第十四夜
突然ですけど、少し表現を変えてみようと思います。
思いつきと鬱憤ばらしに始めたのですが、最近小説を書いているという実感がなくなっているんですよ(早い)
というのも会話文が多いからなんですけど。
なので、最初から少し修正を加えるかもしれないです。
対して変わらないかもしれませんが。
クーネが無事に入学式を終えた次の朝。
いつも通り朝食の準備をしていると、突然慌ただしく扉を叩く音と同時に、システリアと呼ぶ声が聞こえた。
明らかに切羽詰まったようなその声に、なんとなしに扉の方に目をやるも、特にこれといって思うことはなく、再度料理を作る手元へと視線を戻した。
なんせ、クーネに美味しい料理を作ることこそが、今この状況における唯一の俺の使命だと、そう確信しているからだ。
しかし、扉を叩く音は止まることを知らず、次第に大きくなっていく始末。
あまつさえも、システリアだけでなくクーネの名前まで出してきた向こう側の人。
自分の名前だけならまだしも、クーネの名前も呼び出したことに対して怒りを覚えはしたが、今はそんなことよりも、という使命感によって、ただただ鬱陶しいと感じる程度に治っていて・・・。
「いい加減開けろやこコラアアアアッ!!」
「うわっ、ビックリした・・・」
「ビックリした、じゃないですよっ!!こっちは緊急の用事があるっていうのに、なんなんですか!何度扉をノックしようが、何度名前を呼ぼうが、一向に返ってこない返事を待つのがどれだけ辛いかっ、あなたにはわかるんですかっ!?」
「いえ、全然わかりませんけど」
「ひ、ひどいっ!?」
というか、俺としては破壊してくれたその扉を、どう弁償してくれるのかが問題なんだけど。
「では、扉の修理はあなた持ちということにして、まずは要件を聞かせてもらっていいですか?」
「あ、あれ?修理?え、いや、それはあなたが早く出てこなかったからで」
「何を言ってるんですか。実際問題、扉を破壊したのはあなたですよね?なら、それはあなたの責任じゃないですか?」
「た、確かに壊したのはあたしですけど・・・ってそんなことはいいんです!」
「自分で壊しておいて責任はとらないと、なるほどですね。それでは、まず上司のセレスさんにこのことを伝えて・・・」
「すみませんでしたっ!弁償はします!だからそれだけはっ!!」
「はい、言質いただきました。例え口約束だとしても、破ったら絶対に・・・・・・許しませんからね?」
「ひっ!は、はいっ!?」
「わかってもらえたならいいんです。それで、改めて要件とはなんですか?」
「はっ、そうです!実は今大変なことになっていてですね!一人でも人手が欲しいところなんですよ!」
「ですから、その要件は?」
「はっ、すみません!でも、人手が欲しいのは確かなんです。というのも、すぐそこまで魔物の群れが押し寄せて来ているんですよ!」
一体全体何がどうなってそんなことに?
というのも、魔物というのは基本的に群れる性質を持ち合わせてはいない。
一つだけ例外があるとすれば、それは隷属の首輪だ。これは主に魔物を使役するために使用される代物で、本来の力を制限してしまうというデメリットはあるものの、一度配下に置いた魔物を自在に操ることができるというもの。
だが、今回の件についてはそれは関係ないだろう。
仮に国同士の争いになったとしても、態々大量に首輪を集め、そして魔物を使役し、それを群れとして差し向けるというのは割に合わない。
それなら同じ数の歩兵と魔物で戦わせても、当然歩兵が勝つに決まっている。
通常の魔物ならまだしも、能力を大幅に制限された魔物ならば、この世界の歩兵は易々と屠ってみせるだろう。
それくらいにこの世界の歩兵は強いのだ。
と、いうのを考えるとわかる通り、この騒動は人口的な物ではないと考えられる。
となれば・・・。
「魔物の群れですか。それって、何かしらの巨大な魔物から逃げてきていたりしませんか?」
「巨大な魔物・・・。ま、まあそう言えるかもしれませんね、はは、ははははは」
「だ、大丈夫ですか?」
「え?何がですか?」
「頭が」
「余計なお世話ですっ!」
というわけで、早速俺はギルドへと来ていた。
もちろん、クーネの朝食については問題ない。
とは言え、少し物足りないと思わせてしまうような出来に、俺としては不完全燃焼だ。
それもこれも、突然招集をかけたギルドが悪いと俺は思っている。
「皆さん!急なお呼び出しにも関わらず、お集まりいただきありがとうございます!では、あたしの上司であるセレス先輩が詳しい説明を行ってくださりますので、ご静聴のほどをよろしくお願いします!」
後輩ちゃんはそう言い終わるや否や、そそくさと後ろへと下がる。
そして、後輩ちゃんと入れ代わるようにしてセレスさんが前に出てくる。
心なしか、少し怒っているようにも見えるセレスさんは、一度後輩ちゃんを睨みつけた後に、ため息混じりながらも口を開く。
「はい、ここから先は私、セレスが説明をさせていただきますね」
そう言ってにっこりと笑うセレスさん。
その瞬間、原因不明の身震いに襲われる。
それも、俺だけじゃなく他の全員もだ。
「と、その前に、一つ皆さんに言わなければならないことがあります」
すると、なぜか俺を指差しだしたセレスさん。
自然と俺に注目が集まりだす。
なんだろう、変な汗が止まらない。
これから俺、どうなるんだ・・・?
「なんと、システリアさんが星将会に加入しました!おめでとうございま〜す!!」
「・・・」
は?どういうこと?
ふと他のメンバーも見てみると、皆同様に口をポカンと開けて固まっていた。
まあ、普通そうなるよね。
なんせ、星将会というのはこの世界で七十二人しかいないのだから。
そして、この星将会に所属する者は必ず七十二人でなければならないという掟がある。
どうしてそんな掟があるのか定かではないが、今こうして新たにその末席に加わるということは、誰かがこの世から去ったということを意味している。
というのも、星将会に所属してしまったら最後、永遠にその脱退は許されないとされているからだ。
理由は公にされていないが、そういうことらしいのだ。
ということからして、七十二人の内の誰が亡くなったという結論に行き着くのだが、そもそもこの世界では最高峰とされるこの星将会は、所属する者一人一人が破格の実力を持つ強者ばかりとなっている。
そのため、どんな魔物でも遅れをとることはまずありえない。
それこそ、同士討ちにならなければというくらいにだ。
となれば寿命で、ということになるのだが・・・。
「あの〜、セレスさん。一つ質問いいですか?」
「はい、どうぞ」
「ええっと、一先ずなぜ私が選ばれたのか聞きたいんですけど、今は置いときます。それよりも聞きたいのは、どうして空席ができてしまったのかということです」
「やはりそこに目をつけますか・・・。でもまあ、いいでしょう。では、システリアさんの質問にお答えしましょう。なぜ、空席ができてしまったのか、それは・・・」
「それは?」
「もうすでに三十人近い方々が、何者かによって殺害されているからです」
「・・・」
予想はしていたけど、まさかそれほどまでに被害が出ているなんてな・・・。
恐らくの原因は、例の転生した神々の仕業だろう。
これはベリアルさん曰く、他の神々の力を削ぎ落とすために行っていることだそうだ。
この世界に住まう全ての生物は、強弱の違いはあれど、いずれかの属性を持って誕生する。
全ての生物はその時点で、神々からの恩恵を受けていることになるのだ。
通常、この世界と言わず、元の世界でも生物は魔力のような力を所持してはいない。
それもこれも、神々が呼吸のように垂れ流す神気の所為なのだが。
しかし、これによって力を得た生物は、神々の力のほんの一部を、魔法として扱えるようになったのだ。
下界の生物がこうして魔法を扱えるようになると同時に、神々は己の力が高まるようになったという。
というのは、下界の生物が魔法を行使することによって消費される魔力が、該当する神々の元へと供給されるようになったからだ。
つまり、自分と同じ属性を持つ者が多くなればなるほど、その神は力をつけることとなる。
そして当時の、転生前の神々は、下らないことにも最強の座を欲して、絶えず争い続けていた。
そして、いつも勝敗を決めていたのは信仰者、己と同じ属性を持つ者が多い方だった。
そのため、神々は勝負に勝つためにも、下界に災害という形で信仰者を殺し尽くし、その力を弱めることに専念したのだという。
そして今回、災害ではなく直接、神々がその猛威を振るったということになる。
星将会に目をつけたというのも、一人一人が頭が一つも二つも抜けている魔力を持つため、神々に与える影響は大きいためだからだろう。
「ですので、今回このギルド内でトップの成績を誇る、システリアさんが抜擢されたというわけです」
ということは、あちら側もやむなく俺を迎え入れたってことになるのかな?
なんせ、ここは世界で一番小さいギルド、なんて言われているくらいだから。
冷静に考えて見ても、当然俺が選ばれるなんて道理はないはずなのだ。
「そうなんですか・・・。はい、わかりました」
「「「わかりました、じゃねえよ!!」」」
ビクッ。
おい、なんで今そんな大きい声出したんだよ。
前々から言ってるよね?
突然大きい声を出すなってよ!
「なあ、嘘だろ?三十人もやられるって、そんなこと、ありえるのかよ?」
「はい、実際起こっていますからね」
「で、では、その殺された方々の順位とかは、いったいどうなっているのでしょうか?」
「順位、ですか・・・。あまりそのことは言えないのですが、上位、下位に関わらず、といったところでしょうか?」
「・・・」
な、なんか空気が、重い・・・。
皆の気持ちもわからないことないんだけどさ、今は目の前のことに集中するべきだと思うんだけど。
「あ、あのっ!セレス先輩!この空気の中、非常に言いにくいことなんですが・・・」
「あ、そうでしたね。では皆さんには、早速ですが魔物の群れを撃退してもらいます。今回は、あくまでも撃退です。数が数なので、討ち漏らしはあっても最悪追い払えればそれで構いません。なお、作戦はこちらですでに計画済みですので、職員の指示に従って行動してください。と、説明は以上ですが、何か質問はありますか?」
ああ〜皆んなもうそれどころじゃないって感じしてるなあ・・・。
でも、それって前と何も変わらないだろって思うんだけど?
世界の災厄とか言われている害悪もまだ健在なんだし、それに新メンバーが増えただけって思えば、仕方ないと割り切れるかもしれないのに。
まあ、今はまだ無理か。
とりあえずは、この空気をなんとかしなくては。
「それって、報酬とかはどうなるんですか?」
とりあえず皆のやる気を引き出すためにも、まずはお金で揺さぶることにした。
「報酬ですか?報酬については、それこそ期待してもらって大丈夫ですよ?それに今回は、相手が魔物の群れとなっています。各自で仕留めた魔物については、全てその人の所持物としてもらって構いません」
セレスさんがそう言うと、ついさっきまで意気消沈していた皆んなに、お金の亡者が取り憑いた。
「多額の報酬もあって、頑張った分だけ更に上乗せだって!?そんなのやるに決まってんだろ!」
「お金、お金・・・」
「おっしゃあ!じゃあとっとと行こうぜ!」
うん、ホント、さっきまでの様子が嘘みたいだ。
でもこれで、少なくともこの時は大丈夫だろう。
というか、なんか意外と単純だった。
「では各自、準備のほどをお願いします!では、解散!」
「あれが、魔物の群れか・・・」
望遠鏡を覗き込みながら、男がそう呟く。
俺も目を細くさせながらも男が見ている方角を見ると、魔物の姿は確認できないものの、何かが勢いよくこちらに向かっているということが、巻き上がる砂塵によってわかる。
「システリア」
「ん?なんですか?ギンガさん」
「あ〜いや、今更だとは思うが、まさかそれを使うのか?」
「ん?あ、これのことですか?」
俺は手に持っていた大弓を指差し、そう問い返す。
「そうそう、それだよ。実を言うと、俺もそれ持ったことあるんだよ。ローザに一回だけ借りてな」
「はい、それで、どうなったんですか?」
「持つには持てたんだよ。だがなあ・・・」
「もしかして、弦を引けなかったんですか?」
「いやいや、あんなのいくら身体強化を重ねても無理だろ。だから、その・・・なんだ」
「使わない方がいいと?」
「ん〜まあ、そう俺は思うんだが・・・。まあ、システリアが決めたことだ。どうするつもりかは知らねえが、頑張れよ」
「任せてください!」
「皆さ〜ん!もうすぐ群れが来ます〜!」
おっ、この声は後輩ちゃんか。
日頃元気だけが取り柄と言われている後輩ちゃんでも、こんな時はその元気さが役に立っているようだ。
「システリア」
「あ、はい。なんですか?ローザさん」
「なんというか、こんな時に申し訳ないのだが、その武器で本当に大丈夫なのか?」
ローザさんはかなり心配そうにしながら、俺の持つ大弓を指差す。
「大丈夫ですよ。さっきもギンガさんに言われましたけど、ここはバッチリ任せてください!」
「あ、ああ・・・。そこまでシステリアが言うのなら・・・」
「ほら、ローザさん。皆さんもう配置についていますよ」
「そのようだな。では私も行くとしよう。私も努力はするが、システリアも頑張るのだぞ」
「はい!」
「魔物の群れ、来ます!」
よしっ、やるぞ!
俺は手に持っていた大弓を構える。
しかしここで問題がある。
それはこの弓があまりにも大きすぎるために、普通に構えるためにはいささか身長が足りないということ。
そこで、大弓を真横にして構えてみる。
すると、大弓と言うよりかは、どちらかというとバリスタのようになってしまうわけだが、それでもこの構え方でしかこの大弓を扱うことはできない。
でもまあ、これはこれで安定するし、力も入れやすいからいいけど。
そしてその巨大で尚且つ重量な大弓を、右手だけでなく全身を使って持ち支え、左手で矢を当てがう。
ちなみに、この大弓の大きさが大きさだけに、矢も当然巨大だ。
矢、というよりかはもう槍なんだけどさ。
「ぐっ、ぐぬぬぬぬっ」
やっぱりこれ、かなり力がいるか・・・。
引くだけでもそれなりの力を要するというのに、それを維持するのはもっと力を必要とする。
というのも、魔物の群れは見た感じ、密集とまではいかないもののお互いに近い距離に集まっている。
外敵から身を守るための本能的な技がそうさせるのかもしれないが、こちらとしては都合が良かった。
なんせ、この大弓の一撃はそういった状況でこそ輝くからだ。
そのためにはもっと魔物を引きつけなければならない。
より一体でも多く屠るためにも、その機を待つ必要があるのだ。
「まだ」
目を凝らさなくても見える範囲まで魔物の群れが迫る。
「まだまだ」
魔物一体一体がよく見えるようになってきた。
そして、一番先頭の魔物がこちらのことを視界に捉える。
その瞬間、魔物はけたたましい雄叫びを上げる。
「よしっ、今!」
魔物がこちらに敵意を向けたその時、俺は矢を放った。
それと同時に吹き荒れる突風と地面を伝う衝撃。
それは最早、弓というよりかは大砲であった。
大弓から放たれた矢は、風を切るのはもちろんのこと、地面を抉りながら一直線に魔物の群れへと向かっていく。
魔物たちも、何かがこちらに迫ってくるのを察知すると、すぐにそれを回避しようと左右に逃れようとする。
しかし、それはすでに遅く。
音速を超えたであろうその矢は、止まることを知らずに魔物の群れを突っ切り、射線上に存在した山の斜面に巨大なクレーターを生成した後に沈黙した。
そんな破壊の矢は、数えきれないほどの魔物を貫き倒し、直撃はせずともボーリングのピンのように凄まじい勢いで四方八方へと魔物を吹き飛ばした。
その結果、矢の軌跡を残すようにして抉り取られた地面と、無数の魔物の死骸のみが残る結果となってしまった。
かろうじて息をする魔物もいたが、その損傷は激しく、満足に戦えないものだった。
そして、そんな惨状を作り上げた張本人はと言うと。
「え・・・?もしかして、これで終わり?」
自身が起こした結果よりも、魔物の群れが大した脅威ではなかったということに驚いていた。