人間じゃなくてもいい?
「人間じゃなくてもいい?」突然私の部下が言ってきた。人の定義とは何だろうか。
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「人間じゃなくてもいい?」
不安そうに言った彼を無視して、私は儀式用の杖を召喚した。彼は戸惑いを隠せずに、「そうだよね、人間じゃなきゃ駄目だよね」と諦めた目をしている。
「人の定義って何」
「それはリカリナ……」
「辞書にでもあるような条件を満たしたもののこと? それとも、精神論?」
彼はすっかり黙りきっていた。彼なりの答えを模索しているのだろう。
「私はね、アクヴァル。こんな馬鹿みたいな魔力のせいで、人間じゃないって言われてきたわ」
「そんな。君は心臓を一突きされたら死んでしまうだろう?」
「過ぎた力は脅威なのよ。魔力を定期的に抜かないと、魔力は漏れるし、制御しにくくなる。やっかい者扱いね」
彼女は儀式用の杖を使って、過剰な魔力を魔法甁に詰め込んでいく。そうしないと制御が保てないのだ。
「あなたは、どうして私のところに来たの」
「君が僕ら側でも危険視されていたからだよ」
「今もそう思う?」
彼はこくりと頷いた。そうよね、人間社会でも手に余るような存在だもの。私の部下にひっそりと加わっていた彼は、私と同じように浮世離れしていた。彼が周囲から浮かないよう気にかけていたが、実際はどこかの陣営からの使者だと思っていた。現に彼は否定しない。
「ただ、僕の嫁にするならいいって言われた」
「誰によ」
「兄上……魔王様に」
まさか、魔王の弟だったとは。
「それで急にあのセリフだったの?」
「小細工はお前には向かないと兄上が言っていた」
「うん、それは納得――って、言葉たりなさすぎるでしょ!」
彼は納得したように手をポンと打ち、改めて私に向き直る。紺色のサラリとした髪から、かすかに耳先が尖っているのが見えて、彼は魔族なのだと改めて思う。それでも、これまでの日々が彼は恐怖する対象ではないと伝えてくる。
「好きです。結婚してください」
「ごめんなさい」
「やっぱり人間じゃなきゃ駄目なんだ……」
「そうじゃなくて、結婚って一生ものだし、その、もう少し考えさせてくれる? 私はとうに人間の枠を超えているから、アクヴァルが魔族だからって気にしないわ」
「そうやって、君の慎重で真摯なところが好きなんだ。それで、僕の種族のことは聞かなくていいの?」
ここで「私は魔族は魔族でしょ? 何を聞く必要があるのよ」と言ったら、彼はめずらしくニタァと笑った。この時の私は聞いておくべきだった。本気モードに入った彼に落とされ、逃げられない状況下で知る。彼が淫魔だということを。
どうりで彼に触られた時やキスされた時、おかしいと思った。そして今、初夜のため寝室に押し込まれたところだ。彼は私の手を引き、寝台へ誘う。
「大切にするよ」
あれから分かったことがある。彼は淫魔の中でも力が強いらしく、彼の力に対抗できる魔力の持ち主でなければ子を宿す前に壊れてしまうそうだ。その彼に対抗しうる魔力の持ち主が私だったらしい。人、人じゃないと自分で自分を生きにくくしていたのかもしれない。膨らみ始めたお腹を撫で、自然と笑顔になる。お腹の子のために子守唄を歌った。




