重要視しているのです。
同じことをデジタルで行なおうとすると、「レイヤー分け」という考えが脳に定着していないので、パーツごとに別けるということをケロッと忘れているのね。
気が付いたら、全部同じレイヤーで作業していました……とか。
アナログでも、夢中になると作業に集中しすぎて写メはおろか水分補給も忘れるヒトなので、当然といえば当然なのかも?
失敗談なら、山ほど。
本来ならAレイヤーでやらなければならない作業の一部をBレイヤーでやっていた(←一部だから困るのよ)とか、レイヤーを行ったり来たりして修正していたら、どのレイヤーでどの作業をしたのかわからなくなったり。
レイヤー名を付けておいても、この有り様。だからあとで修正をかけたいときに、どのレイヤーになにがあるのかわからなくなってしまうことが多いのです。
これじゃあ、レイヤーの意味がないっ! デジ絵の利点が発揮されてないじゃん!
ですから、レイヤー分けの練習も兼ねて。
プリンのフォルムを線画で描写(①)。そこにベース色をバケツ塗り(②)、プッ〇ンプリンにも見えませんわ。
影を入れ(③)、上部のカラメルが溶けてプリンの側面をすこ~しだけカラメル色に染めているような感じにして(④)、さらに上面のカラメルに艶を足して(⑤)、一旦プリンは完成とします。
同じ要領で、アイスクリーム(⑥)、生クリーム(⑦)、フルーツ(⑧)と、描き足していき、
お皿の上がととのったら(⑨)、ガラスの器(⑩)、受け皿ランチョンマット(⑪)、背景になるテーブルの木目(⑫)と、画面を埋めていきます。
こんなに詳しく説明できるのは、もちろんファイル分けがきちんと出来たから。こういう利点もあるのね! アナログ作画だったら、この辺は一気に描いちゃうから、「例によって例のごとく……」となるのところですわ。
左上の飲み物(⑬)はオレンジジュース。「スワンシュー」はコーヒーでしたが、この絵は「ビタミンカラー祭」に出品するものなので、ビタミンカラーのオレンジジュースで。
あら、レモンスカッシュでも良かったのじゃないかって? それを言うのならメロンクリームソーダでも良かったのですが、全体のイメージカラーを「オレンジ」にしたかったので、オレンジジュースをチョイス。
コップの底の部分しか映っていないので、レモンスカッシュだと中身がわかりづらそうだし、メロンクリームソーダ(明るいグリーン)だとそちらに視線が誘われてしまいそう。
メインは手前のプリン・ア・ラ・モードなので、それは一番困りますよね。
冷たいジュースを入れたグラスの水滴や、垂れた水滴がテーブルを濡らしているところとかを仕上げてから、最後にハイライトを入れます。
アイスクリームやフルーツの光が当たっている部分とか、白色を入れて艶を出していくのですが、ここでようやくデジタルでは魔法が使えることを思い出しました。脳がアナログなので、すぐには思い当たらないのね。
デジタル絵師の皆様が作画工程を説明するとき、よく乗算とかオーバーレイとか仰いますよね。よくわからないけど。なんでも「効果」を上げることが出来るらしいのですわ。
つい最近まで、これを実行するにはどうすればいいのかわからなかったのですが、「合成モード」という欄をクリックしたらズラズラッと出て来るのですねぇ。すごい。(←このレベルである)
使い方を調べまして、今回、アイスクリームとフルーツのつや出しに使ってみました。(⑭)てきめんな効果があったかどうかは、ご覧になった方の評価にお任せ致しますが、いつもより照りが良くなったような気がする加純さんです。
ダメ押しみたいに遠景にオレンジ色をも少し足して画面を落ち着かせ、キャンバスに紙の質感をプラス。
こうして完成、「魅惑のプリン・ア・ラ・モード」。
もうひとつ。バージョン違いの一枚。企画提出作品はハーブでしたが、こちらはちょっと変えてアゲラタムで。
紫色はビタミンカラーではないですが、こちらの配色の方がわたし好みの「エモ」かも知れません。
どちらも美味しそうに出来たと思いますが、いかがなものでしょう。
この絵の制作中、ずっとプリンが食べたくて仕方ありませんでした。
完成後、万感の思いを込めて食しました。
大好きな固めの蒸しプリン。
次回は『その剣、火と水を操る』かな?