プロローグ
ほろほろ……ぼろぼろ…
ほぐれるように消えゆく世界の中
ただひとり、自分が
ポツンとそれを眺めている。
消える、消える、消えてゆく。
ほろほろと、ぼろぼろと
音もなく、恐怖もなく
何もなくなる、消えてゆく。
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「………………い……!!………お…い……!!起きろ降魔!!!!……降魔 翼!!!!」
遠くから聞こえる様な声が、自分の心を夢から現実へ引き戻す。
重く閉じたまぶたをゆっくりと開ける。
「あぁ…またこの夢か。」
「夢か。じゃない。降魔。明日から夏休みだと思って気が抜けてるのかもしれないが最後くらいピシッとしろピシッとぉ。………て、お前、泣いてるじゃないか。どうしたんだ」
という教師の言葉とともに、クラスメイトたちの少し心配そうな視線が自分に集まった。
「大丈夫です。気にしないでください。よくある事ですから」
と、教師の言葉を軽く流しつつ眠い目を擦る。
そうか。と、教師が言い終わると同時にHRの終わりを告げるチャイムがなった。
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何も考えず席から立ち、何も考えずバックを担ぐ。
だが、明日からの何者にも囚れず、自分だけの日々を歩める「夏休み」と言う期間の始まりに、少しばかり胸を弾ませる。
そうだ、あの夢。
幼い頃によく見ていたあの孤独な夢を、えらく久しぶりに見た気がする。
あの夢を見た後は決まって涙を流していた。
それは今も変わらないらしい。
高校の校門を抜け、樹に囲まれた通学路を歩く。
今年入学したばかりで、やっとこの通学路にも慣れてきた。
さあ、明日からは夏休みだ。
なにか今までとは違う
新しい体験ができそうな予感がする。
そんな静かな胸の高まりを感じながら。
黙々と歩き続けた。