水晶《クリスタル》の鍵
森を駆け抜けた先に、湖が存在していた。
この辺かな?
ミーシェは、湖畔を歩きながら巨大な樹木に向かって
「アスクル、来たのだから姿を見せてくれませんの?」
問いかけてみるが………爽やかな風が通り抜け木々の葉を優しくなでて行くだけで、問いかけには誰も答えなかった。ここじゃなかったのかな?でも、この辺りから匂いはすんるだけど……彼のフェイクって可能性もあるね。まあ いないなら見られる事も無いだろうし疲れた足を癒そう。
ミーシェは、樹木から離れた。湖の畔につくと透明なハイヒールに赤色の薔薇とその蔓を模様をしたヒールを脱ぐと湖に足を浸けた。
「自然の湖に足を浸すのは、いつぶりかな?彼の側に居るときは、こんなにゆっくり寛げないものね。はぁ、戻ったら父様に怒られるだろうなぁ~。」
しばらく湖の奥に有る森を眺めながら
あの森の奥に行けば誰にも見つからないし、フラグ折りもアミールとの婚約も解消されるだろうか?………それは無理ね。お父様の事だから、絶対に見つけ出されるでしょうしね。
「はぁー。」
ミーシェが足を拭きヒールを履き立ち上がり歩きながら再び思いに更けると
左側の肩と背中を押され
「キャッ!?」
悲鳴を上げたと同時に
『ジャポン』
と水音がし冷たい水にさらされドレスが水を吸い更に重くなっていった。次第に暗くなっていく視界を見ながら
……油断したな~。要らないこと考えてないで、アスクルを探すなり アミール王子の元に戻るなりすれば良かったかな。はぁ~。この服装じゃなければ直ぐに上がれるんだけどな。さすがにドレス姿の状態で浮上するには、行動が遅かったから無理かな。
ミーシェは、冷静に懐から全ての武器を放り出した。そして、少しでも泳ぎやすいようにドレスの裾を切ろうとしたとき………誰かが潜ってくるのが分かった。
まさか!この中で一戦交えなきゃいけないわけ!?後1分しか息を止めてられないって言うのに、更に追い討ちをかけるつもりなの!?
しかし、その心配は杞憂で終わった。
何故なら潜ってきた彼は、ミーシェを抱き抱え浮上していってるからだ。しかしミーシェは、息が持たず空気を吐き出した。
やばい……。
真っ黒に塗りつぶされていく視界の中。
やっぱり、側にいたんだね。
と思いながらそこで意識は途切れた。
◆◆◆◆◆ アスクル視点 ◇◇◇◇◇
俺は、兄貴に寄って呼び出された。
何時も通りに井戸から入り込み、隠し通路を使き兄貴の部屋へ向かった。
はぁ。久しぶりに正装をして、奴を見送ろうとしたのにこんなときに呼び出すかな。
うんざりしながら兄貴の部屋にはいると、笑顔を浮かべた薄気味悪い兄貴が、立っていた。
「兄さん自ら、僕を呼び出すなんて珍しいね。なんのようかな?」
俺は、完璧な弟を演じ本性を隠した。兄貴は、俺に近付くなり
「今すぐこの場所に行き、鍵を取ってきて欲しい。」
と言うなり地図と鍵を渡された。
何で俺が使っ走りしな行けないんだよ!他のやつに行かせろよ!
と思いつつも、無駄な争いを避けるため
「分かったよ兄さん。」
「その中にある鍵は、ミーシェル嬢が持っている水晶の鍵だ。それを彼女に届けてきて欲しい。」
「分かったよ。必ず見つけ出し、モントヴェルト嬢に届けてくるよ。」
「ああ。頼んだよアスクル。」
「はい。」
兄貴は、用事は済んだと言わんばかりにクローゼットの中に入っていった。
チッ。直接返すことが出来ないな。親父にでも伝言とこれを頼んでおくか。
別の隠し通路を使い親父の要る部屋へと赴き、宣戦布告と 思われそうな伝言と女性が使う可愛いケースを包んだ『忘れ物』を親父に託し早速印のつけられた所へ向かった。
そこは、城から近く魔獣が大量に出ると言われている。そして昔、犯罪を犯した者たちを幽閉していたと言う由来から糺の森と呼ばれている。誰一人入って出来てた者はいないと言い伝えられている。
まぁ、ただの伝承出はなく本当に帰ってきたものはいないんだけどな。兄貴の場合、移転魔法を使ったんだろうけどな。それが、何かしらの拍子でその陣から移動し取れなくなったから俺を呼んだんだろうよ。俺は、木の上を行くから魔獣なんぞ関係ないけどな。
アスクルは、木の枝から枝へ飛び移り目的の場所についた。その場に有る物置部屋を見るなり
「あ~~。やっぱりここだったか。」
アスクルは、地面に降り半周すると
「道理で魔獣が一匹たりとも見かけねぇわけだ。」
彼の足下には土が掘り返された跡と微かに香る血生臭さが、ここで何があったか知らせた。
「ご丁寧に埋めてくれたのは良いけどよ、観測されていた中でも大物ばかり狙うなよな!?こいつらを使役するつもりだったのによ!」
アスクルは、目的の鍵を見付け出し既に駆け出しているミーシェ嬢の馬車へ駆け出した。
駆け出していると、俺の部下達が集り始めた。
「お前ら、何でついてくるんだ!」
「あの!モントヴェルト家のご令嬢が来られていたのに、我々は一度も御目にかかれていないのですよ!隊長だけズルいではないですか!」
「「「そうですよ!!」」」
一声にヤジが飛んできた
………こいつらに調べさせたのが、俺の失態だな。
「分かったから、ついて来い。その代わり気配は、できる限り消せ。そうしなければ、あ《・》の騎士に殺られるぞ。」
「「「「「諾」」」」」
こう言うときだけ話を聞きやがる
俺らは しばらく全速力で木々の枝を飛び越えながら追っていると、そこまでスピードを出していなかったのか湖の近くに有る森の中を走っていた。
よし!追い付いた。後はこれを渡すだけだな。
彼は手の中にある鍵を握り放り投げようとすると
「モントヴェルト嬢の顔と声が聞きたいな~。願いを叶えてくれたら覗き見してたこと伝えないんだけどなぁ~」
…………こいつ!後でしばく!!
鍵を投げ入れると窓が開き
「アスクル、危ないでしょう!当たったらどうするつもりだったの?」
令嬢としての表情や元イザリア候の時のような氷のような冷ややかさもない。ただ、ダメな子どもに注意を促している姉の様な表情だった。
俺は、上から見下ろすことが出来なくなり地面に降り馬車と同じ速度で走りながら
「申し訳なかった。水晶の鍵を入れ損なっていたもので、放り投げてしまいました。」
彼女は困った顔をした。
そこに馬丁が
「お嬢様。馬車をお止め致しましょうか?」
「いいえ、構わないわ。私は、彼に話さなければいけないことがあるから王子を乗せて先に戻っておいてくださいな。」
「畏まりました。」
馬丁は、何を思ったかスピードを少し落とした。
そうすると、後ろからあの騎士が現れた。俺は瞬時に木々に隠れ離れて話を聞くことにした。
「何かあったのですか!?」
「丁度いいわジアン。ちょっと私用が出来たので、アミール王子の側にいて差し上げて。」
「はぁ?どこに行かれるおつもりで。」
彼女は、艶笑を浮かべてはいるが何も聞くなと言う圧力を醸し出していた。
俺は、背筋が凍るかと思ったが次の言葉を聞き仲間をバラけさせた
「モントヴェルト家の仕事ですわよ。」
そう言うと彼女は口笛を吹いた。
程なくして茂みから一頭の栗毛の馬が表れた。
その瞬間俺は、湖の有る方角へ無意識に駆け出した。




