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九夜

 

「クーネ、準備はいいか?」


「うん。バッチリ」


 目指すはエントワ学院。

 そこで行われるという推薦試験を受けるためだ。

 不安はある。

 でも、クーネがやると言うのだから無理に止めることもできない。

 だから、俺は全力でサポートに徹することにしたのだ。


「クーネ、試験の内容は?」


「一対一の簡単な手合わせ」


「そうそう。じゃあ、試験中のルールは?」


「致死性のある魔法と、攻撃はダメ。あと、持ち込めるのは武器一つだけ」


「うんうん、ちゃんと理解していてえらいえらい。じゃあ、俺との約束は?」


転移門(ゲート)を使わないこと」


「そのほかには?」


「絶対に、勝つこと」


「よし、行くか」


「うん」


 そんなちょっとした確認をとり、俺たちはすぐに学院へと向かった。

 やっぱり不安なものは不安だったのだけど、ここまでやる気なクーネを見るとどうしても応援したくなってしまう。

 合格してほしいとは思うけど、俺としてはケガさえしなければそれでいいと思っている。

 安全第一、それがクーネに望む俺からの願いだ。

 はあ、ホントにケガをしなければいいけど。































「やっとついた・・・」


「う、うん・・・」


 息を切らしながら肩を上下させているクーネと、それとは対照的な俺。

 俺が言うのも変な話だけど、なんとか無事に学院へとたどり着いていた。

 というのも、学院の推薦試験を受けるために続々と受験者が訪れているのだ。

 そりゃあ、かなり多いだろうと予想していたけど、まさか道を完全に塞いでしまうくらいに多いなんて思わないだろう。

 おかげであまり人が使わないような道を通って来たのだ。

 そうしないと完全に受付の時間に間に合わないからだ。

 具体的に言うと、民家の屋根の上を通って来たのだ。

 おかげで受付の締め切り時間ギリギリで来れたのだけど・・・。


「クーネ、大丈夫?」


「う、うん。大丈夫・・・」


 やっぱり心配だ。

 俺は息切れなんてしないから体力なんて消耗しないのだけど、クーネは違う。

 俺が抱えていこうと提案したのだけど、クーネにあっさりと断られてしまった。

 クーネ曰く、もう試験は始まっているから、自分の力だけでなんとかしたいとのことだった。

 確かに、クーネのその行動は立派だ。

 だけど、クーネの体力の消耗は思ったよりも激しい。

 このままでは確実に試験にも影響が出てしまうだろう。

 それでは全くもって本末転倒だ。

 しかし、そんな時でこその俺だ。


「クーネ、ちょっと手を貸して」


「え・・・う、うん」


 クーネは突然のことで動揺していたけど、すぐに手を差し出してくれた。


「じゃあ、少しだけ魔力を送るね」


「魔力を、送る?」


「そう。すぐに終わるから、リラックスしていて」


「うん」


 よし、じゃあ慎重に行こう。

 流石に俺の残りカスみたいな魔力でも、一般的に見れば化け物だと言われるほどの魔力だ。

 それをクーネに一気に送ってしまったら、最悪だとショック死ということも有り得る。

 だから、失敗は一度たりとも許されない。


「ほい、これでどう?」


「なんか、力が湧いて・・・きた?」


 よし、成功だ。

 失敗するかもと思っていたけど、意外にも大丈夫だった。

 まあ、魔力譲渡に関しては素人もいいところだし、失敗は覚悟していたけどうまくいってよかった。

 いや、そもそも失敗なんて許されるはずないだけどさ。


「ほら、元気が出たなら受付しに行くよ」


「うん!」


 はあ、やっぱり今日も可愛い。































「では、これより特別推薦枠をかけての実技試験を行います。では、簡単に試験について説明をさせて頂きます」


 そう言って、学院の職員らしき人が説明を始めた。

 俺はクーネたち受験者がいる広場よりも少し高くに設けられた保護者席にいた。

 まさか俺が保護者としてこんな席に座る時が訪れるとは思ってもいなかったけど。

 まあ、そんなことはおいといてだ。

 説明、と言っても、基本的には依頼書に記載されてあったものをそのまま復唱するだけのものだ。

 なので、全体的に聞き流している者がほとんどだ。

 クーネはそれでもしっかりと聞いているけど。

 うん、偉いぞ。


「説明は以上ですが、何か質問はありますか・・・って、まあ、ありませんよね」


 それで本当にいいのか?

 もし何か質問があったらどうするんだ?


「あの~」


 ほら、やっぱり質問する人がいた。


「ん?何かご質問でも?」


「えっと、大した質問という質問ではないのかもしれませんが、一応。この試験でここにいる大半の人は落ちてしまうわけですが、ええ~なんと言いますか・・・。その、負けた人から逆怨みとかされても困るんですが、その辺はどう対処すればいいんですか?」


 って、普通そういうこと聞くか?

 余程自信があるのか知らないけど、その発言は自分が勝つことを前提にしたものだよね?

 同じ受験者に対してケンカを売っているような発言だけど、そのせいで自身を破滅させなければいいけど・・・って、あれ?


「もしかして、あの時の?」


 黒髪黒目にあの異質な魔力の感じ。

 間違いない、俺が初めてのギルドで会ったあの少年だ。

 しかし、まさかここで出てくるとは。

 すると、すぐにその質問に職員が回答し始めた。


「そうですね。そこは正当防衛として殺してしまっても構いません。そんな程度の低いことをする者は、この学院に入学する資格なんてなかった、ということですから」


 辛辣・・・。

 でも言っていることは正しいことだと思う。

 例え実力がどれだけ高かろうが、その人となりがしっかりしていなければ学園生活は送れないということだからだ。

 まあ、そんなことはさておき・・・。


「あの少年がいるということは、もしかしてあの青髪の子もいたりして・・・」


「あたしを呼んだかしら」


「ん?ああ、そうそう。確かこんな感じの声をしていたような・・・」


 俺はそう言いながらすぐ後ろを振り返る。


「久しぶりね、あなた。大体一ヶ月くらいかしら?しかしねえ、まさかあなたの妹が試験を受けるだなんてね」


「どうも、お久しぶりです。ええ・・・」


「ネネよ。けど仕方ないわよね。あたしたちと会ったのはほんの一瞬だったもの。あ、けどあたしたち、まだあなたの名前すら知らないんだけど」


 あ、あれ~?

 こんな子だったっけ?

 なんか、もっと刺々しい感じだったような気がするんだけど・・・。


「えっと、私の名前はシステリアです。どうぞ、よろしくお願いします」


「システリアね。こちらこそよろしくね」


 そう言って、俺たちは互いに握手を交わす。


「だけど、()()()だけには近づかないことね。あたしが何をするかわかったもんじゃないから」


 マサトっていうのがあの少年の名前か・・・ふむふむ、なるほどなるほど。


「わかってますよ。ネネさんは本当にマサトさんが好きなんですね」


「ち、ちがうわよ!あたしは、別にマサトのことなんてなんとも思っていないわよ!だから・・・その、マサトのことを好きだとか勝手に言わないでくれるかしら・・・」


 なんだろう、このわかりやすさ。

 これが俗に言うツンデレってやつか。


「それで、ネネさんはマサトさんのどこが好きなんですか?」


「だから!あたしは別にマサトのことが好きだなんて言ってないでしょっ!!」


 ネネさんがそう声を張り上げたその時だった。

 周りの保護者一同はもちろん、広場の受験者も一斉にその目線をネネさんへと向ける。

 そしてそれはマサトくんも同様だった。


「あ・・・」


 ネネさんがはっとした表情でそれに気づくと、顔色が赤から青へと急速に変わっていく。

 ダメだ、ふ、それやめてっ、笑いを堪えるのでお腹が・・・。


「ネネ、今のって・・・」


「違うっ、違うから!あたしはマサトのことが嫌いってわけじゃないから!」


「え?じゃあ・・・好き?」


「す、すすす、好きじゃないから!マサトは普通よ、ふ・つ・う!」


 あ~完全に墓穴掘ってるでしょ、これ。

 だってね~?もう薄々気づいている人が大半だし、これ以上言い訳するのも苦しいんじゃないのか?


「おいっ、おめえら!ここは色恋沙汰を持ち込んでいいような場所じゃねえぞ!わかってんのか!」


 すると、一人の男がそう言いながら二人の間に割ってはいる。


「色恋沙汰?何を言っているんですか。僕とネネはただの友達だって話ですよね?」


 マサトくんが空気も読まずにそんなことを言う。

 俺も含めてだが、そんな衝撃的な一言を聞いて一瞬で静まり返る会場。

 まさかここでそんな天然ボケが出てくるとは。

 でもこれはこれで見物かも。

 はてさて、これからいったいどうなるか。


「お前、それ本気で言っているのか?」


「え?だって、それ以外考えられないじゃないですか」


「「「「「マジかよこいつ」」」」」


 うん、俺もそう思う。


「ま、まあ、友達・・・か。なら文句は言わんが、時と場所は考えるようにしろよ?坊主」


「あ、はい・・・わかり、ました?」


「「「「「うんうん」」」」」


 おいおい、ちょっと待てよ。

 まさかとは思うけど、これで幕引きか?

 それはちょっと盛り上がりに欠けるとは思わないのか?


「ねえ、ちょっと、あんた・・・」


 おっ、ここからは俺も参加しろってか?

 俺としては第三者として見ていたいんだけどな~。


「何ですか?ネネさん」


 俺がそう問いかけると、ネネさんは幽鬼のようにフラフラしながら、どこから取り出したのかわからない短刀を手に、俺に突如として襲いかかってきた。


「ほいっと」


 俺は連続で繰り出されるネネさんの短刀捌きを、軽く体を捻ることで回避する。


「うっ・・・」


 そして、俺は隙を見て素早く短刀を握るネネさんの手首を掴み、折れない程度に捻る。

 骨が折れていないとはいえ、一瞬だけど鋭い痛みが走るため、思わず短刀を手離してしまうネネさん。


「いきなり何をするんですか?危ないじゃないですか。それに、ネネさんも試験を受けるんですよね?こんなことで失格になってもいいんですか?」


 すると、ネネさんは殺気を帯びた目で俺を睨みつけた後、黙って俺の手を払い、短刀を拾った後に試験会場へと戻っていった。

 そりゃあ、やっぱり怒るよね。

 後ろから刺されることが今後あるかもしれないけど、それは仕方がないこと、なのかもしれない。

 まあ、別に刺されることはいいけど、秘密がバレないようにはしないといけないかな。


「ごほん。では、気をとり直しまして。ただいまから推薦試験を開始致します!」


 おっ、やっと始まるのか。

 ここからはお遊びは禁止して、クーネの応援に専念するとしよう。

 よし、そうと決まれば俺もクーネに負けないくらいの気合を入れないといけないかな。

 さて、試合はいつ始まるのかな?





























 試合が始まるまでの間、俺は保護者席にてそわそわしていて落ち着かないクーネの様子を逐一確認していると、先程説明を行った職員だろうか?

 試合の詳細を説明するアナウンスが入った。


「試合は全てトーナメント形式で行います。また、入学できる者は四人ということですので、皆さんには四ブロックに別れて頂き、各ブロックの優勝者を決めてもらうことになります。なお、事前にこちらでブロック別に抽選をしておりますので、皆さんには職員の者から呼ばれ次第、試合をしていただくことになりますので、ご了承ください」


 なるほどなるほど。

 それで、クーネはいったい何ブロックて何試合目なんだ?


「受験番号218番、クーネさん。北ブロックの第一試合目となっておりますので、すぐに準備の程をお願いします」


 おっ、まさかの一発目がクーネか。

 なんか運がいいのか悪いのかわからないけど、力の限り頑張ってほしいと思う。

 なお、この試合会場は東西南北でブロックの場所が分かるので、一々探すという手間が省けるため非常に助かっていたりする。


「受験番号、779、番。ネネさん。南ブロックの、第三、試合目」


 ネネさんはクーネの真逆のブロックか。

 これでクーネとぶつかることはなさそうだ。

 で、マサトくんは何ブロックかな?


「受験番号434番っ、マサトさん!東ブロックの第一試合目となっていま~す!すぐに準備をお願いしますね!」


 ほっ、東ブロックか。

 一番の問題だったマサトくんがクーネとぶつからなくて良かった。

 でも、しかし・・・。


「凄い魔力量・・・。あの子、いったい何者?」


 それは西ブロックにいる女の子。

 あのベリアルさんとツクヨミさんよりかは若干劣るけど、それでも若干というレベルだ。

 常人を遥かに凌ぐ魔力量であることにはかわりない。

 もしかして、新手の神だったりするのか?


「兎も角、今はクーネの応援が最優先だ。でも、クーネ以外にこれといった受験者はいない気がするけど」


 まあ、それはあくまでも魔力量での話だ。

 クーネも魔力量に関しては普通よりかは多いくらいだ。

 だけど、クーネの実力がそれだけではないというのはこれまで一緒に過ごしてきた俺が一番知っていることだ。

 だから、完全に全ての受験者の実力を把握できる、というわけではないのだ。


「それでは、ただいまから第一試合目を始めさせて頂きます。各自、予め用意された転送門(ゲート)に入ってください」


 そうアナウンスが流れると同時に、一斉に各ブロックの受験者が転送門(ゲート)へと入っていく。

 それはもちろんクーネも同様だ。

 なお、転送門(ゲート)の行き先はランダムとなっているらしい。

 荒野だったり、深い森の中だったり、湿地帯だったり、火山地帯だったりと、周囲の環境をどう活かすかも勝利の鍵だったりする。


「あっ、クーネは森林地帯になったんだ」


 ちなみに、俺たち保護者を含む観戦者は、投影鏡(スクリーン)という魔法で試合の様子がわかるようになっている。

 今回は多くの人々が観戦するので、投影鏡(スクリーン)の規模も大きい。

 普通は両腕を広げたくらいの大きさなのだけど、今回は映画館のそれくらいある。

 というか、この投影鏡(スクリーン)って魔法考えた奴、絶対に転生者だろ。

 そして、この巨大サイズの投影鏡(スクリーン)は各ブロックに一つずつ配置されている。

 しかしなあ、これ一つだけども魔法を維持するのは至難の業だというのに、いったい誰がこれをやっているのだろうか?


「基本的に魔法って、複数人で行使しようとすると、互いの魔法が干渉しあって自壊する・・・でしたよね?」


 俺は少し前に知り合った、マサトくんのお母さんにそう問いかける。


「まあっ、システリアちゃんはよく勉強をしているのね~。そうねえ~。確かにシステリアちゃんの言う通りなのよね。でもねえ、システリアちゃん。これはたった一人によるものなのよ。それも全ての、なのよね~」


「えっ、それって凄いことじゃないですか。これ程の規模の魔法をたった一人で発動から維持までしているなんて、いったいどんな人なんですかね?」


「うふふっ、それはここの学長さんが自らやっているようなのよね~」


「学長さんですか!それはまた凄いですね!」


「でもね、一番凄いのは、それを凄いで終わらせるシステリアちゃんなのよね~」


「あっ!クーネの試合が始まりますよ!」


「あ、聞いてないのね~」


 クーネ、絶対に負けるなよ。

 あと、ケガはしないでくれ。

 俺は過保護過ぎるほどクーネの身を心配しながらも、投影鏡(スクリーン)を乗り出し気味に見つめる。


「それでは、試合を開始してください!」


 そうアナウンスが流れる。

 その瞬間、クーネの相手となる男の子は剣を片手に飛び出す。

 俺はそんな様子を見て、ふと安堵してしまった。


「これは、クーネの勝ちで決まりかな」


 俺がそう言うのとほぼ同時に投影鏡(スクリーン)全体が赤く染まる。


「おおっ、いきなりなんだ?」


「これって、不具合か何かなの?」


「いや、あれは魔法だ・・・」


「あなた、これが魔法ですって?そんなの無理に決まっているじゃない。そもそも、こんなことができる大規模な魔法を一瞬でなんて、そんなのありえない・・・」


 女が男の発言に対してありえないとバカにしていると、少しずつだが投影鏡(スクリーン)がその色を取り戻していく。


「嘘、でしょ?」


 色彩が完全に甦る。

 そこに映ったのはクーネと、倒れ伏している男の子。

 そして、見る影もなくなった森だけだった。


「確かに全力でとは言ったけど、流石に限度というものがあるかな・・・」


 まさかあの魔法を使うとは。

 それとなく対戦相手の男の子が死なないように調整はしているけど・・・。


「ベリアルさんの魔法は使わせないようにした方がいいかな・・・」


 ま、まあ、兎も角だ。

 勝ちは勝ちだから、これはこれで良しとしよう。

 負けるよりかは、だからだ。

 こうして、クーネの初戦は圧倒的勝利で幕を閉じた。

 あと始末が大変そうだな~と思った試合でもあった。






魔力量の序列(試験メンバー)

西ブロックの女の子>マサトくん>クーネ=ネネ

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