六月の花嫁
ルルーという魔女がいた。彼女は花嫁の幸せを願う魔女だった。
ルルーは魔女だった。彼女の髪は星座の輝く夜空の色。瞳は霞みに溶ける桜色。彼女の名前は人々には知られていない。皆が彼女を魔女と呼んだ。
彼女はウェディングドレスのシフォンの中で、幸せそうな花嫁を眺めて暮らしていた。花嫁を送り出すための魔法で、それが彼女のあり方だった。彼女の魔法は地味で、一般的には理解されなかった。ただ、結婚間近の花嫁には言い伝えられていた。花嫁の幸せを願う魔女だと。
ルルーは六月に目覚める。そして花嫁の願いを聞き入れて、祝福するのだ。彼女は力が強くない。そのため、花嫁が身につけるシフォンに宿ることで力を発揮する。花嫁に魔法で祝福を送り、花嫁の幸福感を魔力に変えた。
再び、ルルーは六月に目覚める。珍しく魔女の住処を訪ねてくる者がいた。彼女が住処としている国の王子と姫だった。
「妹が結婚するので、どうか祝福してほしい。私には止められるほど力がない。だから、せめて」
「お兄様、私は大丈夫です。例え今は愛していなくても、私は幸せになってみせます。幸い、話したところ誠実そうな方でした。あの方なら、わたくしは大丈夫です」
気丈に微笑む姫を見て、王子は言葉にならないようだった。何度も声に出そうとして、口をつぐむ。間を空けて、王子は心の内を語る。
「政略結婚をさせてしまう不甲斐ない兄ですまない。魔女殿どうかお願いだ。妹に祝福を」
ルルーは頷く。断るつもりはなかった。花嫁の幸せが彼女の生きがいなのだ。
姫の結婚式、当日。魔女は姫に祝福を送った。輿入れ先の国民は美しい花嫁に見とれているようだった。魔女のドレスはそういう力がある。六月の湿気った空気に、柔らかい空の色。晴れやかな太陽の日差しを感じながら、魔女は結婚式が終わるのを見届けて、消えた。
政略結婚した姫はのちに愛を育み、幸せになる。その姿から、六月の花嫁は幸せになると言われるようになった。そこに魔女が関わっていたことは誰も知らない。ルルーはそれでいいと笑った。人は魔法などに頼らなくても生きていける。魔法はその背中を押すだけのものだと言った。姫への祝福を最後に、魔女は姿を消した。
いつしか魔女の話は語り継がれなくなり、代わりに六月の花嫁は幸せになると語り継がれるようになった。今はもう魔女はいない。
あなたは魔女だった。彼女の髪は星座の輝く夜空の色。瞳は霞みに溶ける桜色。ウェディングドレスのシフォンの中で、幸せそうな花嫁を眺めて暮らしていた。彼女の魔法は誰にも理解されなかった。今はもう魔女はいない。 http://shindanmaker.com/451011
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