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目が覚めて、変わったことといえばただ一つ。ソファを占領していた塊が消え去っていたことだ。
出て行ってくれたことに、喜び。
出て行ってしまったことに、虚しさを感じた。
ここに居てくれとも、出て行って欲しいとも、小心者な私は言えなかったけど、彼なりに何かを察していたのかもしれない。
最後の晩餐はシチュー。
一言ぐらい言ってくれたなら、ステーキになる可能性もあったのに。可能性の問題としてね。
きっと、皆が寝静まった夜中に行動をとったのだろう。書き置きのようなものはなく、彼が居たはずのソファにも温もりは残っていなかった。
音もなく、私が認識しない間に変わってしまった私の日常。
鬱陶しいぐらいに注がれた、針で刺されているかのような視線も、無くなれば案外寂しいと感じてしまうのは一人暮らし故だからだろうか。
粗大ごみのようなサイズのものがなくなったからか、部屋も広く感じる。
暖かみのない部屋で食べる朝食は、いつもと変わらないはずなのに味気ない。味がしないのだ。
何故急に出て行ったのか。考えるだけ無駄だと、頭を横にふって、頬を叩く。
しっかりしろ、私。
時計をみると家を出る時間で、また同じ生活に戻される。もちろん、"犬"を拾う前のだ。
今度は本物の犬を拾ってみるのも悪くない。そんな事を思いながら仕事先へ今日も向かった。
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