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仕事で蓄えられた疲労感と共に帰宅すると、電気がついていた。
消さずに出かけてしまったのかと光熱費の請求書が恐ろしく感じたが、どうやら真相は違うらしい。
"彼"が、大量の荷物と共に我が家に戻ってきたようだ。
衣服に鞄、本にゲーム。携帯電話。
学生が必要とする生活必需品の数々が床に放り出されていた。このリビングはいつから君の部屋になったのか……。
「おかえり」
本当は私が言ってもらいたかったけれど、彼が口を開く訳がない。だから、駄目元で私から声をかけてみる。帰るべき場所へたどり着いた時のお迎えの言葉を。
「ただいま」
ほんの微かな声だけど、私にははっきりと届いた。
恥ずかしいのか、こっちを振り向く気配はない。でも、これは最大の進歩だ。
この一歩を無駄にはしない。
徹底的に、"会話"というものを叩き込んでやる。
そう一人で決意した、梅雨の終わりの夕食前。
読んでくださりありがとうございます。