7話
暗い。
ただ暗いだけの空間にぽつんと、立っている。
─あれ、俺は何してたんだっけ─
─あぁ─戦っていたんだ─
─ってことは俺─死んだのかな─
─呆気ないな──何もできないまま死んだのか─
そんなことを思いながら、周りを見回す。
すると、遠いところに点滅している赤いランプがあった。
転々と、時限爆弾の警告のように、淡々と点滅する赤いヒカリ。
底知れぬ恐怖感が全身を襲う。
─早くここを離れなきゃいけない!!!!─
そう感じるが、ランプの元へと、歩み寄ってしまう。
赤い光が、自分を呼んでいるかのように、体が勝手に動いてしまう。
全身に力が入らない、ただ、フラフラと、フラフラと光源へ歩み寄ってゆく。
どれほど歩いたかわからない。
もう、赤く点滅した光に手が届く。
ここまで、そう長くはなかったような気がする。
ただ、記憶をたどると、宇宙空間のように、どこまでも長く、代わり映えのしなかった、深い時間の記憶に飲み込まれそうにもなる。
だが、そんなことを今いくら考えたところで何かがわかるわけでも変わるわけでもない。
─考えるだけ無駄か─
そう思い、目の前まで迫った赤い、点滅している光に、手を伸ばす。
赤い光に、触れる。
その瞬間。
……*…**…*ザ***ァ**…**…*………
脳にノイズが走り、壊れかけたDVDのような。
劣化し、ほとんど見られなくなっている映画のフィルムの様な。
断片的で、一瞬の映像が次から次へと、浮かんでは消えてゆく。
その映像は、意味のわからないものばかりだった。
─戸惑う人々、その中で、泣き出す人、神に祈る人、狂いだす人─
─色々な人がいて、その中で、希望を捨てず、立ち上がる白衣の男性─
─コンピュータに囲まれ、その男性が操作している─
─その周りで同じく、コンピュータを操作している人たちが数人─
─世界がパズルのピースのように、バラバラと壊れてゆく風景─
─そこに1人、白衣の男性がパソコンを持って、立っている─
─白衣の男性が見つめる先に、1点の青いランプが光る円柱形のコンピュータ─
─最後、白衣の男性がパソコンに何かを打ち込み、世界と同じように、バラバラと消えてゆく─
─なんだよこれ、なんの映像だよ!─
この、終末的な映像が、怖くて、辛くて、悲しくて、頭を抱え、蹲る。
さっきからアタマがズキズキと痛い。
この映像は未来なのか。
それとも記憶なのか。
これから変えられる未来のようで。
どこか懐かしい記憶のような。
そんな中途半端な、むず痒い違和感が脳から足先までを這いずり回る。
あまりにも気持ち悪く、朦朧とする意識の中、ただひたすらにうずくまったままのたうち回る。
─戻りたい─
─戻りたい─
─戻りたい!!─
─早く元の世界に戻りたい!!!!─
────────────────────
ざあぁぁぁ……っ!
周りに降り注ぐ雨の感触と音で目を開ける。
街の炎に照らされてオレンジ色になっている雲が、ぼんやりとした視界にうつる。
(戻ってきた……?っ!!そうだ!!!!還也!)
思い出した瞬間火がついたように、起き上がり、周囲を見渡す。
親友は、赤い水溜りの中に沈んでいた。
「還也ぁ!!!!」
ただ一心不乱に、還也の元に駆け寄る。
下半身が治っていることに、いちいち反応している余裕はなかった。
還也の肩を掴み、起き上がらせる。
調べた結果、血はもう止まっているし、呼吸にも問題はなかった。
ほっとして、肩の荷が降りる。
(これからどうする……)
今の疑問はこの一つに尽きる。
還也の家族はもちろんの事、自分の家族も心配だし、何よりどこで寝泊まりするかが一番の問題だ。
そんなことを考えていると、背後から硬い靴の、コツコツという音が複数近づいてきた。
(また敵か!?もういい加減にしてくれ!)
そんなことを思いながら後ろに目を向ける。
するとそこには、黒いスーツ姿の男1人を中心に、自衛隊と思われる人達が4人ほど銃を構えてすぐ近くに立っていた。
黒いスーツ姿の男が目線を合わせるようにしゃがみ、口を開く。
「少し、人の役に立ってみる気は無いか?身の安全は保証しよう。」
と、手を差し伸べながら、優しい声で言った。