キザったらしい騎士と姫君
孤児院の前で困ったようにしている姫君と、近くに偶然いた騎士様の話。
馬車の窓から外を伺う姫君と視線が合った。姫君は慈悲深いらしく、孤児院前に馬車がとまる。しかし馬車から降りるには段差があり、なかなか降りられないようだった。降りようとすれば裾を持ち上げ、足をさらすことになるだろう。それでは彼女がはしたないと噂されてしまう。最悪の場合、無理に着地すると衣服が汚れてしまうだろう。戸惑う御者の元に寄って、任せてくれと目配せする。
「汚すなら、俺が」
支えますよと手を差し出して姫君を見る。彼女は突然現れた男に驚いて、馬車から降りてこない。
「それでは姫君、失礼しますね」
姫君の背中と膝裏に手を入れ、抱きかかえた。彼女はきゃっと驚いたような声を出して、身を小さくする。
「と、殿方はむやみにレディに触ってはいけないのではなくて?」
「これは失礼。ですが、レディを守るのが騎士の役目と心得ておりますので」
騎士であることを示す腕章を目にして、彼女は納得したようだった。しかし、いつまでたっても降ろされないことに彼女は居心地悪そうにする。それでも顔は令嬢らしく微笑みを崩さないのだから、さすがだ。
「騎士様、もう助かりましたので」
「孤児院の中までご一緒しますよ」
「お話を聞いてください」
「なぁに、騎士たるもの気になる姫君を口説くのも全力なのですよ」
片目でウィンクすると、彼女はクスクスと笑った。
「もう。腕がもげても知りませんよ」
「おや、私には羽のようですよ。可愛らしいことを気にするのですね」
「レディなら当然のことです。……仕方ありませんね。孤児院の中までお願いします」
「喜んで」
彼女を運んでいると、不思議と力が湧いた。しかし、すぐ孤児院に着いてしまった。
「騎士様、もう孤児院に着きましたわ」
「仕方ありませんね。姫君を近くに感じられるいい機会でしたが」
「なっ……!」
しれっとした顔で床に彼女を降ろす。
「慈悲深い姫君に、賞賛のキスを」
彼女の手をとり、指先にキスをした。令嬢はキスされ慣れているのだろう。平然と受けていた。
「姫君の名前をお聞きしてもいいですか?」
「騎士様ならすでに知っている名前よ」
彼女は切なそうに微笑んだ。騎士たるもの、淑女を守る存在でなければならないのになんて失態だ! 呆然とする俺を置いて、彼女は奥へ行ってしまった。ああ、次会うときまでには何とかしないと。
恋することが仕事だと思っていた時期があった。出会いを求めてよく夜会に出ていた。普段騎士服でいるため、正装をするだけでずいぶん騒がれたものだ。
だから大人しい令嬢がいても、あまり気にとめなかった。彼女は初めて夜会に参加したらしく、すごく緊張していた。俺は彼女を安心させるために騎士の仲間の話や、差し支えない仕事の話をした。すると彼女はころころと鈴の音が鳴るように笑った。彼女はお酒を初めて飲んだのか、分かりやすいくらいに酔っ払っていた。俺の腕を急に掴んで、腕をなぞる。彼女は筋肉質な腕に驚いていた。
「騎士様だったのですね。この手が私たちを守ってくださっているのですね」
ふわりと笑った。彼女は感謝するように腕へ口づけた。女性からそんなキスをされたことのない俺は戸惑った。手を払うと、彼女がふらつく。そうだ。彼女は酔っ払いだ。休憩室に寝かせて、彼女の具合がよくなったら訪ねたいと思った。彼女の名前さえも知らない。これから知っていきたい。
そう思っていたのに、彼女はいつの間にか逃げ出していた。運命の女神とやらは、悪戯好きなのかもしれない。休憩室に残された首飾りを手がかりにすべく、懐にしまった。
夢をみた。昔の夢だ。おかげで忘れていたことを思い出した。夜会の女性は、先日孤児院で会った女性だ。夜会でも、孤児院でも名前を聞けなかった。だから、あれは彼女を忘れていた俺に対する仕返しだ。申し訳ないことをしてしまった。騎士として一生の不覚だ。記憶していた馬車の家紋から家を割り出す。そこから更に適齢期の女性へと絞る。自ずと一人が導き出された。そんな彼女の友人宅でささやかなパーティーがあるらしい。友人に頼み込んで、招待状を送ってもらった。
パーティーで再会した時、彼女は顔を歪めた。しかし令嬢にふさわしい微笑みを一瞬でまとって、戸惑いを隠す。そうしておきながら、会場から逃げるように去って行った。
逃がさない。彼もすぐに後を追う。追いかけているうちに早足になって、行き止まりに追い込んでしまったようだった。
「騎士様が淑女を追い回してもいいのですか?」
「場合によりますね。あなたと会うのは今回で三度目だ」
彼女は助けを求めるようにあたりを見渡すが、人気のない場所だ。どうにもならなかった。
「どうして言わなかったんです」
「そんな、言えるはずありません。逃げてしまったのですから」
夜会でも今回も彼女は逃げた。それを申し訳なく思っているのだろう。彼女は自分を守るように手をぎゅっと握った。彼女の不安に気づき、彼は出来るだけ爽やかに微笑んだ。
「男という生き物はですね、逃げると追いたくなるんですよ」
彼女に距離を詰めると、彼女の背は壁にぶつかった。そんな彼女を壁に押し付け、唇を奪おうと頭を傾ける。あとわずかで触れるだろうと思われた瞬間、彼女から顔を寄せてきた。彼女はぷるぷると震えながら、唇を重ねた。予想外のことに驚いていると彼女が語り始める。
「私はその、あの時怖くて……」
今も十分震えていると思うが、続きを聞きたい彼は静かに耳を傾ける。その様子に安心して、彼女は言葉を紡ぐ。
「騎士様は私の憧れでした。今は、少し違いますけれど」
恥じらうように彼女は目を伏せる。彼女とここで終わりたくない。あの時彼女が忘れた首飾りを彼女に見せる。
「これはあなたの首飾りですよね」
「まぁ! 探してましたの」
「つけてさしあげますよ。……あぁ、よく似合ってる。姫君、これからも俺と会ってくださいますか?」
「ふふ、騎士様が私を忘れないなら」
「これはお手厳しい。二度とありませんから、よろしくお願いします」
彼は彼女の手へ畏まったように口づけて、二人笑みをかわした。
今回は複数のお題を使っています。
『汚すなら、俺が』という台詞を使った「ロマンティックな場面」を作ってみましょう。 #serif_odai http://shindanmaker.com/74923
キスの格言は「指先なら賞賛」です。 #523kiss http://shindanmaker.com/229519
酔っ払って腕に恋慕のキスをされるところを描き(書き)ます http://shindanmaker.com/257927
オススメのキス題。シチュ:人気のない場所、表情:「お任せ」、ポイント:「壁に押し付ける」、「自分からしようと思ったら奪われた」です。 #kissodai http://shindanmaker.com/19329




