13. 加純さん、タロットを作画する。(仕上げ編)
タロット編、ENDです。
『テスとクリスタ』オンパレードですが、一枚だけ別のお話から出張している人物が……。
資料集めと同時に、もう一つ思案していることがありました。
ペン入れです。絵師様たちにとっては常識みたいなことですが、作画にご縁の薄い方たち向けに説明させていただきますね。
ペン入れとは、鉛筆やシャーペンで描いた下書きの描線をインクなどでなぞって引き直す作業のこと。何本か引いた下書きの線の中から、最終的に残す主線(輪郭線)を決定する作業でもあります。
これが、なかなか難儀なことで……。
彩色に使用する画材によっては鉛筆やシャーペンの線をそのまま残すこともありますが、色を重ねたら主線が消えてしまったとか、黒鉛が絵の具に混ざって色の精彩が悪くなるということもあるので、ペン入れをして下書きの線は消す方法を取る絵師様が大多数でしょうか。
まあ、絵師様たちの画風や好みもありますが。
「けも耳テス」 コピック使用
加純さんの場合。
これまでコピックで彩色するに当たり、輪郭線などのペン入れはマルチライナーと云うミリペンを使ってきました。
コピックは油性ペンです。水性インクなどは、上からコピックを塗り重ねた場合、溶けて滲んでしまうものもあります。
輪郭線がにじんでしまうと、上からどんなにきれいな色を塗っても決して美しくは見えません。それを避けるために、ライン描き専用のペンがあるのです。耐水/耐アルコール性なので、コピックと併用できます。もちろん、今回も最初はこのマルチライナーを使用するつもりでいました。
けれど下書きが出来上がった頃、もっと緊張感があったほうがこの画には良いのではないか……と思い始めたのです。
そこで。
つけペンを使ってみよう――と考えました。
モノクロ画を描く時、つけペンを使用することはあります。スクールペンと云う、ペン先を使用します。便利なペンで、太い線も細い線も引けます。
でも、わたしはあまりつけペンは使用しません。苦手なのです。
理由ですか? ――鉛筆やシャーペンで描いた線と違って、インクで引く線は簡単に消しゴムでは消せません。ホワイトといって、修正液とか不透明のポスターカラーの白色を修正個所に塗り重ねて消しますが、場合によっては最初から描き直しと云う、実にショッキングな憂き目にも会います。
ですから失敗しちゃいけないとか考えてしまうと、ヘンに緊張するのです。その緊張が、引いたラインに如実に現れ、ガタガタ歪んでいたりして……。
きれいな線を引くのって、意外に難しいのです。
透明水彩絵の具で彩色をするときは、シャーペンや鉛筆で下絵を描いたら、フィキサチフと云う定着液を吹きかけ、余分な線を練り消しゴムで消す(抑える)だけ。下書きの線も、色の一部に。彩色後、輪郭線など主線を強調したいときは、細筆で線の上に絵の具で色を足していました。
え、そっちの方がよほど緊張する? まぁ、ひとそれぞれなので。筆の方が線の強弱が面白く付くし、柔らかい。描きながらラインの色の変化も自在に着けられて楽しいです。
それになんといっても、修正がラク。失敗したラインは上から水を含ませた筆でなぞり、ティッシュでポンポンって軽く押さえれば消え去ります。
ここ、大事なところ。いかにリカバー出来るかというのは、とても重要なことだと思いませんか、絵師の皆様!
『混沌の淵に潜む竜は永久を嗤う』より、主人公リューゼ。水彩画。
上記の方法で描いています。
しかし今回は丸ペンをと云うペン先を使用します。
スペースの限られた用紙に、細かく描きこむことになることが予想される今回の画の場合、極細の線が描ける方が良いと考えたからです。Gペンやスクールペンのように線の強弱(太い細い)は付け難いですが、繊細な線を引くことが出来ますから。
でも。丸ペンは、ちょっとコツがいるのですよね。
――といつもはここで尻込みしてしまうのですが、今回は挑戦します。この苦手意識を緊張感にして、イラストの雰囲気づくりに生かしてしまおう! と思うのです。
使用するペン先は簡単に決定したのですが、問題はインクの方ですよ。ペン先に付けて、線を引くインク。こっちの方が大問題!
先にも申しましたとおり、コピックは油性ペンですから、インクの性質によっては用を足さないことになりかねません。上からコピックで彩色しても、線がにじまないインクを探してこなければならないじゃありませんか。
どうしましょう?
ひと昔前なら図書館などに走りハウツー本などを漁って調べるところなのですが、今は簡単――困ったときのインターネット! コピックだのインクだのと、関連するワードを並べて「検索」を掛けます。
さすれば……出てきましたよ、使用できそうなインクが!
ドクターマーチン社製のカラーインク!
しかもうれしいことに、このインクなら持っています。古いお道具箱をひっくり返して探せば、出て来た出て来た「セピア」色のカラーインク。
しかも、まだ使用可能です! やったー!
思わずにっこりしてしまいました。文具店まで行く手間が省けましたし、すぐにためし描きに移れますもの。
――で。速攻で実験――違った、ためし描きをしてみました。情報通り、こちらの相性もOKのようです。いざと云う時のため(本当は使いたくないけど!)のホワイトも用意。
さあ、お道具は揃いました。
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同時進行で、頭の中では「正義」のプランが固まってきました。
ラフ画です。
ラフ画では足がちょっと見えています。実は四天王が餓鬼を踏みつけているように、クリスタにも見えない悪に対して蹴りを入れてもらおうかと考えていたのですが、絵のバランスが悪くなるので止めました。
まだこの時は、剣を持つ左手の位置を迷っていました。だからペンが入っていません。(というより、下書きでペン入れの練習をしたのです)
このラフをもとにはがき大のテンプレ用紙に下書きを描きこみます。天秤を持つ右手の指先が上部の数字を入れるスペースに掛かるようにし、バランスを図りながら、左手の剣が下部のスペースに被るように腕の位置や剣の長さを調整していきました。
両腕が頭上に振り上げられ、さらに大切な小道具を持つため、デザイン画で描いていたティアラは邪魔に。ならばとアクセサリーの類も耳飾り以外はナシとしました。
イラストは静止画です。でも、他のカードとの格差が欲しいと思った加純さんは、この画に少しだけ「動き」を付け加えてみることにしました。
動画にするってことじゃ、ありませんよ。そう見えるように絵に細工を施す、です。漫画で使われるテクニックを拝借します。
まず、髪をなびかせてみました。これだけでも、空気が動いている感じが出るでしょ。
それからスカートを揺らしてみます。髪は画面左から右へと流れていますが、不可思議さを出すために、薄物のスカートは右から左へとなびかせました。けっして「うわ~、左右間違えちゃったよ!」ではありません。
こうしてクリスタ自身は動かず(当たり前ですが)とも、スカートのラインが流れることでまた動きが出ます。大きく揺らすことによって、華やかさも感じられます。錯覚ですけど。
下書きが描き終わったら、いよいよペン入れ作業。
そうは申しましても、やっぱりドキドキするので、別のイラストで練習をしてみます。
クリスタの練習台がテスっていうのも……ですが、
<smile ~tess~>
丸ペンは、ペン先が硬いです。Gペンのような柔らかな弾力性はありません。それゆえ細い線が描けるのですが、その硬質なラインで強弱をつけるにはテクニックとコツが要ります。わたしにはまだまだそれはありません。だから緊張するのよね~とか思いながら、下書きにペンを入れていきます。
それでもこの作品はおためし描きでしたから、ひょこと描けました。これならイケるかも……。ちょっとだけ気が大きくなった加純さん。
さあ、本番もこの調子でいきましょう!
(ちなみに、スカートの一部と剣の刃の部分は、ミリペンのグレイ色を使用しました)
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そんなこんなで、ようやくペン入れまで終了しました。ここからは彩色です。
コピックの出番です。
使用し始めてかれこれ半年。使い方にも、だんだん慣れてきました。白いドレスの光沢感や材質感を出すために、ウォームグレイ系や薄いブルー系の色を重ねて、影を演出していきます。
白い色は、白い色で塗っても、白には見えないんですね。影を作って、そこに色を入れていくことによって、塗らなかった部分の白さ(紙の地の色)を強調するんです。どの色で影を入れるのか、どれだけの面積に色を入れるかによっても、見え方は変わってきます。おもしろいでしょ。
人物が塗れたら、次は背景です。テンプレのデザインを生かすのが今回のテーマでもありますから、右下の牡丹らしき花や藤らしき花、デザイン性の高い葉っぱの動きのあるラインは活かして、ほぼぬり絵しています。
――が、ここ迄塗ったところで、ふと遊んでみたくなりました。
「正義」のカードの意味には、公平って意味もありますよね。だから、天秤は左右対称にならなければならないのです。それこそ均衡ですね。
けれど、このテンプレのデザインは、どちらかといえば右側半分の方が、装飾が重た目なのです。花の分量が多いでしょう。
バランスをとりたい! かといって、きっかり均等って云うのも絵としての面白味に欠けます。そこで、右下の大輪の花を写して、点対称の左上にもう一輪描き足してみました。色は、右側の白色に対して赤色を塗ります。これだけでグッと華やかさが出ました。
背景色はその赤色を抑えるために、黒(実際には濃いグレイ色ですが)色を持って来たいけど、全部を黒色で塗ってしまったら重くなる。均衡を表すなら、半分だけ黒色で抑えるのもアリでしょう。ドレスの白と軽さも強調されるというおまけ付き、ね。
そして自由に飛ぶ蝶は、ここまで使用頻度の少ない青色を。ブルーモルフォ蝶のイメージで。
こうして、どうにかこうにか「正義」のイラストは完成をみたのでした。
あとは、デジタルで文字を入れて……。
はい。ここで、この『タロットを作成する』回の最初に戻る――です。
完成作品は、あんな風になりました。いかがなものだったでしょう?
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2018年の年末は、ツイッターの企画にも参加しました。
同時にちはや様主催のカレンダー企画に参加していたので(こちらの詳しい裏話は次回で!)バタバタの仕上がりだったのですが、こんなクリスマス画を描いてみました。
少女時代のテスとクリスタ。未来にもクリスマスはあるようです。ふたりはどんなプレゼントをもらったのでしょうね。
めっちゃ時間が無かったというのに、周りの一重咲きのばらの花も葉も一枚一枚多色塗りをしています。「簡素化という言葉を知らないのか?」とか考えながら、せっせと塗っていました。こういうのを「おばかの仕業」っていうのでしょうね。自分でも呆れました。
こちらの画と、カレンダー用に描いた画で参加したのですが、たくさんの「いいね」を頂き感謝です。
もう一枚描いてアップの予定だったのですが、間に合わなかった! 途中経過までツイッターには上げたのですが、描けたらこちらで発表するようにしますね。
乞うご期待! (きゃ~~、言っちゃったよ!)
ファンアートもいただきました。
まずはさば様より、チャイナドレスのクリスタ。名探偵のアイテム「パイプ」もちゃんと持っています。おまけにテスも付いています。
さば様の描く女の子は、なぜにこうもカワユイのでしょう。
見習いたいと思います。
さらにもう一枚、頂いちゃいました。クリスタに続いて、「戦うテス」です。本編、今、こんなカンジでテスも頑張っています。よろしければ、ご一読を。(宣伝してしまった^^;)
ありがとうございました。
次に、ちはやれいめい様より、こちらもクリスタ。ロリータスタイルです。
ロリータファッションと云うと映画「下妻物語」で観た甘ロリを連想してしまいますが、ロリータスタイルにもいろいろあるそうです。ゴスロリに寄せつつ、普段着に上手にロリを取り入れているところが、いかにも彼女らしいと思いませんか。
ありがとうございました。
2019年は亥年。猪突猛進と云えば、やっぱり彼女ということで、この章の最期もクリスタに閉めていただきました。
そんなこんなで、今年もよろしくお願いします!
次回はカレンダー企画のお話。
「Primavera」登場です!




