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即興短編集  作者: 花ゆき
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桃に隠れた王太子

【桃に隠れた王太子】

おじいさんは山に芝刈りに行くように見せかけて、隣国の情報を探りに。おばあさんは洗濯をしながら、世情を探ります。そんなおばあさんの元へ、大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。


お題:傷だらけの天井 必須要素:桃太郎のストーリーを自分流にアレンジ

 昔、あるところにおじいさんとおばあさんがいました。おじいさんは山へ芝刈りへ行くのを装って、山を越えて隣国に忍びこみ、情報を調査しに行きました。


 おばあさんは川へ洗濯に行きました。洗濯をしながら、うわさ話を聞いていきます。どうやら、今は世情的には弟王子が有利なようです。この情報を王太子に伝えようと思っていたところ、川の上流から大きな桃がどんぶらこどんぶらこと流れてきました。おばあさんはおこりうる最悪の場合を考えました。桃に爆薬が仕込まれていた場合、下手したら死にます。桃に暗殺者が潜んでいる場合は、洗濯籠に隠していた包丁で何とか切り抜けられるはず。もし食べれそうならば、食べましょう。そう考えて、桃を家に運びました。


 おじいさんが家に帰ると、今日の収穫をお互いに報告し合います。継承争いで揺れているうちに、隣国が軍備を整えていると分かりました。これは、急いで王太子の耳に入れなくてはなりません。おじいさんとおばあさんは世を忍ぶ仮の姿。二人は、闇に住まう者だったのです。


「ところで、ばあさんや。この桃は何かね」

「あぁ、すっかり忘れていましたよ。今日洗濯していて、拾ったんです」

「明らかに怪しいと思わんかね。この中に暗殺者が潜んでいれば、先程話した内情が筒抜けだ」

「あらあら。それなら、口封じすればいいではありませんか」


 二人は仲睦まじく、笑いあいました。そして包丁を二人構えて、桃を囲みます。おばあさんが率先して桃を切ることにして、おじいさんはもしものために備えて、いつでも攻撃できる体勢を取りました。そして桃を切ったところ、桃の端に小さくなって隠れていた王太子が見つかりました。


「あらまぁ。なぜ、こんなところに王太子が」

「偽物かもしれない。油断するんじゃない」


 包丁片手に鋭い眼光で睨んでくるおじいさんに、王太子は怯えてしまいました。その怯えようは、まさしく王太子です。一応、王家の紋章が入った指輪も確認できました。この王太子は酷く臆病者で、そのために次の王は弟王子を望む声が出ているのです。そんな王太子をおじいさんは情けないと思い、しごきあげ――鍛え上げようとしましたが、逃げ足だけしか成長しませんでした。


「残念ながら本物ですね」

「本物以外のなんでもないだろう! この美貌が他にいるか!?」

「あらあら、本物ですわね」


 また、残念なことに王太子は自分の容姿に酔う癖がありました。これもおじいさんが鍛え直そうとしましたが、ますます悪化したのです。そして王太子はおじいさんが苦手になりました。


「どうして、王太子が桃に入っていたのです?」

「政敵に追われてな、逃げるためにやむを得なくそうした」

「よくバレませんでしたねぇ。桃に入るなんて、安易すぎます」

「だが、こうするしかなかったんだ」

「普通はその発想が出ませんけどね」

「流石だろう?」


 おじいさんは王太子を殴りました。この国の特産は桃です。ですから、それが幸いしたのかもしれません。ふと、おばあさんが包丁を持って踊りだしました。王太子はギョッとしましたが、おじいさんが平静にしているので我慢します。踊りはだんだん激しくなり、とうとう天井に包丁が刺さりました。それから、カタリと天井から物音が聞こえました。こういうことは多いのか、天井が傷だらけでした。


「あらあら、やっぱり鼠さんがいたのね。うふふ。おじいさん、少し席を外しますね」

「ああ。任せた。後で合流しよう」


 おばあさんは年齢とは反した動きで家の外に出て、屋根裏に潜んでいる鼠さんを追いに出かけました。おじいさんは王太子を連れて、村を出ました。


「鬼退治に行くぞ」

「えぇ!? ヤダ!」


 おじいさんの豪腕がうなりました。王太子はしぶしぶ頷きました。その様子を見て、おじいさんが懐から包みを取り出します。それを王太子に渡しました。王太子が不思議に思って開けると、おばあさん特性のきびだんごがあるではありませんか。それは王太子の大好物でした。王太子は喜んできびだんごを平らげます。そしておじいさんに殴られました。


「馬鹿か。これは忠誠の証に使えという意味で渡したというのに」

「ああ。古臭い忠誠の儀だね。すまない! だが、私の胃袋は至福だ!」


 おじいさんの苛立った目に、王太子は口をつぐみました。おじいさんは呆れて、また2つ目の包みを取り出しました。その中にあるきびだんごをつまみ、王太子に渡します。


「我ら『イヌ』。これより王太子様に仕えさせていただきます」

「えー。本当は私からきびだんごを渡すのだろう? やりたかったのに」

「またきびだんごがなくなるかもしれないからな。自業自得だ」


 おじいさんとおばあさんは王家に仕える闇の者だったのです。王家に甲斐甲斐しく仕えたことから、いつしか『イヌ』と呼ばれるようになっていました。王太子の仲間に、『イヌ』が加わりました。



 一行は追っ手を振り切るように、街に潜みます。木を隠すなら森と考えたのです。そこで『サル』と呼ばれる商人が道端で倒れているのを見つけました。口は上手いのですが女に弱く、有り金をむしり取られてしまったようです。空腹を訴えるお腹の音が、激しい自己主張をしています。


「この匂いは……きびだんご! 下さい!」


 目をカッと見開いて、王太子の足を掴んできました。王太子は自分の美しい衣服が汚れることを嫌い、きびだんごの包みをそのまま渡しました。『サル』はそのきびだんごをありがたやありがたやと拝んで、全部平らげてしまいました。おじいさんは、またきびだんごがなくなって頭を抱えました。もう、おばあさんのきびだんごはありません。王太子はおじいさんに謝り倒しています。そんな王太子に声がかけられました。


「優しいお方だ! 僕はあなたに仕えよう。恩返しをさせてくれ!」


 恩を感じた『サル』が仲間になりました。



 商人が仲間になったことで、装備が整えやすくなりました。そしておばあさんとも合流し、 新しいきびだんごをもらいました。『イヌ』は本来二人一組。王太子は途中何度も脱走しながら、おじいさん達に見つけられました。そんな王太子もとうとう隣国へ乗り込むべく、隣国へ続く山へ入ります。


 山に入った途端、木々がガサガサと揺れました。それぞれ、敵襲に備えて刃物を取り出します。そして、前方にポトリと何かが落ちました。気になって、警戒しつつも近づいてみます。近づくにつれ、落ちたものが何か分かりました。少女です。見たところ、危険物はもっていません。ですが、お腹には獣を飼っているのか、グルグルと音が鳴りました。


「お腹空いた……」


 少女に一目惚れしてしまった王太子は、彼女にきびだんごを食べるよう渡しました。少女は嬉しそうにきびだんごを平らげました。おじいさんはまたきびだんごがなくなってしまったことで、肩を落とします。そんなおじいさんを慰めるように、おばあさんが仕方ありませんよと微笑みました。


「綺麗な人だね。天使様かなぁ? 天国へのお迎え? 助けてくれたお礼に、何かできることがあったら言ってよ」

「是非、我が妻になってくれ!」

「ツマ? 刺身のつけあわせが欲しいの? 待ってて、うちの畑に大根があるから」


 少女は山の木々を飛び移りながら移動していきます。家から大根を抱えて戻ってきた少女は 『キジ』と呼ばれているらしく、王太子が頼み込んで仲間になりました。



 『キジ』の地元民しか知らない道で、隣国の目をかいくぐり、侵入は無事成功しました。『イヌ』は情報を操作し、『サル』は物資の流れを操作、『キジ』は持ってきた大根を高値で売りさばきました。その結果、隣国の人口が徐々に減っていきます。荒んだ国民たちは希望を失い、日々を単調に生きていました。


 そんな時、市場でおばあさんによって売られているきびだんごが国民の心を掴みました。昔ながらの素朴な味に、国民は飢えていたのです。国民はこぞって買いました。なぜかセット売りされている大根も、愛好家にはたまらないそうでした。その噂は城にまでとどき、とうとう城に呼ばれました。



 隣国の王様は、おばあさんのきびだんごをいたく気に入りました。おばあさんに、これからも作ってくれと頼みます。おばあさんはそこで悲しい顔をしました。故郷が継承争いで荒れており、この隣国との関係も危うくなっている今、これからも作れるかどうかは怪しいと言ったのです。王様はこの話に酷く心を痛め、国同士の友好条約を結ぼうと約束してくれました。そう話している時、王様はおばあさんの膝にあるきびだんごから目を離しません。おばあさんは契約書を書いてもらい、その場にいる王太子にも署名してもらいました。友好条約成立です。そして、おばあさんは膝の上のきびだんごを王様に渡しました。王様は大喜びです。



 王太子達が自国に戻った時には、王太子一行が友好条約を成立したことが知れ渡っていました。次期王はやはり王太子しかいないと、国民の心を掴んだのです。そして、隣国の王御用達とお墨付きのきびだんごは『サル』の店で飛ぶように売れました。ここでもなぜか大根がセット売りされていました。隣国で成功したというのが、大きいようです。おじいさんは、満面の笑みで過ごすおばあさんを流石わしの嫁さんと思いました。


 そして王太子は見事王様になりました。隣には王妃として『キジ』と呼ばれた少女が並んでいました。なんでも、ずっと大根を育ててもいいという言葉が決め手だったそうです。めでたしめでたし。

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