22. 加純さん、イラストを交換する。(白黒ver.編)
引き続き長岡更紗様主催『イラスト交換企画』、今回は白黒部門です。
イラストを描いていただくことになったのは、銘尾友朗様。
銘尾様にお願いしたのは、『テペラウの月 月のしずく ~アージ・アルイーンの書外伝~』の主人公、吟遊詩人のカナヤです。
この物語はモノクロ画が似合うと思っているのですよ。(←個人の見解)
妖しい夜の闇の世界のお話だから、光の白と闇の黒の狭間に、観たひとが物語の色を想像して創り出して欲しいな、と。
それともケント紙の白が、目を焼くような太陽光線や沙を連想させるからでしょうか?
そんな理由から、わたしが描くこの物語のイラストもモノクロ画です。
それで白黒部門はこのシリーズの中から……っていっても、未だヴェスタかカナヤしか主な登場人物はいないのですが、どちらかと言えば弟の方が描きやすそうかしら? と思いまして。
確かに、人物としてはカナヤの方が描きやすいかもしれません。
しかし加純さん、大事なことを忘れていた!
この物語の設定は、『千夜一夜物語』風。
なろうでも、あまり類を見ない設定です。
なぜか?
それは、資料を集めるのにご苦労するから(……ではないかと思う)。
千夜一夜物語はアラブ圏に伝わる寓話集。アラブはイスラム圏ですよね。
イスラム社会は、宗教上の戒律から人物を描くことを禁じられています。だから、絵画の資料とか極端に少ないのです。
それでも蛇の道は何とか……なのですが、それを使えるかどうかはまた別問題。そこのところを、すっかり失念してお願いしてしまったわたしを、さぞ恨まれたのではないかと……。
銘尾様はその悪条件の中で、作中から空想の翼を広げて、とても素敵なカナヤを描いてくださいました。(注:背景のレイアウトは加純が付け加えたもの)
いかにも好奇心旺盛で明るく屈託のない、歌うことが大好きな吟遊詩人アシックですよね。
つま弾く三弦琵琶の音色も聞こえてきそう。
現在、物語の挿し絵に使用させていただいております。
銘尾様、キラキラと輝くカナヤをありがとうございました。
銘尾友朗様の作品 『VOICE』
https://ncode.syosetu.com/n0136fq/
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では、白黒部門で描かせていただいたのは……。
雨音AKIRA様『薔薇騎士物語』のアトレーユ・ポワーグシャー。美しくも凜々しい女騎士様でした。
https://ncode.syosetu.com/n1419fh/
物語は麗しい男装の騎士アトレーユが、命懸けで守るキャルメ王女と共に隣国に向かうところから始まります。ふたりはそこで複雑に絡み合う王位継承争いに巻き込まれてしまうのですが……。恋愛要素も有りの硬派な宮廷陰謀劇です。
――実はこの手のお話、大好物なのです。
読み始めてまず惹かれたのが、アトレーユとキャルメ王女の関係。誠実な女騎士と美しい王女の、固い絆で結ばれた信頼関係を描いてみたいと思いました。
ご存知の方も多いと思われますが、雨音様もすてきなイラストを描かれる方で、パステル系の華やかな色使いが印象的な、明るくて美麗な絵を描かれます。
初めて拝見させていただいたときに、ため息つきましたよ。
そこで。
その世界観を壊すことなく、加純さんなりの薔薇騎士ワールドをどう構築したらよいのか――が最初の課題となりました。
承ったのはモノクロ画。だから、モノクロ画の面白さを追求してみようと思ったのです。
そして雨音様の描く「薔薇騎士物語」の世界とは反対のアプローチで、この物語の世界観を描いてみようか、と。(←単なるへそ曲がり精神です)
「陽」で「健康的」なイメージの雨音様の絵に対し、「静」と「陰」のイメージで。
それから、白と黒のコントラストが美しい絵にしようと考えました。
で、この時ポンと浮かんできたのがビアズリーの絵。
ふふふ。面白いじゃないですか。
この物語をビアズリー風で描いてみたいなんて思うのは、加純さんくらいのものでしょう。
けれど「そのまんまビアズリー」では、世界観に大きなズレが生じてしまう。この物語には、華やかなキラキラ感も不可欠だと感じたのです。それから「品」も。
ならば少女漫画テイストを大量投入してみることにしましょう。
あくまでも華麗に、美しく。
雨音様の創られた世界観を壊してはいけません。ここは譲っちゃいけない。
構図は少しデザイン性を入れて、装飾的にしてみようかとも。
最初のラフ画。すでに大まかな構図は出来ていた。
中央に視線を合わせるアトレーユとキャルメ。騎士は姫の手を取り、もう片手には強さの象徴でもある剣を。
ふたりの周りをモチーフである薔薇で囲もう……と考えたまではよかったのですが、くるりと薔薇の花で囲むだけでは芸がない。装飾的なフレームに変えてみようかとも思いましたが、どうしても納得がいかなくて作画を中断していた時期もありました。
今回は構図にデザイン性という要素も組み込みたかったので、頭の中はパズル状態。あっちのピースがそっちに行って、ここのピースがはまらなくって……なんてことを、ずっと繰り返していましたっけ。
しかーし!
この頃、加純さんの身の上には、重大事件が起きていました。
PCが壊れたのです。Windows7だったので、そろそろ買い換えねばとは考えていましたが、突然のお別れは滅茶苦茶ショックでした。
(クラウドに保存しておいたファイルのいくつかが消えていたのは、もっとショック!)
う~~ん、負けるもんか!
PCの手配をしつつ、脳内パズルの組み立ては続行中。
ラフ画 初期設定、アトレーユとキャルメ。
擦った揉んだの試行錯誤の末、キャルメにロングトレーンのエンパイアスタイルのドレスを着せた途端、何故かするするするっとペンが進んだのです。
新しいPCの手配が無事済んだのも幸をそうしたのでしょうね、きっと。
こちらが完成画。
「薔薇騎士物語より アトレーユとキャルメ」
アトレーユの後方に昇っていく薔薇の花に対し、下部はキャルメの重量感のあるロングトレーン(薔薇柄の豪華マントの裾)を巻き付けて。
さらに長く尾を引く孔雀も加え、華やかさと気高さを増すことに。
背景は白と黒でメリハリをつけたのですが、ただ二等分にしては面白味が無いので、水紋で動きをつけながら境界線を引いてみました。
しかしながら。
この絵を描いている途中で、頭の中ではもうワンシーン、どうしても描いてみたい場面が浮かんできてしまったのです。
わたしもそうだったように、おそらく「薔薇騎士」ファンは、皆アトレーユのドレス姿を見てみたいと思ったのでは?
物語の中でも重要なシーンでしたし、男装の麗人のドレス姿ですから、とてもレアな場面なのです。なにより「女神のように」美しいに違いない!
困ったことに、こうなるとどうしても描いてみたくなるのですわ。
描かないと、終わらないの。
わたしの中では2枚のイラストは対になっているので、たとえ締め切りに間に合わなかろうが何だろうが(その時は主催様に土下座だッ!)どうしても描かねばならない気がしたのです。
絵描きのわがままが、ムクムクと盛り上がってきちゃいました。
思い始めると時間が経つにつれ、これって使命感みたくなってくるのですよね。
(間に合う保証も無いけど、間に合わないって確約がある訳でも無いのよね)
(それならば!)
加純さん、「無謀」に走ります!
ラフ画 ラスティグとノルアード (ボツ画の救済)
締め切りまでのカウントダウンが始まっていたにもかかわらず、もう1枚描かせていただくことにしました。
すでに11月。期日まであと1週間しか無いのに、なに言い出すの。1枚目だってまだ仕上がっていないのに……と、雨音様はご心配になったことでしょう。
遅筆だって、憚りなく公言している奴ですよ、わたし。
速攻で作画を始めます。
時間が無いので、本番用の用紙に直に下書きしていきます。頭の中にある構図をそのまま描き写しつつ、多少の修正と微調整。
シャーペンの線とはいえ消しゴムかける回数を減らしたいので、下書きしたのは人物と孔雀だけで、バックはほぼそのままミリペンで描き込んでしまいました。薔薇と階段とカーテンくらいですから。
2枚の絵が連動していることを示すために、薔薇も同じクォーターロゼット咲きの大輪を。孔雀の羽も同じデザイン。カーテンもフリーハンドでラインを引き白紙部分を埋めていきます。
アタリ線(下書きの下書き線)も最低限、極力引いていません。
とにかく時短!
(けれど途中で2台の燭台を付け加えることにプラン変更して切り貼りする羽目になっているのだから、時短になっているのだかどうだか……)
同時に1枚目のイラストの仕上げ(トーン貼り)も進めて、まずは提出品1点を確保。
でもどうしても「2点同時に提出しないと自分の中では意味がない」ので、必死で完成を目指しましたとも!
2枚目も仕上げの工程に着手。
BGMにノって、点描だってスピードアップ。墨汁でベタを塗り……。
(みてみんにUPする際に縮小しましたが、実際はA4用紙に描いています)
「薔薇騎士物語より ティアンナのドレス」
1枚目は美女ふたりのバストアップでしたが、2枚目はアトレーユの全身像を中央に据えて、エスコート役にお兄様方を配置してみました。
アトレーユいえティアンナのドレスは、アール・デコ調です。作中の描写を読んだときから、もうこのデザインしか無いと思っていました。
孔雀の羽がそのままドレスの模様になるという、ちょっと凝ったデザイン。
(ちょっと待って。キャルメのドレスがナポレオン帝政時代のエンパイアスタイルで、アトレーユが世界恐慌直前のアール・デコスタイルじゃ、年代的には100年以上の開きがある。時代考証がおかしい! とツッコミたい方がおいでですよね。
「キャルメ王女のエンパイアスタイルドレス」
――なんですが、そこは目をつぶってください。イメージ先行。あえて、の確信犯です)
ヒロインのドレスが濃色なので、お兄様方の衣装はあまり描き込まず。引き立て役に徹していただいております。
ふたりの兄と共に、ある決意を秘めて臨む舞踏会。緊張感のあるシーンですが、少しだけエロティックな雰囲気も漂わせた1枚になりました。
ラフ画 「エドワード王子」 雨音様の推しキャラ。
やればできる。(←ホントに出来たよ!?)
なんとか締め切り前にイラスト完成!! (←バンザ~イ)
コメントも提出して、ミッションコンプリート出来ました~~~! (←脱力~)
紹介したイラストは、現在「なろう美術館」に収蔵されています。
ご紹介した長岡様や銘尾様、星影様や雨音様以外にも、たくさんの絵師様方の力作が展示されております。
一度足を運んでみる価値、十分ですよ。
お時間がありましたら、素敵な美術館に行ってみませんか?
「え!?」
「なろう美術館へようこそ! ~第一回イラスト交換企画を開催しました~」
https://ncode.syosetu.com/n4699fs/
最後になりましたが、長岡更紗様。とっても楽しい企画をありがとうございました。
次回は未定。
なにが飛び出すやら……。