十一夜
ちょくちょく書いてないのに投稿しちゃうのってどうなんでしょうね?
いや、まあ投稿予約だけして忘れちゃってる僕が悪いんですけど。
日も沈み、皆が各々の時間を過ごす夜の時間。
俺とクーネはというと。
「それでは、クーネの試験合格を祝って・・・」
「乾杯!」
「かんぱーい」
「乾杯だぜ!」
「うむ」
「ふんっ」
「飯だ飯だっ!」
クーネの試験合格、そのお祝いパーティーを開いていた。
「じゃあ、クーネ。改めてだけど、試験合格おめでとう」
「うん、ありがとう」
俺がクーネの頭を撫でながらそう言うと、クーネは恥ずかしそうにしながらも素直に感謝の意を示してくれる。
「話でしか聞いてないが、何百人といる受験者の四人に残ったんだろ?凄いことじゃねえか」
「スゲえよな〜もぐもぐ、おっ、これ美味いな!」
「話すか喋るかどちらかにした方がいいと思うのだが・・・」
「おい、システリア」
「え?なんですか?」
「貴様、なぜ我らも呼んだ」
いや、一応二人を呼ぶかどうか悩んだよ?
でもさ、ギンガさんとローザさんは確定として、セレスさんは用事があるからダメということだったし、となったら四人だけの祝勝会となってしまう。
最初はそれでもいいかと思ったんだけど、クーネがツクヨミさんは来ないのかと聞いてきたので、これは呼んだ方がいいなって、それだけ。
たまにはワイワイしたのもいいと思ったし。
「でもほら、コウカさんは意外と楽しくやってますよ?」
「あのバカは別だろう。あいつは一度気を許した者にはああだからな」
「じゃあ、アクトさんは違うんですか?」
「我はそこまで割り切ることはできん。人は感情で動く生き物だからな。時と場合によればこれまで積み上げてきたもの全てを容易く壊す。例え、それが友や家族、恋人だったとしてもだ」
なんか・・・重い。
「そ、そうですか・・・。えっと、じゃあアクトさんはそこまで楽しいってわけじゃないんですか?」
「いや、別に楽しくないとは言っていない。何しろ、我も家の者とバカ意外とはあまり付き合いがいいわけではないからな。それに・・・」
「それに?」
「ここにいる奴らは、その・・・なんだ。まあ、良い奴らだからな」
なんだ、意外と可愛いところあるじゃないですか。
てっきり見た目だけじゃなく中身も怖い感じだと思っていたから、ちょっと新発見。
「そうですね。確かに、皆さん良い人だと思います。裏がなく、心の底から話し合えるような人たちだと思います」
「心の底から、か」
「アクトさん?」
「いや、何でもない。ところで、我は貴様に話があるのだが、いいな?」
「はい、構いませんよ。というか、それを待っていたんですけど」
「ふん、本当ならこれは明日話そうと思っていたことなのだがな。だが、今日こうして招かれたのだ。我も態々時間を作ってまで行く手間が省けるのだから、文句は言わんが」
「でも、大丈夫ですかね?」
「あいつらのことは大丈夫だろう。見たところ、すっかり馴染んでいるようだからな」
まあ、確かにそうかも。
「おいっ!てめえ・・・それ絶対わざとだろうがっ!」
「は?何言ってんだ。こういうのは早い者勝ちだろ?」
「早い者勝ち?てめえがやってんのはただの嫌がらせだろうがっ!!」
「別に、俺は食べたいものを食べているだけだ。それの何が悪いんだ?」
「殺す」
「ストップ、それ以上はダメ」
「クーネの言う通りだ。殺すのは私の仕事なのだから」
「おい、クーネちゃんのストップの意味、かなり間違っているぞ」
「ローザは引っ込んでやがれ!!」
「そう怒らないでくれ。私と二人でやればお互いにスッキリするし、そっちの方が効率が良いと思わないか?ギンガはこう見えて逃げ足だけは一流だから、そうそう簡単に捕まらないぞ?」
「ん〜わかった。二人で殺るぞ」
「よし」
「決めるのに数秒もかからなかったな」
「三人とも、やめて」
なんか楽しそう。
でもいいな、こういうの。
確か、あの時もこんな感じで騒がしかったっけ。
皆でバカやって、ひとしきり笑って、それから怒られてさ。
「おい、どうした?」
「え、ああ、大丈夫です。少しぼうっとしてしまっただけです」
「そうか」
もう過去のことは忘れたいってのに、なんで思い出しちゃうかな。
楽しいことよりも、辛いことの方が多かったっていうのに。
「じゃあ、ちょっと夜風に当たりながらでもどうですか?」
「まだそれは早いと思うが、まあよい」
俺とベリアルさんはこっそりとベランダへと向かう。
そこは最低限の洗濯物を干せる程度の場所だけど、二人だけならそこまで窮屈でもない。
「それで、貴様は何から聞きたい」
「何から・・・じゃあ、害悪の件からお願いします」
「害悪か。結論から言うと、確かに奴は死んでいた」
うんうん、それで?
俺としてはその後が重要なんだよ。
「そして、奴は神の手によって始末されていた」
マジか〜。
じゃあ、アミナは危険地帯決定じゃないか。
本当にベリアルさんの言う通りだった。
「それは、いったいどんな方法だったんですか?」
「簡単に言うと、肉塊になるまで殴り続ける。そして内から燃やし尽くすといった感じだな」
何その拷問。
一瞬で終わるのならまだしも、それはちょっと憎悪こもりすぎじゃない?
「ちなみに、その神々ってわかりますか?」
「わかるぞ。だが、今のお前に必要なことなのか我にはわからんがな」
まあ、そうだけどさ。
「いやほら、もしかしたらまたアトリエさんの魔力が宿ってしまったりするかもしれないですよね?その時とか、必要になったりしません?」
「いや、それはないな」
ですよねー。
「お前の魔力は完全に底をついている。アトリエの魔力はあの害悪が全て持っていったのだからな。もうお前に神々が感知できる要素は何もない。もしもその姿を見られたら、それは別の話になるのだがな」
それはどうしようもないです。
こっちが先に魔力を探知して、逃げるくらいしか対策は取れませんよ。
戦うなんて論外だし。
ベリアルさんとツクヨミさんに関してはしょうがないと思う。
なんせあの時はアトリエの魔力が少なからずあったのだから、隠れることも逃げることもできなかったのだから仕方がない。
元を辿ればクーネとの誓約のために、神水まで飲んで回復させたのが原因なんだけど。
「まあ、そうなんですけど・・・。でも、これからベリアルさんはどうするんですか?」
「どう、とはなんだ」
「どうって、今の私にはアトリエさんの魔力がないんですよ?手がかりだってこの見た目だけですし・・・」
「それがどうした」
「へ?」
「何、簡単なことだ。確かに貴様にはもうアトリエの魔力は存在しない。だが、貴様はそれだけではないだろう?」
それだけではない?
えっと、何かあったっけ・・・あ。
「私のこの力のことですか?」
「そうだ」
ああ〜そういうこと。
ていうか、俺がそうお願いしたってのになんで忘れてたんだろう。
まあ、最近は濃い毎日を送っているからかもしれない。
「貴様のそれはアトリエの無限とも思える魔力。それの真逆に位置する力だ。その身体能力の高さに反比例するように魔力がない。まあ、アトリエの奴は魔力を消費して肉体を再生することができるのだから、正直身体能力が高かろうが低かろうが関係ないのだがな」
ん?今なんて?
「魔力を消費して肉体を再生?」
「なんだ、それは知らんのか。まあ、このことを知るのは我と三人だけだからな。知らないのも無理はない」
え、じゃあ、あの番人はこのことを知らなかったのか?
もし知っていたら教えてくれても良かったのに・・・。
でもそんなに知られていないということは、そもそもそういう事態になったということか少ない、もしくは皆無ということだよね?
というか、それだと今の俺と何が違うんだ?
魔力を消費するのだから、意図的に再生ができるということなのか?
ほぼ無意識で再生してしまう俺と違って?
「だが、まだ我には貴様のことがさっぱりというほどわからんのだ」
「わからない、というのは?」
「貴様の全てだ。我もここ最近で調べ尽くした。だが、行き着く果てまで行っても出てきたのはここ一ヶ月のものだけだった。それ以外は一切の情報が出でこない。生まれも育ちも、その親も一切だ」
そこまで調べたんだ・・・。
ていうか、いったいどうやって?
でもまあ、そりゃあわからないと思います。
この世界での俺の人生なんて一ヶ月そこらでしかないんですから。
「それに加えて、クーネのこともだ。今回の試験を合格したというのも、通常であればありえない。あの魔力量でどうこうできるものではない。ましてや武器を使った戦闘ができるとも思えない。ならば、貴様とクーネはいったいなんなのだ」
なんなのだ、と言われてもバカ正直に話すことはできない。
こっちもこっちで素性がバレたら大変どころの騒ぎじゃなくなるからだ。
「何、と言われても、それは私でもわかりませんよ。私は生まれつきこうでしたし、クーネもそうです。それに、私は親なんて顔も名前も知りません。クーネは両親を亡くしていて、とてもじゃないですけど話したがらないですし」
「ならば、なぜクーネも貴様同様にその情報がない。我は貴様らのことが何一つとしてわからない。わかるのは表向きのことだけだ」
「いいじゃないですか、それでも」
「なんだと?」
「だって、人は隠し事の一つは二つあるものです。それがどんなものだったとしても。それと同じことじゃないですか?」
「我はそれが怖いのだ。人は誰しも隠し事はあるだろう。だが、それが人の道を外れるものだったらどうする。だからこそ、我は徹底的に調べる。あのギンガとローザ二人もだ」
本当にどうやって調べているんだ?
いや、それよりも今日のベリアルさんは様子がおかしい。
ここまで弱気なベリアルさんは初めてだ。
普段からは想像なんてできないけど。
「まあ、そこまで怯える必要はないと思いますけどね」
「どういうことだ?」
「まさかとは思いますけど、知らないんですか?ツクヨミさんのこと」
「いきなり何を言いだすかと思えば、そんなことか。我とあいつとの付き合いは十五年。この世界で初めて会った神だ。そして、幼馴染でもある。小さい時は共に勉学、武芸にも励んだ。何をするにしても一緒。我はそれが嫌いだった。何を根拠に我とそこまで接するのかがわからなかったからな。同じ神であれど、住む世界は違う。それゆえにこれまで親交などなかった」
「でも、今はこうして仲良くやっているじゃないですか」
「表向きはな。我は我以外の者に心を開くつもりはない」
「でも、そう思っているのはベリアルさんだけですよ?」
「はっ、何を根拠に」
「いいですかっ!ベリアルさんは決してバカではありません!ですが、今日のベリアルさんはいつにも増してバカです!」
「いきなり何を言い出すかと思えば、この我が、バカだと・・・?」
「ええ、バカです!それも大バカ者です!!ベリアルさんは一度たりとも気づいていないんですよ!ツクヨミさんの力に!」
あまりにも不甲斐ないベリアルさんの姿に、思わず大きな声でそんなことを口走ってしまう。
そしてそれは案の定、第三者に聞かれることとなってしまった。
ガラガラとベランダの扉を開ける音がした。
その瞬間、俺の心臓は飛び跳ねる。
恐る恐る音の出所へと目を向けると、そこにいたのは・・・。
「あれっ、パ、パーティーはどうしたんですか?ああっ!もしかして料理がなくなってしまいましたか!?それならそうと言ってくださいよ!今すぐ追加で準備しますから・・・」
「システリア、もう誤魔化さなくていい」
「え、あ・・・」
「私の力の話、だよな?」
ヤバイ、バッチリ聞かれてるし・・・。
「なんなんだ?お前の、その力って・・・なあ!教えてくれよっ!ツクヨミ!!」
「うるっせえな!!」
「ひっ」
あう、もう、ホントに大声はやめてほしい・・・。
びっくりし過ぎて息が止まるかと思った。
まあ、息が止まるなんてことは万が一もないけど。
「私はな、一度たりともこの力のことを隠したつもりはねえよ。これまで一度もな!」
「・・・」
混乱しているのかな?
完全に黙り込んじゃってますけど。
でも正直、俺もそれに気づいたのはただの偶然だった。
わかる人にはわかる、ツクヨミさんの力はそういうものだ。
「私はずっと言っていたよな?なあっ?お前の心がわかるってよ」
「・・・」
「それをてめえはなんて言い返した?」
「・・・」
「そんなのはただの妄想だ、って言って、私を突き放したよな?」
「・・・」
「黙ってねえでなんとか言ってみろよ!」
「貴様に我の何がわかるっ!」
「全部に決まってんだろっ!!」
「っ!?」
「私は、お前をずっと見てきた。心の奥に秘めた闇も、その過去も全部見てきた」
「それが、お前の本当の力か・・・」
「そう。そして、だからこそ言えることがある」
突然ツクヨミさんはベリアルさんの胸倉を掴み上げると声を張り上げて言った。
でも、俺にはその言葉の意味がわからなかった。
ベリアルさんにはその意味がわかったようで、胸の内に込み上げてくるものがあったのか、静かに涙を流していた。
そしてそれを、ツクヨミさんは温かい目で見つめていた。
なんでこんな展開になったんだろう。
俺にはさっぱりわからない。
本当に、どういう意味だったんだろう。
『いい加減幸せになれよ!このバカっ!!』