3話
その馴染み深く、聞きなれた声の元へ視線を運ぶと、そこには柔らかく微笑む還也の姿があった。
そして、この現実に対しての、素直な疑問を問いかける。
「還也、なんでここに?」
還也はすこし、安心したような口ぶりで
「お前と、同じ理由だよ。」
と言った。
その言葉の意味を、すこし、考えてみる。
「あぁ、なるほどね。」
なら、安心したような口ぶりも納得できる。
こいつがここに来た理由は
「還也も願いがかなったってことか。」
そして、俺と同じように親友に話したくなったというわけだ。
「そういう事だ、お前も同じで少し安心したよ。」
どんな事でも、同類がいると安心するものだ。
だが、そうとわかれば一つ気になることが出てくる。
「還也は、どうやって願いがかなった?」
「単純に、欲しいなと思った後に地面に倒れて、気づいたら異能が手に入ってたんだよ。」
あぁ、それは。
「俺も同じだ。」
還也は、だよな、と一言いい、そこから少し考えたあと
「なら俺たちだけじゃない可能性が高くねぇか?」
と、言ってきた。
確かに、普通に考えて俺たちに共通点はない。兄弟でもなければ恋人なんて論外だ。
もし、人の願いを叶えられるような神なんて奴がいたとして、そいつには俺達の関係なんてどうでもいい事だろう。
更にいえば、俺達の仲は他の親友グループと比べて大差ない。はずだ。わざわざ俺たちだけを選ぶ理由が見当たらない。
ならば、仮定として、全人類、又は大多数の人類が同時に願ったから、何らかの奇跡が起き、全人類に能力が手に入った。
そう考えるのが妥当ではないだろうか。
「確かにな、なら様子見に住宅g」
ドッ……ガァン………
住宅街へ行ってみよう。と、言おうとしたさなか、住宅街の方から瓦礫が崩れるような音が響いて来た。
音がした方を振り向くと、砂煙が上がっているのが確認できた。
「これは、結構やばいのでは………」
そう還也に聞くと
「翼、お前羽生えてるし、今日話した願いのままだと飛べたよな!!だったら俺を担いであそこまで飛べ!!!!」
そうか、あいつが住んでいるのはあの住宅街か。
「わかった、うまく飛べるかわからないけど、最善は尽くす。捕まれ!!!!」
還也がしっかりと手を掴んだのを確認したあと
ゆっくり、ゆっくり羽に命令を飛ばす。
羽ばたけ。
羽ばたけ。
羽撃け!!!!
バサッ
という乾いた音とともに、自分周りに暴風が吹き荒れる。
「つっ……」
その勢いで少し目を閉じた。
が
自分を襲う浮遊感で目を開ける。
「うあぁ!!」
自分の下に、森がある。
浮いている。
だが
「やばい!!!!」
すぐに、落下が始まる。
はばたく。
はばたく。
全力で。
はばたく。
あぁ……あぁ!!
完全な非常と、圧倒的な高度により、背中に、脳に、ゾクゾクする恐怖が駆け巡り、心臓を掴まれたような嫌悪感が精神を壊してゆく。
落ちることだけは避けなければ。
死にたくない。
それしか考えられず、ただ、我武者羅に羽をはためかせることしか出来ない。
前に、進まない。
その事実が余計に、プレッシャーとなり、焦りを呼ぶ。
手を、強く握りしめられた。
「すまん、お願いだ………翼……………頑張ってくれ!!!!」
その声が聞こえた瞬間、焦りが消え、興奮が消え、恐怖が消える。
「あぁ、わかった。」
もう、大丈夫だ。
俺は、親友を守らなければいけない。
いや、守りたいんだ。
だからこんな事でもたもたしてられない。
ゆっくりと羽ばたく。
前だけを見る。
羽の角度を調節する。
前へ、前へ、前へ進む。
ただよう砂煙の元へ。