34. 加純さん、イラストを交換する。(2020 しっかり部門編)
長岡更紗様主催『第二回イラスト交換企画』しっかり部門参加作品の制作ウラ話。
天界音楽様の『美少女魔本は旅がしたい!』のユリウス王子、登場です。制作中のBGMの話と共に、七転八倒の制作風景をご覧ください。
いきなりですが、絵師の皆様はお絵描きしているとき、BGMって流します?
その頃、加純さんは別の企画(前回参照)に参加しつつ、長岡更紗様主催イラスト交換企画のキャラのラフ画も模索していました。
といいますか。
しっかり部門とガッチリ部門の2作品、同時にラフ画と構図を考えていました。
時はすでに10月末、交換企画の締め切りまであと約1ヶ月。一作品につき2週間の制作期間があるとは云え、なにかの拍子につまずいて手が止まってしまったら、締め切りに間に合わない可能性が生まれてくるからです。
なにせ、ほら。加純さん、自他共に認める「遅筆」なのです。
しっかり部門とガッチリ部門はカラー作品を描きたいと思っているので、なおさら時間が欲しい。だからどちらの作品もアイディアが浮かんできたのならば、少しでも作業を進めておきたいと考えていたのでした。
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――で。冒頭の続きですが。
加純さんはBGMを流す派です。スマホの音楽アプリに好きな曲をセレクトしてありまして、それをランダムに流しています。邦楽洋楽関係なく、ハードロックからアニソンまで幅広く。アーティストも様々。
バラード系やジャズアレンジの曲もありますが、大半はアップテンポの曲。
点描とか、細かい作業をするときは曲のリズムに合わせて手を動かしていることもあるので、アップテンポの曲の方が都合が良いのですよ。曲の勢いに背中を押される、とでも申しましょうか。
でも、たまに1曲をヘビロテで流しているときもあります。そのイラストが描き終わるまでエンドレス再生。
それって、どんなとき?
例えば制作中のキャラやイラスト、小説のイメージに合った曲に出合うと、自分の中で勝手にその作品のテーマ曲にしちゃうのです。
なにを隠そう、テスやクリスタにも「勝手にテーマ曲」が何曲かあります。
あ、もちろん。曲の査定は加純さん基準。自分の中で、ピンと来るものがあれば良いのです。
だって著名なアーティスト様がわたしの作品のために曲を作ってくれるなんて幸運には恵まれそうもないから、既成の曲を借用してテーマ曲をねつ造してしまえ! と云う訳ね。
そしてさらなるインスピレーションの素にするのです。
だからBGMはどんな曲でもいい訳じゃないんですよね。どれ程の有名アーティストであろうと、誰もが知る神曲であろうと、波長が合わなければダメなんです。
合わない曲だと手が止まる。だから好きなアーティストの曲でも、(作業用に)これは良いけどこっちはダメとか、ヘンな選り好みがあったりして。
そうそう。このエッセイの24話でも鈴藤美咲様のところのカナコちゃんを描くのに、『偉大な力』の曲を流し続けて後押しされたという話をしましたよね。
今回のイラストも、困り果てたときに偶然耳にした曲に助けられたのです。
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★キャラクター依頼内容★
【部門】しっかり部門
【絵師】加純
【作者】天界音楽様
【出演作品】『美少女魔本は旅がしたい!』
【作品URL】https://ncode.syosetu.com/n0661eu/
【ジャンル】ファンタジー
【名前】ユリウス
【性別】男
【種族、人種】人間、白人
【年齢】20代前半
【身長】180前後
【体重】75くらい
【髪型・髪色】襟足が長めの普通のカット・明るい茶色
【目つき・目の色】吊り目・紫
【肌の色】健康的
【体型】スラッとしている
【服装】アラビアンな感じ。額に巻いた布に金のコインを連ねた飾りをつけている。
【表情】自信に満ちている
【性格】自信家・ナルシスト
【その他】王族なので服の素材が上質。19部が初出。
意志のある呪文書『Dの書』。彼女は気に入った人間の願いを叶える代わりに、その魂を堕落させて食べてしまう魔本です。あるとき、パートナーである千年を生きる世界最強の悪の魔術師、麗筆と訳あって肉体を交換することに。
その結果かわいい美少女として生まれ変わったDちゃんは、代わりに呪文書の姿になった麗筆と共にふたりで旅に出ます。(かなり端折ったあらすじですみません)
ユリウスは、その旅先で出会ったケテル国王マティアスの孫に当たる王子様です。ルックスも良く、国民からの人気も高い彼なのですが……。
これ以上はネタバレになるので、作品を読んでお確かめください。
「麗筆(少女version)」 (拝読を始めた頃描いた落書き)
どんな風にユリウスという個性を描こうか、だいぶ悩みました。
今回お預かりしたキャラの中で、一番悩んだ!
役まわり上、前回のセズシルバス様のように「ひととなり」を描くと、彼の場合少々難ありと思ったのです。そこを迂回しながら、彼のなにを描こうか、ずっとキャラデザインとイラストの構図を悩んでいました。
先に書いたあらすじや依頼内容のその他の項目にも「19部に初出」とあるように、ユリウスは主役ではありません。ちなみに主人公であるDちゃんとパートナーの麗筆は、わたしが描くとこんな感じ。
作者、天界音楽様の主催する「線画にする企画」の前身で、菁 犬兎様が起こした線画にわたしがアレンジしつつペンを入れたものです。
なにせ天界様とも今回「初」なので、ごんたろう様の時と同じように探りを入れてみたのですね。(←小心者)
正直言って、この頃(9月中旬)はまだユリウスのキャラ像は全く決まっていませんでした!
それでも宰相様のイラストが軌道に乗った頃、とにかく顔を作ってみようとキャラデザインを始めました。すでに企画開始から1ヶ月半。そろそろラフの1枚も上げておかないと、天界様も不安になるでしょう。
けれどまだキャラ像が固まっていなかったので、自信家のイケメン、アラビア風……くらいのコンセプトで描いたものです。
しかもラフなので、かなりザッとです。
「ユリウス 第一稿」
なぁんか、自信の無さが絵に現われていますこと!
アラビアンで王族なので、装飾品多めで。額に巻いたターバンも左右顔の横に垂らしてみたりと、華やかさを演出できるデザインに。配色もなんとなく青系でまとめてみたのですが、天界様より「こんな感じで」と合格サインが出ました。
ああ、よかった。
でもね。これを描いたことによって、少し前進したの。もう少し顔立ちを「彫りが深くて甘い感じ」にしてみよう、って。とあるイケメン俳優さんおふたりをモデルにして、さらに我の強さを加えてみたら良いのではないかな、と。
とはいえ。ここから2週間、工程は止まります。
ほら、なにせ今回は3部門掛け持ちですもの。「お気楽部門」の仕上げをしつつ、あと2作品の拝読を進めつつ……と結構忙しかった。
セズシルバス様のイラストが仕上がったのが10月18日。その後ごんたろう様に確認を取って、テンプレートを仕上げて提出。
さらに別企画に手を出し、このエッセイを2章書いて描き下ろしイラストも描いて――。一生懸命魔界からケテル王国へと、脳内の切り替えを図るのですが。
それでもまだ、どんな風に彼を描こうか踏ん切りがつかなかったのです。
彼がなにを考えていたのかとか、彼が本当に欲しかったものはなんなのか……とか、手掛かりを探していたのですがピンと来るものがなくて。
ただ、彼は家族の中でもはぐれているような、仲間といても浮いているような、全てに馴染めない孤独感を抱いていたのではないかなぁとか感じていたはいたのですが、詰めの一手にはならないの。
そうこうしている内に11月に入り、本格的にどうにかしなければならなくなりました。
ユリウスを2週間で仕上げないと、ガッチリ部門を描く時間を削られてしまいます。実は先にガッチリ部門の下絵の方が出来上がっていて、ぜぇぇぇぇったいに手間が掛ることが目に見えていたから、さすがの加純さんも焦ろうというものです。
作成の順番を入れ替えることも考えたのですが、「こちらが先だ!」とユリウスが主張する。
最悪天界様にご覧に入れた第一稿リメイクヴァージンを提出するしかないなぁ……とまで追い詰められたのですが、崖っぷちに立つとアイディアが沸いてくるのはわたしが犯人だからでしょうか?(←どういう理論なのか……とか突っ込んではいけません!)
イラストを描くときにBGMを流すことは先にも書きましたが、その中の一曲が、ふと、ユリウスと重なったのです。既成の曲ですから、なんとなくイメージが……ですよ。
好きなバンドの曲でアプリの再生リストの中に入っていましたから、それまでも何度も耳にしていたのですが、それまではずっと聞き流していました。でも、その時、なぜかカチリと音がして、パズルのピースが当てはまったのです。
どうやらテーマ曲の選定には、タイミングも重要な要素らしいですね。
さあ。そこからは、その曲一択でエンドレス再生。
ただ加純さんの中でリンクしただけなので、他の方がお聞きになっても「え、違うじゃーん!!」と思いになるかもしれません。後で和訳の歌詞を調べたのですが、「カスっているといえばカスっているけど、ビミョー」ぐらいでしょうか。
所詮現代の米国人とケテルの王子様じゃ、ピタリとシンクロするはずもないので、フィーリングがそれとなく合っていれば良いのですわ。
もうひとつ。英語の歌詞なので、ダイレクトに意味が頭に入り込んでこないところもよかったみたい。歌詞がはっきり聞き取れてしまうと、曲の世界に引っ張られてしまうので集中力が途切れます。
(じゃあ邦楽の場合はどうするの、日本語が入り込んでこないのかって? どうも作画中は歌詞は一部しか聴いていないようなのです。印象的なワンフレーズくらい……しか。メロディラインは覚えていても、歌詞はほぼほぼ覚えていない。たぶん作業時のわたしの脳は、ボーカルもメロディラインを奏でる楽器扱いらしいのです。もちろん鑑賞するときは真面目に向き合って聴くよ!!)
外国語だからこそ大まかな意味だけ心に留めて、「ッぽいかも」と思いつつ、メロディラインとリズムを堪能できたみたい。
ともかくその曲のメロディに乗って、わたしのユリウスのヴィジョンが動き出したのです!
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光明をもたらしたのは、第一話の鍵となるアイテム「選択の宝珠」。
ユリウスの人生に大きな影を落としたケテル王国の宝です。彼とこの宝珠の組み合わせはどうだろうか?
アイディアの神様の尻尾を掴みました。
「ユリウス ボツ案」
最初に浮かんだのは、こんな構図。回廊の柱の陰に立つユリウスが手のひらの上に宝珠を乗せています。孤独感を演出するために俯瞰(上から見下ろす)から、薄暗い回廊で彼の周りに誰もいないことを強調します。
アイディアが浮かんだときは良しと思ったんですけど、描きだしたら3秒でボツになりました。これは無いな~、と。
第一、この構図は物語の内容とは違ってきちゃうんですよね。彼が宝珠を手にするシーンなんて無いんですもの。
それに、どうせだったら、もっとドラマティックな構図にした方が面白いと思いません?
なによりも。彼はこの宝珠からは最後まで恩恵を受けることはなかったのですから、手の届かない存在であるべきなのでしょう。
――なら、頭上高く。
いや。恩恵を受けられなかったというより、そっぽ向かれていたんじゃ……?
――だったら、あざ笑うように?
で、第三稿。
すみません。ポージングの確認のみ……って絵で。いえ、頭の中にはもう少し全体像が見えていたんですよ。ただ、ここで描いたのは確認したかったことのみ、だったということでこんな具合に。
ユーリは弩の名手なのですが、弩ってどんなものかなぁ~と確認したかったのです。
弩(石弓)と〇グってみると、「クロスボウ(洋弓銃)」と出てきます。機械仕掛けで石や矢を発射する強力な弓ですね。日本史ではあまり見かけませんが、西洋や中国では一般的な武器でした。
イラストの下の図ですね。普通の弓(上の図)より殺傷能力が数段高く、古くは紀元前から記録があるそうです。さすがケテルの王子様、扱う武器が違うわ……と感心したのですが、困ったことにわたしはクロスボウの扱い方を知らない。構造も知らない。どんな風に構えるかも分からない。
2日間ほどネット検索を続けたのち、ここは作者様にお伺いを立てた方がよかろうと思い当たりました。(←遅い)
はい。伺ってよかったです。あのラフ画をツイッターのDMで天界様に送って確認を取ったところ、上の図の方だったんですね。
現代で云うところのコンポジットボウ(複合級、合成弓)、古いおとぎ話になどに出てくる単弓のような素朴な形のものだと教えていただきました。
うっかりクロスボウの方でペン入れするところでしたよ。あぶない、あぶない。
(――というより、ラフ画3を観た時、天界様は不安に駆られたんじゃないかと思うよ)
そして、下絵。はい、あのラフ画がこうなるんですよ~。
下絵1
自分でも笑っちゃうくらい、ヘンシ~ン!!
(この段階ではユーリは弓を持っていません。返信待ちしながら下絵を進めていましたから)
さらにペンが入って、
下絵2
弓と背景が入りました。
実は回廊の壁はガッチリ描き込んでいたのですよ。お衣装の方もアラビア~ンな模様をしっかり描き込んでいます。
完成画では、ほぼ消えちゃいましたけど。
ボツになった案は俯瞰からのアングルでしたが、宝珠の絶対性を現わすために、わずかですがアオリの目線に変更してあります。
どこが? ってくらいですどけ、ね。
写真の画は、すでに色鉛筆でグリザイユみたいなこともしてあります。(その前の段階の写メは取り忘れました)
上からコピックでさらに彩色していくのですが、コピックの筆では塗りにくい細かい部分(特に髪の毛の先とか)など、先に色鉛筆で色を入れて、その上からインクで色をなじませていきます。
水彩色鉛筆なので、アルコールインクにも溶けてなじみやすいんですよね。塗り跡を残したいときは普通の色鉛筆を使ったり。
今回はパステルワトソン紙を使用したので、紙面の荒い凹凸感を活かした塗りにしていきます。
コピックで全体に色を入れた後、さらに色鉛筆とパステルを使用して紙の凹凸感を出したり、ざらざらとした乾いた雰囲気や、宝玉の輝きを強調していきます。コピックだけだと、色調がキレイ過ぎちゃうの。
さらにパステルのグレイ色をこすりつけて画面を汚すような加工もしたり。
(ごめんなさい~。夢中になっていたので、そのあたりの写メは撮っていないの~)
エンドレス再生される曲に乗せてついに完成したのが、こちら!!
「ユリウス 背徳の王子」
人生の入り口で思わぬつまずきを味わった(彼のせいではないのですが)ことから、少しずつ狂っていく人生。それが全ての原因かもしれませんが、ずっと重くのし掛かり、進むべき方向を見失っても、それすらも分からなくなっていたのでしょうか。
生来のプライドの高さも、邪魔していたのかもしれません。
砂の宮殿を足早に歩き続ける(生き急ぐ)彼と、頭上からその姿をあざ笑うかのような「選択の宝珠」。
いつか、どんな手段を使ってでも、その光を手に入れたいと夢見てしまう。
抗い続けているのに誰よりもそこに縛られ、最後まで抜け出せなかったばかりか歪んでいくしかなかった――でも憐れさを強調したくはないし。
本人も嫌がるだろうし。(あ~~、説明するとネタバレにぃぃ……)
哀れみをかけるでもなく突き放すでもなく「迷える男」を描きたいなぁと考えていたら、こんな感じになってしまいました。
わたしの方が迷子になっちゃったみたいですが。
F4サイズのパステルワトソン紙にコピック、色鉛筆、パステルで着色しています。
色調を抑え、いつもと違う雰囲気を狙ってみました。
悩んだけど、それだけ感慨深い作品です。終わってみれば、全て楽しかった面白かったことに変換されていました。
ユリウスを描く機会を与えてくださった天界音楽様に感謝します。
本当にありがとうございました。
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さてさて。
今回はBGMによって助けられましたが、このやり方には弊害もあるんですよ。
それは、曲とキャラがイコールで脳にすり込まれちゃうの。だって制作中、ずっとその曲が流れ続けていたのですもの。制作が終了しても、曲を聴くと、どうしてもそのキャラが描きたくなっちゃうのよね。
すでに条件反射!?
その弊害のおかげで、ユリウスはテンプレート提出後もイラストをゲットし続けています。
「ユリウス 3」
これはモノクロで。
最初に描いたお顔より少し面長になって、青年らしくなっています。こっちの方が、イメージ的にはユーリっぽいと思います。
やっぱりアプリの再生リストに入っているのが、ねぇ……。
好きなバンドの曲だしぃ~。
なので。
同じく天界様主催の『#12ヶ月の小品集 2020』に参加しようイラスト描こうとして、うっかり選曲ミスをしちゃったら条件反射が発動。
「ユリウス 4」 コピック、色鉛筆、カラーインク使用
この構図も交換企画の候補だったのですが、弓のつがえ方がいまいちよく分からなかった(右手の方ね)のでボツにしたヤツじゃん!!
11月のテーマは『夜』だったのに、どこが? な作品になっていた!
ご覧になった天界様から、「ユリウスならきっとこの矢で夜も切り裂いてくれます」と慰めていただきました。
もう!!
ああ。
そういえばユリウスって強欲だった……のよね。
ご来訪ありがとうございます。
長岡更紗様主催『イラスト交換企画』しっかり部門、わたしは天界音楽様の『美少女魔本は旅がしたい!』よりユリウスを描かせていただきました。
毎度のことながらドタバタとした制作舞台裏ですが、これで2部門をコンプリートすることが出来ました。
そして。
いよいよ『第二回イラスト交換企画』に寄せられた作品の展覧会がオープンしました。
なろう絵師たちによる力作がずらりと並んでおりますこの展覧会、開催場所はこちらでございます。
なろう美術館へようこそ!~第二回イラスト交換企画を開催しました~
https://ncode.syosetu.com/n9950gl/
どうぞ足を運んでみてくださいませ。よろしくお願いします。
さて、次回。最後のガッチリ部門、加純さんは自分の絵の特性を活かして『少女漫画の王道』を目指そうと悪戦苦闘するお話となります。こちらも引き続きよろしくお願いいたします。