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初めての挑戦です。
つたないところもございますが、140字小説お楽しみください!
血のさかずき(1)
ハロウィンで浮かれた尻軽女をナンパしてやるぜ。僕は黒服を着た青白い女性に声をかけた。「今宵僕と血のさかずきをかわさないか?」バーで赤ワインを飲もうと言う意味だ。彼女は頬を染めて頷いた。僕は笑顔で先導する。突然、首元をがぶりと噛まれた。
「血のさかずきはこれで良い」
#140字小説
靴磨き職人(2)
「承りました!」僕はそう革靴を受け取る。「どこよりも綺麗にしてみせます!」
後日、そのお客さんは、目を輝かせて言った。「ここまで光らせたのはあんたが初めてだよ」
「ありがとうございます」
「けどよ、あんたの頭はもっと輝いてるぜ」
お客さんは僕の頭皮を指さしていた。
#140字小説
あなたの手の大きさに慣れた私(3)
「あいつのことは忘れろ。俺が、幸せにしてやる」あなたは泣き腫らした私を見て、背中に腕を回して抱き締めてくれた。その力強い抱擁は男の人の持つ強さを感じさせた。でも、ごめんね。今の私にはそれでも足りないんだ。あの人の手の大きさに慣れた私は、あの人の優しさしか知らない。
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夢は夢にしかならず(4)
あなたと結婚するのが夢でした。だから、あなたと結婚しました。そしたらね、また新しい夢ができたのよ。とっても素敵な夢なの。聞きたい?それはねあなたと離婚すること。遠くにいたときはあんなに輝いて見えたのに、近付いた途端に魅力がなくなったの。夢は夢のままが一番綺麗だわ。
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初めての料理(5)
切り抜いたレシピをエプロンに隠して、「今日はパスタにしてみたの」私は食卓にお皿を置く。「おいしいよ」あなたはそう目を丸くさせて言った。だから私は安心していたけど、塩と砂糖を間違えたことを後で知った。結婚してからも同じ事を言ってくれる? あなたが優しすぎて怖くなる。
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神妙に縛につけぃ!(6)
県警の広報活動では体験試乗を行っていた。「次の方どうぞ」僕は小さな男の子を警察車両に乗せる。男の子は無線機をいじり始めた。「君も将来は警察官だね」僕は声をかける。「うん、ぼく警察官になるのが夢なんだ。犯人を捕まえたらこう言うの。神妙に縛につけぃ!」
おっさんかよ。
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わざと掛け違えたボタン(7)
「ボタン掛け違えてるよ」あなたは優しく手を伸ばしてワイシャツのボタンをしめてくれる。「君には僕がいないとダメだな」彼はそう優しく笑う。その腕には点滴の管が刺さっていた。あなたはあとどのくらい生きられるのかな。わざと掛け違えた私のボタン。彼の優しさが詰まった宝物。
#140字小説
寒いテントの中で(8)
「お父さん、テント寒い」息子は震えながらそう言った。テントの外では霜がおりている。ストーブのついた天幕内は結露が生じて水が滴っていた。ストーブの火力は最大だ。私は考えあぐねた末に、そこに灯油をぶっかけた。たちまちテントが炎上する。「どうだ、これで暖かくなっただろ」
#140字小説
恋に落ちるギリギリ一歩手前(9)
「俺はお前のこと好きだよ」その言葉に心臓が破裂しそうになる。俺は、なんて言わないでよ。私も好きに決まってる。でも友達もあなたを好きだから、どうしていいのかわからないよ。さっと背けた私の顔はきっと嘘を吐けない。恋に落ちるギリギリ一歩手前で。私はあなたが大好きでした。
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才能の使い方(10)
自分で言うのもなんだけど、私は天才だった。大抵のことなら一番になれた。勉強も部活も望めば一番が取れた。だけど私は挫折した。才能がなくなったから?いいえ違うの。悲しくなったから。私が一番になると周りの子は大いに悲しむの。だから私は平凡を演じた。そうすると皆が喜ぶから。#140字小説