15. 加純さん、クセを考察する。
絵師の皆様。「手クセ」ってありますか?
それは、一枚のイラストが発端でした。
拙作の『テスとクリスタ』更新の際、活動報告とツイッター報告に添付しようと、急いで描き下ろしたイラストが小さな物議を起こしたのです。
ええ、その頃加純さんは体調がすぐれませんでした。その日も朝からめまいが止まらず、ふらふらしていました。
けれどもようやく書き上げた最新話を、どうしても更新したかったのです。
更新のお知らせをかっぽうとツイッターに流す際、おまけにイラストを付けるのが、このエッセイの連載を始めてからの流儀となりました。
わたしはイラストを描くのは好きですが、以前にも申しあげたとおり、これまでたくさんの人に見ていただく機会を積極的に設けるようなことはしてきませんでした。
さらに、ブランクも長い。「永」の字を当てた方がいいくらい、長い! ずいぶん長い時間、創作活動とは疎遠でいました。(←年齢がバレるので、これ以上はツっ込まないように!)
だから活動再開当初は恥ずかしくて、そんなこととんでもございません!――だったのです。
けれども。まがりなりにもこのエッセイのタイトルは「ツイッターにイラスト上げてみようかと思います!?」って、云うのですよ。
むしろ、上げない方がヘンな気がしてきました。というか、上げなかったらこのタイトルは詐欺でしょう。
それにわたしは締め切りだとか、切羽詰まった必要性が無いと絵が完成しないタイプらしいのです。
ですからそういうお約束――更新のお知らせの際にイラストを付けるという決まりを作ってしまったら?
どこまで遂行できるかは別問題として――。それでも言ったからには、なけなしの根性叩いて作品を完成させようと努力だけはするのではないのかしらん……という、いかにも安直且つ短絡的な考えのもと、自分を追い込むことにしたのでした。
いつも描き下ろしという訳にはいきませんが、それでも「更新しました!」の後に、(画像付き)の一文も添えてアップするというお約束はおかげさまでまだ続いています。
作戦(今のところ)成功!?
さて。
その日も、更新のお知らせと共にアップするイラストを描いていたのですが、なにせ体調がすぐれない。描き上げたものの、納得できる作品には仕上がりませんでした。
さすがにこんな絵は掲載できないわと過去絵を探すことにしたのですが、脳内ぐるんぐるんの状態ですから、手ごろなイラストを見つけることも出来なかったのです。
記録もここで潰えるか……と思いました。
が、ようやく頓服薬が効いて来て、カラーは無理だとしてもモノクロ画だったら描けるかもしれないと気を取り直し再挑戦。
なんとかカタチになったイラストとともに、めでたくその日のうちに更新を完了したのです。
「tess another」 ペン画 コラージュ加工
本来なら、ここでめでたしめでたし……のはずだったのですが。
かっぽうとツイッターに記事をアップした後、まじまじとイラストを眺めていた加純さんはあることに気が付いたのです。
「あれ、これテスじゃないや……」(←おいっ!!)
わたしの疑惑は、イラストをご覧になった方々にも同様の感想を抱かせてしまったようでした。
それはそうですよね、描いた本人が「違う」って思うのですから。
では、この違和感の正体はどこにあるのでしょうか?
ボーとした頭で15秒ほど眺め、答え発見!
「あらヤだ。『手クセ』が出てる…………」
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手クセなどと申しますとなにやら物騒なにおいも致しますが、差別用語の「性悪なこと」ではありません。
絵師の言うところの「手クセ」とは。
ある程度作画技術が上達すると、資料などでいちいちモデルの形状を確認しなくても、脳内にあるイメージだけで画が描けるようになります。たとえば人物や動物、植物など、繰り返し何度も描いていると、「なんとなく」形を手が覚えてくれるのです。
おおまかなイメージを手が覚えていて、意識をせずともある程度の完成度の絵がささっと描けてしまう……それが手クセです。
作品の完成度(見栄え)や好感度(ウケ)など気にせず、描き手は思うまま手を動かせますから、手クセで描くのはラクですし楽しい。気負わず描くという点では、落書きと通じものがあるでしょうか。
そのかわり、描き手の技量も露見します。だって持っているイメージと技術の「有り合わせ」なのですから。
思うままとか、気負わないということは、深く考えず適当にペンを動かすってことでしょ。記憶の中にある映像を頼りに、こんな感じだったよなぁと云う「なんとなく」を模倣再現しているわけですが、気を付けていないと無意識に自分の描きやすいものだけを描くようになってしまったり、観察することを忘れてしまったりするのです。
だいたい記憶と云うのは曖昧なものです。加えて、人間はあえて難儀なことをしたいとは思いません。わざわざ資料を確認するなんて面倒臭いことは省略したくなります。そうして曖昧なものを頼りに、ラクな方へラクな方へとなびいて行ったら上達はしませんよね。
人物画もしかり。「だいたいこんな感じ」で、描きやすいようにペンを走らせるので、似たような雰囲気の顔ばかり描いてしまうことになります。
たとえばわたしは右利きなので、人物画は右斜め45度向きが一番描きやすく、おのずと右向きのポーズを描くことが多くなります。
年齢層も青年層から幼年層くらいまでは苦労はしませんが、中年層や老年層は皮膚を意識していないとそれらしく見えない人物が出来上がってしまう。シワを描けばいいってものではありませんからね。
こうして似たような顔と、大差ない年齢層の行列が出来上がっていくのです。
なかなか難しいのですワ。
そして「趣味・嗜好」が出る。
なぜでしょうねぇ。中学生のころから仏像に興味を持ったのが影響しているのでしょうか、手グセ全開で描くと、キャラの顔がアルカイックスマイルになっていたりする。
うっかりしていると三十三間堂現象(仏様顔がいっぱい)が……!
そこまで極端に舵を振り切らずとも。
例えばテスとクリスタを描く場合、わたしの手グセとしてはクリスタの方が描きやすいのです。クリスタは表情豊かで口元に微笑系ではありませんが、その延長線上にいるのかな?
(実は『T&C』にもガッツリの微笑を湛える系がいるのですが、大人の事情で今は明かせません。こうご期待!)
2話と3話に掲載していた過去絵の金髪美少女マーミも、釣り目釣り眉の見るからに気の強そうな顔立ちでした。そういう性格設定だということもありますが、釣り目釣り眉だと、どうしても「強い」キャラになってしまいます。なんたって顔の造形からして重力に反抗しているのですもの。
そうそう。前回横顔出演だったリューゼも、釣り眉に切れ長の眼でした。在庫にも、その手の顔立ちがまだまだいます。
ね、だんだん奈良か京都の古刹のお堂の中のようになって来たでしょ? (誰か違うと言って!!)
反対に「垂れ目の方が描きやすい、手グセは垂れ目なのよ」という絵師さまも当然おいでですよね。垂れ目だからなよやかとは限りませんが、キャラの表情に柔軟さや優しさがにじみ出るのは、断然垂れ目派だと思います。しかも、可愛いさ倍増ですしね。
垂れ目に釣り目――どちらにしても個性がはっきり見えて、キャラの造形がしやすい、読者にひと目で推察してもらえるって利点は確かにあります。
話を戻しましょう。テスを描く際は、かなり意識して「垂れ目垂れ眉垂れまつ毛!」なのです。彼女のほんわかした性格設定には、この方がらしく見えますよね。
「tess apprehension」
どうです。これなら、テスでしょう。
前出のイラストから、ポイントを少し修正しただけなのですが、かなり印象が違いますよね。(注:デジタル加工で修正したものではなく、同じラフ画から描き起こして手直しを加えています)
テスに限らず、最近は垂れ目キャラを増産中。苦手克服もありますが、上手く描けないので、素敵な垂れ目キャラへの憧れが強いのです。ほら、たくさん描けば手が覚えてくれますもん!
それでは結論です。
――あのイラストを描いた時、加純さんはかなりめまい酔いしていた。ゆえにすべき注意を怠り手グセで描いてしまったので、らしからぬテスが出来上がってしまった……となるのでした。
でもね、あの時更新したお話(第13話の⑩)の内容からすれば、ちょっとカンジが違うテスは、「〇〇〇」の方のテスってことになるでしょ……って言い訳にしか聞こえない!?
手グセとは怖いものです。
「fier starter」 前のイラストをさらに加工したもの。
……でも、わたし。手グセ全面否定派ではありませんので。
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最近ツイッターで「Picrew」なるものが流行っていまして。
どんなものかと申せば、着せ替え感覚でパーツを組み合わせてキャラクターを作って遊ぶ画像メーカーです。パズルのピースを選んではめ込んでいく要領なので、誰でも簡単にキャラが作れます。
しかもテーマ別でいろいろなパターンのキャラを作れるので、自小説のキャラのイメージを、この画像メーカーを駆使して制作していらっしゃる方もおいでです。
好奇心を刺激され、わたしも何点か作り、ツイッターに流してみたりしました。
最初は面白半分で作成していたのですが、そのうちわたしもキャラのイメージを、画像メーカーで作ってみることにしたのです。
たとえば、『テスとクリスタ』のリック・オレイン。主人公テスの彼氏なのに、いまだビジュアルがお披露目されていません。設定は出来ているのに、イメージが具体的に噛み合っていなかったのです。
そこで、この画像メーカーの助けを借りてビジュアルを整理してみました。
「rick」
作成したイメージ画から多少の修正と設定上の都合を付け加えて、新たにイラストに描きおろしたのがこちらです。皆様の脳内イメージと食い違っていたら、ごめんなさい。
(アダムやディーもあるのですが、出すの怖くなってきたぞ……)
画像メーカーの完成品そのままですと、高校生くらいの年齢の少年像でしたから、少しだけ骨格を張らせて年齢を上げてみました。
人の良さそうな好青年っぽく見えるかしら? 彼も「垂れ目キャラ増産計画!」の一員であります。
「happy balentine」 誰にあげるの?
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ここからは、ファンアートのお披露目です。
差し上げたものと、頂いたもの。
まずは、ちはやれいめい様の『とべない天狗とひなの旅』の笛之絵麗世命ことフェノエレーゼ。
(https://ncode.syosetu.com/n8043ff/)
時は平安。童女ヒナの前に、訳あって翼封じの呪いを掛けられた天狗が落ちてくる。天狗は呪いを解くために、ヒナと旅に出ることになる。旅に同行する者、旅先で出会うもの。天狗も次第にみなと心を通わせるようになって……ゆくのでしょうか!?
この物語の中で、ふえのさんは天狗で両性具有と云う設定。
そこで「あやかし」らしく、幽玄な雰囲気を意識して描いてみました。
「白い羽と笛之麗世命」
いかがなものでしょうか?
もうひとつ。
こちらはトト様の「サザンの嵐シリーズ」より。
(https://ncode.syosetu.com/n2599ca/)
「ハロルド・コル・レオニス」
トト様のライフワークでもあるこのシリーズから、運命を背負った男ハロルドを描かせていただきました。決して怯まない強さと影のある表情、主人公ロトが「陽」なら彼は間違いなく「陰」。サザンの行方にどうかかわっていくのか……。
そして――!
そのトト様から、頂いてしまいました。
テスでーす。
かわいい。わたしが描くより、余程かわいい。
なぜみんなこんなに可愛く描けるのでしょう?
もっと精進しようと思う、加純さんでした!!