第十二夜
なんかいろいろあってこのタイミングになりました。
そして毎週一話ずつ投稿しようとしていたのに早くも守れていないこの現状。
僕、どうしようもない人間ですね、はい。
「クーネ、朝だぞ」
「う、う〜ん」
「早くしないと学校遅れるぞ!たくっ、仕方ないか・・・」
「うわっ・・・」
「いい加減起きろ!お日様はとうの昔におはようをしているんだぞ!それじゃあ、俺は下で待ってるから、早く来るんだぞ」
「う、うぅ・・・」
今日はクーネの初めて学校。
入学式、がある。
これからの学校生活は、楽しみ。
でも、朝が早い。
「もう少し、寝たい・・・でも、起きなきゃ」
そうしないと、お兄ちゃんに怒られる。
怒った時のお兄ちゃんは、鬼。
平気な顔で、クーネのご飯を抜きにする。
本当に、怖い。
「うん、しょっと」
学校に行くために制服に着替える。
他のみんなも同じものを着る。
毎日服を選ぶ必要がない、というのは楽で、なんかいい。
「うん、バッチリ」
でも、少し着るのが面倒くさい。
「持っていく物は・・・うん、大丈夫」
床の上に広げて確認する。
筆記用具、教科書、運動着、それと魔導書。
「おーい、そろそろ飯を食べないと遅刻するぞ〜」
あっ、お兄ちゃんが呼んでる。
早く行かなきゃ。
急いでリュックに広げたそれらを詰め込むと、お兄ちゃんが待つ一階へと向かう。
「お、やっと来たか。ほら、早く食べろ」
「うん」
あ、今日の朝食、手を抜いてる。
机の上には、パンというフワフワの食べ物とミルクだけがあった。
でも、パンは美味しい。
美味しいものに、罪はない。
「いただきます」
「うっ・・・ん?」
「あっ、やっと起きましたね。これ、お水です」
うーん、今更だけど、なんでいるの?
「ありがとう、システリア。ところで、なぜ私はここで寝ていたのだ?」
「あ、そこは覚えていないんですね」
お酒って、なんか怖い。
「なんだか頭が痛いな・・・って、まさかこいつもか?」
「はい・・・そう、ですね」
「ごちそうさまでした」
トコトコと台所へ向かい皿を下げる。
その後、リュックを背負って玄関へと向かう。
「いってきます」
「いってらっしゃ〜い!」
やっぱり、お兄ちゃんの切り替えは速い。
ちゃんとお姉ちゃんになってる。
ギンガとローザは、ダメダメだけど。
「おいっ!お前もいい加減起きろ!」
「うるっせえな!なんなんだよ!?」
「はい、お水です」
「水?あ・・・ああ、水か。ありがとな」
やっぱり、ダメダメ。
「むふんっ」
今日から、ここで勉強。
すごく、楽しみ。
「ちょっと、そこのあなた?」
「クーネのこと?」
「そうそう。あなた、こんなところで何をしているのかしら?」
「ん〜?よくわからない」
「わからない?そんなはずないわ」
む〜、本当にわからないのに。
「あのね、ここは選ばれた者のみが足を踏み入れることができるのよ?あなたみたいなのが来るところじゃないの、わかるかしら?」
「クーネみたいなの?どういうこと?」
「あなた、このあたしをバカにしているのかしら?」
「バカしてなんか、ない。クーネがなんでこんなこと、言われているのかわからないだけ」
「それをバカにしているって言ってるのよ!」
むむ〜、どうしよう・・・。
本当に本当に、わからないだけなのに。
「なら、どうしたらいいの?」
「そんなの決まっているわよ。このあたしにひれ伏せばいい、簡単でしょ?」
「何?それ」
クーネがそう言った瞬間、女の人はピタリとその動きを止める。
そして数秒後、その体がぷるぷると震えだす。
「寒いの?」
「寒いわけないでしょう!?」
ビクッ。
もう、いきなりそんな声、出さないでほしい。
ビックリ、する。
「いいわ・・・そんなに痛い目に逢いたいのなら仕方ないわね」
ん、魔力が高まってる?
多分これ、魔法の合図。
こんな場所で魔法を使ったら、大変なことになる。
なんとしかして止めないと・・・。
「やめて、ここは勉強するところ、だから・・・」
「うるさいわねっ!従わないあなたには罰が必要なのよ!これでも食らいなさい!」
そんな説得も虚しく、ついに放たれてしまう魔法。
クーネへと向かうそれは、音速で駆ける一本の雷だった。
「っ!?」
クーネは咄嗟に転移門を展開すると、黄金色の剣を取り出す。
だが、すでにそれはすぐ目前まで迫ってきていた。
そのため、剣を振る時間などない。
そこで、クーネは剣の刃を盾代わりにする。
それは、身を守るための苦渋の選択ではあったが。
「!?」
クーネに直撃すると確信していたのか、女は完全に油断していた。
すでに女の頭には事後処理のことしかなかったからだ。
しかし、クーネに直撃するかと思われた魔法は、突如として現れた一振りの剣によって返されてしまう。
「っ!!」
女はまるで予想していなかった展開に動揺しつつも、反射的に簡易的な魔法壁を展開、防ごうとする。
だが、それはほんの少し勢いを削るのみに終わってしまった。
易々と破られる魔法壁。
しかし幸いにもそれは軌道を変え、その直撃は間逃れた。
だがしかし・・・。
「学校、壊しちゃった・・・」
見事に校舎へと直撃。
その破壊音と崩れ落ちる瓦礫の音が響き渡る。
顔を青くさせて呆然とするクーネ。
それとは違うことで顔を青くさせる女。
二人は周りの目など気にせずただただ立ち尽くしていたのであった。
「ええっと〜、これはいったいどういう?」
「こっちもさっぱりなんよ。とりあえず保護者として来てもらったんやけどな?」
「とりあえずって・・・」
「ごめん、なさい・・・」
こんなことに、なるなんて・・・。
現在、クーネと女は学長先生によって連行されていた。
クーネの保護者としてシステリアも態々呼び出されており、クーネのテンションはだだ下がりになる一方だった。
「まあまあ、そんなに落ち込まんでもええよ?それよりも、問題はこっちやからね」
学長先生がちらりと女を見やる。
すると、女はこちらを睨みつけて。
「あたしから謝ることはないわよ?生意気な態度をとったそっちが悪いんだから」
反省する様子などなくそう言った。
「と、言っていますけど、これはどうなんですか?」
「そうやね〜?」
「なんですか、その言い方」
「いやな?どうするもこうも、状況が全くわからんのよ。せやから、まずは事情聴取からやと思っているのやけど・・・」
学長先生はまたもや女を見やる。
「な、なにかしら?」
「素直に話してくれれば、この件はなしにしてもええよ?」
「ふ、ふんっ!どうせ全部聞き出した後、しっかりと罰を与えるつもりなんでしょ?悪いけど、そんな手には乗らないわよ」
「まあ、こうなるんよ」
「ああ、そういうことですか。あ、クーネはもう大丈夫だから、早く行っておいで」
「うん、ありがとう、お姉ちゃん」
クーネはリュックを背負うと、そっと部屋を後にする。
部屋を出る際に女の人から静止の声が聞こえたけど、あえて無視した。
よしっ、早くいかなきゃ。
クーネは部屋を後にしたその数分後、すぐに迷子になってしまっていた。
「うんと、こっち?それとも、こっち?」
あれあれ?
どこに行けば、いいの?
そうしてクーネが辺りをキョロキョロしていると。
「こんなところで何やってるの?」
今にも消え入りそうな声であったが、確かにクーネを呼ぶ存在がいた。
だが、それでもクーネは嬉しかったのか、嬉々とした表情で後ろを振り返る。
しかし、そこにあったのは深い闇と、底なしの禍々しい魔力だった。
「ひぐっ、あ、あ・・・」
なに、これ・・・?
こんな、魔力、クーネは知らない・・・。
「や、やっぱり怖いですよね・・・」
少しどころかかなり怯えながらもそう言ってくるのは、青白い肌と白い髪が特徴の、なんとも生者とは言い難い雰囲気を持った少女だった。
「う、ううん。だ、大丈夫、だよ?」
「そんなに無理しなくてもいいのに」
「じゃ、じゃあ、クーネからお願いが、あるの」
「お願い?」
多分だけど、他のみんなはもう全員教室にいる、と思う。
これだけ人がいないというのは、そういうことだと思う。
だから、なんとしてでもこの人から聞かないと、絶対に間に合わない。
「クーネを、教室まで案内、してほしいの」
「教室まで?もしかして、新入生?」
「そ、そう」
「実はね、私も新入生なの。だから、教室は私と一緒・・・」
そこまで言い終えると同時に、その表情がどんよりと沈み込む。
「大丈夫?どこか具合でも、悪いの?」
「具合はいいの。でもね、こんな私が教室で一緒だってことを考えるとね、どうしても・・・」
涙を薄っすらと滲ませながら、暗い声でそう言う。
なんか、嫌なことでもあった?
確か、こんな時は・・・。
『いいか?人は誰しも嫌な過去の一つや二つはあるものだ。だから、もしもそんな感じの人がいたら、無闇やたらに詮索してはいけない。それが新たな傷を作ることになるかもしれないからだ』って、言っていたような、気がする。
「クーネは一緒、でも大丈夫。だから、行こ?」
少し震えながらも、そっと手を差し出すクーネ。
「クーネ、ちゃん・・・。うんっ」
涙を拭いながらも、クーネの手を掴む少女。
「あ、えっとね、私、パンドラって言うの。よろしくね、クーネちゃん」
「うん、よろしく。それにしても、なんでクーネの名前、知ってるの?」
「え?」
「え?」
「ええ〜では、ただいまから入学式をしま〜す。ぶっちゃけ、俺は堅苦しいの嫌いなんで、こんな感じで司会をさせてもらいま〜すっと」
なんか、緊張感がない。
お兄ちゃんからは、『よく聞け。入学式というのは、とてつもなく空気が張り詰めている中で行われ、上級生からの視線を常に浴びなければいけないんだ。そんな地獄の入学式を乗り越えることためにはただひたすらに強い精神が必要だ。気をしっかりと持ち、指示には的確に従うこと、わかったか?』という感じに、酷く怯えながら言っていた。
でも、現実は違った。
「あの先生なんだよ、なあ?」
「知らねえよ」
「なななあ?あとどれだけまま、待てばいいんですっか!?」
「こらーっ!少しは静かにしなさーいっ!!あと、あなたは落ち着きましょう」
先生も、大変。
でも、あの先生が担任、になるのかな?
というのも、クーネたちは教室で簡単な説明を聞いた後に、式典会場まで向かうことになったのだが、その時に居合わせた生徒がクラスメイトになるわけではないというのを聞かされた。
それは先生も同じことだ。
学校側からは、後に生徒の能力を加味して、クラス分けをするとのことだったが、より優れた人材は上位のクラスへ、そうではないものは下位のクラスへ、ということだ。
「どうしようどうしようっ、クーネちゃん」
「なに?」
「私が行っちゃったら、みんな怖がらせるかもしれないの!どうしたら、いいと思う?」
どうって、言われても?
こんな時、お兄ちゃんだったら・・・。
「私に、任せて」
「ク、クーネちゃん・・・!!」
「ああっ!?もう出番!?みんな!静かに、列は乱さずにお願いねー!」
きた、最初の難関。
クーネは大丈夫、だと思うけど、パンドラは違う。
細心の注意を、払った方がいい。
「手、握ってて」
「うんっ」
クーネが手を出さなくても、目にも止まらぬ速さで手を握ってきたパンドラ。
なんか、可愛い。
「新入生、入ってきていいぞ〜!」
「むぅ、なんか適当」
なんというか、ここでも緊張感はなかった。
「ふ、ふう。ありがとう、クーネちゃん」
「いい。パンドラは、もう友達だから」
「友、達・・・うん、そうだね。友達だねっ」
本当に、可愛い子。
「クーネちゃん、聞いていいのかわからないけど、さっきのって?」
「あれは単純に、パンドラの存在を、薄くしただけ」
「存在を、薄く?」
「うん。そうすれば、ちゃんと視認はされるけど、でもそれだけ。それ以外のものは、全部わかりにくくなる」
「スゴイ、スゴイよっ!クーネちゃん!」
クーネの暗殺術が、こんな形で役立つなんて・・・。
でも、悪い気はしない。
「でも、これは一時的なもの。いつかは素の自分で、生活しないといけない」
「そ、そうだよね・・・うん、でも平気だよ。クーネちゃんと一緒だったら、できそうな気がするから」
そう言って、パンドラは照れ臭そうに笑う。
その笑顔に、クーネも笑顔で返す。
「教室に、戻ろ?」
「うんっ」
「ただいま」
「おかえりー」
スンスン、なんか良い匂いがする。
「ほら、荷物は下ろして、飯にするぞ」
「うん」
ソファの上にとりあえず荷物を置くと、洗面台へと手を洗いに行く。
きれいに手を洗った後、早速夕食をとり始める。
「いただきます」
今日は、うどん。
ズルズル、ズルズルッ。
「どうだ?」
「うん、美味しい」
「そうか、それは良かった」
お兄ちゃんが作ったものは、なんでも美味しいって決まっているのに。
「それにしても、今日はやけに機嫌がいいけど、なんか良いことでもあったのか?」
「うん。クーネ、友達が出来た」
「と、友達、だと!?初日で!?」
「うん」
「う、うぅっ」
泣くほどの、こと?
「そ、そうか。それなら安心だ。これからも仲良くやるんだぞ」
「うん、わかった」
朝起きるのは、嫌。
でも、明日の学校は、楽しみ。
それに、授業も始まる。
担任の先生も決まって、クラスも決まる。
パンドラとは、一緒がいいな。




