4. 加純さん、コピックの長所に感心するも色の選択に悩む。
なんとか4話目に到達しました。
3月のある日。
加純さんはお財布にクーポン券とへそくりを忍ばせ、画材店へと向かいました。
待ちに待ったこの日。
いよいよコピックの購入です。
そのコピックですが、ご存じない方のために、もう少し補足説明を。
「コピック」は、アルコール性インクマーカーという画材です。正確には、トゥーマーカープロダクツ社が開発・発売しているインクマーカーシリーズの名称で、「コピック」と云うのは商品名です。
コピックはプロから私のようなアマチュアまで、いろいろなニーズの対応できるよう、用途に合わせて数種類のシリーズがあります。
そのうち絵師様たちが主に活用しているのは、使いやすい「スケッチ」と「チャオ」のシリーズ。
とはいえ、数あるマーカーの中で、なぜ多くの絵師様たちが『コピック』に固執するのでしょう?
その答えはコピックの最大の特色である、このユニークな形状にあるのではないでしょうか。
ペンの両端に着いたキャップを外すと、ニブと呼ばれる異なった形状のペン先が現れます。一方はミディアムブロードと呼ばれる硬いペン先、もう一方はスーパーブラシと呼ばれる筆のような柔らかいペン先。
これが他のマーカーでは表現しにくい塗り方を可能にしてくれるのです。
それから発色の良さでしょうか。これは「色を塗る」という事において、なにより重要なことです。絵師は、きれいな色が大好物ですもの。(個人の感想)
しかも、「混色」や「ぼかし」まで出来てしまう!?
マーカーなのに!
水彩絵の具のような軽い塗り心地で、手早く綺麗に、多種多様な彩色テクニックを実現できる。そんな便利さを味わってしまったらコピックの虜になりそうです。
だって――筆洗いの水を用意しなくていいのは、ラクですもの。
さらに、アルコール系なので揮発性が高く乾燥が早い。
水彩絵の具は、水で溶いて使用するで、どうしても紙に水分が残ります。
乾いていない絵の具の上にまた絵の具を乗せると、色はにじんでしまいますよね。効果として「にじみ」を作ろうというのであればよいのですが、たいていは絵の具が微妙に混じりあい、色合いのバランスが崩れた「残念な」見た目になる確率の方が高いのです。
それを防ぐために、ドライヤーの熱を当てて素早く乾燥させ色を定着させる、という奥の手もあるのですが、コピックはその必要がありません。
すぐにインクは乾いてしまいますからね。手も汚れません。
同時に「紙の水張り」の手間も省けますから、さらにラク。
水彩絵の具で彩色する場合、色を塗り始める前に、使用する紙に一度水を吸わせ乾かすというひと手間を掛けます。それが「水張り」。
紙は水を吸うと繊維が伸びます。スケッチブックなどに水彩絵の具で絵を描いたら、紙がボコボコに歪んでしまった経験、ありませんか?
これを防ぐために、あらかじめ水を含ませて、紙を伸ばしておくのです。
本格的な水張りはとっても手間がかかるので、面倒くさがり屋のわたしは手抜きな水張りしかしません。それでも乾かす時間が必要ですから、そのあいだにモチベーションが下がってしまうことも……。
モチベーションを復活させるのがどれほど大変なのかは、文士さまも絵師も同様でございます。
話を戻しましょう。
なんといっても、色数の多さ。これは、すばらしいです。
コピックスケッチシリーズは358色、チャオシリーズは180色。原色から、微妙な違いの中間色まで。なんて豊富なラインナップでしょう。
類似品も出回っていますが、この色数の多さは、他の追随を許していません(……よね、使用者の皆様!?)。
イラストを彩色していて「この色が欲しい!」と思ったとき、コピックならキャップを外せば、すぐに求める色を塗ることが出来るのです。
パレットの上で色を探したり、作り出す手間が省けます。
もう少し言わせていただければ。
「絵師あるある」の定番、どういう手順と分量で絵の具をブレンドしたのか忘れてしまい、もう二度と同じ色を作り出すことが出来ない……(涙)とかいう深~い絶望から解放されることでしょう。
最後に――。ここは重要です。赤線引きたいくらい。
アルコール性インクマーカーであるにもかかわらず、匂いが気にならない!
わたしはアルコールインクの匂いで気分が悪くなるタイプなので、長らくマーカーで彩色という事に手を出さなかったのは、ここにも一因があるのでした。
う~~~~ん。
やっぱり、コピックって、とっても便利な画材です。
*****
さあ――。
無事画材店に到着した、加純さん。もちろん店内は、商品20パーセントオフ。一部除外品もありますが、予想どおりコピックはその枠外で割引対象商品。
ホッと、胸をなでおろし――だって、ここまで来てオフ除外品なんて言われたら悲しいではありませんか!――陳列棚の前へと、胸躍らせながら急ぎます。
ところが憧れのコピックの前で、ため息をつくことになってしまいました。
事前に予習して、買いたい色を選別してきたにもかかわらず、何色を選んでよいのか分からなくなってしまったのです。
だって、コピック数百色のマーカーが目の前に並ぶのですよ! 美しい色のグラデーション。目移りもしようと言うもの。うっとりとする眺めですが、熱心に見つめすぎたせいなのか、老眼と眼精疲労が重なってのギブアップなのか目がチカチカしてきました。
しかも、めまいまで。立ちくらみ……。
ヤバい!!
これ以上のんびり迷ってなどいられません。さっさと選ばねば!
1本目は、薄め液用途も兼ねる溶液。
予算の関係でリーズナブルなチャオシリーズで揃えることに決めていましたが、カラーレスブレンダーという溶液だけは、インク量の多いスケッチシリーズの方で求めることに。
これは水彩絵の具を溶く「水」や、油絵の具における「画溶液」みたいなもので、染料が配合されていないアルコールだけのマーカーです。
無色ですが、ぼかしや色抜きなど、他のマーカーとの合わせ技でいろいろの表現に利用できます。
彩色の際、下塗りして色ムラ防止にも使えるという事ですから、これはなにがなんでも揃えておかねばなりませんね。
次に、肌色に使える色を。
わたしが描きたいイラストは、主に人物です。まずは、オリジナルのキャラクターたちを絵に起こしてみたい。そんな思いがありました。
ですからそこに使える色が無いと、お話にならないのです。
メーカーが薦めるセットの購入も検討したのですが、わたしの希望と予算の折り合いがつきませんでした。仕方ありません。多少割高になりますが、ここは描きたいもの(キャラ)を先に決め、欲しい(塗りたい)色から揃えていこうと「バラ買い」をすることに。
予算には限りがあります。喉から手が出そうでも、無理を押し通すことは出来ません。それに、また少しずつやりくりして、費用はひねり出せばよいのです。
主婦たるもの、それは「得意技」ではありませんか。
優先順位を決めてチョイス――は、こんなふうに、事情と都合を折半した苦肉の策でもあるのでした。
さて、話を戻しましょう。
人物像を彩色するときに重要なこと、ひとつ目は肌の色合いです。人種や性別、年齢によっても、微妙に変わってきます。人外キャラとなればなおさらのことですが、ここはヒト型キャラ、拙作の「テスとクリスタ」から、ヒロインふたりをモデルにチョイス――ということにします。
最初に人物の肌の色を決め、その下地になる色と、絵に立体感を付けるための影色を2色ほど選ぶことにしました。
この3色をグラデーションして、立体的な肌合いを構成しようと考えたのです。
女性の方でしたら、化粧をする要領で……と思えば理解しやすいかも。
ラフ画ですみません。
それでは、メインヒロインのテス(上の画面右側)から。彼女は白人系の18歳の女の子です。
全般的に女性キャラは、優しい色合いの組み合わせがお約束。
テスは本編ではトラブってかなりお疲れの様子ですが、本来は健康的な女の子。明るい色合いが好いでしょう。
彩色する場合、淡い色から濃い色へと塗っていくのが上手にグラデーションを作るコツです。ですからマーカーを選ぶときも、淡い色からコントラストを考慮しつつ濃い目の色を探していくことにしました。
下地。
ここが基準となりますから、必死です。疲れた目を無理矢理こじ開けて、並ぶコピックのなかからアース系の中でもうんと淡いグレーに近いベージュ色を選び出しました。
影の1つ目は、とても薄いベージュ色。先に選んだベージュ色より黄色味がかった色です。2つ目は同じベージュ色でも少しだけオレンジ寄りの色を選択しました。
同じアースカラーのベージュ色と云っても、ニュアンスが微妙に違うので、組み合わせによっていろいろな表現が出来るはずです。
女の子ですから、頬に赤味も欲しいでしょう。チークとして、淡いサーモンピンク色。リップカラーは、前出のサーモンピンク色とわずかに紫を落としたような桜色の重ね塗りで工夫してみましょう。
髪の色、プラチナブロンドの設定ですから淡い黄色で。濃度が微妙に違う柔らかなレモンイエロー色を2色と薄黄色、このあたりでどうかしら?
だんだん調子が出てきました。
今回のおまけ。
某乙ゲーのキャラです。
この絵をお見せしたあるビジュアルノベル作家様から、「口元がそこはかとなくいやらしい」という感想をいただき、思わずガッツポーズを取ってしまった加純さんでした。
美しい言葉ですが、難しいのですよ、「そこはかとなく」って。
彼はクールなジェントルマンなのですが、乙ゲーのキャラなので、当然「肉食系」。それを目線と口元で表現できないかと、ミリ単位で試行錯誤した作品です。
<Ewan>
アナログ画。透明水彩絵の具を使用。
水彩画は手間がかかりますが、決して嫌いじゃありません!
コピックにはコピックの、水彩画には水彩画の色があって、それは決してほかの画材には譲れないものがあるからです。
それって、全ての創作にいえることだと思いますけど。