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大きな犬を拾いました。
それは白金の毛に新緑の瞳をしたとても大きな犬です。
その犬はあちこちに怪我をしていて、とても痛そうでした。
だから拾って、看病する事にしました。
わがままそうなやつだけど、きっといい子だと思います。
それが昨日の日記。
そこに書いたとおり私は"犬"を拾った。
切れ長の瞳に、色素の薄い肌。
なにもするつもりはないのに、こちらを警戒しているのかじっと睨んでくる姿は、まさに番犬。
多分、私がここを離れたら暴れ出して何処かに走り去るに違いない。ひどい怪我をしているのだから、安静にしていて欲しいという私の気も知らずに。
彼が何処でなにをしていたのか知らないし、聞く気もないけど、話しかけた言葉に反応ぐらいは示して欲しい。特に、体の具合については。
客観的に見ただけでは、怪我の具合はわからない。私は医者でもなければ、その類の知識も身につけている訳でもないのだから。
手当だって、遥か昔に保健体育で習ったことを見よう見まねで実践してみただけなのだから。
まさかうまくいくとは思わなかったけれども。
「ねぇ、君。怪我の具合はどう?」
君。
それが彼を呼ぶ時の代名詞だ。
何度名前を聞いても、何も口にしてくれないのだから仕方ない。偽名でもいいと言ったのに、それも無視だ。ひどい奴め。
「痛いところない?」
反応なし。
これは肯定なのか、否定なのか。
はじめのうちは、尋常じゃない痛みがあったのだろう、つつくたびに眉間にシワを寄せていた。だから体調がわかったというものの、現在はポーカーフェイス。たまに人形か、ロボットかと疑いたくもなる。
でもそんなはずもなく、彼の体は暖かく脈をうっている。なにを考えているのかわからない瞳が瞼に覆われて、眠っている時が一番"人間"らしい。
あっ……ごほんごほん、"犬"らしい。
彼の容姿から察するに、所謂不良と呼ばれるものなのだろう。
本当はきちんと病院に連れて行き、入院でもなんでもさせてやりたいのだが、はてさて身分証明書は持っているのだろうか。
保険証や診察券は、怪我をするなら身につけておいて欲しい。切実に。
そんなこんなで私と彼との共同生活は幕を開けた。
読んでくださり、ありがとうございます。