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ふわぁぁぁあ。
大きなあくびを一つ漏らして、朝の冷えた空気を肺に詰め込んだ。体の中から冷え切って内臓を針で刺されてるみたいだった。
最初の違和感は、どこか懐かしい匂い。何年もの間、ご無沙汰だった心安らぐ香り。
寝ぼけ頭だった私はそれになんの疑問も持たずに、ああいい匂いだなぁなんて、呑気に食卓についてしまった。
それは毎朝、母親から漂っていたお味噌汁の香り。
可もなく不可もなく、何もないというにはおおいに語弊があるけれど、そんな"あたりまえ"だった朝の香りが、何故ここに発生しているのか。
答えは、お味噌汁を作っている"誰か"がいるから。
それが誰なのかなんて、すぐにわかる事。だってほら、出来上がったお味噌汁を手に食卓につこうとしている白い塊がそこに……?
⁉
これは……幻覚ですか?




