八夜
※これはクーネと出会ってから一週間の間の話です。
「クーネ」
「なあに?お姉ちゃん」
「わ、わ、わ・・・」
「うん」
「わ、わた、わた・・・」
「うん」
「わた、し・・・やっぱりダメだ!もう無理っ!」
「あとちょっとだったのに・・・」
俺たちは今、二人で町を歩けるようにするための練習をしている。
俺としても何変なこと言ってるんだって感じだけど、これは事情があってのことなのだ。
というのも、クーネは不死人狩りの一族なのだ。
何かの拍子でこれがバレてしまっては、クーネの動きに制限が設けられることになるだろう。
今や希少な一族となってしまったクーネの一族だ。
今だ解明されていないことが多いため、数多くの研究者がこぞってクーネを保護しようとするだろう。
もしもそうなってしまった場合、クーネの目的が果たしづらくなるのは間違いないだろう。
そこで、今回町を歩きたいというクーネの要望を答えると共に、ここでクーネと俺との関係を周囲に理解させる必要があるのだ。
カモフラージュ的な意味で。
「なあ、クーネ。俺たちが姉妹という設定はいい。俺が姉で、クーネが妹、それに異を唱えるつもりはない。だけど、さ。今更話し方を変えろって言われても無理じゃないのか?」
「いける」
何がどういけるっていうんだ・・・。
確かに男らしい発言や行動は控えてきたつもりだ。
しかし、俺のことを自分、と呼んできた俺にとって、今更私に変えろって言われても正直言って恥ずかしい。
というか、最初からそれが理由だったんだけどさ。
男として生まれた俺が、私というのはどうも抵抗がある。
そこで、男でも女でもない、まさに中間の自己人称である自分と呼ぶことにしたのだ。
それなのに・・・。
「いや、やっぱ無理なんじゃ・・・」
「もっと自信を持って。大丈夫、クーネのお姉ちゃんだったらできる」
「とは言っても・・・」
「それに、やっぱりもう少しお姉ちゃんらしくした方がいい。特に、この前の」
この前の?
ああ~あれか。
「あれはまあ、仕方ないんじゃないのか?どっちにしても、俺には拒否権なんてなかったんだし」
「違う。お姉ちゃんが戦うのは、いい。でも、その戦い方が問題」
「と、いいますと?」
「うん。お兄ちゃんだったら、別にいい。でも、今はお姉ちゃんだから、魔法とか、弓とか使った方がいい」
う~ん、まあ、この世界での女性の戦い方としてはそうだろう。
でもなんか面倒くさいんだよね。
剣ならまだしも、弓とか俺には向いてないと思う。
もしも矢が外れたら、その分無駄な時間ができてしまうし、何より威力が低い。
普通に殴ったり蹴ったりした方が有効なダメージを与えられるというのに、弓では小さい傷を作るのが関の山だったりする。
そんな物を使うよりかは、という考えでこれまで一切の武器を使ってこなかったのだけど・・・。
「使った方が、やっぱり女性らしい?」
「うん。少なくとも、今よりかは」
そうですか。
でも武器か~。
う~ん、どうしようか。
「あっ、例えばの話だけどさ。もしも俺がなんの武器も使いこなせなかったとしたら、これまで通り人目につかないところでなんて・・・ダメか?」
「ダメ」
くう~厳しい!
でもそんなところも可愛いから憎もうにも憎めない。
「それに、このままだったら、確実に探りが入る」
う~ん、それはそれで嫌かな。
必要以上の情報が漏れるかもしれないし、何よりそんな目を掻い潜って生活するのは精神的に応えそうだ。
「だから、そこまで目立つ必要はないけど、ある程度の情報提示は必要」
うっ、確かにクーネの言う通りだ。
俺はこの一ヶ月、狩りの依頼を中心に活動を続けてきた。
だけど、俺がこれまでで唯一提示した情報と言えば魔物の討伐数のみ。
それも大量に。
俺が仲良くなったギルド職員のセレスさんによると、異常だと言われる程の討伐数らしい。
これでは誰もが不思議に思っても仕方ないだろう。
「まあ、今日はほら、町を見てまわるんだろ?一旦ここで切り上げてさ、ね?」
「む~わかった。でも、帰ったらまた練習」
マ、マジですか・・・。
「クーネ、楽しい?」
「うんっ!」
やっぱりいいなあ〜。
こうして無邪気な子供の楽しそうなところを見ていると、ついつい口元が緩んでしまう。
「はあ、可愛いなあ〜」
「?」
そんな感じで癒され中の俺とスキップしながら楽しんでいるクーネは今、書庫街の町を適当にブラブラと散歩しているところだ。
特にこれといった目的はないけど、クーネはそれでもいいと言ったので、こうしたのんびりとした散歩になっている。
「これは、なに?あっ、あれもあれも!」
見るもの全てが珍しいのか、クーネは目をキラキラさせて楽しんでいる。
「これはね・・・」
という感じに、クーネが知らないものを見つける度に俺が教えるというやり取りが続いている。
そのおかけで退屈せずにすんでいる。
逆にちょっと忙しい感じだけど。
「おや?なんだ、システリアじゃないか」
「あっ、ローザさん。こんにちは」
クーネとのお出かけで出会った知り合い第一号はローザさんでした。
やっぱり最初はまともな人からがいいよね。
クーネも人見知りなところがあるし、俺としてもそっちの方が楽だから。
「ん?おい、システリア。その子は?」
「あ~この子ですか?この子はわた、わた・・・わた、しの妹です」
「なぜそんなに緊張しているのだ?まあ、よい。それよりも・・・」
すると突然、ローザさんはジッとクーネを観察するように顔を近づける。
「な、なに?」
「可愛いな」
ローザさんはそう呟くと、これまた突然クーネに抱きつく。
「苦しい・・・」
「はあ、はあ・・・良い匂いだな、すべすべだな、柔らかいな・・・!!」
鼻息を荒くしながら変態臭を醸し出すローザさんは、クーネの頬に自分のをすりすりしていらっしゃった。
あれっ、ローザさんって、こんな人だったっけ?
というか・・・。
「ロリコン?」
「ち、ちがうぞ⁉ これは、その、なんだ・・・そうっ、スキンシップだ、スキンシップ」
「ふーん」
「あっ!その顔、信じてないな?」
「・・・」
「なぜ黙る」
「・・・」
俺が呆れて、とは言え俺も人のことは言えないのだが、そんなローザさんの言動に対してコメントと表情共に無になっていると、ローザさんのその凛々しいお顔が徐々に泣きそうな顔になっていって・・・。
「システリアのいじわる~!私はロリコンではないと言っているのに~!!」
うん、これ、完全に酔ってる。
「朝からお酒ですか?ちょっと感心しませんね?それでもここの聖騎士ですか?」
「むう~ちょっとくらいよいではないか~」
子供の目の前で変なことをしないでくれますか?
教育上、悪影響を与えかねないじゃないか。
「はいはい。ローザさんは今日は大人しく家に帰って寝てください」
「釣れないな~。まあ、いいか~。ではな、システリア。じゃあ、私はまた飲み直すか~」
おい・・・って、もういいか。
もう面倒くさい。
今日はクーネとの折角のお出かけなのに、無駄に時間を使う義理もないし。
「クーネ、あんな人みたいになっちゃダメだからね、いい?」
「うん」
次はもっとましな人が来ることが願う。
それは突然襲ってきた。
俊敏な動きで人の波を抜けてくるそれは、とてもではないが人間とは思えない速さをしていた。
そしてそれは目の前にその姿を現わすや否や、俺に向かって拳を差し向ける。
それは、俺が遠目で視認してからおよそニ秒のことだった。
「ちっ!」
「いきなりなんなんですか?危害を加えないという約束だったはずですけど?」
「はっ!あたしの拳を軽々受け止めやがったくせによく言うぜ」
まったく、これじゃあ前と何も変わっていないじゃないか。
「システリアか。出会って早々すまんな、このバカが」
「ああっ?」
二人一緒なんてなかなか珍しいような・・・いや、そうでもないか。
俺はそんなどうでもいいことを考えながらも、目の前にベリアルとツクヨミ、またの名を、アクトとコウカが現れたのだった。
「あ、この前の」
「お、なんだチビか~。今日も元気か?」
「うん、元気」
クーネ、なんか嬉しそうだね。
俺には好戦的なツクヨミさんだけど、クーネにはなぜか甘いんだよ、ホント。
しかも以外と面倒見いいし。
「そうだ、システリア。お前に一つ聞きたいことがあるのだが、よいか?」
「い、いいですけど・・・」
ベリアルさんが俺に聞きたいこと?
それっていったいなんだろう・・・。
「この近くに学校という教育機関があるようだが、それはどこだ?」
「が、学校ですか?」
「がっこう?ってなに?」
まさかまさかとは思うけど、ベリアルさんって学校にでも行くのか?
まあ、転生後の年齢を考えたらそりゃあ当然だろうけどさ。
あと、クーネは学校も知らないんだ。
「ほう、クーネは学校を知らんのか。まあ、簡単に言うと知りたいことを学べる場所だ。我は行く必要など皆無なのだが、親からしつこく言われるものなのでな。仕方なく行くことにしたのだ。このバカと一緒にな」
「バカって言うなっ!」
「学校・・・」
ベリアルさんの話を聞いて興味が湧いたのか、思わずポツリと呟いてしまうクーネ。
もっとも、本人はそのことに気づいていないようだったが。
クーネ、もしかして・・・。
「学校、行きたい?」
「うん」
即答か〜。
でもまあ、俺が一から全てを教えるよりかは遥かに手間が省けるのは確かだし、クーネをこの街の暮らしに慣れさせるまたとない機会だ。
学校に行かせるというのはこれらの点で言えば非常に都合がいいのだけど、やっぱりどうにも心配というか・・・。
あっ、そうだ!
「あの、アクトさん、コウカさん」
「なんだ?」
「なにっ、ケンカか⁉」
「いや、ケンカはしないですけど。えっとですね、お二人に少しお願いしたいことがあるんですけど、大丈夫ですか?」
「聞くだけなら構わん」
「やっぱりケンカか⁉」
だから、ケンカなんてしないから。
「実は、クーネのことなんですけど。たった今クーネを学校に行かせることになりました」
「ほう、それで?」
「それでですね。わ、わた、私としましては、やっぱり不安なものは不安なんですよ。お二人はわた、私が言いたいことがわかると思いますけど、つまりはそういうことです」
「ふむ、なるほど。まあ、それくらいなら構わん」
え、いいの?
いや、なんかそんなにあっさり了承されると逆に不安になるような・・・。
でもなんだかんだ言って、この二人はクーネには優しいところがあるし、なんとかしてくれるはずだ。
少なくともそう思いたい。
「ん?なにがなにが?」
訂正、ベリアルさんしか頼りにならないっぽい。
良い意味でも悪い意味でもツクヨミさんはこんなだから。
「学校・・・!」
うわあ~凄く楽しみにしてる。
忙しく手振り身振りしながらあれこれ想像している姿を見るに、一日でも早く学校に行きたいという気持ちが強く伝わってくる。
そして俺はというと、そんなクーネの様子を見て思わず抱きしめそうになってしまう欲求を必死に抑えていた。
姉がその妹を抱きしめるのはそう悪い絵ではない。
だが、俺という男の部分が暴走してしまうかもしれなかったからだ。
そこで一旦、クーネから目を離して言葉を交わすことで紛らわすことにした。
「あっ、ちなみに学校はこの大通りをそのまま真っ直ぐに進んでもらえばありますよ」
「真っ直ぐだな。すまんな、助かった。おい、行くぞバカ」
「だから、バカって言うなっ!」
やっぱりベリアルさんってしっかりしてるよね。
少し高圧的で、初対面ではつい畏縮してしまう恐さがあるけど、話してみるとかなりの常識人で頼りになるいい人だ。
これで悪魔?って言いたくなるけど、ベリアルさんは別なのかもしれない。
そもそも、悪魔から神になったんだから、そりゃあそんじょそこらの悪魔とは訳が違うか。
ツクヨミさんも武力に訴えてくるところさえ除けばいい人だ。
クーネに優しくしてくれるし。
しかし毎度毎度思うけど、どうにもツクヨミって雰囲気じゃないよね。
俺ってば、ツクヨミっていうのは大和撫子なイメージだったんだけど、現実はその真逆ときた。
まあ、それが良いところでもあるけど。
ふう、それにしてもたったの一言ずつしか話していないというのに、意外と気が紛れるものだ。
それはこの二人の自然なやりとりがそうさせるのだろうが。
「む、お前たちはいいのか?」
「え?ああ~大丈夫ですよ。来た道を戻るのもなんか嫌なので、帰りにでもよることにします」
「ふん、そうか。ではな」
「じゃあなっ!クーネ、システリア!」
二人はその後も騒がしくであるけど、学校のある方向へと歩いていった。
ふと隣にいるクーネを見ると、学校に行くのが待ち遠しいのか、ずっと二人が行く先を見つめていた。
さてと、これはクーネのためにもいろいろと準備しないといけないかな。
「じゃあ、行こうか」
「うん」
「おっ!システリアじゃねえか。どうしたんだ?こんなところで」
「ギンガさんこそ、ここで何をしているんですか?」
俺たちはツクヨミさん、ベリアルさんと別れた後、魔道具屋さんの前でギンガさんと出会っていた。
「俺はここで何か面白いものがないか見ていただけだが・・・って、お前、その子は?」
「あ、この子ですか?」
「クーネです。よろしく、お願いします」
俺がクーネのことを紹介する前に名乗ってくれるクーネ。
非常に手間が省けてありがたい。
「クーネ、か。良い名前だな。それで、これはいったい誰との子なんだ?」
「へ?いや、誰との子って・・・クーネはただの」
「ただの?なんだって言うんだ?」
ギンガさん、なんか怖い。
目の焦点が全然あっていないんですけど。
「あのですね。クーネはわた、うん、私の妹なんですよ」
「妹、か。ならいい」
「え?あ〜えっと・・・はい」
なんだかよくわからないけど、無事に元のギンガさんに戻ったのか?
まあ、兎も角。
変な誤解は解けたようだし、ついでに俺とクーネの関係も伝えることができたし、別にいいか。
「あっ、ちょうどギンガさんに聞きたいことがあったんですけど、学校に行くのに何か必要な物ってありますか?」
「システリア、お前、学校に行きたいのか?」
「わ、私じゃありませんよ。クーネが学校に行くんですよ」
「ふむふむ、なるほどな・・・」
ギンガさん?それはいったい何をメモしているんですか?
凄く気になって仕方ないのですが。
「それで、学校に行くのに必要な物はあるんですか?それともないんですか?」
俺が再びそう問いかけると、ギンガさんは徐にメモ張を懐にしまう。
「必要な物か。悪いが、それは俺の管轄外というものだ。こちとら、学校なんて一度も行ったことがない身だからな。詳しいことはセレスに聞いてみるといいぞ」
え、ギンガさんって学校行ってないのか・・・。
ていうか、それでよくギルド長になれたな、本当に。
でもセレスさんか~。
今忙しくなければいいけど。
「ありがとうございます。では、わ、たしはこれで失礼しますね」
「おうっ。まあ、いろいろと大変だろうが、頑張れよ」
「はい」
「それと、クーネちゃんも勉強頑張るんだぞ?」
「うん」
こうして俺たちは、ギンガさんに言われたように、セレスさんのいるギルドへと向かうことになったのだった。
「すみませ~ん」
「はいはーい。あれっ、システリアさんじゃないですか。今日は何のご用で?」
「ちょっと聞きたいことがあって来たんですけど、時間って大丈夫ですか?」
「全然大丈夫ですよ?むしろ暇してたくらいですから」
「それはちょうど良かったです。それで、聞きたいことというのはこの子、私の妹であるクーネを学校に行かせたいと思っているんですけど、学校に行かせるにあたって、何か必要な物があるのかなと思って来たんですよ」
「ふんふん、なるほどなるほど。妹ときたか・・・」
何をそんなにニヤニヤしているんだ?
何も面白いことなんてないだろうに。
「それで、どうなんですか?」
「え?ああ~うん。ありますよ、必要な物。でも、ねえ~?」
「ん?何か問題でもあるんですか?」
「お金、今どれくらい持ってるか、わかります?」
お金?いったいそれを聞いてどうするんだ?
「えっと・・・まあ、大体なんですけど、これくらいかな、と」
俺は近くのあった適当な紙に大まかな全財産の額を書き、こっそりとセレスさんに渡す。
「ああ~やっぱりこのくらいか・・・。あのね、システリアさん」
「はい・・・なんですか?」
「この金額だと、間違いなく足りませんよ?」
「は?」
え、まさかの資金不足?
でもさ、俺の今の全財産ってあと二つは家を建てられるんだけど、それで足りないって言うのか?
「それは・・・本当のこと、ですか?」
「ええ、本当のことですよ?あと少しどころか、この倍は必要ですね」
「この金額の、倍⁉」
マジかよ・・・。
でもそうだとしたら、この世界の学校ってただの貴族校じゃないか。
平民は学ぶ機会もなく大人になり、貴族はきちんと教養を受けれるため、地位を確立しやすい。
まさに貴族社会じゃないかよ。
これじゃあ、ギンガさんが学校に行けなかったというのも頷ける。
「えっと・・・依頼の方ってまだ残っていたり」
「しないですね。システリアさんがここ一ヶ月で溜まっていたもの全て消費してくださったおかげですね。と、いうことで、今のところ依頼という依頼は全くないですね、はい」
そ、そんな、バカな・・・。
「だから暇なんですね、なんだか納得です」
「でも、これはこれで苦痛なんですよ?暇な時間で溢れていますから、何をするかで苦労するんですよ。ほら、私ってば何かしないと死んでしまう人間なので、何をしようかな~って悩んじゃうんですよ」
いや、普通に羨ましいよ。
ただ暇するだけでお金が貰えるんだから、それはまさに天国のような職場だろ。
楽してお金が貰えないニートならば真っ先に食いつくこと間違いなしだろう。
「へえー、そうなんですねー。まあ、とりあえずセレスさんのことは置いておいてですね」
「なんか、怒ってますか?」
「いい~え?ただの気のせいだと思いますよ?」
でもなあ、正直どうしようか困る。
恐らく、ベリアルさんは近い内に学校へと入学するのだろう。
でも、俺たちの現在の資金では入学するまでにかなりの時間がかかってしまう。
俺としては、できるだけベリアルさんたちと一緒に入学してほしいと思っている。
そっちの方が、何かとその後がやり易いだろうし。
でも、このままではきっとクーネの入学を先送りにするしかなくなる。
なにか、ないのか・・・?
俺がうんうん唸っていると、セレスさんの奥からベルの音が鳴った。
「あっ、すみません。ちょっと依頼が届いたらしいので、少し席をはずしますね」
セレスさんはそう言うと、足早に窓口の奥へと行ってしまう。
「う~ん、何かないのかな?推薦とかで入学できたりしないのかな?」
ポツリとそんな都合のいいことを呟いていると、セレスさんがこちらに戻ってくるのが見えた。
そして、その様子はどこか興奮しているようにも見えた。
「システリアさん!これっ、これを見てください!!」
「いきなりなんなんですか?私はそんなことよりもクーネの入学資金のことで・・・」
俺はセレスさんが持ってきた一枚の依頼書を見る。
そして、俺はそれを見て思わずセレスさんから依頼書を奪い取ってしまう。
でもそれは仕方ないことだと思う。
だって、そこには・・・。
「これ、クーネも対象とした推薦案内、じゃないですか・・・!」
デモナ・エントワ学院からの、入学を志す全ての者を対象とした実技試験による推薦、それがこの依頼書には書かれてあったからだ。
「これなら、いける!」
「いえいえ、まだそう決めつけるのは早いですよ。ほら、ここ」
セレスさんがそう言って指差したのは、依頼書の下に書かれた一文だった。
「えっと~なになに?なお、推薦による合格者は上位四人までとする・・・」
俺はその一文を読んだあと、セレスさんの方を見る。
「いつもの、ですね。でもですね、私もそこまで詳しく知っているというわけではありません。今回、こうして推薦という形での入学が可能となったわけですが、これは私が知る限りでは初めてのことです。恐らく、最近の学院から優秀な人材が輩出できていないというのが理由だと思われます。そして、これは学院の意図するようにことが運ぶことでしょう」
「と、言いますと?」
「はい。まず、確実に相当な実力者が集結すると思われます。さっきも言いましたが、エントワ学院には莫大な入学資金が必要となります。そのため、どれだけ実力があろうと入学は叶わないのですよ。しかし、今回は実力があれば入学できるチャンスがでてきたのです。これに飛びつかない人は早々いませんよ?」
まあ、そりゃあそうだよね。
しかし、そうなったら自然と受験者も多くなるはずだ。
そうなったら、倍率とかどうなるんだろう。
なんかだんだんと不安になってきた・・・。
「やっぱりそうなりますよね・・・。でも、それしか今のところ方法はない、ですからね」
「まあまあ、そう深く考え込まなくてもいいのではありませんか?はい、一応依頼書の写しをお渡ししておきますね」
「あ、ありがとうございます。しかし・・・なんで学校側は依頼、という形で案内するのでしょうか?」
「それは多分、冒険者の方々にも受験をしてほしいからでしょう。単純に学校側の株を上げるため、というのもあると思うのですが、受験を通して冒険者全体の能力向上に繋げたいのではないでしょうか?」
ああ、なるほど。
それなら依頼という形でもなんら疑問には思わないか。
なんかすっきりした、いろいろと。
「あっ、そういう目的もあるかもしれないですね。何から何までありがとうございます。では、私たちはこの辺で失礼します。お仕事中すみませんでした」
「いえいえ、こちらこそありがとうございますですよ。おかげでいい暇潰しになりましたので」
暇潰し、ねえ・・・。
「帰ろっか」
「うん」
俺たちはセレスさんから今後についての有意義な話を聞けた後に、夕食の準備もあるため帰宅することにした。
「そういえば、クーネってなんでずっと黙っていたの?」
「なんか、あの人から変な感じした。だから、怖かった」
セレスさんから変な感じがした?
う~ん、別にセレスさんは普段と変わらない様子だったし、魔力にもおかしな流れがあったわけじゃないと思うけど?
「そ、そうなんだ・・・」
それ以上は何も言えなかった。
変な地雷を踏みたくなかったから。
セレスさんの地獄耳は常識では測れないところがあるから、変な発言は控えるようにしなくてはいけないからだ。
後々セレスさんから痛い目に合わさせるだろうし。
「お姉ちゃん、今日のご飯は、なに?」
「今日?今日はね、グラタン。こっちでは初挑戦だから、失敗したらごめんね?」
「ううん、いい、楽しみにしてる」
うん、可愛い。
さてと、今日はうんといいグラタンを作れるように頑張らなくては。
主人公は料理が得意。
自分も料理ができたらなんて・・・無理ですね、はい。