12. 加純さん、タロットを作画する。(デザイン編)
タロットカードの作画、とん挫しました。
主催ちはや様のご人徳でしょう。タロット企画は好調な滑り出しを見せました。次々とカードのイラストが仕上がって来ます。
加純さんがモタモタと悩んでいる地点で、すでに10枚以上の美麗カードが「みてみん」に掲載されていました。
なろう絵師の皆様が心を込めて描かれた作品たちです。それぞれに趣深く、美しい。この中に、わたしの一枚も加わるのです。出番を待つカードたちを眺めていました。
そして、それらのカードと自分が描こうとしているイラストの下絵を見比べて思ったのです。
違う、と。
タロット……大アルカナは22枚で一組です。それぞれの個性豊かなイラストカードは、実際には個別ではなく、揃い、並んでこそのカードたちなのです。けれども、わたしがラフ画として描き起こしたイラストは、この場にそぐわないと思えたのでした。
わたしが感じるくらいですから、このカードを使って占いをした方は、もっと違和感を抱くことでしょう。
私が「正義」のカードを描くことに求められていることは、もっと違うのではないか……? 大きな疑問が浮かんで、離れなくなりました。
そも、「正義」のカードとはなんでしょう。調べたはずです。
それなのに「なにか」を忘れている、あるいはどこかにおいて来てしまっているかもしれない?
公正、公平・均衡・両立……
加純さんはもう一度描きなおす決心をしました。自分が納得しないものを提出することは出来ません。
絵柄を変更するため、すべてを白紙に戻したのです。
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絵柄はスタンダードにしよう。ただし、わたし流に! そして大胆に!
加純さんの頭の中に、新しいプランが「ポン!」と弾けました。
神様が、降りてきた瞬間です。
ノートに浮かんできたプランを描き写します。忘れないうちに。絵の神様が、お隠れしてしまわぬうちに。
わたしが描こうとしているキャラ――クリスタは、新進気鋭の人気モデルと云う設定です。
身長191センチ。スタイルは抜群。
人気服飾デザイナーのミューズ(創作のインスピレーションを得るためのイメージモデル)。
しかも性格は男前。猪突猛進で迷探偵。
最近ハマっているのはヨガとボクササイズのスパーリング。
幼い頃にはクラシックバレエも習っていた。
そんな彼女だったら、きっと大胆なポーズを取って、見る者に迫って来るでしょう。
だから天秤も剣もうやうやしく掲げ持つ……なんておとなしいポージングではなく、「どうだ!」とばかりに自慢げにアイテムを見せつけて来るのではないでしょうか? わたしが彼女だったら、そうするでしょう。では、どんな風に?
脳内では「正義」のカードのラフデザインが、クリスタ仕様にどんどん描き換えられていきます。
彼女の強さと美しさと大胆さを強調するために、それらしいデザインを!
とにかく「正義」なんだから、ヒーローでいきましょう。(男前女子なので、ここはあえてヒーローで!)
思わず目を引くような、美々しくて、一番カッコいいカードにしてやろう!
向う見ずにも、加純さんはそう考え、シャーペンを走らせていたのです。
クリスタに「正義」を担当させたいと思ったとき、すでに彼女の衣装は決まっていました。
白いドレス、です。
それも西洋式甲冑を思わせるようなデザインのドレスがいい、と考えました。けれども本物の甲冑のようにカッチリとし過ぎたデザインでは、面白くありません。ゴテゴテもよろしくない。クリスタの性格に合わせたら、シャープな感じも欲しいわよね。
ザ・ガッチリ! 中世の甲冑。
でも、優雅さや格調高さも欲しいのです。オリジナルでは、「正義」のカードに描かれているのは、裁判の女神という説もあるとか。
だからなのでしょうか、どのカードの人物も、ゆったりとした衣装を身に付けています。
ところが、なぜか、この時わたしの頭にポンと浮かんだのは、バロック期のスペインスタイルのドレス。ベラスケスの描いた「マルガリータ王女」が着ているような、実に非活動的で堅苦しそうなデザインのドレス(ヴェルチュガタン・シルエットと云うのだそうな)です。重くて窮屈そうなところは似通っているかな。
スカートが大きすぎて椅子にも座れなかったとか!?
それから、バレエの衣装チュチュ。ロマンチックチュチュと呼ばれる、スカート丈の長いフワッとした優雅な衣装もです。
古典バレエの名作ジゼルはこの衣装ですよね。
それでは甲冑とドレスとチュチュ、これを掛け合わせてみるのはどうでしょう?
せっかく浮かんできたアイディアたち、思いつくままにペンを走らせてみます。
胸部のあたりはブレストプレートと呼ばれる甲冑の胸当て風に。鎧を思わせるようにカッチリとしたデザインで。「正義」を勝ち取るために戦う勇ましさを!
スカートはふんわりと広げて、なおかつ重くならないように、シフォンみたいな生地を何枚もはいで作ったチュチュ風にして。女神の優雅さを!
そのスカートを広げるために、フォールズ(お腹当たりの鎧)をパニエに見立て、さらにここに装飾的なデザインを追加してみましょう。
パニエとは、ロココ期の貴婦人たちが、ドレスのスカートを整形するために用いた下着です。針金やクジラのひげで作られた鳥籠(仏:panier)みたいな骨組みのアンダースカートで、これを着こむことによって大きく広がった、ボリュームのある下半身のシルエットを作り出していたのですね。
コルセットにパニエ。昔の貴婦人は大変!
バロック時代の王女たちが着用していた横広がりの格調高いドレスは、転じてロココ時代のパニエとして採用することにします。だって、あのままじゃ、さすがに重い! 重すぎる!
それに現代風じゃない……って、クリスタは未来の方ですが。
なににしても「ラス・メニーナス」風デザインのドレスそのままでは、彼女らしくないので、もう、その辺はどんどん変更やアレンジの繰り返しです。
実際はここまで頭の中ですべてデザインしてしまったのでメモは無いのですが、こんなデザイン画が脳内で作成されていたのでした。
実際にテンプレに描き込むのは上半身のみですから、デザインもそちらに重点が置かれています。
それから、ポージングはどうしましょう?
想い浮かんだのは、四天王でした。そうです、仏教を守護する、あの「四天王」です。
――持国天、増長天、広目天、多聞天。
ちょと待て! 西洋式甲冑にドレスにチュチュにパニエ……と、ここまで洋式で固めて来たのに、なぜここに来て「仏教」に発想が飛ぶのかって。
だって、飛んでしまったものは仕方ないではありませんか。(放任かい!)
イマジネーションの世界は自由に飛べるんですもの! (遠い目)
でも、飛んだ者勝ちですよね。採用。このままデザインを進めて行きます。
戦装束で邪鬼を踏みつける四天王の姿は、とても勇ましい。それは「正義」の女神に姿に通ずるものがあると思いませんか?
まあ。もちろんそのままって訳にはいかないでしょうから、少しアレンジせねばなりません。
京都や奈良の寺院に残るいにしえの木像の四天王たちは、仏敵を威嚇するように、怖い形相と鋭い目線、力強いポーズを取っていたりしますよね。四方を守るガードマンですから。でも強いだけでは画として面白味が無いでしょ。
ああ、そういえばバレエにも両手を優雅に頭上に持ち上げるポーズがありましたよね。
それじゃあ、そこをミックスして、既成のカードでは胸のあたりに天秤と剣を掲げ持つ手を、グッと頭上まで振り上げてみては?
長身で、手足の長い彼女が両腕を上げたら、それだけで迫力があります。
(けど、枠からはみ出ちゃうよ!)
ならば、いっそ、本当にはみ出てしまう……のは、いかがなものかしら?
(あ、面白そうね)
加純さんは、こうして面白そうなひらめきが浮かぶごとに、デザインを少しずつ修正・補整していきます。
――で。肝心のアイテムを、どう持たせたら良いのかしら?
天秤と剣よね。
吊り下げ天秤の構造って、どうなっているの?
剣は、どんなデザインにしよう? レイピアじゃ華奢過ぎる。大剣じゃスマートじゃない。
資料、資料を集めなきゃ!
さあ、頭の中はてんやわんやの大忙しです。
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さてもう一枚、企画に参加した作品を。
『読書する女たち』 コピック使用
こちらは檸檬絵郎さま主催の『みんなの名作企画』「あなたの画風でフラゴナールを」から。
ジャン・オノレ・フラゴナール作『読書する女』をあなたの画風で描いてください――というものです。
オリジナルは黄色いドレスを着た女性が本を読む姿を描いた画で、有名な作品ですから、どこかでお目にしていると思います。この画に18名の「なろう」絵師が挑戦しております。
興味がありましたら、『みてみん』で検索してみてください。「あなたの画風で」と云ううたい文句が絵師様たちの「遊び心」をくすぐったのでしょうか。同じ画をテーマにしているにもかかわらず絵師によってこうも違うのかと、実に興味深い結果(!?)が出ています。
百聞は一見にしかずで、あれこれ説明するよりご覧頂いた方が楽しいかと。
ところで、どうしてわたしの絵は女がふたりいるのか? フラゴナール画のオリジナルは、右側の黄色いドレスの女性が優雅に本を読んでいるという構図です。じゃ、左側の女は……。
実は向かい合うこのふたりは同一人物。昔はかしこまって書物を読んでいた女性も、今じゃ足を投げ出しヘッドホンでBGMを流しながらタブレット(やスマホ)で読書するという図でございます。ドライな時代になったものです。
右側の女性をそのまま反転させて、ヘアスタイルと服装(あとポースを少し)を変えただけなのですが、別人ですよね。
檸檬先生の談によると、わたしの絵はラファエル前派とミュシャが混合されたような作風なのだと。
確かにロセッティやミレイ、ミュシャ大好きです。言ったっけ? 先生の鋭い洞察力で見透かされてしまったのでしょうか?
そういわれれば左側の女性の横顔は、ラファエル前派の絵画に出てきそうです。現代女性を描いてラファエル前派ってのは、これいかに。ですよね、檸檬先生。
もう一枚はファンアート。
さば・ノーブさまの『魔鋼騎戦記フェアリア』のヒロインたちに。
『ふたりの魔鋼騎士』 コピック使用
さば様が描くとカワユイのですが、「わたしの画風で」になると重くなっちゃうのが……。その代りミハルは凛々しく、リーンは麗しく(加純範囲で!)しておきました。
タロット作画のお話は次回に続きます。
ようやくデザインが固まって来たようです。さあ、資料を集めたら、作画にすんなり入れるのか?
まだまだ変なこだわりが、前途を邪魔しそうです。