1話
「暑い…」
ジリジリと暑い帰り道の中
ビリビリとセミがうるさい。
しかも、帰り道が山道の上、近くにダムがある。
それが何を意味するか。
蚊だ。
漢字にも記されるように、とてもうるさい。
しかも痒い。
ダムの、流れのない肥えた水の中で、ぬくぬくと育った吸血虫の大軍が何より一番頭にくる。
そんな地獄の中ただ一つ、これから夏休みが始まるという高揚感が、心を癒してくれる。
今年、家から徒歩で通学できる高校に入学し、今になってやっとこの生活にも慣れてきた所である。
ここら周辺はいわゆるド田舎というヤツで
カフェもなければスーパーもなく
ましてや高校周辺にコンビニなどあるはずもない。
だがそれは知っていた。
地元民のこの私が知らないはずがない。
だが、高校にあるべき最低限の学食ぐらいはあるだろうと思い入学したのだが、あるのは週2回のパン販売のみ。
「流石にこれはないよな…」
その鬼畜っぷりを思い出すと
はぁ。
と、ため息をつくしかない。
「だめだ、話題をずらそう。そうでもしないと精神が持たん。」
さて、なにか楽しく考えられることはないかと考えてみる。
「あぁ、そう言えば還也と話してたことがあったな。」
還也とは中学校からの付き合いなのだが、出会ってからというものずっと一緒に行動しており、周りに「お前らの関係、大丈夫か?」と、言われるほど仲がいい。
まぁ俗に言う、親友である。
その還也と今日の朝、学校についてからホームルームまでの空き時間で、とあることを話していた。
その内容は良くいえば創作的、悪くいえば厨二臭い内容だった。
いわゆる「自分が欲しい能力の話」である。
そこらにいる男子諸君ならば一度は考えたことがあるだろうと言うほど、テンプレートな内容の話だ。
そんな下らない、何の役にも立たない話を本気の顔で語り合っていた。
還也の意見は、と言うと
「エネルギーの操作だろ。ダメージは効かないわ。重力で飯食わなくても生きていけるわ。一番使えるだろ。」
との事らしい。
ちなみに俺が考えた能力は
「自身の原子の変換、無からの生成、操作。かな、これなら肉体が衰えないから死なないし広く応用できる。」
である。
これを聞いた還也は
「まぁそれもいいけどよ、その能力で俺とバトったら俺が勝つな。ってことでお前の負けだ。よし。」
などと言っていた。
いや、何が「よし。」なんだよ。黙れよ。
「はぁ………こんなクソつまらない世界に異能でもあったらな……混乱は起こるだろうけど、異能に対し世界がどう対処し、まとまっていくのかみてみたい。そしてシンプルに欲しい。」
妄想にひと段落付き、現実を見る。
妄想したあとの現実は虚しい。
本当に面白くない。
カァ、カァ…
夕暮れを意識させ、帰宅を促すような烏の鳴き声が近くの電信柱から聞こえた。
「お前らはいいよな、羽があって空を飛べて。俺も空を飛びたい。羽が欲しい。あと異能。」
忘れず付け足す。これ重要。
考えている間にいつの間にか足が止まっていた。
「さぁ、帰ろう。帰ってムヒ塗らなきゃ。」
そう言いつつ足を前にだそうとした。
のだが。
世界が
揺れる。
揺れる。
揺れる。
「…ん………?…くらくらする……熱中…症……?」
どさっ。
目の前の色が
消えて、ゆく。