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二夜

 

「俺の、ことか?俺はただの人間・・・だと思う。でも今は違うのかもしれないけど。まあ、ぶっちゃけわからない」


 するとなぜかそいつは俺を変な、というかこの世のものでないとでもいうかのような目で俺を見る。


「なんでそんな目で見るんだ?わからないものをわからないと言って何かおかしいのか?ああっ?」


 少し、ではなくかなりイラッと来たので、自然と口調も荒々しくなってしまった。

 初対面の相手に対して失礼だと思うけど、これはこれで仕方ないと思う。

 いや、それよりもまずお前はいったいなんなんだって話なんだが。


「そんなに怒ることではなかろうに・・・」


「そんなに怒ることだろ」


 するとそいつは深い溜め息をついた後に。


「オレはここの番人をしている者だ。名はない」


 簡単すぎる自己紹介をした。

 いろいろと知りたかったことの何一つもわからなかったけど。


「俺は・・・の前に、これ、いったいどういう状況か理解しているのか?」


「ん?ああ、なんだ。また崩れそうなのか。ちょっと待っていてくれ」


 そう言うと、番人はなぜか崩壊寸前の空間へと入っていく。


「おい、危ないぞ」


 俺がそう声をかけるも、番人は無視してズンズン進む。

 番人は空間のちょうど中心で立ち止まると、何ならブツブツと独り言を言い始めた。

 俺は黙ってそんな奇行を眺めていると、突然崩壊寸前だった空間の時が止まった。

 落ちいくものが、重力という概念を無視して宙に留まる。

 進行中だった柱や天井の亀裂さえも、そこで終わりだったかのように止まる。

 それはまるで、魔法が起こす奇跡のようなものだった。

 そんな非常識な光景を目の当たりにして呆然としていると、ゆっくりと崩れていたものが時を遡るように元通りになっていく。

 言葉も出せずに眺めること三分弱で、俺が最初に見た状態へと完全に巨大な空間は修復された。


「すまんな、少し待たせてしまって」


 番人はなんでもないようにそう言いながら俺の前まで戻ってくる。


「凄いよ、あんた」


「スゴい?はっ、やめてくれよ。これは俺にとって呪われた力なのだから」


 あれっ、俺なんか癇に障ること言ったかな?


「そ、そうなのか・・・。あ、俺まだ名前すら言っていなかったっけ?」


 ここは一応、礼儀としても名を名乗った方がいいはずだ。

 あっちは名前なんてないみたいに言ってくれたけど。

 そうして、俺がいざ名を名乗ろうとしたその瞬間、ふと甦る黒い記憶。


「なあ、もし良かったらでいいんだけど。俺に名前をつけてくれたりしないか?」


「はあ?」


 ああ~、やっぱりそうなるよね・・・。

 まあ、何の前触れもなく名前をつけてくれとそんなことを言われれば、普通は誰だってそんな反応をするだろう。

 まあ、俺もそれなりに理由があってのことなのだが。

 主に気持ちの問題で、だけど。

 俺はどういうわけか、こうして二度目の生を受けた。

 非常に不本意な形で。

 最終目的は俺が死ぬこと。

 すぐにその目的が達成されるのなら新しい名前などいらない。

 しかし、その道は険しく、永いものになると容易に予想される。

 そこで、新しく生まれ変わったという実感を得るためにも、こうして新しい名前を希望しているのだ。

 つまり、俺は俺という存在を心機一転したいがために新名(ニューネーム)を希望したのだ。

 そうでもしなければ、さっきのように、ふとしたときでも思い出してしまうから。


「そうだな・・・」


 あれっ、以外に立ち直り早くないか?

 もしかして、前にも似たような経験をしていたり・・・とか?


()()()()()


「システリア、か・・・」


 システリア、俺のなかではそんなに悪くない名前だと思う。

 今は完全に見た目は女性そのものなのだから、中身が男の俺はそれに慣れなければいけないのだが。


「システリア、この名前の元ネタはオマエのその体、つまり以前の持ち主の名前を少しいじった名前だ」


「前の持ち主って・・・まさか、この体について知っているということなのか?」


 この体の持ち主を知っている、その言葉を聞いた途端、俺の心は期待でいっぱいになる。


「その姿を見てまさかとは思ったが、つい先程見せてもらったオマエのその異常な不死性、それを見て確信へと至った」


「ん?ちょっと待て、先程見せてもらったって・・・」


「ああ、すまん。オレの目は特別でな。意識すれば壁越しでも鮮明に見ることができるんだ。異常な不死性、というのも、オマエが目覚めた後の行動を観察していたためだ」


 何その能力、覗きに関しては無駄に高スペック過ぎないか?

 ま、まあ、別にやらしいことをしていたわけでもないから、そこまで気にすることでもないけど。


「だが、オレが知っているというのはあくまで前の、だ。今のオマエの肉体のことはわからない」

 

「なっ、どうして!?」


 わからない、という言葉を聞いて、先程まで抱いていた俺の期待は、急激に落胆へと変わっていく。


「それは、オマエのその器が変質しているからだ」


「変質?」


「そうだ。主にそれは驚異的なその不死性が、永い年月をかけて染み付いてしまっている、ということになるのだが」


「ごめん、もっと詳しく頼む」


「む、いきなりでは難しかったか。では前の持ち主、()()()()のことから話すことにしよう」


 ん?そのアトリエってさ・・・偽名、だよね?


「それは偽名、なのか?」


「よく気がついたな。確かにアトリエという名は偽名だ。本名は知らんがな」


 知らないのかよ。

 何を思ってそんな偽名を使っているのか気になったりするけど、アトリエ、それも含めていったいどんな人物だったのだろうか・・・?


「アトリエは、不死身のヴァンパイアだった」


「ヴァンパイア?」


「その肉体を保有するいうことは、オマエも必然的にヴァンパイアになるのだがな」


 あ、そっか。

 それじゃあ、俺は人間をやめてしまったということになるのか。

 どこか人間味がないなあ、とは思っていたけど、まさか人間ですらなかったとは。


「それでだ。アトリエの奴は不死身のヴァンパイアということに加えて、極度の遊び人でもあった」


「遊び人ってなあ・・・」


「オマエの気持ちもわからんでもない。でもオマエの思っている遊び人とは違うと思うぞ?」


 どういうことだ?

 遊び人は遊び人だろうに。


「アトリエにとっての遊びというのは、すなわち神との殺しあいのことだ」


「へあっ?」


 神と殺しあい、だって・・・?

 どんだけ頭おかしいんだ?

 完全に頭のネジが外れてるよ、それ。

 一本と言わず、何十本と。

 ていうか神、いるのか・・・。


「アトリエ曰く、生を実感できる唯一の相手だから、だそうだ」


「にしても神を相手にできるなんて、どんだけ強かったんだって話なんだけど」


「そこでオマエの不死性に繋がってくるんだが、アトリエの不死性はオマエのような()()()不死ではなく、()()()な不死性だったんだ」


 肉体的な不死はわかる。

 でも事象的な不死性ってどういうことなのだろうか?


「アトリエは自身に死が訪れるその時を予知し、それを防ぐことができるのだ」


「未来予知による死の回避ができると、でもそれのいったいどこが俺の不死性と繋がってくるんだ?」


「それは簡単な話だ。アトリエのその力は主にアトリエ自身が持つ膨大な魔力により発現した能力だ。故に、アトリエの能力は魔力そのものでもあると言えるわけだ」


 うん、それで?


「つまり、永い年月をかけて放置されたアトリエの不死の魔力が少しずつ、本当に微々たるものであるが、確実にその体へと吸収されていき、いつしか予知による不死性は失われ、肉体的な不死へと変化した、ということになると思われる。オマエ、さっき守護者から攻撃された時、何か見えなかったか?」


「いや、そういうのは全然見えなかった」


 もし見えていても意味なんてなかったと思うけどな。

 あれっ、でも、俺って今思えば有り得ないことをしていたよね?

 普通こんな剣一本で超巨大なゴーレムを倒せるわけない、のにな・・・。

 ま、まあ、一先ず今は考えないでおくか。

 話を聞いている内に解決できるかもしれないし。


「ついでに一応言っておくが、今のオマエには全くというほど魔力はない。これも恐らくその肉体へと吸収されたからなのだろうがな」


 う~ん、やっぱりわからない。

 魔力ってさっきから言っているけど何なんだ?

 でも、あえてそれは聞かない。

 ないと言われたものをいつまでも気にしていても時間の無駄になるだけだからだ。


「でも、なんかわかる気がする。だって妙に体が軽いし」


 俺がそんなことを言うと、番人は何かに納得したように頷き始めた。

 俺はそんな様子を見て。


「何かわかったのか?」


「そうだな、これで確信がもてた。オマエのその体にはアトリエの魔力が完全に吸収されている。そして、その魔力はオマエの不死性だけでなく、身体能力をも飛躍的に上昇させていることだろう」


 う~ん、確かにゴーレムとの戦闘で身体能力が向上しているというのはわかったけど・・・。

 具体的にどの程度の身体能力になっているのだろうか?


「これは予想でしかないのだが、今のオマエの力は軽く見積もっても災害クラスの力なのは間違いない」


 これまた予想をしない言葉が出てきたな。

 災害クラス?それって地震だったり津波だったりそういう災害のことだよな?


「それじゃあ、今の俺の力って・・・」


「神を相手に互角に戦えるくらいの力は確実にあると考えてもいい」


 うわあ~、マジでいらないんですけど。

 死にたがりの俺にそこまでの力必要ないんですけど。


「とは言え、もうすでに神はこの世に一人としていないのだがな」


「は?」


「なんせ、アトリエの奴が全員殺してしまったからな」


 いやいや、そんなさも当然のように言うこと?

 ありえないだろ、そんなの人間わざ・・・じゃないか。


「信じられないという顔だな。でもこれは事実だ。アトリエは神々の力をも遥かに凌駕する魔力量の持ち主、それくらいは可能だった」


「いくら魔力が多いからって、神を全員殺すって無理じゃないのか?」


「オマエ、いったいどんな基準で量っているんだ?」


 どうって・・・そりゃあ一人で千人くらいの魔力量だった、とか?


「言っておくが、アトリエの魔力量はこの地上の魔力全てを集めても足りんぞ」


「・・・」


 なんか急に規模が大きくなったけど、アトリエって実は創造神だったりしない?

 神を作った親、みたいな何かだったりして。


「・・・それ、世界そのものって言っても過言じゃないだろ」


「それ、いいな。ピタリと当てはまる」


 はまっちゃうのかよ。


「だがまあ、実際のところは神は死んではいない」


「死んだんじゃなかったのか?」


「確かに死んだ。だが、それは肉体が死んだだけのこと」


 肉体が死んだだけって・・・。

 それを人は死と呼ぶんじゃないのだろうか?


「神はオマエ同様、この世界で転生という形で再び蘇ってきている」


 え、神も転生するのか?

 ていうか、その言い方だと現在進行形で転生をしている、ということになるよな?


「それじゃあ、俺はその転生後の神と出会うことがあるかもしれない、のか?」


「む、察しのいい奴だな。そうだ、これはオマエが転生する十五年前のことになる。突然今まで感じたことのない強力過ぎる魔力を感じたのだ。そのときは突然変異で何かが誕生したのだろうぐらいにしか思わなかったのだが、その日を境に強大な魔力を頻繁に感じるようになったのだ。流石にここまでくれば大体の予想はつく。神が転生を果たしているということがな」


 でもさあ、そんな強力な魔力、というだけで神だというのは早計だと思うんだけど?


「というのも、神は転生した後もその()()を纏っているのだから、隠そうとしても意味はないのだが」


「神気、とは?」


「神が放つオーラのようなものだ。神というのは存在するだけで周囲に多大な影響を与える超上の存在。周囲の魔力を変質させ、己の魔力へと変換することができるのだ。その際に発生するのが神気なのだ」


「それで、神気というのはそれだけのものなのか?」


 すると、番人ははなぜか呆れたような顔をした後、溜め息混じりであるけど説明を始めた。


「いいか?基本的に、魔力というのは己のものでしか扱えないのだ」


「へえ~、そうなんだ」


 再び入る番人の溜め息。


「頭が痛くなってきたな・・・。整理するとだな、普通は己の極限られた魔力しか使用できない。だが神は違う。なぜなら、周囲に魔力がある限り自らの魔力が尽きることがないのだからな」


「あ・・・」


 なるほど、確かにそれならとんでもない能力だ。


「それともう一つ、神気には個性があるのだ。まあ、簡単なものだと豊穣神だな。自身の魔力へと変換する際に、辺りの自然エネルギーを高めるのだ。具体的に言うと植物が急激に成長したり、土壌が良くなったりすることだな」


「なんだ、神気っていうのは意外とありがたいものなのか?」


「馬鹿言え。神気には豊穣神のようにいいものだけではない。最悪なものだと冥王神だな。こいつの神気は他者の命を奪い、それを己の魔力へと変換するのだからな」


 え・・・マジで?


「それだと、俺はその冥王神に会った途端・・・」


「死ぬ、かもしれない」


 だよな、かもしれない、だよな。

 そりゃあ、俺もそれだけで死ねないと思っていたし。


「兎も角、この世界には続々と神々が転生を始めているということだ」


「ふむふむ、なるほど・・・」


 神々が転生、か。

 よく考えたら、神ならば俺が死ねる方法を知っているのではないのだろうか?

 アトリエと戦い続けた神ならば。


「言っておくが、転生した神には関わらない方がいい」


「はあ?どうして」


「神々はオマエを封印しようとするからだ」


 封印、封印だって?

 それだと神々は俺を・・・殺せない?


「オマエの目的は死ぬこと。ならば、永遠に鎖で縛られるのをオマエは望まないはずだ」


「・・・」


「わかったなら、絶対に神には近寄るな、いいな」


「ああ、わかった」


 クソっ、この世界の神々ですら俺を殺せないのかよ。

 もしかすると、この世界には俺が死ぬ方法なんてないのではないだろうか?


「なあ、俺は・・・いや、アトリエは自分を殺すことはできたのか?」


「ああ、できた。だが、アトリエの不死性はあくまでも肉体的なものではなく事象的なものだ。だから、アトリエという存在は膨大な魔力を除けば、ただのヴァンパイアへと成り果てる。死にたいと思えば死ぬことは簡単だろう。だが、アトリエの奴は死ぬことを大層嫌っていた。アトリエにはそれなりに生きる価値を見出だしていたのかもしれないな」


 生きる価値、か。

 もしも俺の望みが叶わなかったときは、その生きる価値とやらを探してもいいかもしれない。

 でも、まだ俺は諦めない。

 俺にとっての今の安らぎが、死であるということに変わりはないのだから。


「そう、か・・・。まあ、いろいろとありがとう。話を聞くに、ここにいても俺の望みが叶わないことはわかった。外に出てからの危険性について教えてくれたことも感謝する」


 俺が別れの合図としてそう切り出すと、番人は感慨深くどこか遠くを見つめるように。


「もう、行くというのか」


 どこか寂しそうにしながらもそう言った。


「ああ、行くよ。俺の望みを叶えるためにも」


「そうか。なら、これを持っていけ」


 すると、そいつは俺に占い師が使うような水晶を手渡してきた。


「これは?」


「言わゆる魔力探知機だ。これは自動的に半径三キロ以内の生物の魔力を感知する道具だ。それと、この魔力探知機は持っているだけで作動するから特に操作の必要はない。かなり強力な魔力反応があったときは光で知らせてくれる。あとは、これだな」


 水晶の次はどこにでもありそうな地味で小さい巾着袋を手渡してきた。


「一応聞くけど、これは?」


「それはだな。まあ、それを入れてみればわかるはずだ」


 えっと、この巾着袋ってこの水晶を入れる専用の袋なのか?

 それ以外に全く使い道が想像できないんだけど。

 とりあえず、言われた通りに水晶を袋に入れる。

 すると・・・。


「あれ、これって入ったのか?全然重さが変わらないんだけど・・・」


「中身を見てみたらどうだ?」


 中身ってそりゃあ、水晶が入っているだけで・・・。


「え、ない・・・?あれ、確かに入れたはずだよな?」


 想像していなかった出来事につい驚いてしまう。

 折角もらった水晶を本気でなくしてしまったのかと思い、顔が青くなる。


「驚いてくれて何よりだ。それはこの世界で広く使われている収納アイテムだ。見ての通り、収納したアイテムは袋に入れた途端、消失する。だがそれは魔力へと変換されただけだ。容量には限りがあるものの、ありとあらゆるものを収納することが可能だ」


「凄い・・・」


 それしか言えない。

 でも良かった。

 別になくしたというわけではないのか。

 しかし・・・魔力って本当になんなんだ?なんでもありすぎるだろ。


「これ、取り出すときはどうすればいいんだ?」


「魔力へと変換するのだから、その袋に入っている魔力を取り出し、後はイメージで構成すればいい。残った魔力は元に戻せば影響はない」


「ん?その言い方だと、もし魔力を戻さなかったら戻らないように聞こえるんだけど・・・」


 俺が恐る恐るそう言うと、番人はなんでもないように。


「何を言っているんだ?そんなの消失するに決まっているだろう」


 紛失の可能性を肯定した。

 マジかよ・・・なくなるのかよ。


「ま、まあ、とりあえず・・・だな。えっと・・・こう、か?」


 文字通り手探りの状態なのだが、こればかりはやってみないとわからない。

 何の考えもなしに袋に手を突っ込んでいると、ふと何か手に当たる感覚がした、ような気がした。

 多分、これだと思う。

 ひどく感覚的なことなので言葉にはできないのだけど、なんとなくこれだ、と思える瞬間がある。

 自分でもよくわからないので、こればかりは説明のしようがない。


「ここだ!」


 俺は勢いよくそれを掴み、取り出す。

 もちろん水晶をイメージしながら、だ。

 そうして俺が手にしたものはというと・・・。


「グギャアッ!」


「・・・」


 俺はそっと袋にそれを戻した。


「おい」


「プイッ」


「目をそらすな!」


「わ、悪いとは思っている。なんせ二千年も前の物なのだ。その間に何かが入っていたとしても不思議ではないだろう?」


「じゃあ、なんで確認しなかった?」


「うっ、そ、それはだな・・・」


「それは?」


「ええい!もういいだろ!貰えるのだから有り難くもらっておればよいのだ!」


「まあ、いいけど」


「え?あ、そ、そうか・・・。それは・・・良かった、な」


 まあ、善意で俺にくれると言うのだ。

 それに対していろいろと言うのは失礼というもの。

 故に、何が入っていても文句だけは言わないようにしないと。

 あ、さっきのは口が滑ったということで。


「じゃあ、もう行くよ」


「そうか。オマエの望み、叶うといいな」


「ありがとう。いろいろと世話になった」


 俺はそれだけを言い残して、振り返ることなくその場を立ち去る。

 俺がその場を後にしてすぐ、番人は一人呟く。


「これで、ゆっくりと休めるというものだな。アトリエ、約束は果たしたぞ。次は、オマエの、番、だからな・・・」


 番人はそう言った後、その姿を光の粒子へと変えていき、そして消滅していった。

 役目を果たし終えた番人は輪廻へと還る。

 一人の少女を思い続けた番人は、少女が死してなおもその肉体を守り続けた。

 新たな世界を求めて死を受け入れた少女と、世界からの消滅を願う少年。

 普通の人間と生死に対する考え方が違うこの二人だが、だからこそこの二人は面白い。

 そんな二人の二度目の人生を見届けたいと心の底から思う。

 でも、それはできない。

 それが少女との違わぬ契約なのだから。

 番人は祈る、二人に心からの幸せが訪れることを。































「ふう~、やっと外に出た」


 くう~、太陽の日差しが眩しい〜。


「・・・」


 ちっ、鬱陶しいから消えてなくなればいいのに。


「さてと、それじゃあ気を取り直して。まずはここから百キロとちょっとだっけ?いやあ~、本当に聞いておいて正解だった」


 というのも、実はここを出る少し前に、どこか近くに図書館みたいなところはないのかと聞いておいたのだ。

 それに対しての返答は、百と数キロ先にそれほど大きいものでもないが、町があるとのことだった。

 図書館があるのかは知らないようだったけど。

 なんせこの世界に来てばかりなのだ。

 ある程度の情報は必要だろう。


「よし、行くか!いざ、異世界の町へ!」


 とは言ったものの、お腹空いたなあ~。

 まずは飯だ飯!






少しわかりにくいと思いました。

一応、アトリエ(偽名)の不死は未来予知によるものなので、普通に死にます。はい。

だったら不死身じゃなくてもいいだろ!って思うかもしれませんが、アトリエ(偽名)の不死はあくまでも比喩的なものです。

文字通りの不死は主人公だけですね。はい。

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