14. 加純さん、「春」を描く。
『みてみんカレンダー』制作裏話、です。
2018年も押し迫った師走。
この冬の最中に、「春」で悩むとは思ってもいませんでしたよ……。
新しい企画のお誘いを目にしたのは、「正義」のカードを提出した頃でしたか?
ちはや様が新しい企画を提唱したのです。
「みてみんカレンダー 2019」
なろう絵師様による、「ウチの子」イラストによる、豪華カレンダーの制作ですよ。
心は騒ぎましたが、今回はすぐには参加表明は致しませんでした。
なぜって? 予感がしたのです。
「描けずに苦労する!」って。
この手のわたしの予感は、なぜかよく当たります。それによればテーマが決まらず、ペンが止まったまま右往左往するらしい。
(それは、ヤバいでしょう!)
描ける描けないがわたしひとりの問題なら構わないのですが、企画ともなれば参加した皆様にご迷惑がかかります。描けなかったらどうなります? カレンダーめくると、来月は土下座するわたしの図だったなんて冗談にもなりません。
ここは様子見をしましょう。ほら、わたしが手を上げずとも、豪華な参加表明者のお歴々の顔ぶれがズラッと……ズラッと……。
キラキラと並ぶ絵師の皆様のお名前。それを眺めていて、ふと、ふと思ってしまったのです。
いいなぁ。この顔ぶれの中に……、いいえ、端の端でいいから並んでみたいなぁ……とか。
それで、ついうっかり(!?)参加希望者欄に名前打ち込んで送信してしまいました。
――はぁ。(溜め息)
落書き 「混沌の淵に潜む竜は永久を嗤う」の主人公、リューゼ
わたしがウダウダしているうちに、月日と段取りはどんどんと進んで行きます。
今回も希望アンケートがあり、描きたい月がある絵師様はそれを優先してくださる旨通達がありましたが、今回はあえて希望は出しませんでした。と云うより、今だ頭の中なんのプランも浮かばないのよ~状態が続いていたのです。これでは希望もへったくれもありません。
予感はやっぱり的中ね、なんてから笑いをしているわたしに、やって来ました業務連絡!?
加純さん――3月担当になりました。
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3月――。弥生。春ですねぇ。
で、なにを描きましょう。ここに至っても、わたしの頭の中には、なにも浮かんできませんでした。
商店街やショッピングセンターなどの福引きで見かける、抽選機ガラポン。持ち手を持ってグルッと一周回すと、なかから色のついた球が飛び出して当選順位を引くという、あれ! 誰でも一回くらいは、やったことありますよね。
そのガラポン、何度回してもなぜか球が飛び出してこないという切ない状況に遭遇したことありませんか?
その時のわたしの心理が、まさに、それ!
ガラガラガラ……と空回りする音ばかりが脳内には響けども――。
(3月だよ、そんなに難しいお題じゃないと思うんですけど!)
アイディアと云うカラーボールはひとつも飛び出しては来ないのです。はてさて。なにを描いていいのか、全く分からなくなってしまいました。
(ウチのモデルさんたち) 最近はオブジェと化しつつあります。
わたし、それなりに年季の入った主婦なので、そこそこ世間の荒波を乗り越えてきました。傾向と対策はなんとなく心得ています。
今回も浅知恵をフル回転して、危機脱出を試みます。(なんのこっちゃ!)
実は、今回のカレンダー企画の参加絵師様は、総勢22名。一年は12か月なので、5月と11月以外は、ひと月を2名で担当しています。
そう。3月の担当は、もう御一方いらっしゃるのです。
銘水さまです。
この時まで銘水さまとは交流がありませんでしたが、ご縁でございます。企画に参加する楽しみのひとつには、こうした新しいご縁が生まれることもあります。お知り合いになれた絵師さまの画を拝見するのは、大きな喜びであり、刺激になります。
それは、さておき。
ノープランであたふたしているわたしと違って、銘水さまはきっと明確なプランをお持ちになっているのでは。3月と云うお題に対して、「これを描きたい!」と云う強い想いがおありに違いない! (←迷惑な確信)
なれば、ですよ。それを確認して、それ以外のものをわたしが描くようにすればいいのではないでしょうか? (←他力応用の術)
描くテーマが重なってはいけないという決まりはありませんが、観る側としてはいろいろなイラストを見たいはず(……だろう:予測変換)。
加純さん、ようやく光明が見え始めました。
そうと決まれば、ぐずぐずしてなどいられません。
銘水様にご挨拶メールを送り、厚かましくもご相談まで持ち掛けてしまいました。その節は、本当にありがとうございました。
落書き 誰?
さて、銘水様のテーマは「夜桜」とのこと。
しかもスクラッチアートという手法を使ってみたいというご希望もお持ちでした。どんな画法かと申せば、専用の黒いスクラッチシートを専用ペンで削ることで、面の下からホログラムの線や美しい色の線が浮かびあがってくる仕組みだそうです。新しいお絵かきとして、今大人気なのだとか。
それにしても、なんて「夜桜」にピッタリな手法ではありませんか!
とはいえ、文字で説明してもその素晴らしさは表現しきれません。ぜひ「みてみん」へどうぞ。
銘水さまの「3月の夜桜」はこちらです。(https://14311.mitemin.net/i341929/)
夜桜に囲まれて、振り向きつつ微笑む妖精。少しはにかんだような微笑が、とても愛らしくて。幻想的な風景と相まって、本当に素敵ですよ。
銘水さまの作品を拝見して、ようやく私の頭の中にも作品の展望が見えてきました。「ひなまつり」「春霞」「早春」……キーワードが次々と浮かんできます。
そして最後に浮かんだのが「シンプル」。あれこれと細工を施さず、ストレートに描いてみようということでした。
前回の企画(タロット企画)はクリスタでした。しかし今回はテーマが「春」ですから、テスを登板させることに。
最初はテスとクリスタそれからメリルに、着物姿で女子会パーティーの図なんて構図を考えたのですが、もっとフワッとした静かな絵を描きたくなってきたのです。
銘水さまのテーマが「夜桜」ですから、わたしは3月前半で最大のイベント「ひな祭り」をメインに取り上げようと思いました。「桃の節句」ですよね。3月を描くなら、やはり外せないでしょう。
そして、わたしも花を描きたくなりました。春ですもの。いっぱいの花。冬の花から春の花へ、移り変わり。
春まだ浅き……
早春に大輪の花を咲かせる寒牡丹と桃を組み合わせてみては? ひなまつりですもの、華やかさが欲しい。寒牡丹の華やかさと、桃の柔らかさ。
やっぱり、着物も描きたい。そうだ。振袖と云わず、十二単を描いてしまおう。お雛様のように。
思いつくままプランをあれこれ並べているとき、ふっと、ある絵が思い浮かんだのです。
それはボッティチェッリの「プリマヴェーラ」。
フィレンツェのウフィツィ美術館の至宝、あの画です。
画面右側で花模様のドレスをまとって花冠を被った女性。ガウンの襞に集めた花を振り撒くこの女性は、春の女神フローラ。
花の香り漂うような、春の女神が描いてみたい。
花冠を被って十二単をまとったテスが、春の女神のように微笑んで、檜扇でふわりとやわらかい春の風を吹かせる――そんな画はいかがでしょう!!
さあ、いきなりペンが走り出しました。
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今回の画は、途中経過の写真が残っています。
いつも撮り忘れてしまうので、これは貴重。
ラフ画は撮り忘れたので、まずは線画。
すでにペンで清書され、トレースした鉛筆線は消された状態です。
薄くて見えづらいのはご勘弁ください。テスの輪郭は、ライナーペンのクールグレイ色とウォームグレイ色を使用しています。あまり線を目立たせたくなかったので、あえて薄い色を選んでいます。檜扇の飾り紐は、五色に合わせて5色色分けしてみました。
輪郭線の思惑は成功したのですが、老眼泣かせなことに……。引いたはずのラインが見えない!(泣)
次に、色塗り。顔をある程度仕上げた後、花冠中央の牡丹から。
女雛のイメージなので、牡丹は赤や濃いピンク、赤紫系の色でまとめることにしました。
ここでカミングアウト。わたしのイラストは赤系統のイメージが強いらしいのですが、実は、わたし、赤い色を着色するのが苦手なのです。
いいえ、決して赤い色が嫌いなわけではありません。
ほら、赤い色って、強いでしょ。エネルギッシュで艶やかで生命力を感じる色。元気で攻撃的でもありますよね。主人公の色、戦隊ヒーローの中央は必ずレッドです。色の三原色の中でも、特に目立つ。
だから着色の際にちょっとさじ加減を間違えちゃうと、赤い色だけ浮いてしまって、バランスが崩れてしまう。赤い色が陳腐に映って、イメージが台無しになっちゃうんですもの。
ですから春の柔らかさを喪失しないために、かなり神経質になってコピックの色を選んでいました。
わたしの意見ですが、コピックの赤(R)系、特に淡い色目は黄色味が強いように思います。暖かさや軽やかさが感じられるのですが、このイラストに関してはちょっと似合わない気がしました。
あ、ニュアンスの問題ですよ。
テーマが「4月」であればこちらの系統を重用したのですが、「3月」初旬はもう少し空気が冷たい。そこで青味のある赤紫(RV)系の色をメインにラインナップすることにしました。
そんな理由で花冠の寒牡丹も、簪のように挿した桃の枝も、主にRV系のグラデーションとなっています。
さらにチューリップ、デイジーと進めていきます。檜扇の飾りはばらと菜の花、こちらは濃い目の色で、華やかさを強調。
そして、十二単の襟の色合わせを悩みに悩んで、
こんな感じになりました。あとは後景の処理です。当初は、花をいっぱい書こうと思っていたのですが、締め切りまでの時間を逆算すると、到底間に合わない。
ここでは区別がつかないのですが、このイラストの原画はB4サイズ。
前回のようなはがきサイズでしたら、細かい書き込みも、老眼が持ち堪えたならば(の条件付き)なんとかなったでしょうが、257mm×364mmの用紙の約半分相当を花で埋めるとなると、どのくらいの時間がかかることでしょうか。
思い出してください。時は師走です、主婦は忙しいのです。(……とか言いながら、この後Xmasのイラスト描いたのだ~れだ!?)
それにこれ以上描きこむと、画面が重くなり、フワッと感が薄れてしまいそうです。
そこで色で春霞を連想させることにしました。春の色、緑に黄色にピンク。柔らかく後ろにたなびかせて、幻想的な雰囲気もアップ。
そして、締め切りにもセーフ!!
みてみんカレンダー、3月。『Primavera』の完成です。ちなみに、プリマヴェーラとはイタリア語で「春」の意味。フローラ=テスは、いかがでしょうか?
お気に召していただけたのなら、3月のおともに、是非。
どうでもよい余談ですが、どうして春霞があの三色なのか? わかります? 答えはお雛様の前に。
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FAを描かせていただきました。
さば・ノーブさま『魔鋼騎戦記フェアリア』より、
「闇に堕ちたミハル」
物語は佳境に入り、主人公ミハルは大ピンチ(……になったらしい)。
まだそこまで読み進めていない後発のわたしは、皆様の話題に付いて行けないのですよ。悲しいことに。
で、さば様がツイッターで流した黒ミハルのイラストを元に、「どんなことになっているのよ~~~~!!」という思いをこめて描いたのが、コレ。
これまでのミハルは清純派イメージで描いていましたが、「闇に堕ちた」というので、露出度とセクシー度をガッツリ上げてみました。かなりきわどいカッコになっちゃったので、さば様に怒られるかなぁと冷や汗ものでしたが、OK頂きました!
さらに本編の挿し絵にまで採用していただき、感謝感激でございます。
えへ。
今年はセクシー路線も開拓しようかなぁ……。
次回は、「手グセ」のお話。
と云っても、絵師の言う「手グセ」とは記憶と無意識。
一枚のイラストがもたらした疑問に再考してみました。