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「おさない」
石化から解けたばかりの私の喉は、まだ機嫌が悪かったのか想像よりもはるかに低い声が出てしまった。
「は?」
喧嘩を売ったわけではなかったのだけれど、そう思われても無理はない。
そんな声色だったのだから。
「小さい山の内って書いて、小山内って読むの。変わった苗字でしょ?」
少し得意げに、それでも控え目に。この犬は小馬鹿にされる事を嫌っていたから。
「おさない」
真剣に復唱する姿は幼い子供を彷彿とさせるけれど、その眉間に刻まれた皺によってそんな和やかな雰囲気は何処かへ吹き飛んでしまった。何故、どうして、そこに皺を生み出すのだろうか。その眉間に、ツルッツルのタイルを埋め込んでやりたい。
シロの作った朝ごはんを冷めないうちに口にいれる。一口めで母親の顔を思い出してしまった。だって最近はご無沙汰だったけれど、舌になじみ深いおふくろの味だったから。




