駄菓子屋にて
【駄菓子屋にて】
祖母のやっている駄菓子屋でバイトをしていると、決まった時間に同級生の永谷くんと妹さんがくる。
お題:灰色の、と彼女は言った 必須要素:駄菓子
週末は祖母が経営している駄菓子屋のバイトをしている。最近は駄菓子がスーパーでも買えるせいか、暇をもてあましていた。誰か来ないかなと時計を見れば、時刻は三時。常連客がくる時間だった。
「うっす」
「こんにちは―!」
同級生の永谷くんと、その妹さんが来た。毎週、いつもの時間。兄妹二人の約束なのだろう。
「いらっしゃいませ」
妹さんは店に来ると目をキラキラと輝かせて、駄菓子を見ていく。一つでも面白そうなお菓子がないか、真剣だ。永谷くんが笑いながら見守っている。私も、幼いころはあんな感じだったのかな。私は優しい関係の彼らが好きだ。 これが、暇なバイトでも続けられる理由である。 お兄ちゃんである永谷くんは私と目を合わせて、照れくさそうに笑った。
「おやつは500円までな~」
「分かった―!」
妹さんは店内のカゴをもって、500円内になるように頭をうんうんと悩ませている。どうやら新商品が気になるらしい。すでに混ぜながら食べるお菓子と、水あめがカゴの中に入っていた。
「墨田は休みの日も頑張ってえらいな」
「ううん、おばあちゃんの店の手伝いだから。永谷くんも、妹さんの面倒見てて偉いと思うよ」
「それは……その、墨田が」
「おにーちゃん、選んだー! 買って!」
妹さんが選び終わったらしい。カゴを預かって、レジに打ち込んでいく。
「490円です」
「おま……、ギリギリじゃねぇか」
「頑張ったよ! すごいでしょ!」
「分かった、分かった。夕飯が入らなくならないようにするんだぞ」
「はーい!」
そうして、いつものように彼らを見送った。彼らが店からも見えなくなった頃、奥からおばあちゃんが来た。
「あら、お客さん来てたの?」
「そう。同級生なんだけど、妹さんと一緒に来てたよ。いつもパーカー着てる子。灰色の」
おばあちゃんはその話を聞いて、笑みを深めた。
「なんで笑うの?」
「いーや、何も。もうあの子達が来るようになって、一年たったねぇ。あの子達はね、あんたが店番している時にしか来ないんだよ」
私は思わずテーブルに突っ伏した。知らなかった。で、でも、自惚れるのもよくないよね。うん、よくないよくない。そこで店のドアが開き、カランカランとベルが鳴った。
「墨田! 今度、遊びに行こう!」
走ってきたのか、永谷くんが息を切らしながら入り口に立っていた。おばあちゃんは笑みを深くして、店の奥に消えていく。あれは絶対面白がってる。
「えっと、妹さんと一緒に?」
「二人で。俺のこと、そういう対象に見てないのは知ってるけど、少し考えてほしいんだ」
おばあちゃんの言っていたことは、本当だったんだ。自惚れじゃなかった。私はうるさいほどの鼓動を感じながら、うんと頷いた。
永谷くんが、妹想いの同級生から変わった瞬間だった。