39. 加純さん、拡大鏡を購入する。
眼が疲れるんです。
年齢に伴う視力の低下と酷使で、そりゃあ眼精疲労も蓄積されますわ。どどーんと押し寄せてくる老化の荒波は、どうにも避けることが出来ないようです。
読書も文章の執筆もPCの画面とにらめっこ、その上お絵描きまでデジタル仕様となれば、眼球にしてみれば、これはもう拷問に近いモノがあるのでしょう。
そのせいでしょうか。昨年頃から、より一層細かいものが見え辛くなりました。PCの画面は拡大すれば小さな文字も読めますが、問題はお絵描きの方なのね。
アナログ絵を描いているとき、細部が霞んでしまい、とっても見辛いの。丸ペンの先がもや~っとしてきちゃう。
だからデジタル作画に手を出したんでしょ! と云われればそうなんですけど、わたしはアナログ絵を描きたいんですよね。デジ絵も描きたいけど、アナログ絵を描きたいんです。
このエッセイをお読みになっている方は、たぶんご存じのことと思われますが、わたしが描くイラストは、それなりに細かい描き込みをするのです。
もちろん世の中には、わたしごときなどまだまだ足下にも及べないほど、丁寧で手の込んだ細密画を描かれる絵師様方もたくさんおられます。が、加純さんもそこそこ細かい絵を描くんですね。
いえ。元が大雑把な性格なので、細密画だとか植物画的な作品は無理ですが、ちょこちょこ描き込む作業は好きなのです。(←矛盾していますけど)
だから細かい箇所が見え辛いのでは、どうにも困ってしまう……。
そこで思いついたのが、拡大鏡。手元を見易くしてくれる道具があれば、助かるではありませんか。
拡大鏡といって先ず思いつくのは、金魚すくいの金魚をすくう道具(ポイと云います)のような形状をした、虫眼鏡でしょうか。
しかし虫眼鏡タイプのものでは片手が塞がってしまうので、NG。
お絵描きするときって、以外と利き腕でない方の手も働いているのですよ。なので左手が塞がってしまうのは、非常に困るのです。
次にデスク置き型のスタンドルーペなるものを探したのですが、これもスタンドの足が邪魔になりそうだと却下。
このタイプなら自立してくれるので、両手が空きます。事実、説明書には読書やお裁縫など、細かい作業に便利……とありました。でもね、絵を描いているときって、意外と視線が動いているんです。
ルーペの大きさにもよるのでしょうが、拡大される範囲から視線が外れたら、その都度原稿用紙を動かしたり、資料を動かしたりしなければなりませんよね。はがきサイズの用紙なら位置を少し滑らす程度で済みますが、A4(210×297)以上のサイズともなれば、位置や角度を変える度にスタンドの足に引っかけないように注意して動かさなければなりません。資料もペーパー1枚ならさほど苦にもなりませんが、図鑑とか雑誌とかになると……。
これ、意外と手間ではありませんか。
お絵描きに縁の無い方は、わたしがなにを言っているのか分からないかもしれませんね。けれどもたまにおいでなのです、「絵を描く」というと油絵から水彩画や墨絵にマンガまで、な~んでも描けると思っていらっしゃる方が。
無理ですってば。全部描き方が違うんです! 例えが突飛ですが、(回転しない)お寿司屋さんのカウンター席に座って、つけ場の板前さんに「ピッツァ・マルゲリータを頼む」と注文するようなものですからね。
おまけにそういう方って、絵画とは描き方はすべて同じ様に――で、映画やドキュメンタリーの再現VTRで観た昔の巨匠の様に、イーゼルのキャンバスへパレット片手に筆でチョンチョンと絵の具を塗っている……とか本気で思っていたりするんです。
違うから。種類が違えば、当然手法も違うんですから。「板前さんにピッツアは無理でしょう」は理解できるのに、同じようなことを絵描きに適用してくれないのはなぜなの?(←実話)
「ピーマン君」 コピック使用
あ、話を戻しますね。
油彩画などはイーゼルにキャンバスを立てかけ、そこに絵の具を置いて(塗って)いきます。たまに立ち上がってキャンバスから離れ、全体のバランスを観たりしますよね。同じように絵のバランスを確認するために、イラスト描きは用紙を離したり、回転させたり、ひっくり返して裏から眺めたりするのです。
これはデジタルでもアナログでもやります。デジタルだとクリックで画面が指示通り動いてくれますが、アナログだと手動という違いだけ。どちらにしても、描き手はキャンバスや原稿用紙を固定したまま描き込んでいる――のではありません。ペン入れの際など、自分の描きやすい角度に用紙を動かすのは当たり前の行為です。
わたしも原稿用紙を上下左右に動かすので、スタンドタイプだと不便が生じるなぁと思ったのでした。
こうなると、やはり眼鏡タイプでしょうか。
今は、よい拡大鏡(眼鏡タイプ)もたくさんありますからね。いろいろ検討した結果、リーディンググラスの上から掛けられる拡大鏡という品を見つけました。これだと視力を矯正しつつ、手元を拡大してくれるのです。
なにせ加純さん、ガチャ眼(不同視)なので、矯正無しだとデスクワークは辛いの。片方だけ極端に視力が悪いので、眼にものすごい負担がかかっているそう。これも肩凝りや偏頭痛の要因になっているらしい。(←なのに趣味が読書やお絵描きという……)
購入したグラスはツルの長さが20センチほどもあり、リーディンググラスを描けた上から鼻眼鏡のように乗せます。とっても軽量なので、お鼻の負担にはなりません。
とはいえ、慣れるまでは「うぅ、大丈夫かしら?」と不安でしたが、2~3日もしたらその便利さの虜になりました。なにせ、手元1.6倍(……過ぎても負担)に拡大されたんですよ。今まで曖昧になっていた部分が、はっきり見えるではありませんか~~!!
しかも拡大鏡のグラスは跳ね上げる事も出来るので、手元以外を観るときにいちいち外さなくてOK! さらに20センチの長いツルの先端には小型マグネット内蔵で、移動の際は外したグラスのツルの両端をつなげて首からペンダントのように提げ、移動先で再びかけ直すことも簡単。(拡大鏡を掛けたままの移動は危険なので止めましょう)
眼鏡って、付けたり外したりしていると、どこに置いたのか忘れてしまいますものね。(←ボケたとか言わないで! 自覚しているから)
もう、至れり尽くせりではありませんか。ちょっと値は張りましたが、これならお値段以上の価値があるでしょう。よい買い物をしました。(←自己満足)
で、早速お絵描きに重宝しておりますわ!
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またまたツイッターの企画で、おふたりの絵師様にイラストを描いていただきました。
1枚目。
安藤ゆい様にテスを描いていただきました。
ふわっふわな、タンポポの綿毛みたいなテスです。くるんくるんの髪の毛と春らしい軽やかなファッション。無邪気な笑顔と飾らない仕草は、いかにもテスらしいですよね。
2枚目は、ハンサム女子のクリスタ。
こちらは一条かむ様。
ジッと見つめる深緑色の瞳に捕らわれそうです。こちらは初夏の風を感じさせてくれるよう。アクセやネイル、モデルらしくバランスの良いクールなお洒落に拍手を送りたくなりました。
安藤様、一条様、本当にありがとうございました。大切にいたします。
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さて。
前回から2カ月間。小説もエッセイも書かずなにをしていたのかと言えば、腕の具合と相談しながらイラストも描いていましたが、マンガ制作に夢中になっていました。
描いているのは「テスクリ」オールスター出演のパロディ劇場。
自分で自分の作品をコミカライズするのが夢ですが、いきなり本編を描くのは難しいので、まずは短編から。(←姑息)
だってSF的舞台を絵で表現するの難しい(←センスが無い!)から、それじゃ小説で書いてみよう! って小説書き始めたヒトですからね。加純さんは。
どっちにしても、センス無いわ~って思い知らされたけどさぁ。ふん!
いいんだ。千里の道も一歩からで、短編マンガを描きながら、マンガの描き方のお勉強をするんだから! というわけで、以前描いたイラストから発想を得た、千夜一夜物語のパロディ版を描いています。
「テペつき」を書いていたから、千夜一夜物語風の資料は手元に幾つかストックがあります。資料探しの手間は少し省けますでしょ。
べつにアラベスク模様を描きたかったからとか、コスチュームものを描きたかったからとか、そういうつもりはないですよ。
それに、このストーリーがポンと頭の中に浮かんじゃったから、描かなきゃどうしようもなくなっただけなんだってば!
下書きペン入れまでアナログで、最後の仕上げだけはデジタルです。というか、デジタルで処理しないと「みてみん」にアップできないので。
だから「アナログ絵描きの意地、みせたるわ~!」ってことではなく、普段アナログ描きなので、ペン入れまで手描きの方が自分の中でしっくりくるの。
面倒臭いですが、線画がしっくり来なかったら、作品は永久に仕上がらないよ。きっと。PCの画面とにらめっこしながら、終わることのない「描き直し」をループすることになるのだろうと思うもの。
いつかスマートにデジタル作画出来ることを夢見て、今日も丸ペンで頑張るのよ。
冒頭2ページ、こんな感じで始まります。
配役は、テス=シャハリヤール王。クリスタ=大臣(シャハラザードの父)。
シャハラザードは……。
短いお話なのでなんとか仕上げたいです。
年始めに腱鞘炎で泣いていたわたしが、3ヶ月後にはン十年ぶりにマンガ描くことになっていようとは、まさかのまさか、考えてもみなかったわ!!
でもね。イラストだと背景ってごまかしが利くのですが、マンガだと描くべきところはしっかり描き込まないと信憑性がなくなっちゃうの。
わたしはパースが不得手で建物などを描くのがものすご~くニガテなのですが、そんなことを言っていられなくなってしましました。マンガ描きながら、パースの勉強しているような気分ですよ。
しかし必要に迫られているので、これまでのんびりと「描ければいいなぁ」なんて回避していたものを積極的に描くようになりました。描き始めると下手ながら描くのが面白くなり、わたしのマンガは結構「引き」の構図も多目になりました。
けれども、未だにアイレベル(目線)のラインの引き方が分かりません。パース定規をもっているにもかかわらず、スケールで適当に線を引いてフリーハンドで描いてしまういい加減人間です。
だからパース的観点から見ればわたしの絵はとんでもなくガッタガタなのでしょうが、マンガの背景なのでそこは「誇張」という文字に置き換えて観ていただければいいかな~と。(←こら!)
いつかきっちり描ける日が来ればいいよ、ね?
そうそう。
拡大鏡は漫画描きにも大活躍中ですよ~。
白状いたしますと、39話は次回の40話「加純さん、ケーキスタンドを描く。」の前振り話だったのでした。ところが書き上がったら8000文字近いボリュームになってしまったので「これはいくらなんでも……」と思い、拡大鏡のお話に後半はマンガ制作のお話を入れて再編成したものです。
マンガ制作の進行具合ですが、企画用のイラストの作成が途中に入ったり、梅雨の体調不安定期に入ってしまったりで、ただいま停滞中。ぼちぼちと描いていきますので、完成は気長にお待ちいただけると幸いです。
それでは次回はケーキスタンドのお話。……じゃないよ、ケーキスタンドも描いたイラストの構図をどうやって考えたかというお話。懲りずにお付き合いいただければ幸いです。
それでは、また。