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「ただいまー」
声をあげて玄関をくぐると、家を出たときと様子が違う。シロはもう帰ってきていたようだ。
しかし家の中は薄暗い。日も落ちかけているというのに電気もつけないで何をしているんだと若干呆れつつ、シロの定位置ともなっているソファへと足を向けた。
「まったく、電気くらいつけなさいよね」
母親の小言のようにすこし厳しい口調で語りかけると、そこにいると思っていた犬の姿が無いことに気がついた。
「あれ?」
明らかに帰ってきた様子が見られるのに、居るはずの場所にその姿はなくて。
まさか、またいなくなってしまったのかと焦燥にかられつつ、実はまだシロは帰ってきていなくて、私が一人で勘違いしているだけなんだと。そう、心に言い聞かせて、床に根付いてしまった足を動かそうと必死にもがく。
ケーキだって、プレゼントだって、まだ手に持ったままだ。こんなところで昔を思い出して止まってていいはずがない。またひょっこりとあの時のように長い散歩から帰ってくるだろう。
クリスマスだからって、世間に流されて浮かれすぎていたのかもしれない。
世間の波に動じないような鈍感犬は、どうせ今日も普段と同じように過ごしているだけなのだ。
「そんなことに、いちいちかまっていられない」
私だって忙しいのだ。ケーキだって食べる支度をしなきゃならないし、プレゼントだって渡す計画を練らなきゃならない。
掃除に炊事に洗濯に。
やることを挙げたらきりはない。
だから、そんな些細なことに気を取られてちゃいけないのだ。
まったく。
少しでも期待してしまった私が馬鹿だった。




