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即興短編集  作者: 花ゆき
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私とあなたがいる今が、きっと運命

魔術国家で王位継承が行われた。そこで王に代々伝えられるという秘密を新たな王アーサーは知る。


いただいたタイトル「私とあなたがいる今が、きっと運命」から考えた話です。

 魔術国家で王位継承が行われた。そこで王に代々伝えられるという秘密を新たな王アーサーは知る。


 初代王は魔術路を開発した偉大なる王だ。その魔術路を使って魔力は供給され、料理・洗濯・建築などに使われている。その供給されていた魔力が、一人の女性によってまかなわれていたというのだ。


 あまりのことに信じられなかった。アーサーは証拠を見せてくれと言った。彼の父はその言葉を予想していたのだろう。いいだろうと案内してくれた。研究棟に向かっていく。先王は鍵を魔力認証で開け、中に入っていった。アーサーも続く。階段を登り、そろそろくたびれた頃に頑丈な扉が見えてきた。扉も先王の魔力認証で開いた。


 中の部屋は明るかった。これまでに十階も登ったのだ。太陽光も多く差すだろう。部屋の中央に不自然にも黒い大きな鉄籠があった。その中に女性はいた。彼女を捕らえるのはその鳥籠だったのだ。流れるような白い髪は床につき、余りあまっている。外に出ることがないからか、肌は白く華奢な体をしていた。彼女はまぶたを閉じており、瞳の色が分からない。ただ、外界のものを遮断しているように感じた。


「シラハ。これからは私ではなく、息子のアーサーが王になった。息子が君の様子を見に来るだろう」


 シラハと呼ばれた少女は返事も、身動きもしなかった。誰が王になったとしても、どうでもいいのだ。魔力を搾り取られるだけ。そう感じた。



 記録を遡れば、彼女は建国から生きている。初代王に強大な魔力のせいで目をつけられ、捕らえられて魔力装置にされているのだ。彼女は家族の元に帰りたがった。初代王は許さなかった。彼女は鳥籠に長く捕らえられたせいで、生きる気力を失う。始めに食事を諦めた。だが食事をせずとも、彼女は生きられた。世界に寵愛されているためだ。彼女は絶望した。それから瞳で世界を見ることをやめたらしい。同時期から彼女の手記は書かれなくなったと記録にある。


 彼はもっと彼女を知りたくなった。彼女に触れたいと思って、鳥籠に手を触れる。彼女までは手が届きそうにない。鉄の冷たい感触に、これが彼女を閉じ込めているのかとこれまで歴代の王のしてきたことを思う。


 すまない。ただそれだけが頭を支配する。懺悔するように鳥籠に額をつけ、体重をかけるとふらっと体重が傾く。鳥籠の入り口が開いていたのだ。期せずして踏み入れた鳥籠に呆然とする。彼女は鍵が開いていることも知らずに、何年も何百年も囚われていたのだ。それも気が付かなかったがゆえに、自分から。


「ねぇ。君ここを出たくない?」

「何言ってるの。出られるわけないじゃない」

「鳥籠じゃなくても、君がこの国にいる限り魔力は大丈夫。だから出よう」


 技術は初代王の頃から進歩している。魔力供給は鳥籠でなくても行えるようになっていた。魔力路に彼女が定期的に接続すれば、魔力は充填される。彼女を哀れに思った王達が研究を重ねていった成果だ。


 戸惑う彼女の手を取り、扉を開けて導く。彼女が鳥籠から出る瞬間、髪が白から黒くなった。彼女は鳥籠から出て、目を開いた。初めて見た彼女の瞳は青い空の色だった。彼女は黒い髪に驚きを隠せないようだった。


「この色、久しぶり。前も黒色だったんだけど、鳥籠にいるうちに白くなってたの」


 そう言って笑う彼女が綺麗で、何よりも彼女を大切にしたいと思った。




 その後彼女は彼の王妃になる。しかし、世界に寵愛された彼女は人の枠を越え、寿命も長かった。彼を鳥籠から出た時と変わらぬ姿で看取ることになったのだ。彼女は彼の死後、白銀の髪に戻った。彼女は悼むように髪を耳の下まで切った。



 それから時を重ねる。いつしか、彼と出会った頃のように髪が床について引きずってしまうほど伸びていた。彼女は、生まれ変わった彼を迎えにいけるように魔力タンクを開発した。彼女の魔力を必要としないように、誰の魔力でも使えるようになった。また魔力の貯蓄もできるようにした。これで、もし彼が他国に生まれても、どこへでも探しに行ける。



 ある日髪の色が再び黒に染まった。


 彼だ!


 黒に染まったのは今までに一度だけ。彼に鳥籠から連れ出されたあの日からだった。彼にまた会えるのだ。彼の魔力の波動をたどり、迎えに行く。突然現れた彼女に夫妻は驚いていたようだが、髪の色は違えども長年生きている有名な元王妃であることに気づき、落ち着く。彼女は生まれた赤ちゃんの顔を見て微笑んだ。


「待ってたよ」


 彼女はまた今を生きる。




 王は白い鳥を飼っている。鳥籠の中、鳥は大人しく空を見上げる。未練を残したように。鳥が哀れになった王は鳥籠の鍵を外した。羽ばたくことを諦めた鳥は知らない。しかし、新たな王が白い鳥に希望を教える。白い鳥は黒い鳥になった。鳥籠から外に出ることができるようになった鳥は空に羽ばたく。鳥が休む場所はいつも王の元だった。王が亡くなり、黒い鳥は涙を流す。鳥が涙を流すごとに黒い色素が抜けていった。そして再び白くなったのだ。鳥は白い姿で王に出会える日を待っている。いつまでも、いつまでも。


 いつからか、こんな話が市井に広まっていた。この話を聞いて、国民は育つらしい。生まれ変わった彼に絵本を読むようにねだられる時まで、私は知らなかった。研究ばかりしてきたせいだろう。


「シイカは鳥? 寂しい?」

「そうね。でも、彼との子もいたから寂しくなかったわ。ううん、それでも寂しかった。今は違うわよ。あなたがいるもの」

「なら、大きくなったらシイカをお嫁さんにしてあげるね!」

「あらまあ。待ってるわね」


 シイカが再婚し、絵本は加筆された。

 白い鳥は再び黒い鳥になり、止まり木を見つけた。めでたしめでたし。


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