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乙女ゲームに摂理はあるか?

そこの世界の摂理なんて…

作者: 藤堂阿弥

ようやく最後の話になりました。

差別的発言等がございますので、ご不快に感じられる方はお戻りくださいますようお願いいたします。

「無理です!私、こんな難しい事できません!」

 ヒロイン嬢がお妃教育を挫折していると、周防兄さまが苦笑いをしながら教えてくださった。

「え、だって…あのカリキュラムって私が幼稚舎の頃のものですよね?」

「第一外国語で挫折したらしい。まったく、どうやって編入試験に受かったのか調べ直さなくてはいけないな」

 過去問調べ上げて、ヤマをはったらしいと、いうのは言わない方がいいですか?定期試験の結果は褒められたものじゃなかったから…ぎりぎり補修とかは受けずに済む程度、って事で察してください。




 卒業パーティの一件は『不穏分子』のあぶり出しの為の茶番という事で収めたそうだ。

 一応、最初の霜降領の騒動でヒロイン嬢が所属する一座は要観察対象になったと同時に、皇家と霜降の直属の調査機関が調べたけれど、国も組織も何も出なかったとは、後で周防兄さまが教えてくださった。それを聞いて心の中で調査機関の皆様お疲れ様ですと、手を合わせてしまったのは仕方がない事と察してほしいです。

 某国の洗脳説が結構有力視されていたようですが、今回ありとあらゆる方法で検査しては見たものの、オールグリーンに若干黄色の点滅程度で終わったそうです(意味不明とおっしゃらないでください。なんとなくニュアンスで感じ取っていただければ幸いです) 



 彼女の出自に関しては、現時施伯から「ひょっとしたら」という申告があって裏付け調査を進めたものの、これといった進展は無く、確たる証拠になったのは、今回のDNA検査の結果のみ。誘拐の件も有耶無耶というか、限りなくグレーなお方はいらっしゃったみたいだけど何故か証拠を揃えるまでには至らなかったという話です。これも補正かご都合主義ってヤツですか?

 だって、本当の事なんか言えないでしょう?ヒロイン嬢自身もね、流石にゲーム云々の話をすれば頭の中身を疑われるくらいの常識は持っていらっしゃったようだ。でなければ、今頃病院送りになっていると思う。殿下の側で教育を受けているという事で、私が推測しただけですけれどね。 




 アニメやゲームでは「いつか、本当の時施家の娘が帰ってきたときに居場所があるように,いつでも身一つで出ていけるように」と、独身の筈の伯爵が妻帯者だったのは、霜降領において彼女の奇行を目にしていた現伯爵が、コイツに伯爵家を継がせるのはヤバいと危機感を持たれたからです。こういうところ、貴族社会ってシビアよね?その頃から目をつけていた…もとい、見守ってきた彼は、あちこちの領内で子息たちを手玉…いや、仲良くなっていく彼女に頭を抱えていた、というのは、彼と親交のあった紫晃兄上からの情報です。

 伯爵家といえば、前伯爵夫人は娘が見つかった喜びよりも、渡された報告書に絶句してお倒れになったらしい。無理もないよね、婚約者のいる複数の貴族に秋波を送って陛下を巻き込む騒動まで起こしたんだから…お気の毒、としか言いようがない。しかも、たびたび顔を合わせていた旅芸人のお気に入りの少女、とくればショックも倍増するでしょう。




 そういえば、攻略対象の面々はあの後憑き物が落ちたかのようにヒロイン嬢に興味を無くしたのだそうだ。特に、将軍家のご子息と大店の若旦那は、家に来て土下座する勢いで詫びにいらっしゃった。彼らの変わりように、洗脳疑惑が再浮上したのは仕方のない話である。


 鴻慈様の宰相家への養子縁組の話は無くなり、代わって兄君が宰相家に養子に行かれることになったそうだ。何でもできる兄に対してのコンプレックスを拗らせていた彼が、いずれは宰相になるかもしれない弟の為に努力に努力を重ねていらっしゃった兄君の事を知ったのは、つい先日の話だ。ご兄弟そろって私の所にお見えになり謝罪された。

「本当に、今思えば熱に浮かされたとしか言えない」

 そう苦笑された鴻慈様だけど、そうでしょうとも、補正効果と言う熱は去ってしまえば元に戻る以外ありませんからねぇ。宰相家も「家」と呼ばれてはいるけれど、実質実力社会ですから、あくまで、現宰相の養子になる、であって将来的にそのポストが約束されているわけではないのですよ。現実はそんなものです。現宰相家は公爵位なので位は高いです、はい。



 婚約者のご令嬢方も皆、笑って許されたそうだ。そりゃぁ、そういう教育受けていらっしゃるからね。婚姻前の恋愛に目くじら立てて騒ぐ方々ではありませんよ。

 とはいえ、今回の事で「貸一つ」にはなりそうですけれどね。

 唯一の例外が殿下で、いまだにヒロイン嬢を気にかけていらっしゃるそうで、自分にはお妃教育は無理だと騒ぎ立てているのを宥めていらっしゃるらしい。公式彼氏に補正効果は一生ついて回るのだろうか…大丈夫かしら、我が国は。


 今回の件でヒロイン嬢が不問に処されたのも、殿下の口添えと言う名の懇願と、彼女から犯罪に関する証拠がでなかったからだ。


 妻を亡くし、残された息子にどう接していいか分からなくなった将軍と、父に愛されていないと思い込んだ息子。決められたレールに反発した若旦那。


 本来なら、一年と言う月日をかけて一人を攻略するゲームなのだが、四人同時攻略だなんて、補正効果が何を考えているのか分からない…分かるはずもないけれど。まぁ、エンディング終了後に効果が切れたのだから、良いとしておきましょう。

 関係ない話ではあるけど、卒業パーティの時にヒロイン嬢が着ていたドレスは、若旦那が用意したものらしい。新卒のサラリーマンの年収に近い金額だ、という辺りで理解してほしい。これの金額は、攻略対象者達が折半で払うという事で話はついたが、きっちり借用証書をとってのローン支払い、無利子なのは温情…なんておっしゃってはいますが、貴族とのつながりの為ですよね。流石国一番の大店のご主人、転んでも無料では起きない。






「しかし、こんなことを言ってくるとは…霜降の家も軽んじられたものですね」

「周防」

「では兄上はこれを受け入れられる、と?」


 皇家から届いた一通の書簡。

 何事かと集まった私たちに父上が見せてくださったのは、私と殿下の復縁の話だった。…復縁というより、婚約破棄そのものを「なかった事」にするという連絡だった。ヒロイン嬢は側室という形で殿下の側にあがる…本人もそれで納得しているという事だったが、ただ単にお妃教育に挫折したからお鉢がこちらに回ってきただけである。


「私は構いませんわよ、兄上」

「薔子?」

 眉間の縦皺を深くして紫晃兄上が私に視線を向けられる。ほら、周防兄さま、兄上だって納得はしていらっしゃらないでしょう?

「ただし、皇家の『側室』を正しく体現していただく事が条件ですけれど?…ええ、勿論我が国の『側室』ですわよ」

 私の言葉に父上と紫晃兄上は複雑な表情を見せ、母上と周防兄さまは吹き出すのを必死にこらえていらっしゃる…綺麗に分かれて性格似たなぁ、兄さま方。



 他の国の事は兎も角、我が国の、それも皇家の側室は表向きの姿とは別の側面がある。「正室」と「側室」読んで字のごとく、「しょうめんのへや」「そくめんのへや」…敵が攻め込んできたときは、正室を逃がすための囮であり、時間を稼ぐ存在。元々の、正室から見れば使用人の立場というのも形式化してはいるが残っている。血を残すことだけが側室の務めではないのだ。

「ただ単に面倒事から逃れるとかでは困りますもの。このご時世、いつ何があるかわかりませんし。側室希望とおっしゃるのなら、きちんとやっていただきたいです」

 あのヒロイン嬢の事だ、そうすればお妃教育から逃れられると思って言ったのだろうけど…殿下は「側室」の正確な意味ご存じのはず…だよね?恐る恐る父上に尋ねると「古い意味合いだからな、王妃殿下はご存知かもしれんが、奥向きの隠語でもあるから、ご存じない可能性もあるな」などとおっしゃる始末…勘弁してくれ。何やっているんだ教育係は。



「それであれば、殿下と時施の令嬢に教えて差し上げなさい、周防。正しく意味が分かっておっしゃっているのか、ね」

 にっこりと微笑まれて母上がおっしゃり、周防兄さまが優雅に一礼して家を出られた。母上のこの笑顔が出ると、誰も何も言えなくなる…反論は許されませんですよ。

「陛下も妃殿下もご存じのはずなのに何もおっしゃらないという事は、皇太子殿下を試していらっしゃるか、霜降が何も知らず勅命と受け入れると考えていらっしゃるか…うふふ、どういう事でしょうね」

 家の母上は、25の紫晃兄上と並ぶと姉弟か、下手をすると兄上の方が年上に見られるほどの美魔女であらせられる。可愛らしく小首を傾げて父上にお尋ねになるさまは「小聡明い」としか言いようがないけど…うん、私は何も言いません。

「取り敢えず、部屋に戻っております」

「ああ、そうだな」

 紫晃兄上が、そっと私の背を押してエスコートするふりをしながら一緒に父上の執務室から廊下に出られる、部屋の外にいた護衛に「どんな音がしても中に入るな」と言い含めると、霜降に使えて長い彼は心得たように頷いた…うちの両親って…いや、うん。






「それで、お嬢様はそのお話をお受けになられるのですか?」

 部屋に戻って、霜苗にお茶を淹れてもらいながら事の次第を教える。

「お受けも何も…それ以前の問題でしょう?」

 私が幼稚舎の頃にやっていたのは、第一外国語と皇家における基本的なお作法だ。…しかも侯爵家の令嬢としての作法も並行してやっていた。皇家と貴族では礼の仕方一つとっても異なる。幼稚園児に対する遊びを交えた教え方とはいえ、よくやった自分。と自画自賛したくなります。


「正室が体調を崩すなり、何か不測の事態が合った時、代わりを務めるのも側室の仕事よ。だから、正室と同等の…少なくともそれに準じた作法を身に着けるのは側室を名乗る者の義務だわ。自分たちの桃色空間を作る為の側室制度じゃないのだから、そこをきちんと理解してもらわなきゃ」

「では、どうして彼女は側室などと…」

「貴族社会に育っていないもの。貴族の常識は民衆の非常識、ってね。正室でなければ好き勝手にできると思っていたんじゃない?向こうの世界じゃ、そう思わせる話や史実は山ほどあるし、こっちでも我が国は兎も角、諸外国の逸話でもあるでしょう?」

 しかも、この場合の側室は貴族位のみの話である。原則は一夫一婦なのだから。


「抜け道は無いわけじゃないんだけどね」

「…え?では、それに彼らが気付けば…」

「少なくとも彼女では無理です…南樹ナギ様」

「お嬢様っ!」

 ごめん、と苦笑して私は彼に頭を下げる。



 霜苗が私の従者になったそもそもの原因がこの名前だ。

アニメにもゲームにも出なかった裏設定。何故彼がレジスタンスのリーダーの片腕になったのか…その隠された理由。

 好きが高じて、アニメの制作会社の人たちと関わるようになった、その時に知った話。余りと言えば余りだから、流石に表に出せなかった、というのは原案を考えたメンバーのおひとりの言葉。

 街中で彼を見た途端「あ、南樹だー」と、小さく呟いた私に向けられた驚愕と殺意。

 …だからこそ、彼は私の荒唐無稽な話を信じたのだけど。


 退位された前陛下が静養先の侍女に産ませた落し胤。決して表に出ない存在の、年の離れた王弟殿下。

 ただし、皇家の系譜に彼は載っていない。亡くなった前陛下が身ごもった彼の母親にそっと与えた名前。方角を付ける名前は皇家にしか許されていない。霜苗というのも彼が私に使えると決まった時に父が与えた通り名である。霜苗の戸籍上の名前は「青藍」という、南風を示す「青嵐」の韻を変えた名だ。彼の母親が付けた。同じ「南」の意味合いを持たせて。

 方角そのもの字は皇家しか使えないが、韻や意味合いを持たせた名前は広く一般に使われる。特に、生まれた年が同じだと肖って名付ける事が多い。


「だから無理なのよ。わかるでしょう?」

 隠された存在になればお妃教育は必要ない。しかし、表に出ることも無く、子供も秘匿する、そして殿下個人の存在であるため、国庫からの援助は無い…殿下の個人資産(あれば、の話だけれど)もしくは自分で働いて報酬を得るしかない。


「王子様と結ばれました。めでたし、めでたし…なんてあるわけないじゃない。王族に嫁いだ以上シンデレラだって、白雪姫だって義務は生じるわ。彼女たちは貴族、王女という基盤があったからこそ務めることができたわけで、そういった教育を受けていない物は、それに見合う教育を受けなくてはいけない」

「…そうですね、そんな生活にあのヒロイン嬢が耐えれるはずはない」

 霜苗のお母様は、幸いというか彼ごと家族になろうと言ったお相手と巡り合うことが出来、幸せに暮らしていらっしゃる。私に仕えることに逡巡されていらっしゃったが、霜苗が上手く言いくるめたらしい。

 一応、彼の事は私しか知らないことになっているが、多分、家の家族と宰相閣下辺りは気付いていると思う。ひょっとしたら陛下もご存知かもしれない…口には誰も出さないけれど。


 因みに、男性であるにも関わらず私の側仕えが許されたのは、別の理由からだが…それは兎も角。



「まぁ、ヒロイン嬢が本当に殿下を想っていらっしゃるのなら側室教育をお受けになるでしょうけど…賭けてみる?」

「不敬ですよ、お嬢様。第一賭けにもならないでしょう?二人とも同じでしょうから」

「そうよね。恋に恋してる、じゃなくてゲームと逆ハー楽しんでるってカンジだったもの。無理でしょうね」








 本当は殿下の事なんか好きじゃなかった。王子様に憧れただけ。貴族なんて堅苦しい世界は嫌だ。とヒロイン嬢が、元の旅芸人の一座に戻りたいと駄々を捏ね出してひと騒動起こるのだけど…私の知った事じゃないです。


一部タグに関しましては、活動報告にて記載いたしました。

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[一言] ヒロインも悪役令嬢も転生者。 しかし転生を現実のものとして理解している悪役令嬢と、逆ハーを楽しんでいるだけのヒロインでは、ゲーム終了後の結果が歴然でした。 悪役令嬢の元サヤは絶対に無いはずで…
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