5. 加純さん、順調に色選びを続けるも更なる選択を迫られる。
「テス」の配色の続きから。
色選びはもう少し難航します。
テスの瞳の色は、ライトブルーの設定です。
空色のような淡い青色のイメージ。うんと淡い青色、そこに薄く雲のかかったような青空の色とスモーキーな青を重ねて、瞳の色に深みを作ってみましょう。
ちょっとめまいで脳内はクラクラ回っているけど、イマジネーションの方は活発化してきました。
この調子です。手にした10本のコピックを握りしめ、加純さんは頑張ります。
さいわい店員のおねえさんは、他のお客様の接客で忙しそう。多少危なっかしいおばさんがひとり、商品の棚の前でウンウン唸っていても、見て見ぬふりはしてくれるでしょう。
さあ、次はもうひとりのヒロイン、クリスタ(前出のラフ画左側)の色選びをしてみましょう。
彼女はテスと同じ18歳の女の子ですが、黒人系と云う設定。褐色の肌色なのです。
――さて、ここからが思案どころ。
彼女が褐色の肌色の持ち主だという設定だとしても、彩色をするのに、そのままコーヒーに似た濃い茶色を塗ってしまうという訳にはいきません。
なぜか?
それはメインヒロインであるテスとのバランスがあるからです。
一枚の絵を、それも画面にストーリー性を持たせたいときに大切なこと。
構図。コンポジション。
色を塗るという以前に、画面(紙上)にどのように物体を配置すべきかと云う画面の構成は、大きな問題でもありセンスを問われるところでもあります。
彼女たちの場合、『テスとクリスタ』というタイトルからして、ふたりが同じ画面に登場することが必然的に多くなります。けれどここでメインとサブの格の違いを、一見して表現しなければならないのです。
小説や漫画を読むとき、たいていの場合、読者は主人公の視点でストーリーを追っていきます。主人公の思考や行動を追うことで、物語の世界に入り込んでいくのです。
だから誰に、どこに、視点を合わせるべきなのか、きちんと示さねばならなりません。
これは絵画もいっしょ。人物画に限らず、風景画でも、静物画でも、どこにピントを定めるべきなのか、画家はきちんとメッセージを伝えているはずです。
例えば、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」。
有名な作品ですから、どこかでお目にしておられるでしょう。ピンと来ない方は、ググってみてください。「ダ・ヴィンチ・コード」の題材にもなった、あの画です。
画面は新約聖書の一場面、イエスと12人の弟子が晩餐をとっています。
ヨハネによる福音書13章21節よりイエスが「弟子の中のひとりが私を裏切る」と予言するシーンです。
この画、まず中央のイエスに視線が吸い寄せられますよね。それから師の言葉に動揺した12人の弟子たちの表情を見比べていく。
いきなり大皿に盛られた魚料理に目が向くことは、まずないでしょう。
画面には13人の人物が並び、食卓の上には料理の盛られた大皿や取り皿、ワインのグラスにパンに果実といろいろなものが置かれています。さらに背後には外の明るい景色が見えます。
にもかかわらず、視線は最初にイエスに導かれていく。そこにはメインであるイエスに注目が集まるよう、レオナルド先生の苦心が隠されているからです。
名画に限ったことではありません。漫画のタイトルページや映画のポスターなどをご覧になった時、そこに数人のキャラクターが存在したとしても、メイン(主人公)は一目でわかるでしょう。
一番目立っているはずです。
そこに見る者の視点が流れていくはずです。
――これです、これなのです!
主人公は、おのずと目を引かねばならないのです!
サブよりメインを目立たせる技術はいろいろありますが、配色もそのひとつ。
そんな理由で、テスの色使いを考慮しながら、クリスタの配色を計算していきます。
ですが――。
このふたりのヒロインを並べて描くと、なぜかサブの方が目立ってしまうのです。なにせビジュアルが、「ベビーフェイスで見た目は普通の女子大生」と「トップモデルの長身な美女」なのですから、どうしたって後者の方に目が行きがち。
「弱メンタル」と「おとこまえ女子」って性格設定も、テスには不利すぎるッ!
作画する時に、立ち位置やポージング、小道具、さらに色の配分等々で工夫をするのですが、うっかりするとクリスタの方が目立って前面に出てきてしまうことも……。
もうひとつ、わたしが褐色でベタッと塗りたくないのは、アニメ塗りを避けるため。どれだけ色合いを工夫しても、塗り方ひとつですべてのバランスが狂ってしまうこともあるんです。
アニメ塗りとは、アニメのセル画のように、きっちりとした線画とぼかし処理をしないはっきりとした塗り分けが特徴の塗り方のことです。
それもひとつのやり方なのですが、少女マンガ調のわたしの絵のタッチでは、色の塗り分けが強烈に感じられて多少の違和感が否めません。
<テスとクリスタ アニメ塗り風>
絵柄も多少アニメ風にしてみました。コピック使用。
水彩画でも、コピックでも、重厚感のある色を塗るときは注意が必要なのです。淡い色は塗り重ねていけば濃い色目になりますが、濃い色を最初からペタリと塗ってしまうとその色だけ重く沈んでしまう。しかも修正が上手く効かないということがよくあるからです。
だからクリスタの配色はかなり慎重に選びました。
選び方はテス同様、「優しい色合い」で「メイクをするように」がキーワード。
大切なのはバランス。
肌の下地は薄い灰黄赤色。そこに影で少し赤みの差した金茶色と薄い赤茶色をグラデーション。
赤味として、あずき色とライトオレンジ色を指すなんてどうでしょうか?
髪は淡い赤味がかった茶色。ここに紫を帯びた赤茶色で影を付ける。
――こんなカンジ!?
正解は、実際にイラストを起こしてみないとわかりません。色は置いてみないと、バランスなんてわからないのです。
イラストの構図によっても、色選びは変わってきますからね。
半分、賭けみたいなものですね、色の選択なんて。
<テスとクリスタ~あけましてのごあいさつver.>
かっぽうに上げたイラスト。縮小したら、色が沈んでしまいました。
スキャンすれば色が飛ぶし……(泣)
透明水彩絵の具。マスキングテープ。
* * * * *
ところで、ここまでチョイスしてきたコピックは淡い色ばかりということにお気づきでしょうか?
原色は買わないの?
はい、(今回は)買いません。
これまでおまけで過去に描いた水彩画を掲載させていただきましたが、ご覧になっていただければ分かるとおり、わたしが好んで使う色合いは、グレーがかった色や淡い中間色が多いのです。
あえてそうしているわけではないのですが、描きあがった画を見てみると、そんな感じになっているのです。
要するに、そういった色使いが好きなのでしょう。これはわたしのイラストにおける大切な「個性」なので、変更する気は無いのですが――。
ただし、この配色、あまりインスタ映えはしません。
柔らかな感じにはなるのですが、インパクトには欠けるような……。
けれども今回の最終目標(!?)は、ツイッターにイラストをUPすること。となれば、「インスタ映え」というのは大切な要素。
かといって、今から路線変更!? それもどうかと……。
いや待て。マーカーの発色は透明水彩絵の具より鮮明なのですから、その地点で(自分の画力は棚に上げ)すでにある程度は映えるだろう……の胸算用が。現にツイッターに画をUPしておいでの絵師様たちのイラストを見ても、艶やか。鮮やか。美しい。
そこはコピックの底力に頼っても、大丈夫よね!?
(……というより、それが本願!?)
色の選択は、これでいいのかしら??
(う~ん、わからんッ!)
悩みは増える一方です。
いやいや、そんなことつらつら悩むより、そろそろ体力が……!
夢中になって忘れかけていましたが、わたし、ただ今めまい発動中!
無事におうちに帰り着くまでが、楽しいお買い物、です。
仕方ありません。
ここは一端、帰宅することにしましょう。まずはこのラインナップで、イラストを描いてみるのです。
悩んでいてもはじまりません。マーカー初心者のわたしには、コピックの色を使用した自作のイラストがどんな感じになるのかなんて予測できないのですもの。
それよりなにより、早く新しいアイテムの描きごこちなるものを試してみたいという、逸る心がワクワクと。
加純さんはそそくさと会計を済ませ、雄々しく家路を急ぐのでした。
今回のおまけ。
前々回までおまけのコーナーにレギュラー登場していたマーミリージュのペット、黄金竜です。
名前はエルゴ。
実は、この絵は「部分」です。実際はB4サイズのイラストボードに制作されました。
エルゴの後方にはマーミやリューゼも描きこまれているのですが、悲しい事故がありまして、お見せできる状態ではなくなってしまいました。ず~っとお蔵入りになっていたのですが、エルゴがかわいいのでそこだけUPして公開です。
<黄金竜エルゴ>
アナログ画。透明水彩絵の具を使用。
いよいよコピックでの色塗りが始まりました。
あいだに挟んだ2枚のイラスト。
コピックの色と透明水彩絵の具の色、デジタル処理をした時の色の違いがおわかりになりましたでしょうか?
次回は、「新アイテムにいかにして慣れるか?」がテーマ……の予定。
それより心配なのは、過去画(水彩画)のストックがそろそろ底をつきそうなこと。
ブランク長いし、実家に残した過去画は処分されちゃったし、理由あってまだお見せできない作品の方が多いし。
新作を描かねばならないということ?